05/07/2016(Sat)
ミルフィーユ 1
大学を卒業して何年経った?
22で卒業して会社に入って六年……。
「6年振りか……」
俺がぼそりと呟くと、「もうそんなかぁ」と目の前の草臥れた感じの男が返事をした。
悪いがお世辞にもとても同い年とは思えない。
俺はこの6年何をしてきたのか。
社会人になって直ぐ、あまり会えなくなったからと言って別れた彼女を最後に、まともに人と付き合う事もなくここまで過ごしてきた。遊び程度に関係を持った女性も居たが、それはあくまでも遊びだ。
「爽太、結婚は?」
聞いてきたのは大学1年の時に結構仲の良かった奴だ。確か名前は……。
「いや、全く予定すらない状態だよ。……吉澤は?」
「俺はもう子供が1人いるよ」
良かった。名前は合っていた。
「もう28くらいになると段々家庭持ちが増えてくるもんなんだな」
「な」
誰が発足したかは不明だが、久しぶりに大学のサークル活動の仲間で集まろうという呼び掛けのもと集まったのは大体20人程度だった。
ありがちなテニスサークルだったが、うちのサークルは比較的真剣にテニスをするサークルで大会もしょっ中出ていた真面目なサークルだった。その為か、キツイ練習のあったうちのサークルは女子には不評で女性の参加人数は少なかった。
今日も男性18人に対して女性はたった2人だ。貴重な女性部員はいつも大切に扱われ、飲み会では主役とされていた。
そんな女性陣も、6年後の飲み会では専ら疲れた男性陣たちの話の聞き役になっていた。
俺はテンションを上げる為にハイスピードで飲み続けていたビールが濁流のように一気に膀胱に押し寄せてきた。
「ちょっとトイレ」
「お、行ってら」
立ち上がって横目でメンバーを見ながら歩くと、参加していた女子メンバーの1人がニコリと笑いかけてきた。ウインクでもしそうな意味深い表情だ。そう言えばその子とは大学の時少し関係を持った事があったのだった。
俺は口の端だけ少し上げて何事もなかったようにトイレへと向かった。一昨年くらいまでの自分だったら、きっともう少し色気のある笑みを浮かべて気のある素振りを見せていただろう。だが、今は全く彼女に対してその気も起こらない。というより、恋愛への気力がない。
俺は軽いため息をつきながら席へと戻った。時間は9時半だ。もう少ししたらもう帰ろうと自分の中でスケジューリングをした時だった。
俺の席に違う奴が座っていた。
「ウェーイ」
お調子者のそいつはかなりのハイテンションで色々席を回っては盛り上げている様だった。確かにそういう役回りの人は必要だと思う。個人的な好き嫌いは別として。
俺は他に座れる場所はないか見回すと、例の彼女が何か言いたげな素振りで顔を上げたので、それに気づかないフリをしてサッとスペースのある別の場所へと座った。変にしつこくされても困る。
「ハァ」
座ると無意識にため息が出た。
「柳沢の隣に座らなくていいの?」
やけに優しい声の主が隣から聞いてきた。久しぶりに耳に心地いい音だと思った。
横を見るとキレイな箸の持ち方で刺身を食べる、線の柔らかい男がいた。
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22で卒業して会社に入って六年……。
「6年振りか……」
俺がぼそりと呟くと、「もうそんなかぁ」と目の前の草臥れた感じの男が返事をした。
悪いがお世辞にもとても同い年とは思えない。
俺はこの6年何をしてきたのか。
社会人になって直ぐ、あまり会えなくなったからと言って別れた彼女を最後に、まともに人と付き合う事もなくここまで過ごしてきた。遊び程度に関係を持った女性も居たが、それはあくまでも遊びだ。
「爽太、結婚は?」
聞いてきたのは大学1年の時に結構仲の良かった奴だ。確か名前は……。
「いや、全く予定すらない状態だよ。……吉澤は?」
「俺はもう子供が1人いるよ」
良かった。名前は合っていた。
「もう28くらいになると段々家庭持ちが増えてくるもんなんだな」
「な」
誰が発足したかは不明だが、久しぶりに大学のサークル活動の仲間で集まろうという呼び掛けのもと集まったのは大体20人程度だった。
ありがちなテニスサークルだったが、うちのサークルは比較的真剣にテニスをするサークルで大会もしょっ中出ていた真面目なサークルだった。その為か、キツイ練習のあったうちのサークルは女子には不評で女性の参加人数は少なかった。
今日も男性18人に対して女性はたった2人だ。貴重な女性部員はいつも大切に扱われ、飲み会では主役とされていた。
そんな女性陣も、6年後の飲み会では専ら疲れた男性陣たちの話の聞き役になっていた。
俺はテンションを上げる為にハイスピードで飲み続けていたビールが濁流のように一気に膀胱に押し寄せてきた。
「ちょっとトイレ」
「お、行ってら」
立ち上がって横目でメンバーを見ながら歩くと、参加していた女子メンバーの1人がニコリと笑いかけてきた。ウインクでもしそうな意味深い表情だ。そう言えばその子とは大学の時少し関係を持った事があったのだった。
俺は口の端だけ少し上げて何事もなかったようにトイレへと向かった。一昨年くらいまでの自分だったら、きっともう少し色気のある笑みを浮かべて気のある素振りを見せていただろう。だが、今は全く彼女に対してその気も起こらない。というより、恋愛への気力がない。
俺は軽いため息をつきながら席へと戻った。時間は9時半だ。もう少ししたらもう帰ろうと自分の中でスケジューリングをした時だった。
俺の席に違う奴が座っていた。
「ウェーイ」
お調子者のそいつはかなりのハイテンションで色々席を回っては盛り上げている様だった。確かにそういう役回りの人は必要だと思う。個人的な好き嫌いは別として。
俺は他に座れる場所はないか見回すと、例の彼女が何か言いたげな素振りで顔を上げたので、それに気づかないフリをしてサッとスペースのある別の場所へと座った。変にしつこくされても困る。
「ハァ」
座ると無意識にため息が出た。
「柳沢の隣に座らなくていいの?」
やけに優しい声の主が隣から聞いてきた。久しぶりに耳に心地いい音だと思った。
横を見るとキレイな箸の持ち方で刺身を食べる、線の柔らかい男がいた。
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