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続・ネクタイの距離 32最終話

「どうしたんだ、急に……。最近勉強するようになったじゃないか」
 金曜の夜だというのに、柳の部屋で柳が風呂から出てくる間に予習と復習をしている学に、柳は感心した。ここのところ取り憑かれたように勉強をする姿を目にして柳も内心喜んでいた。受験だからと言えば当たり前なのだが、人が変わった様に勉強に対して真剣に取り組んでいたのが、柳は少し気にかかった。

「お前、どこか行きたい志望校でも出来たか?」

「ん―と、T大」

 サラリと返ってきた答えが余りに夢物語のような答えで、柳はポカンと口を開けてしまった。
 いくら学が元々勉強がある程度出来るからと言って、今から懸命に頑張ってどうにかなるようなレベルの大学ではない。
「ど、どうして急にそこにしたんだ? お前ならそこそこ良い大学だって行けるんだぞ? まぁ、チャレンジする事はいいとは思うけど……」
「いや。受からないと駄目なんだ……絶対に受かる」


(それが報酬だから……)



 何も知らない柳は、「生徒を特別扱いしてはいけないのだぞっ」と言いながらも時間のある時には勉強を見てやった。
 柳の身体はすっかり学に変えられ、恐ろしい思い出は少しずつ薄れていった。今でも亮太の顔を見ると寒気がするが、亮太はすっかり別人のように変わっていた。ゲッソリと頬は痩せこけ、口数も減って極力一人でいる事が多くなった。
 神経がすり減った亮太はそのうち心配した両親と共に別の学校へと転校して行った。

 亮太の転校により、漸く心の枷が外れた柳はこれまでにない幸せな笑顔が戻った。その笑顔の虜になる生徒は続出してしまったのが学にとって誤算だったが、逆にそんな柳を独り占め出来る優越感が沸いた。
 触れれば触れるだけ乾いて求めてしまう。互いに相手が足りない中毒症状が出た。そんな蜜月な学園生活の傍ら、学は鬼神のような精神力で、奇跡的にT大に合格した。



 卒業式にスーツとネクタイ姿の自分を鏡で見た学は、少し心が躍った。

「先生っ」

「おめでとう、学……スーツ、似合うね」

 柳にそう言われると、どこか恥ずかしげに、でも格好つけて大人ぶってみせた。柳にはそんな学が背伸びをする高校生そのものに見えて可愛くて仕方がなかった。

「先生、俺が卒業しても他の生徒に気を付けてよ?」
「学こそ。寮に入るんだろ? ……何だか心配だよ」
「俺が襲われる訳ないじゃん」
 柳は可笑しそうに笑う学の笑顔は思わず見惚れた。学には、見れば見る程目が離せなくなる魅力がある。
 
(他に好きな子でも出来たら……)

 柳はそんな不安を口に出せないまま、寂しさと不安を喉奥に閉まって笑顔を向けた。

 ふと学の大きな手が柳の頭に乗る。

「俺を信じ切ってればいいから」

 柳の胸がトクンと高鳴って頬に熱が灯る。

「俺が一人前になったら、一緒に住もう」

 柳がゆっくりと瞬きをして頷くと、その長いまつ毛が涙で濡れた。
 ふと見上げた時に柳は思った。
 毎日一緒にいるのにいつの間に学の目線が上にいっていたのだろうか。いつから生徒と言う“子供”として見ていなかったのだろうか。
 
――もしも俺が小鳥なら、学は大きな宿り木だな。

 柳がクスッと笑って学の曲がったネクタイを直してやると、学は顔を赤くしてバツの悪そうな顔をした。



END



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最後まで読んで下さいまして本当にありがとうございました(*´∇`*)
ほのぼの作品を書いた際に「続きが見たいですー」というお言葉に
舞い上がった単純な私は調子にのって続編を書くも、サスペンス、
シリアスなどとんでもない方向へ行ったりもしました(-"-;A ...アセアセ
それでもここまでお付き合い下さった皆様には深く感謝致しますm(_ _)m
学と先生に沢山の応援を頂き本当に嬉しかったです!!!
そして不定期で更新もままならない私をいつも待って下さる心優しい皆さまのお陰で頑張る事が出来ました。
またこれからも頑張って更新していきたいと思いますので、どうぞ宜しくお願い致します!
ありがとうございましたヾ(*´∀`*)ノ゛

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続・ネクタイの距離 31話

☆18禁です


「んッ…やあああああ――ッ」
 柳は条件反射で恐怖を呼び起こして叫んだ。
「大丈夫ッ! 俺をしっかり見て先生ッ! 好きだって言って! 気持ちいいって、声に出して!」

「っ……うっ……く……す……きっ」
 柳は泣きながらも懸命に学に言われた通りに言葉を繰り返した。
「きもちっ……ひっ……くっ……すき……うぅっ」
 最初は呪文のようだった言葉が、ゆっくりと学の動かす腰を感じる度に、段々と感情がこもってきた。

「あっ……好……きっ……学っ、い……いっ……あっ…んっ」
「いい? 先生、俺のペニス、いいの? 中はどこがいいの? 言って」
「そ……こっ……奥の……そうっ、上のとこっ……あんっ」
「ここ? ここなの? いいよ……いっぱい突いてあげる」
 学は柳の白い足を持ち上げるようにして、柳のイイところを集中的に亀頭で突いて攻めた。

「あっ、あっ、あっ、すご……いっ……いぃいいんっ」
 今まで硬く閉じられていた入り口は花が咲く様に襞が柔らかく広がってきた。そして侵入してくる異物を吐きだそうとしかしなかった中では、突かれる喜びを知ったようにうねった。
「先生ぇっ……中、すごい動いて、絡みついてきてっ、気持ちいぃよぉ」
 学は背中をしならせて、全身で動きながら柳の中に肉棒を挿れ込んだ。

 ついに抱き合う事出来た二人は、後は夢中になって求め合った。
 恐怖を忘れて味わう愛する人の体温は、柳にこの上ない快感と幸福感を与えた。確実にイイ所を突いて来る若い肉棒は、恐怖の対象ではなく、愛おしいものだと脳が新しい記憶をインプットしていく。

「う、後ろからも…突いてっ」

「いいの?」

 微笑みながらコクンと頷き、白くてふっくらとした尻を上げて、柳は誘うように左右に広げて見せた。
 全ての体位での記憶を塗り替えていく。

「先生ッ……っ!」
 あまりの大胆で色っぽい姿に、学は一気に柳の奥に入った途端に射精してしまった。
「ああぁぁぁっ……すごい……学の、熱いのが入って来るぅ」
 射精している間にも、学の肉棒は再び硬さを取り戻し、そのままピストンをし始めた。

「ああっ、すごいっ、今イったのにっ……ああんっ、硬いよぉっ、もっと強くしてぇっ」
「あああッ、先生ぇーッ」
 バチンッ、バチンッと激しい肉のぶつかり合う音に合わせて布団が床へと落ちていった。
「あああんっ、先生、イっちゃうよぉっ」
 柳は触ってもないペニスから白濁の液体を飛ばした。

(こ、こんな事ってあるのか!?)

「だめっ……もうっ、それ以上突いたら、今度は中がっ……ああアアアアっ」

「何? これ以上突いたら中が何? 何ッ!?」

 学は煽るようにグッと柳の腰を掴み、更に力を入れて赤く膨張した肉棒を高速で出し入れした。

「ひぁぁアアアっ……だめぇぇぇえっん」
 急に柳の腰がガクガクと痙攣したかと思うと、抑えていた太股が目に見えて痙攣しだした。それでも容赦なく突いていると、柳が見た事のない蕩けた顔で、泣きながら叫び出した。
「学ううううっ……イクぅぅうううんんんっ、やっアアアアあああーっ」
 柳は気持ち良過ぎて理性を飛ばし、自分で腰を上げて上下前後に腰を動かした。ヒクつく尻たぶが、艶めかしく学の真下で動く。
 途端に学の亀頭から全体へ向かってぎゅううっと螺旋状に絞られる感覚が襲った。柳の内部は襞の一枚一枚が意思を持っている様に小刻みに学のペニス全体を愛撫してくる。
 溶けてしまいそうになる気持ち良さに、学も同時に射精をする。
「アアアっ、出すよ先生ぇぇっ、先生の中にぃっ……うぅ、ああああ」
 学と柳は互いにしがみ付く様にして同時に射精した。厳密には、学が射精をして、柳は断続的にドライオルガズムを引き起こしていた。
 抱き締めた腕の中で、柳は暫くずっとビクンッ、ビクンッと痙攣していた。
 学にはそんな状態の柳がとても可愛くて、その痙攣した身体に何度もキスをした。



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明日は最終回です・゚・(ノ∀`)・゚・

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続・ネクタイの距離 30話

 そして事態は暫くして直ぐに変わった。
 一週間程経ってから、亮太が血走った目で学の所へ来た。

「おいッ……お前、兄貴に何したッ」
「何だよ」
 優は会社に出たきり、忽然と姿を消したというのだ。会社に問い合わせてみると既に辞表が出ているという。警察に捜索願いを出しているが、一向に見つからない。
「お前、何かしただろうッ」

 きっとあの時会った、時枝という男が何かをしたのだろう。学にはそうとしか思えなかった。
 どうやったかは分からないが、あの危険人物をこの世から消したのだ。
 今更ながらその現実に氷水の水滴のような汗が背中に流れてゾッとした。
 だが学は静かに目を閉じて、ほんの一瞬だけ、黙祷もくとうした。そして目を開いて亮太を見た。
 覚悟を背負った学の目は今までの強い視線の中に、冷たく光る氷柱の様な鋭さがあった。

「お前もこれ以上何かしたら、兄貴同様、この世から消えるんだよ。だからもう騒ぐな。そして、もう一切俺たちに関わるな……いいな?」
 亮太はカタカタと膝を震わせながら小さく頷いて走り去っていった。



「学っ」

 放課後、学を捕まえた柳は心配そうな顔をして学に近寄ってくると、濡れた様な瞳で見つめた。

「ど、どういう事なんだっ……亮太から聞いて……その、先輩が行方不明だって……お前が、何かしたって……」

「先生。俺は何もしてないし、知らないよ。きっと罰が当たっただよ。あの人、裏で色々してたみたいだし、危険な仕事にも手を出してたみたいだったから。そりゃあ、俺だって話し合いに行ったけど、いくら脅しても警察に訴えると言ってもダメだったんだ。金で解決して何度でも俺たちを襲うって言ってたし……でも居なくなったのなら安心じゃないか」

 学は、この責任を一生先生には黙って自分だけが墓まで持って行こうと決めていた。

「幸い、何でか亮太の奴は俺が何かしたと思い込んでるからさっき肯定しておいたから、多分怖がって多分一生手は出して来ないよ」
「ほ、本当?」
「うん。だから、もう大丈夫だよ」
 この悪夢から突然解放された実感がないのか、柳は力が抜けたように学の肩に顔を乗せた。

「信じられない……」

「もう、大丈夫。俺が一生守るよ……先生」

 柳はギュッと学の首に抱きついて、学の耳たぶを食んだ。
「ん……」
「せっ、先生!?」
「どうしよう……俺、お前が好きで……おかしくなりそうだ」
 いつもの柳と違う、発情した動物のような色っぽさに当てられた学はドキドキと心臓を高鳴らせた。
「学……抱いてくれ、今夜」
 その泣きそうな艶っぽい声と熱い吐息に、学はクラクラした。


 初めて入る柳の部屋は、一人暮らしの男にしては綺麗だった。モノトーンで纏められたアパートは、比較的広い2LDKだった。
「んっ…んんっ…学っ……ベッドにっ…あっ」
 縺れ込むようにして入った玄関先で、学は柳の唇を貪りながら柳のスーツを脱がしていった。
「ベッドどこ? 早く連れてってよ先生」
「さ、先にシャワー浴びようっ」
 宥める様に盛りのついた学をシャワー室へと連れていくと、そこでもゆっくりと柳の身体を優しく、そして隈なくボディソープで洗いだした。

「先生の乳首、すげぇシコってる」
 ツルツルと硬くなった柳の乳首を、ソープの滑りを利用して指を走らせる。
「ああんっ、やっん」
「すげぇ色っぽい声」
 学に耳の中に舌を入れられて囁かれた途端、柳の腰が抜けて四つん這いになってしまった。
 丸見えになった柳の秘所を、学はゆっくりと指を入れて洗った。最初はやはり反射的に震えていた柳だったが、段々と落ちついて自分から腰をゆっくりと前後に動くようになった。
 吸いついては飲み込まれるような内部の動きに、学は指先が気持ち良くて自分の肉棒も同時に扱いた。
「すげぇよ、先生の穴……エロい」

 大分解れて柳も指には慣れたところで、ベッドへと移動した。

 いざ入れようと学の亀頭が柳の入り口に押し付けられると、柳の身体がガタガタと震えだした。

「ごめ……ごめん……身体がっ、勝手に……っ」
 
――先生、きっとこんな震えた状態で何度も無理矢理犯されてきたんだな。可哀想に……。

「大丈夫だよ。その感覚はこれから俺との気持ちいい思い出で埋め尽くしてさ、追い出しちゃおうよ」

 そう言って学は優しく柳にキスをした。柳は仰向けのまま学にしがみつき、溺れない様に息継ぎをするように学の舌を吸いついてきた。
 学は、そのままグッと亀頭を入れ込んだ。



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ついに・:*:・:オォオォ(*´∀`人):・:*:・
そしてとうとううちのブログもアダルト指定になってしまったようで;
携帯から閲覧されている方は女体が現れていますよね;
ご迷惑おかけして申し訳ありません。
このテンプレもアダルト禁止なのでまた変えないとイケナイですね…。
気に入っていたんですが(ノ△・。)

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続・ネクタイの距離 29話

 学は誰かに、何かに縋るようにネオンの光る繁華街にまで足を伸ばしていた。

「ここ……どこだ」

 今の学には頼れる人物もいない。どうやったら柳を守れるかも分からない。そんなものは学校では教えてくれなかった。
 チラチラと珍しがるような視線を感じた学は、自分がまだ学ランを着ていた事に気付いて上着を脱いだ。
 騒がしいネオンの奥に、一際上品で高級そうな店があるのを見付けた。もしかしたらこういう場所に出入り出来るようになれば自分にだって優に対抗出来る術でも見つかるかもしれないと思った。
 ドアの前では黒服を着たゴツイ男が入り口を固めていた。
 ドアマンの方も、少し離れた場所で学生がこちらを見ながら涙ぐんで突っ立っているのを、少し困った顔で見ていた。
 どうしていいのか分からずに、学は汗をかきながら走ったせいで乱れた髪のままそこに立っている事しか出来なかった。

 店の目の前に静かにロールスロイスが止まった。高級車独特の重厚なドアの閉まる音が鳴って、中から人目を引く美しい男が出てきた。
 眼鏡をかけたその男は、すらりとした身体つきで質のいいスーツを際立たせていた。
 少し神経質そうな無表情が近寄りがたい高値の花のようにさえ思える。人形のような無表情で美しい顔立ちの男は、後方のドアを開けた。
 すると中から大柄な、人を一瞬にして従わせるような威圧を感じさせる男が出てきた。どこか品のあるような仕草の中に、得体の知れない恐ろしさも感じる。見ただけでただ者ではないのは確信できた。

(ああいう人なら……あいつが相手でも戦えるのかな……)

 距離が近くても、決して手に触れる事の出来ないその距離に、学はただ涙を含んだ視線を投げかけていた。
 ふと振り向いたのは、眼鏡をかけた細みの男の方だった。
 じっと見詰められた学は視線を絡め取られ、その場に座り込んでしまった。
 男は何かを大柄な男に耳打ちをするのが見えた。眼鏡の男性はその男を先に店の中へと入れてから学の方へと近寄って来た。

(え……何?)

「来なさい」

「……?」

 訳が分からないまま、学はその美しい男に連れられて店の中へと入って行った。


 飲み屋やキャバクラなど入った事のない学は、その雰囲気に緊張した。落ち着いた薄暗い照明に、華やかな深紅の絨毯。そして所々にある花からは仄かに甘い香りが漂っていた。

(バー……なのかな)

 広間にはカウンターもあり、ソファやテーブルが並ぶ場所には如何にも裕福そうな人達が酒を飲んでいた。その周りには煌びやかな女性たちがちらほら居たが、どの女性も女優並みに美しいのに驚いた。
 だがその場所には入らず、男はある個室へと学を招き入れた。学が呆けた顔で部屋に入ると、男は品の良い家具の揃った個室のドアを閉めた。

「あの……」

「何で入れたかは、私も分からない」

 男は静かな声で、学が質問しようとした事に答えた。

「だが、何か話したい事があるなら聞こう」

 学は男に勧められるままに、ベルベッド生地のソファに座った。
 何故だか、その男には優しさや人間味は感じられないのに、酷く惹かれる。柳以外でこんなに美しいと思った男は他にいなかった。
 ポツリ、ポツリと、学は今まであった事を話した。どうしようもなく行き詰って、馬鹿みたいにこのネオン街へ足を踏み入れた事、愛する人を守れない事、自分の非力さ、相手の巧みさを語った。
 そして、柳のレイプされた写真を見せた。
 男は眉一つ動かさなかった。
 学は生唾を飲む。

「その先生は、幸せだな」

「え……?」

 思いがけない男の言葉に思わず高い声が出た。

「君のように全身全霊で愛して貰えて、その先生は幸せ者だ」
 その男がふと寂しげな眼差しをしたので、学はつい軽々しく話かけてしまった。
「あの……貴方も好きな人がいるんですか?」
 その問いかけに、今まで無表情だった男の口元がほんの少しだけ綻んだ気がした。それがドキッとする程に美しくて、学はついジッと見つめてしまった。

(世の中に先生以外でもいるんだなぁ……こういう綺麗な人。こんな顔をさせるなんて相手はどんんな人なんだろう)

「急に君の話を聞きだしてすまなかった……ちょっと最近君に似た表情の人と関わっていたから、つい声をかけたんだと思う」
 男は銀色の手帳を取り出すと、学に詳しく優のプロフィールを聞いて来た。
「君は、本当はどうしたい?」
「俺は……同性同士でもちゃんとした法を作って裁いて欲しい。でもそんなのは途方もない事だから、気持ちとしては……消えて欲しいと思ってる。自分善がりな考えかもしれないけど、これからまた同じ事が繰り返されるなら、あんな奴、消えてしまえばいいって……思う」

「一つ聞きたい事がある」
「何ですか?」
「君はどうしても先生を守りたい、これから幸せで平穏な暮らしがしたいと言ったが、その代わりにこの件を私に委託する事を納得して貰えるかな」
「え……貴方に?」
「勿論、君にはそれなりの覚悟が必要だ」
「ど、どんな……」
「その男がどういう結末を迎えても、君はその経緯を勘ぐって責任や後悔を一生感じる事になる。それでも、社会的制裁が下されない以上、助かる方法は今のところ私に委託するだけだろう。それが無理ならこの話は聞かなかった事にする」
 男の言っている意味が分かった途端、学は全身から脂汗が噴き出てきた。

――もう、何かがあってからでは遅い。きっとこういう個人的裁きを下す事を、世の中では認めないだろう。それでも、俺は……!

「分かりました。一生、その罪を負って生きます」
 真っ直ぐな学の目に、男は無表情のまま「了解した」と言っただけだった。
「あの……報酬は……」
 おずおずと切り出す学に、男は銀縁の眼鏡をカチャリと長い指で上げた。
「そうですね……将来、うちの傘下の会社へのスカウトに伺うと思いますので、取り敢えずT大か、K大に入って下さい」

「はい?」

 学は突然の事に呆けていると、急にドアがノックされた。

 トントントン。

「時枝様。木戸様がお呼びでございます」

「ああ。今行く。……では、これで私は失礼します。お元気で」

 そう言って足早に素っ気なく出ていく男に向かって、学は慌てて「あっ、ありがとうございます!!」と言って頭を下げた。

 個室を出ると、時枝は更に奥にある個室の中へと入った。

「さっきのガキと何を話してたんだ?」
 木戸は少し不機嫌そうにウイスキーのグラスを傾けた。
「将来性のある子を見付けましたので、面談をしていました。申し訳ありません」
 時枝がしっとりとした声でそう言うと、木戸はほんの少し笑みを含んだ視線を向けた。

「で?」

「はい。将来的にうちの傘下で働いて貰おうと思います。もう、こちらの世界に片足突っ込みましたので」

 時枝が無表情でそう言うと、木戸は自分の持っていたグラスを手渡した。時枝は、木戸の飲んでいたグラスの口をほんの少し舌先で舐めて見せてからウイスキーを一口、口に含んだ。

 何が起こっているか知らない当の学は、不思議な体験と現実味のない出来事にフラフラしながら家路についた。



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まだ未読の方の為に、「時枝」と「木戸」という怪しげな男たちが登場
しましたが、簡単に言うと彼らは裏世界で非情に力のある危ない方々でございます。
時枝は木戸の秘書をしています。木戸は鬼畜大魔王。
時枝さんも眉一つ動かさず「お仕事」をこなします。
*彼らの出てくる話はこちら→それから
因みに「それから」は、短編すれ違った後での続編です。

たまたま会った怪しい男の言葉を鵜呑みにしていいのか、
学は半信半疑のまま一先ず地元へと帰って行った……。

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続・ネクタイの距離 28話

「ここか? お前んち」

「あ、あぁ……」

 少し前を歩かせた亮太の後をついて行く形で辿り着いた悪魔の巣の前に立って、学はゴクリと生唾を飲み込んだ。
 兄の優と話し合いたいから家で待たせろと命令してある。亮太は素直に学を家に上げた。
 既に携帯にある写真と先程撮った映像のデータは信用できる第三者に送ってあると言ってある為、亮太も学に下手に手出しは出来なかった。
 学が玄関を上がると、亮太は「ちくしょう」と小さな声で呟いた。学は亮太の襟首を掴むと、思い切り鳩尾を殴って気絶させた。
 その辺を探して見付けたビニールの紐で動けない用に手足を縛り、口にはガムテープを貼った。

 暫くしていると玄関がガチャガチャと開き、「ただいま」の言葉も無しに足跡がリビングに近づいた。
 カチャッとドアがドアが開いて見えた顔は、どこか自分に面影が似ている様な整った甘いマスクの男だった。
「お邪魔してます」
「んんーっんんーっ」
 既に気が付いていた亮太が優を見て騒ぐ。だが優はそんな状況を見ても何ら表情を変えずにキッチンへ向かいながら学に話かけた。

「えっと、学くんだっけ? 何? 不法侵入?」

 水道水をコップに注いで勢いよく飲みながらそう言う優の態度に、学はカッとなった。

「お前らがしてきた事の証拠はもう持ってる。そのデータも、もう他の人に渡してある。いつでも警察に届けられる……そうなればお前らなんか社会的に終わりだ」

 優は振り返ってもう一口水を飲んだ。

「で?」

「……?」

「そんな事わざわざ言いに来たの? そのまま警察に行けばいいじゃなか。君は馬鹿か?」

 学は頭に血が上って体温が上昇するのが分かった。そのまま立ち上がると、転がっている亮太の腹を踏みつけた。
「ぐッ……んぐッ……フッ」
 弟が痛めつけられて少しは逆上する事を期待したが、優は悠長にネクタイを緩め、時計を外していた。

「おい……お前っ、何で弟がこんなになってんのに怒らねぇんだよ」

「え……だって別に俺が痛い訳じゃないし」

 平然としてそう答える優に、学はゾッとした。

「お前ッ……これから警察に掴まって、牢に入れられるってのに何余裕ぶっこいてんだよッ」

「あ―、まぁ、傷害罪とかそういうのになるか? そしたら金払えば済むし、社会的にどうこうなっても俺、やっていけるコネも自信もあるからね。……直ぐに出て来てまた先生を追い掛けてあげるよ」

 ニヤついた優の顔は表情を持った毒蛇のようで、絡まれたら息が出来なくなるまで締め付けられ、終いには丸のみにされるような恐怖感に包まれた。

(逃げられない……どうしよう……どうすれば……)

「君が大人になればどうにか出来るとでも思ってる? 無理だよ? だってその頃にはもう手遅れだからね。ふふっ」

 お金を払えばどうにかなる、その後の生きる術も確保してある。一度狙われたら逃げても逃げても追いかけられるだろう。学は冷や汗でじっとりと服が冷たく濡れた。

「あ、それとね。あの写真、俺も亮から貰ってあるんだ。もう見ただろ?」

 パチッと携帯を開けて、突然見せつけられたその写真に、学の息が止まった。
 大量に出血して後ろ向きに倒れたままの柳の側で、優の楽しそうな横顔が写り込んでいた。
 余りの残忍さに、学の心臓に短刀でも差し込まれた様な痛みが走って膝が崩れた。気付くと胸を抑えて涙がボロボロ落ちていた。

「あれ? 見てなかったの? 泣かせちゃったね……はは。これさ、ネットで流したら楽しそうじゃない? 君が警察に通報するなら最後にそれ位したいよね」

「ど……して……そんなに酷い事……出来るんだ……」

「え、だって人とか生き物が痛がってるのって、楽しくない? 別に俺は痛くないし、そういうの興奮する性質なんだ」

「お前……今まで何人の人にそういう事してきたんだ」

 優は思い出そうとして斜め上を向いた。

「……人数とか覚えてないなぁ」

――こいつ、快楽殺人とかする奴と同じ思考なんだ。

 学は、こういう性質の奴はまた繰り返し同じ事をする、と思った。世の中にこういう人がどの位潜んでいるのだろう。そう考えるだけで悍しい。
 それでも、どうする事も出来ない自分と、先行きが見えてしまった恐怖で、学は優たちの家を飛び出した。


「あはははははははははは」


(畜生ッ、畜生ッ、畜生ッ、畜生ッ!!)


 後ろで聞こえる高笑いを振り切るようにして、学は走り抜けた。



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惨敗です…。
世の中ってどうにもならない不条理な事って多いです。
しかしそんな学にも意外な展開が。
あと数話ですが、お付き合い下さると幸いです(*´∇`*)

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続・ネクタイの距離 27話

「ちょっ……とっ……学っ」

 柳は学の物凄い力で引っぱられて走っていた。
 冷静さを装っていた学も最後にはやはり抑えきれないものがあったようで、アドレナリンが一気に大放出していた。
 亮太を殺さなかっただけよく理性が持った、というところだろう。
 どこに向かっているかも分かっていない学は階段をとにかく登っていた。

「いっ……痛いっ」
 階段の踊り場で漏らした柳の声に振り返った学はまるで飢えた獣のようだった。
 学はその踊り場の壁に柳を押しつけて柳の唇を塞ぎ、貪った。

「やっ…んっ……あっむっ…んっ」
 いくら人通りの少ない場所とはいえ、廊下には普通に人は通っている。それでも構わず禁断症状でも出たかのように柳の唾液を貪る学は自分でも自制が効かないようだった。
 何とかしなくてはと思いながらも絡め取られたままの柳の舌に、学の指先が乱入してきた。熱く、少しザラついた学の指が、学の舌と同時に柳の口内を犯す。

「あっ……んあっ」
 ヌルリと出ていった学の指先は、柳の臀部に滑り込んだ。
 柳の身体はビクリと反応して瞳が見開く。
 柳自身の唾液で滑った学の指先が急くように、その丸い二つの丘にある溝へと滑り込んだ。

「……ッ」

 学は抱き締めていた柳を少しだけ離して柳の顔を見ながらその小さな秘所を触った。途端に柳の表情と身体が硬直して小刻みに震えだしたのが分かった。
 ガタガタと膝が震えて座り込みそうになる自分を支える様に、柳は壁に手をついた。「イヤ」という言葉が出ないように口を抑えて学を受け入れようとする。

「先生……大丈夫だよ。しないから……ごめんね突然……急に先生が欲しくなっちゃて、俺……」
 柳は静かに涙を流しながら首を横に振った。
 
(相手が学だって分かってるのにっ……!)

 柳は自分で思っていた以上に身体が臆病になっている事に気付いた。同時に、学に迷惑と面倒をかけていることも分かって悔しくなった。
 
「全ての事が片付くまで、抱かないよ……少しずつ、怖い記憶を薄めていこう。ね?」

「ごめ……っ」
 
 学は愛しい人を胸の中でしっかりと抱き締め、髪に指を埋めると先程の興奮が収まり満たされる気持ちになってきた。
 そしてそのまま、他の生徒が階段を上って来るまで二人は言葉も交わさず抱き締め合った。


 最後の授業の時には、亮太は青ざめた顔で一度も学と柳を見ようとしなかった。制服の襟を必要以上に引っ張るようにして隠すのは、学に付けられた痣を隠す為のようだ。
 奪い取った携帯は今、学のポケットの中にある。
 先程、柳に写真は絶対に見ないで欲しいと懇願された。

(そりゃあ……レイプ後の写真なんだから酷いに決まってる。見られたくないのも分かる……けど……)

 柳の受けた傷がどれほどのものか、気にならない訳ではない。
 だが、学自身でも見た後にどれ程自分が激情するか分からないのも怖かった。

(見たら忘れられないだろうな……トラウマになるかな)

 そう考えて学は自身にムカついた。

(何言ってんだ俺……それを実体験してトラウマになってんのは先生じゃねぇかよッ……馬鹿か俺は。俺に見られてまた傷つくのは先生なのに)

 柳の消したい過去を左のポケットに入れたまま、学は学校を後にした。そして向かった先は見慣れない大きな家だった。




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ついに来ました(; ・`д・´)

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続・ネクタイの距離 26話

 学は本屋で抱える程の本を買い漁っていた。
 手に持っているのは法律の本や、傷害などに関する本だった。学に出来る事と言えば、ネットで情報を得、本屋に向かい、知識を蓄えて戦う準備を進める事しかなかった。
 今回の事件とも言える出来事で初めて知った事は、『強姦罪』が男性同士のレイプには適応されないという事だった。

 それには学は憤怒した。
 例えあんなに精神的にも身体的にも傷つけられても男女でなければただの傷害罪か暴行罪になるという事に憤りとやるせなさと、そして世間体というものを痛感した。
 それならば、と攻められる部分を最大限に使う事で相手を丸め込もうと、こうして本屋に寄ったのだった。

 先ずは証拠を手に入れなければならない。
 丁度、柳の酷い姿を捉えた写真が亮太の携帯電話に入っているという事で、それを手に入れようと考えた。
 不幸中の幸いにも、柳は医師による怪我の診断書をきちんと保管していた。一応何かの時の為にと、柳も行動をしていたようだ。
 
 学はまた直ぐに手を出してくるに違いない亮太と優を警戒して、夜通し買った本に目を通しながらも柳に連絡を入れた。
 そして早速次の日に、亮太の隙を狙った。こうして亮太を観察していると、時折いやらしい目で柳を見てはニタニタと笑っているのを見かけて殴りたくなる。
 
(こんな奴に先生を見ても欲しくない)

 どれだけ大事な先生の身体と精神を蹂躙してきたのかと考えるだけで頭がおかしくなりそうだった。
 
 柳にはいつも通りに過ごして貰う事になっていた。毎日学校で求めて来ていた亮太だから、そのうちにまた求めてくるだろうと踏んだのだ。その時がチャンスだ。
 案の定、昼休みに入ると亮太が動いた。
 亮太の後を追って見つからない様に後をつけていくと、柳を押し込むようにして亮太が使われない美術室へと入るのが見えた。
 
 学は足音を立てないようにそっと教室前まで近づいて腰を落とした。二人の入った教室の壁に背中を付けるとヒヤリと冷たい感触が背中全体に広がった。

(まだだ……もう少し……)

 今直ぐに殴り倒してやりたい衝動を抑えながら教室のドアの前で待機していた。
 中から二人の話声が聞こえてくる。

「なあ、俺と兄貴どっちがいい? 兄貴、乱暴だろ? 俺の方がいいよなあ?」

「や……だっ」

「何今更抵抗すんの?」

「……っ」

「少し乱暴にされんのも癖になってきた?」
 自分が絶対的有利な立場にいる人間特有の厭らしさが伝わってくる。学は亮太の声に悪寒を走らせた。

「止め……ろッ!」
 柳の突然の激しい抵抗に、亮太はしばし止まったようだった。

「俺は……もう嫌なんだッ……止めてくれ……」
「……は? 何言ってんの? 俺は嫌で兄貴が良いって訳? 散々昔から俺に抱かれてイきまくってた癖にか?」


(もう少し……)


 学の熱い汗の雫は鎖骨辺りまでゆっくりと流れていった。

「先生さ、この写真。あいつに見せてもいいんだ? 言う事聞かないとコレ、あいつに見せるだけじゃなくて先生のご両親にも見せびらかしちゃうよー?」

 亮太が調子に乗った声でそう茶化した瞬間、ガチャリッと完璧に閉められていた筈のドアの鍵が解除され、ドアがガラッと開いた。
 予想だにしない出来事に何の対処も出来ない亮太は、ただただ目玉が落ちるのではないかという程大きく見開いたまま言葉を失っていた。

「何で……お前……ドア……あ?」

「鍵、持ってんだからそれ使って開けたに決まってんだろ。馬鹿が」

 ドスの聞いた学の声とその迫力に亮太は生唾を飲んだ。
 そして学は無言で亮太に近づき、一歩二歩と下がる亮太を追いつめるようにして喰い殺しそうな目で睨んだ。

「な、何だよッ……てめぇっ」
 負けじと亮太が凄むと同時に、手に持っていた携帯をサッと取り上げた。
「あっ!!」
 何かを言う暇も与えずに、学は隠し持っていた小さなビデオテープを亮太に向けた。
「もう遅いんだよ、お前。何も言うな。馬鹿面こっちに向けて笑ってろ。さっきの会話も、この証拠も……全部あるから。警察に行く覚悟だけしてろ、お前」
 そう言って学はビデオの録画を切り、思い切り亮太の首を掴んで締め上げた。
「ぐぇえぇっ」
 酸素の通らなくなった亮太の首から上はみるみるうちに赤紫に変わり、コメカミの辺りに緑色の血管が浮いて来た。

「俺は本当はこのままお前らを殺してやりたいんだよ……分かるか? 先生もこれくらい苦しくて痛い思いをしてたんだ。俺は先生の為なら犯罪者になってもいいくらいの覚悟は出来てる……でも俺は先生とこれから人生を楽しんで生きていきたいから。別の方法でお前らを苦しめてやる事にしたんだ」
 亮太は苦しさで涙と鼻水がダラダラ垂れてきたところで、学はパッと手を離した。途端に亮太は床に崩れるようにして咳き込み、ヒューヒューと音を立てて空気を貪った。

「行こう、先生」
 学は柳の冷たく薄い手をしっかりと握ると、教室を足早に出て行った。



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( ゚Д゚ノノ"☆パチパチパチパチ
そしてストック切れ…orz
頑張ります!(>ω<)

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続・ネクタイの距離 25話

☆18禁です


 てっきり怒るか、責めるか、嫌悪するだろうと思っていた柳は、学の突然の抱擁に目を見開いた。
「何で……抱き締めて……くれるの?」
 少し鼻声の柳は学よりも何だか幼く思えて学はキュンとした。

「何でって……今まで辛い思いさせてたんだなって……もっと早く助けてあげられなかったのかなって悔しくて……そんで、先生を……生意気だけど、癒したくて……俺の宝物をこんな風にするのが許せなくて……何か、色々ごちゃ混ぜになった」
「他の男にこんな風にされて……気持ち悪くないの?」
「何で気持ち悪いんだよ? ていうか、そんな事より先生、嫌なんだろ? 助けて欲しいんだろ?」
 
(頼っても、いいのかな)

 柳の怯えるような表情が崩れてくる。まるで迷子になった子供が母親を見付けて安心して泣いてしまった様な泣き顔に変わるのを見て、学は再び優しく抱きしめて、何度も柔らかな柳の髪にキスをした。

 柳は少し落ち着いてからポツリポツリとあった出来ごとを話すと、学は何度も何度も憤りで暴れ出しそうになる自分を抑えるように唇を噛み、爪が食い込む程に強く拳を握った。
 そして亮太の携帯にはその時撮られた悲惨な暴行後の姿がある事も告白した。
 柳はこの面倒事に学を巻き込みたくはなかったが、学はそれをどうにか取り返すと言って聞かなかった。

「だってその写真があったらこの先ずっと先生はあいつらの鎖に繋がれたままなんだよ? 俺が我慢出来ないし、そんな事は許される事じゃない……何より、俺の先生をこんな目に遭わせたんだ……」
 学の目は鋭く光り、まるで闇打ちにでも行く侍のように思えた。

 そんな学の横顔を見て、柳はそっと学の袖を掴んだ。
「あの……さ、さっき廊下で女子生徒たちが噂してたんだけど……お前に彼女が出来たから…皆振られてるって」
 少し上目遣いな感じの柳が、甘えているように見えて学はキュンとなった。そんな柳を見るのは初めてだったからだ。
「あれは俺が告白を断る理由を彼女って事にしたらいつの間にか広がった嘘の噂だよ。まぁ、虫よけ効果と……先生の気なんかも引けたらなーって思って言ったのもあったけど」
「え……」
「でも本当に引けるとは思わなくて……嬉しかった」
 そう言ってから、そっと耳元で「好きだよ」と囁いてからのバードキスは、柳の全身を蕩けさせた。
 気を引けたどころではなく、貧血まで起こしてしまった事は水に流しておこう、と柳は思った。



「あっ、次の授業っ……先生、もう大丈夫?」
 ふと思い出したように、学が時計を見て慌てた。
「あぁ。もう平気だ。ありがとう、行ってくれ」
 学は名残惜しそうに二、三度柳にキスをすると可愛い笑顔を向けて去っていった。

 学の姿が消えると、柳はバタリとベッドに仰向けに倒れた。
 唇や首筋に残った学の唇の感触がリアルに蘇って爆発しそうになる。
「ハァ……ハァ……学っ……んんっ」
 柳は、あの兄弟に犯されてから一度も学を思って自慰をしていなかった。それは学を穢す事のような感覚と、自分自身への戒めのようなものもあったからだ。
 その たがが外れて久し振りに思い切り快感に酔った。
 スーツのズボンを下ろす事もしないで、柳はファスナーだけを開けて中から煮え滾った肉棒を掴みだした。既にヌルついていてローションを付けたようにグチュクチュと卑猥な音が立つそれを、グリグリと左右に回しながら上下に扱いた。
 性器全体が亀頭部分のように敏感になっていた為、柳は自然と腰も上下に動かした。
「ああんっ…学っ…学っ」
 ついさっきされた強引なキスだけを鮮明に思い出して一気に扱きあげると、あっという間に柳の手の中に熱く濃厚な液体が飛び出て来た。
「やぁあっんッ」
 荒げる息のまま枕にしがみ付いていると、気持ち良さで痺れた口端から唾液が流れ出てきた。

(どうしようもない奴だな、俺は……)



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まっ!てんてーったら!(//∀//)

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続・ネクタイの距離 24話

「彼女?」

 こちらの方を振り向く学の顔を、柳は目の端で捉えた。

「いるんだろ? 隠さなくていい」
 いっそハッキリと心変わりしたと言われてしまいたかった。

「いないよ、そんなの」

「気を使わなくていい。そりゃあ……別れてから間のないから……ちょっと驚いたが……俺が悪いんだから気は……使うな……」
 柳の声が少し震えて、そして俯いた顔からポタポタっと涙の滴が布団に落ちた。
 学は座っていた椅子から腰を上げて、柳のいるベッドに腰を下ろした。ベッドがギシリと音を立てて撓る。

「先生……何で泣いてるの?」
「……泣いてない」
 学の優しい声と涙を救う指先の感触にどんどんと滴は溢れてくる。
「先生、俺に彼女が出来たら悲しい?」
「そりゃあ……っ」

 (あれ……今の質問、肯定しちゃいけなかったんだっけ……)

 本当の気持ちと隠さなきゃいけない事と素直な感情がごちゃ混ぜになる。
 そんなこんがらがった感情の糸を一本一本丁寧に解くように、学は質問を投げかけてくる。

「ねぇ先生、まだ少しでも俺の事好き?」
「少しじゃなっ……あっ」

(しまった)

「ん? 何?」
 のぞき込むように顔を近づいてくる学の顔に、柳の心臓が破裂しそうになる。
「先生……俺やっぱり先生が好きだよ」 
 学にグッと肩を引き寄せられ唇を塞がれた。
「あっ……んっ」
 学とのキスは何度もしている筈なのに、まるで初めてキスをしているように感じた。 心臓がそっと鷲掴みされるような感覚になる。
 優や亮太の一人よがりな乱暴なものと違い、唇を啄む度に『愛している』と言われているようだった。
 ただ舌でかき回されるのではなく、学の舌は本当に柳の性感帯を刺激した。
 柳の下半身は不謹慎に信じられない程大きく硬く育ち、先端からは溢れでる液体で下着が濡れてくるのが分かった。

「だっ……ダメっ」
 ゆっくりと名残惜しそうに学を引き離そうとするが、学はベッドに乗り上げて柳を押し倒した。
「先生ッ!」
 学の唇が柳の首筋を吸い上げると、ゾクゾク全身が気持ちよさに震えた。首の柔らかな皮膚を皮下組織からギュッと抓られるような痛みを感じて、学にキスマークを付けられているのが分かった。首筋の痛みに、これまでにない程の快感を感じて、柳は学の髪を柔らかく掻き毟った。
「ダメだっ……学っ……俺はもうっ……他の男にっ」
「聞きたくない」
 途端に柳の言葉は学の熱い唇によって再び塞がれた。
「んんっ」
 唇を動かされると、それに反応して柳も自然と同じように唇を動かしてしまう。

「でも、それでもいいからさ……好きなんだよッ」
 学に手首を掴まれベッドに押さえつけられると、柳は既にその先の行動を想像して期待してしまう。
「んあっ……や……んっ」 
 柳の目は潤み、透き通るように白い目元には頬紅でも乗せたように綺麗な紅色が差し込まれて来る。
 学はそんな柳の色香に全身がゾクリと震えた。どう見ても自分に恋し、誘っているようにしか見えない柳に、学は確認した。

「先生。あいつらに何かされたの?」
 学の質問に、サッと表情が変わったのを学は見逃さなかった。そして柳も何かを思い出したように自分のシャツをギュッと締めるように握ってベッドから降りようともがいた。
 学は力ずくで柳をベッドに縫いとめ、手首を掴んで動けなくした。
「正直に話さないと……このまま抱くよ」
「何言ってっ……あっ……やめろ学っ……ダメだッ……やめっ」
 尋常ではない嫌がり方に不信感を持った学は柳のシャツのボタンを外してハッとした。
 胸の辺りには引っ掻かれた様な跡や、噛みつかれた歯型、火傷の跡も幾つか見えるのはきっとそういうプレイを強要されたのだろう。
 少し前の傷跡に混ざって真新しい傷が無数にあった。

「何だよ……これ」
 学は怒りが既に頂点を超越して指先が震えだした。
 柳は学と触れ合えていた嬉しさで、自身の身体に付けられた忌まわしい印がある事を忘れていた。
 柳は見られた恥ずかしさと嫌悪感で声を押し殺して泣いた。

 そんな柳を見て、学はその傷付いて目の前で泣く愛しい人をギュッと抱き締めた。



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(*´∇`*)

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続・ネクタイの距離 23話

「ったく何だよ。いい感じの表情になったのによ」
 無理矢理会話をかき消した柳に、優はさっきの穏やかな表情とは打って変わった面持ちで不満を吐き出した。
「ごめんなさい」
「お仕置きだなぁ、辰美……ん?」
 優はねっとりとまとわりつくような声でそう言いながら柳の尻をスーツの上から揉んだ。
「やっ……まだ傷がっ」
「大丈夫。優しくしてやるって……家に上げろよ」
 嫌だと言ったところで優を煽るだけだ。柳は深いため息をそっとして、優に追い立てられるように部屋へと帰った。

 
 学は次の日から柳の顔を見るのが少し辛かった。だが消えない想いはそのままで、膨らむ疑惑と怒りで授業にも手がつかない。
 そんな学の揺れる視線をニヤニヤと亮太は見ていた。
 亮太もまた、優に黙って写真を使い、脅しては柳の身体を貪っていた。
 柳は学たちが体育の時間になると、授業をサボった亮太に窓辺で抱かれる事もしばしばあった。柳は窓の外に見える学の姿を追いかけながら脳内で亮太を学に変換させる。そうする事でしか苦痛を逃がせなかった。

 柳は、亮太が学にあの 惨憺さんたんたる写真を見せやしないかと心中穏やかではなかった。学校では亮太に恐怖し、プライベートでは優に傷つけられる。
 柳の精神と身体は崩れそうになっていった。唯一教室で一瞬だけ学を盗み見る事だけが支えだった。

 試験の時期が来たせいもあって、そんな生活は流れるように過ぎていった頃だった。
 廊下を歩いていると、女子生徒たちが高い声で噂話に花を咲かせていた。
「学くん、他校に彼女いるんでしょ?」
「えーっそうなの?! だから皆振られてたんだ?」
「ねー。狙ってたのにー」
 柳は頭の先から氷水をかけられたような感覚に陥った。

(学に彼女が?)

 自分から振ったのだから彼女を作ってもおかしくない。寧ろそれを望んでいた筈だった。だがどこかで自分だけを想っていてくれるのではという馬鹿な期待と、助けて欲しいという心の叫びが柳に想像以上に大きな衝撃を与えた。

 柳は貧血を起こしたように気分が悪くなってくるのが分かった。
 だが授業開始のチャイムが鳴り、仕方なくフラフラと教壇へと立った。無理をして授業を進めていると、そのうちに吐き気まで襲ってきた。グッと我慢をして仕事だと割り切り、チャイムがなるまではいつもと変わらない表情で授業を終えた。
 休み時間に入ると、直ぐに震える手足で教室のドアを開けて出ていこうとした。
 その時だった。
 柳の後ろからサッとドアを開け、腕を支えるようにして助けられた感触に本気で感謝を感じて振り向いた。
「すまない、ありが……」
 少し高い位置にあったその顔はずっとずっと触れたかった学の顔だった。
「具合、悪いんだろ? 保健室……連れていくだけだから」
 
 (学は、こんなにも頼りがいのある凛々しい青年だっただろうか)

 柳は今までの問題事を忘れて、改めて学に惹かれた気がした。
 久しぶりに触れる学の熱を異常に感じ取って、柳の白い顔にポッと桜が咲いたように頬が赤くなった。
 普段は殆ど訪れない保健室のドアを、学は慣れた様子でガラリと開ける。
「今、誰も使ってないみたいだから……ちょっとここで横になってなよ先生」
「あ、あぁ。ありがとう」
 柳は学に連れられて真っ白なベッドに横になった。 まさかこうしてまた二人きりになれるとは思っていなかった柳に緊張が走る。
 二人は特に話す事もなく沈黙が続いた。それでも学は窓の外を見ながら柳の側についていた。

「俺が具合悪いの、よく分かったな」
 柳は何となく学に話しかけてみた。
「そりゃあ……いつも見てるから。分かるよ」
 柳の心臓がドキリとときめく。今の柳にそんな資格はないと分かっていても、恋する心は全てを無視して暴走しようとする。
 柳は、急に先程生徒たちの話していた内容を思い出して不安で泣きそうになった。
「学……もう、俺の事はいいから……。彼女、大事にしてやれよな」
 柳は自分で言って自分を傷付けた。



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大分更新が滞ってしまい申し訳ありませんでした(´Д`A;)
多忙の合間にちょこちょこポメラに書いたものが少し出来たのでUP出来ました;
今ようやくまた二人きりになれた柳たちですが、話、出来るといいです(>ω<)

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続・ネクタイの距離 22話

 大股でカツカツと靴を狭い路地に響かせて、優が柳の横に回った。あたかも当たり前の位置のように学の場所を取り、そして柳の細い腰に手を回した。
 学はカッとなって優に掴みかかるが、その手は簡単に振り払われてしまった。
「君ね、暴力を振るったら一番困るの先生なんだよ。分かってる? まだ子供だとその辺の事情とかピンとこないかもしれないけど、先生を困らせるのだけはやめてね? 僕の大切な人だから」

「大切な人……? お前、誰だよ」
 優に注意されている事が理解できる。だからこそ苛立ちで爆発しそうになる。
「学……この人が亮太のお兄さんの優さんなんだ……」

(あの好きだったっていう? 何で今一緒にいるんだよ)

 柳の言葉に学は止まった。どのくらい沈黙してたかは分からないが、瞳が乾ききって目が痛んだ。

「やっぱ……俺の事は遊びだったわけ?」
 声が枯れてしわがれた。まるで寝起きのようだ。
 何も答えない柳に、学は畳みかけるように質問をぶつける。
「ちょっと会ってただけだろ? だって付き合ってるのは俺だもんなァ? ちょっと浮気しちゃったってだけだろ? いや、それでも俺は怒ってるんだけど、でも、別に許さない訳じゃないからッ」

「ごめん、学。やっぱり俺、優先輩が本命なんだ」
 
 授業中の時のような落ち着いた柳の声に、学は頭から冷水を浴びたように冷や汗で身体が震えた。

(じゃあ、今までのは?)

「君、学くんだっけ? ほら、君の顔って少し僕に似てるだろう? それで寂しくて辰美は君と少し関係を持ったというだけなんだ。僕からも許してやって欲しい……この通りだ」
 そういってあくまでも紳士的に頭を下げる優を見て、柳は虫唾むしずが走った。だが一瞬でもふらついたのは事実で、こういう事態に陥ったのは自業自得だと諦めていた。
 事実を知れば学は傷付き優とやりあって、下手をすれば退学にだってなる可能性がある。それにこの事で学が自分との関係を公にされて一生恥ずかしいレッテルを貼られてしまうかもと考えると、自分が最低の人間に成り下がり、学と別れる選択がベストだと感じた。
 だが優に対する嫌悪感と、学を目の前にした時に溢れそうになる涙を堪えるだけで精一杯になってしまった。

「ざけんな。俺は認めねぇからな」
 学は低い声で怒りを露わにしながら凄んで見せた。
「おいおい。結婚してる訳でもないだろう? 君ならモテるだろうから他を当たって欲しいと言っているんだ。辰美は昔から僕一筋だったんだ。ちょっと付き合っただけで、なおかつ身体の関係もないような君なんかが叶う筈がないだろう」
 優の言葉にギョッとした柳は直ぐに優の腕を取りこの場を終わりにしようとした。
「先輩ッ、俺もう帰りますから……先輩もっ……」
「いや、辰美が帰ったところでこの子はしつこくするだろう。今から僕の家へ行こう。あ、その前にホテルでもいいかな?」
 一見優しそうな笑顔の中に、傲慢と残忍さの混じる艶っぽい優の笑みに柳の背筋が凍った。傷つけられた時の恐怖感で奥歯がガチガチと鳴る。

 学は柳の焦り方から見て、二人が身体の関係を持った事は何となく事実なんだと感じた。
 学が大切にしていた柳は、いとも簡単に他人に持って行かれた。裏切られた事への悲壮感は、学の精神を暗く深い真っ黒な沼に沈めていくようだった。

「学。もう行こう……最低だな、お前」
 いつの間にか側に来ていた哲平が柳を睨みつけた。学は哲平に腕を引かれ、呆然としながらその場を立ち去った。
「別れて正解だよッお前。俺がいい女でも男でも見つけて紹介してやるから! そんで沢山遊び倒してヤリまくれば忘れられる! な?!」
 わざと柳たちに聞こえるように大きな声でそう叫びながら学を駅へ連れていく哲平に、学は少しだけ救われた気がした。
 きっと一人だったら世間体も柳の事も無視して優に殴りかかっていただろう。
 こういう時、自分が大人であったならばどういう対応が他に出来ただろうと学は思った。もしかしたらスマートに柳を取り返せる知恵と魅力があったかもしれない。

 学はたかが高校生の自分を呪った。



「あれがお前の先生だったのか……」

「もう、”俺の”じゃねぇよ」

 学は哲平に連れられて駅近くの公園のベンチに座って脱落していた。

「あ、まぁ、そうだな! しかし分かったわ。お前が好きになっちまう理由。あれは綺麗だわな。男でもまぁ、いっか!ってなるわ……あっ、いやっ、でも性格は最悪だしっ、恋人なんてのは結局中身だしよッ」
 柳の見た目を素直に認めた哲平は慌てて柳の性格を否定した。

「性格も……良かったよ」

「あ――……でも結局こんな結果だろうが。実は最低な奴だったって事じゃね?」

 思い返しても柳がそんな事をするような人には思えなかった。




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続・ネクタイの距離 21話

 一週間程だってから教室へ入って来た柳を見て学の胸は絞られるように締め付けられた。
 少しやつれたように感じるのは気のせいだろうか。表情はいつもと変わらないのに柳を取り巻く空気が冷たく歪んで見える。まるで蜃気楼のようだ。そこにいるのに幻のようなそんな距離を感じる。
 学は休み時間になると勢いよく席を立って教室を足早に出ていく柳を追った。

「先生ッ……ちょっ…先生ッ待てってッ」
 掴んだ柳の腕は久々の恋人の感触だった。
「何?」
「何じゃねェよ! 何で連絡取れなかったんだよ!? 俺すげェ心配してたんだぞ!?」
「ハァ……だから、風邪引いてたからしんどくて携帯も切ってたんだよ」
 面倒くさそうに話す柳の顔に学の胸はズキッと痛んだ。
「しんどいならさ……俺を呼んでくれれば良かったじゃん。恋人…なんだし……」
「……分かった分かった。なら今度から連絡するから。じゃ、ちょっと次の準備があるから」
 言いたい事は山ほどあった学だったが、とりつく島もないような柳の態度に呆気に取られたまま見送るしかなかった。

 一週間前と明らかに態度の違う柳はあからさまに学を避けているように見えた。帰りも学の部活が終わるのを待たずに帰宅した柳に苛立ちが募る。せめて柳の家ぐらい知っていたなら無理矢理にでも押しかけてやるところだ。
 塾の教室へ入ると不貞腐れた態度で哲平の隣に座った。

「なぁ……俺、何したよ?」
「あ?」
 学が哲平に休み明けに急に態度の変わった柳の事を話すと、哲平が少し考えるように斜め下を見つめた。
「お前とヤりたくなかったか……でもそれだけで一週間も休まないよな……他に好きな奴でも出来たか……」
 その言葉に亮太の顔と『亮太の兄貴』という言葉が浮かんだ。
「だってよ、学。おかしいだろ? 風邪引いたってだけでそんな連絡しなくなって、そんな態度変わるなんてよ」
「……そう……だよな」

 心地よいBGMのような塾講師のか細い数式を唱える声を無視して、二人はずっと話し込んだ。
 いつの間にか終わってしまった塾の時間の後、いつもよりもダラダラと喋りながら駅へ向かっていた。
 小腹が空いたからと哲平につられて近くのコンビニへ行った帰りだった。狭い路地を歩いていると、ふと大きな白い車が路地に止まったのが見えた。アパート前に止まったその車がハザードランプを点けたので学は何となく見ていた。
 路地を殆ど塞ぐような車のドアがカチャリと開いて中に電気が点いた。薄暗くなってきた為に車内で点いた小さな明かりで中がよく見えた。車内にはあまりにも見知った顔が見えて学の足が止まった。


(先生……?)


 柳は丁度優に呼び出されて送って来て貰った帰りだった。
 そんな事とはつゆ知らず、学の息は浅く早くなっていく。
 遠目から見た柳の綺麗な横顔は怯えたように強張っているように見えた。隣にいる男は学にとっては見た事のない男だ。ただ、どこかで見たような顔で、その雰囲気はとても自信にあふれているように感じた。
 柳がドアを開けて出ようとすると男が柳の細い腕を引いた。そしていつも学が口付けする場所はその男が代わりに塞いだ。

「オイッ…学ッ」

 学は哲平が叫んだ時には既にその車に向かって走っていた。
 頭に血が登って身体中が熱い。
 車の中で学に気付いた柳の顔から血の気が引いた。だがそんな事は今の学には分からない。
 学は少しだけ開いたドアを乱暴に開けると中から柳を引きずり出した。
「何やってんだよッ、先生ッ」
 今にも貧血を起こしそうな柳の白い顔は俯いて言葉を失っていた。
 ガチャッと高級感のある車の重いドアの開く音が聞こえた。
「辰美、そいつか?」

(何だコイツ)
 
 既に学を知っているような口振りの優を見て胃の中で大きなヘビがズルリと動くような気分の悪さを感じた。



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更新をしていないにも関わらず今日沢山の拍手をして下さった方
ありがとうございました!!200近くも…(ノД`)・゜・
GWの合間に面接が結構入っているのと親が帰国した事で多忙になってしまって申し訳ありません;
優とはち合わせた学…どうなるか…(>ω<)

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続・ネクタイの距離 20話

 柳は非力で愚かな自分を呪った。
 レイプされた相手に病院へ運ばれ、激しいプレイの末だったと強制的に言わされ悔し涙が止まらない。
 真実を言おうとしても学に知られる事を考えると、隠し通す方しか選べなかった。

「先生のこの酷い写真、学くんに見せたらもう絶対アンタなんか抱けないだろうね」

 そう言って亮太は携帯をチラつかせてきた。見せられた写真は既に記憶のない時のだが、レイプ後の目を覆いたくなるような自分の姿だった。

 薄暗い病院の中で、柳は自分の携帯から学に電話をかけた。
「もしもし、先生? もう終わったの?」
 昨日まで合っていた筈なのにとても懐かしく感じる学の若々しくて低い声が耳に響いてきて泣きそうになった。今までの何倍も優しい声に聞こえる。
「あぁ……悪いんだけど明日も無理だ」
 柳は今自分の声が震えていないか不安だった。上手く素っ気なく聞こえていれば、それでいいと声のトーンを抑える。
「え……何か用事?」

「あぁ。ちょっと仕事が忙しくてね。身体の調子も良くないから無理はしたくないんだ。悪い」

「具合悪いの? 大丈夫? 俺、先生の見舞い行くよ。家どこ?」

「いや、大丈夫だ。来られると仕事が出来ないから……いい」

 ブワリと涙が湧きでてきた。今直ぐに会って抱き締めて貰いたい、泣いて縋りつきたい、助けてと叫びたかった。

「あ……そう…か。ごめんなさい……でも…無理しないで。辛くなったら電話して。俺、直ぐ行くからさ! 一瞬でも、顔……見たいし」
 
「あぁ……じゃ」

(学……助けて……)


 柳はおやすみも言わずに電話を切った。それ以上言葉が発せられない程ボタボタと大量の悲痛な涙でひきつけを起こしそうだった。
 通話を切ると激しい嗚咽に襲われ、服の袖口で口を抑えて泣いた。
 大好きだった人に裏切られ、大好きな人を裏切る事の痛みで発狂しそうになった。柳は、まるで這い上がる気力さえ奪い去るような深く狭い井戸へ落されたような気持ちになった。

 


 柳からの電話を受けて、学は柳の違和感を感じた。柳は何か煮詰まったような喋り方に加え、まるで学を拒否しているような素振りだった。
 不安に駆られもう一度柳の携帯にかけたが電源を切っている様で通じない。
 電話が通じない状態は次の日も同じだった。どんどん膨らんでいく不安を抱えたまま月曜を迎えた。いつもは遅めに来る学だったが今日は朝一番で校舎の職員用の駐車場スペースに来た。
 柳の車を待っていたが、他の教師が来ても柳が来る事はなかった。
 ホームルームの時間になったので仕方なく教室へ行った。続いて入って来た教師は別の年配の男性だった。

「えー、柳先生は病欠の為暫く来られないとの連絡がありました」

(病欠?)

「えーっ 先生来ないのォ?!」
「会えないの寂しーィ」

 口々に女子たちが騒ぐ。

(どうして? ……どうして教えてくれなかったんだ?)

 学の頭の中は疑問で一杯になった。金曜までは確かに良い雰囲気で来ていた筈だった。喧嘩もした覚えは無かったし、嫌われるような事があったとも思えない。
 幾ら考えても連絡をされなくなる様な事は思い出せなかった。だとすると理由は土曜にあるとしか考えられなかった。
 必死で理由を探っていた学がふと何気なく見渡した教室の先で、不気味に歪む亮太の顔が見えた。




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続・ネクタイの距離 19話

☆18禁です。暴力的な表現や流血など不快なシーンが含まれております。このページを飛ばしても次に話は繋がりますので、苦手な方の無理な閲覧はご遠慮下さい。また、閲覧した際に感じる不快感の責任は負い兼ねます。ご了承下さいませ。






「やめてっ……誰かっ……亮太ァッ」
 隣にいる筈の亮太に聞こえるように大声を上げるが、助けにくる様子がない。
 途端に今度は鳩尾を殴られ息が止まった。
「ガッ……ハッ」
「うるさい。騒ぐな」
 腹を殴られて初めて、顔も拳で殴られた事に気がついた。
 痛みが恐怖に拍車をかける。
 腹を抑える手をどけられ、服を丁寧に脱がされていった。柳にはそれが余計に怖かった。
 柳の上で嬉々として歪んだ優の顔は、ハロウィンでよく見かけるニヤついたように繰り抜かれたかぼちゃのオバケの表情に似ていた。

 何の抵抗もなく人を殴れる人種を目の前にした柳は身体が竦んで動けない。今まで喧嘩もした事がなく、穏便に大事に育てられてきた。
 そんな柳にとって、優のように暴力で快感を得るような人種はただただ狂人としか思えなかった。
 震える柳の両手首を自分のしていたベルトで縛り上げ、生ぬるくヌメった舌で剥かれた身体を舐めまわされた。
 その行為で快楽は一切感じられなかった。愛撫をされているのにずっと喉元に刃物を突き付けられているような感覚で、脂汗が流れ出てくる。
 無意識に出る涙を浅黒い顔をした優が旨そうにネチャリと舐め取ると、柳の全身に悪寒が走った。

(学……怖いッ……助けて……)

 助けてほしいと切実に思う時に奇跡的に助かる事というのは、本当に偶然の出来事に過ぎないのだろう。
 大抵は成す術もなく、諦めて現実を受け入れ、その痛みと苦しみを如何に逃すかに没頭する。
 柳の場合も後者だった。
 無造作にひっくり返された身体はしつこくキスマークを付けられ、左右に広げられた尻の穴をじっくりと視姦された。
 乱暴に広げられる臀部がジンジンと痛みを蓄積する。
「へぇ。人のケツなんて見る事ないもんなぁ。女のやつより綺麗だな……しかしこんな小さい穴に挿れる楽しみがあったとはねぇ……」
「痛ッ……」
 急に突っ込まれた乾いた指と爪が、硬く閉じている蕾を傷付ける。
「あぁ……ローションとかいるんだっけか? 面倒だなぁ……唾とかでいいだろ?」
 女の相手しかして来なかった優は直接柳の蕾に唾を吐きかけた。ビチャッと気持ちの悪い感触が敏感な場所を穢す。
 亮太に適当な知識は教わっていたようで、優はコンドームを装着しだした。自分に不利になる事は絶対に避けるタイプのようだ。
 柳はもう逃げられない事を悟り、これから来るであろう痛みを逃す為に深呼吸をした。
 だが柳の予想は遥かに超え、その覚悟も直ぐに忘れて再びいない筈の学と、いるかどうか分からない神へ助けを求める事になった。
「ギャァアアァアア――ッ」
「っるせ……」
 指を入れられる事もなく無理矢理突っ込まれた優の肉棒が亀頭を半分飲み込んだ時点で止まった。

「んだよ、入んねぇなクソ……」
「い……痛いっ……痛いよ……ぅ……うぅ……助けて…下さい……も、許して…アァアアアア」
 身体を引き裂かれるような痛みで眩暈がする。それでも優はそんな柳の表情を見て舌舐めずりをしながら、柳の肩を掴んでグーッと歪な形の肉棒を刺し込んできた。
「ギッギャァァアア――ッ痛い痛いィィッ! 死んじゃうよォオオッ」
「動きずれっ……くっそ……」
 優は叫ぶ柳の顔面に枕を押しつけベッドに鎮めた。柳は両手を縛られて動けず、布で押しつぶされた顔で息もうまく出来ない。叫んだ声はベッドの中でくぐもり、無理矢理動き出した肉棒はナイフのように蕾を裂いた。
「何、お前処女かよ。ハハッ……すげぇ血……興奮すんな……しかもヌルついてローション見たいだ……気持ちいいよ、辰美……あぁっ…アゥアァっ」
 柳は自分が今どれだけ血を流しているのか、どういう状態なのかは分からなかった。ただ、死なない様に祈りながら、一刻も早くこの連続的に与えられる痛みから解放される事だけを祈った。

――早くッ……早く早く終わって!!



「兄さん、入るよ」
 亮太は少し心配になる程の叫びを聞きながら、その声が止んで優の部屋を訪れた。中から「あぁ」と気だるい優の声を聞いて扉を開けると、その余りに悲惨な光景に息を飲んだ。
 自分の好きな人への逆恨みでここまでの仕打ちになるとは想像していなかった。だが自分を選ばず、自分に抱かれながら兄を想い、また今では兄に似た他の誰かを選んだ柳の末路だと思うと喜びがひしひしと亮太の足元からせり上がって来た。
「写メ……しなきゃ」
 その時の亮太の顔は、先程柳を犯していた優と同じ顔をしていた。




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女性に対してももそうですが、男性に対するレイプって本当に痛々しくて惨いと思います。
窮地に立たされた時に助けが来る事は本当に稀で、世界中で沢山の諦めってあるように思います。
柳の場合もそうであるように、辛い現実があった後の立ち直りが大変だと思います。
この後、この兄弟から逃れられるのか、学に助けを求めるのか、色々と苦悩がありそうですが、
見守って下さると幸いです。

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続・ネクタイの距離 18話

「んっ……ちょっ……何でっ」
 柳は思わず抵抗して力強い優の唇から逃れる。
「……やっぱり、想像してたよりも柔らかくて気持ちいい」
「はい? 先輩、一体何考えてっ」
 優はジッと熱の籠った瞳で見つめてくる。
「辰美……俺に言いたかった事、あるだろう?」
「え……」
 柳はドキドキと胸の音を抑えるように両手を胸の辺りで抑えた。

(先輩……今……俺にキスした……何で? 言いたい事? 何だっけ?)

「俺は正直、お前を女のように見た事はなかった」
 柳はその言葉にチクリとした痛みを感じた。過去に失恋をしたような、不思議な感覚だった。
 だが、これで前に進めると安堵した気持ちも同時に湧く。
「でも、変に可愛いとは思っていたんだ。ずっと……それがどういう事なのかも分からずに」

(先輩、何言ってるんだ……?)

「亮太から……聞いたよ」

 ドクンッと柳の鼓動は重苦しく鳴った。

「え……何を……」
 柳の身体から冷たい熱が駆け巡る。聞きたくない嫌な予感が溢れて来て苦しい。質問なんてしてないでサッサとこの場から逃げてしまいたいのに身体が動かない。

「全部だよ……お前が、俺に隠れて亮太としてきた事と……そしてその理由」

 柳はガバッと上半身を起こし、顔を逸らして俯いた。顔がマグマにでもなったように熱くてどうにかなってしまいそうだった。

(何故だッ……何故亮太は全てをわざわざ喋ったりッ……)

 柳は膝を抱えて頭の中で亮太を責め、この状況を打破する為の言い訳を考えるがパニックに陥ってしまって言葉が見当たらない。
 そんな柳の座るソファがギシリと沈み、優が隣に座って来た事を悟った。
「俺は……嫉妬したよ……辰美。俺を求めているのに、亮太とそんな関係になって……で、今は俺に似ている奴と付き合っているそうじゃないか」

 学の事を出されて柳は我に返った。

「あ、……いえ、あの……先輩の事、好き……でした。でも今はちゃんと学の事を、あ、今付き合っている人なんですが、その子を好きなんです」
 優は大きな手で柳の頭を捉え、ゆっくりと顔を近づけてきた。
「だっ、ダメですっ……俺には今付き合っている人がっ」
「……静かに。……動かないで……辰美。好きだよ」
 優の声は優しく柳の脳に麻酔をかけた。抵抗する力ない腕を掴まれる。身体が上手く動かない。
「……あっ」
 優から言われた愛の言葉は想像以上に甘く心地よかった。
 罪悪感はあるものの、二度目のキスはそれ以上抵抗出来なかった。
 さっきよりも長く、そして少し入れられた優の舌を驚きながらも受け入れてしまった。
 顔を離した時に間近で見た優は、学よりも少し日焼けしていて、大人っぽく、憧れていたあの時よりも色気も増していた。
「お前、そいつの事、俺の代わりにしているんだよ。別れろよ」

(え?)

「いや、そんな事はないですっ……出来ませんっ」
「なら、何故キス出来た?」
 言い返す言葉が見当たらなかった。柳自身も何故キスしたのか分からず、困惑していたからだ。
「答えは俺の事が好きだからだよ、辰美」
「ちがっ……今は学の事がっ」
 優はグイっと急に柳の身体を抱き上げると、二階へと移動し出した。
「ちょっ……先輩ッ! 降ろして下さい! 俺、もう帰りますッ」
 暴れる柳を無視した優は、柳の身体を乱暴に自分部屋のベッドに投げた。
「アッ……痛」
 柳の身体がベッドのスプリングに跳ねて壁に身体がぶつかった。
 もう一度声をかけようと見上げた優の顔を見て、柳の呼吸はヒュっと止まった。

(先輩……?)

 優の表情は今まで見た事のないような冷たく、口応えなど一切を許さないような支配者の顔をしていた。
 柳は不吉な予感と焦りで乾いた口内で少なくなっていく生唾を飲み込んだ。

「や……やめて下さい……先輩……どうしたんですか……せ、先輩っ」
 セミダブルサイズのベッドの上で、柳は少しずつ端っこへ逃げた。
 目の前で優がワイシャツのボタンを丁寧に外していくのが見える。これから何が起こるのかを考えるよりもどう逃げようか脳内を回転させる。
 柳から一切目線をずらさない優を見て、柳は思い切ってベッドから飛び下りた。だが、その瞬間いとも簡単に髪を掴まれ、その痛みでそれ以上前へは進めなくなった。
「痛ッ」
 そのまま再びベッドへ突き飛ばされ、優が上から圧し掛かって来た。

「お前、明日はその生徒と会うんだろ」
「……っどけッ」
 柳は初めて優に対して乱暴な言葉は吐いた。途端に頬に物凄い衝撃が走って顔が右へ向いた。

(な……に……)

 ジンジンと燃えるように熱くなっていく頬を感じて、柳は初めて自分が殴られた事を悟った。途端に恐怖心で体中がカタカタと震えてくる。
「大好きな先輩に向かってそんな口を聞いてはダメだろう。明日、そいつと会いたくても会えない身体にしてやるよ」
「い……や……」
 ニヤついた優の笑みは、それまで見えていた暖かい笑顔とはまるで違う冷たく恐ろしい笑みにしか見えなかった。




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