05/08/2016(Sun)
ミルフィーユ 2
「彼女、今日爽太が来るっていうの楽しみにしてたよ」
「えっと……確か……江角」
「そう、よく覚えてたね」
江角は柔らかい桜みたいな笑顔を咲かせた。
(ああ……いいな……)
ずっと見ていたいと思う可愛い笑顔だった。
昔からサークル内でも可愛いと言われていた彼は小柄で中性的で、物腰が柔らかい中性的なキャラも手伝って男女関係なく好かれていた。
俺は昔思っていた彼に対する可愛いと思う気持ちが蘇って懐かしい気持ちになった。好みは変わらないらしい。
江角は目が大きい西洋的な可愛さとは反対の、東洋系の可愛さの外見だった。奥二重の、猫のような瞳にキュッと上がる唇と間から覗く八重歯が愛くるしい。細い顎とスッと通った鼻が彼の線の細さを強調しているようにも見える。それに加えて少し短めの前髪が幼い感じを演出していて年下にしか思えない。大学生の頃はいつも高校生に見られていたほど元々童顔だ。
それにしても……。
「何か、江角は変わらないな」
素朴な感じというか、純粋な感じというか。
「そう? 爽太も相変わらず格好いいよ」
本当、気持ちのいい声だ。
「爽太は今どこに勤めてるの? 彼女はいるの?」
久し振りに名前で呼ばれて心臓をくすぐられる感じがする。サークル内では名前で呼び合うのが普通だ。
「あぁ、俺は今NEPの企画部にいたんだけど、この間営業部に移ったんだ。彼女はもう6年近くいないよ」
そう言うと俺はタバコを取って江角に目配せして吸っていいか許可を取った。江角はキュッと口角を上げて頷いてくれた。
「マルボロの金」
江角が呟いた。
「ん? お前も吸うの?」
俺はタバコを差し出すと「んーん。違うけど、それ吸う人少ないよね」と言った。
「ああ…そうだな」
俺は煙を江角と反対の方へ吐き出した。
「それにしてもそんなすごい会社に入ったのに、彼女が随分長い間いないなんて意外だね! モテるだろうに」
江角はワントーン高めの声でそう言った。爽やかなミントのような声だ。
「いや、モテないよ。何か……好きな人を探す、ていうか、好きになれそうな人を探すのに疲れて、自然に任せて忙しくしてたらこんな時間経ってた」
「そうなの? もったいない」
江角はそう言うと両手を後ろの方につき、今度はワントーン低めの声でそう言った。
1、2秒位だったと思う。だが、俺の中の時間では5、6秒彼を見つめ返していたように感じていた。
江角がやけに色っぽく見えたのだ。それまでの愛らしい笑みとは別の、しっとりとした……薄紫の藤のような笑顔。
ーー今日、もう少し一緒に居たい。
俺は本能的にそう思った。
「なぁ、お前、今日何時に帰るの?」
「んー、明日休みだし別に何時でも大丈夫だよ。家もここから20分かからないし」
「え、近いね。どこ?」
(おいおい、会話の流れが完全に狙った女子のお持ち帰りだぞ)
俺はとにかく目の保養をしたかった。何故ならそんな気持ちになる相手もここしばらくいなかったからだ。
目の保養なら他の女子もいたが、俺には彼女らの見え見えのあざとさで興ざめだった。
それに相手が男だから、などという基本的な感覚も酒が入っていたせいか、あまり気にならなかった。
結局二次会に行くメンバーと別れて、俺たちは帰ると見せかけて江角の家で飲む事になった。
妙な背徳感と高鳴る気持ちが交差して俺の心拍数を上げた。
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「えっと……確か……江角」
「そう、よく覚えてたね」
江角は柔らかい桜みたいな笑顔を咲かせた。
(ああ……いいな……)
ずっと見ていたいと思う可愛い笑顔だった。
昔からサークル内でも可愛いと言われていた彼は小柄で中性的で、物腰が柔らかい中性的なキャラも手伝って男女関係なく好かれていた。
俺は昔思っていた彼に対する可愛いと思う気持ちが蘇って懐かしい気持ちになった。好みは変わらないらしい。
江角は目が大きい西洋的な可愛さとは反対の、東洋系の可愛さの外見だった。奥二重の、猫のような瞳にキュッと上がる唇と間から覗く八重歯が愛くるしい。細い顎とスッと通った鼻が彼の線の細さを強調しているようにも見える。それに加えて少し短めの前髪が幼い感じを演出していて年下にしか思えない。大学生の頃はいつも高校生に見られていたほど元々童顔だ。
それにしても……。
「何か、江角は変わらないな」
素朴な感じというか、純粋な感じというか。
「そう? 爽太も相変わらず格好いいよ」
本当、気持ちのいい声だ。
「爽太は今どこに勤めてるの? 彼女はいるの?」
久し振りに名前で呼ばれて心臓をくすぐられる感じがする。サークル内では名前で呼び合うのが普通だ。
「あぁ、俺は今NEPの企画部にいたんだけど、この間営業部に移ったんだ。彼女はもう6年近くいないよ」
そう言うと俺はタバコを取って江角に目配せして吸っていいか許可を取った。江角はキュッと口角を上げて頷いてくれた。
「マルボロの金」
江角が呟いた。
「ん? お前も吸うの?」
俺はタバコを差し出すと「んーん。違うけど、それ吸う人少ないよね」と言った。
「ああ…そうだな」
俺は煙を江角と反対の方へ吐き出した。
「それにしてもそんなすごい会社に入ったのに、彼女が随分長い間いないなんて意外だね! モテるだろうに」
江角はワントーン高めの声でそう言った。爽やかなミントのような声だ。
「いや、モテないよ。何か……好きな人を探す、ていうか、好きになれそうな人を探すのに疲れて、自然に任せて忙しくしてたらこんな時間経ってた」
「そうなの? もったいない」
江角はそう言うと両手を後ろの方につき、今度はワントーン低めの声でそう言った。
1、2秒位だったと思う。だが、俺の中の時間では5、6秒彼を見つめ返していたように感じていた。
江角がやけに色っぽく見えたのだ。それまでの愛らしい笑みとは別の、しっとりとした……薄紫の藤のような笑顔。
ーー今日、もう少し一緒に居たい。
俺は本能的にそう思った。
「なぁ、お前、今日何時に帰るの?」
「んー、明日休みだし別に何時でも大丈夫だよ。家もここから20分かからないし」
「え、近いね。どこ?」
(おいおい、会話の流れが完全に狙った女子のお持ち帰りだぞ)
俺はとにかく目の保養をしたかった。何故ならそんな気持ちになる相手もここしばらくいなかったからだ。
目の保養なら他の女子もいたが、俺には彼女らの見え見えのあざとさで興ざめだった。
それに相手が男だから、などという基本的な感覚も酒が入っていたせいか、あまり気にならなかった。
結局二次会に行くメンバーと別れて、俺たちは帰ると見せかけて江角の家で飲む事になった。
妙な背徳感と高鳴る気持ちが交差して俺の心拍数を上げた。
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