03/28/2012（Wed）
貴方の狂気が、欲しい 56話
――何を聞いた？
耳鳴りがした。
いやにバカでかい耳鳴りだ。
一つの音階の音が頭の中で長く続いている。不快だ。
ドアもクローゼットも木戸も横向きになって見える。
時枝が倒れたからだ。
木戸の唇が何か動いているが聞こえない。ビニール袋が口と鼻を覆う様に被された。
その中で、時枝は思い出した。
時枝の視点が激しく動きだした。黒目が左右上下に激しく動き、何かを見ていた。
時枝の身体中から一気に冷や汗が吹き出して濡れてきた。顔は真っ青だ。
時枝は故意的に蓋をしてきた過去を一気に見ているような視点の動きをしていた。
「ぁ……ぁ……う……あ！！」
奇声を発しそうなのが分かった。パニックを起こしている。
(マズイ！ 今度こそ時枝が壊れる！！)
木戸は思い切り時枝の頬を引っ叩いた。時枝が少し止まる。
「時枝ッ……こっち見ろッ！」
そしてもう二、三発叩いて痛みを送る。
「俺を見ろよッ！」
木戸の目に涙が浮かぶ。
「戻ってきて……くれよ……」
もう他に何をすればいいか分からなかった。
「愛してるんだ……」
木戸は自分の無力さと過去に犯した後悔の数々を恨んだ。
「木戸……さま……」
絞り出すような声に、木戸はハッと顔を上げた。口元にあったビニールを取る。
「私は……悪魔の子でした……」
時枝の四肢がガタガタと震えていた。
「時枝……大丈夫だ。お前とアイツは別だ」
「血が……繋がっています……怖い……あんな気の狂った血が入っているなんて……」
「大丈夫だ。その血はお前の母親や、暁明の血が浄化してくれている。そうだろう？ あんなにいい奴が兄貴だったんだ。お前に兄弟が居たんだ」
「兄……あの方が私の……」
「そうだ」
木戸は流れ続けている時枝の涙を拭った。
「由朗さまも……皆本当は誰も私を見てなかった」
「俺は見てる」
木戸の言葉に時枝は顔を歪めた。
「貴方はッ……弘夢くんを愛したように私を愛した事は一度もなかったッ」
感情の昂った時枝は再び嗚咽混じりに叫んだ。
木戸が時枝の肩を押さえつけ背けた顔を正面に向けた。
「当たり前だろッ！ アイツとお前は別人だ。でも今はお前を一番愛していると言っている！」
涙で覆われた時枝の目が座り、真っ直ぐ見返してきた。
「なら……彼にしたように……私にも痛みを下さい。あの狂気は貴方の愛の形なのでしょう？ 私はそれがずっと欲しかった。貴方の狂気が……欲しい」
木戸を試す様な眼差しだ。きっとこれが最後の本心なのだと木戸には分かった。ここで宥める為とか、取り敢えずの誤魔化しをすればきっとこれから先何を言っても信じて貰えない。
木戸は小さく溜息をついた。
「多分……いや、確信を持って言うが、俺の事を一番よく知っているのはお前だ。よく考えてみろ。俺は元々そういう痛めつけるのが好きな方だ。その俺がだ。こんなに人に尽くすとか有り得るか？」
時枝は小さく頭を振った。
「だろう？ 今の俺こそ正気の沙汰とは思えないんだが？」
木戸は力なく笑みを浮かべたが、本心からそう言った。
「そう……かもしれませんね」
時枝もほんの少し笑った。
その笑顔に木戸はやはり時枝の笑顔はいいなと胸を熱くした。
「お前はあんな風に傷つけたくない。それにあんな生ぬるい独り善がりな痛みは与えてやらないよ」
木戸が優しく時枝の頬を撫でると、時枝はゆっくり瞼を閉じた。
「私は……貴方にあの悪魔に犯され喜ぶ姿を見られました……どうしても思い出してしまうし……貴方だって忘れられる筈がない……いっそ死にたい」
時枝は恥じと後悔で顔を歪ませて涙した。
顔を覆う時枝の手を木戸はゆっくりとどける。
「そうだな……その姿は悪いが忘れない。一生妬き持ち妬かせて貰うから覚悟しろよ？」
木戸は意地悪く口角を上げた。
「ああァァッ――……」
それを見て、時枝は堰が切れたように咽び泣いた。
木戸の言葉が、時枝のそういう過去もとっくに全て受け入れているのだと伝わった瞬間だった。
木戸は時枝を包み込むようにして抱き締め、耳元で「全部愛してるから」と囁いた。そして気の済むまで泣かせた。
時枝は今まで生きてきた中で泣いた事が無かった。泣きたい場面は幾らでもあった。その分まで、全部吐き出すように悲しくて苦しい感情を涙に溶かして流した。
暫く泣き続けた後、木戸が全てを吐き出し切って力尽き、目を赤くした時枝を抱き抱えて立ち上がった。
「風呂でも入ろう。少し楽になる」
木戸に抱き抱えられながら、時枝はまるで雲の上にでもいるかのようにフワフワと良い気持ちになった。
＜＜前へ 次へ＞＞
ｳ･･･━━(｡･ω･)ｳﾜ━(｡-ω-)ｧｧ━･ﾟ･(｡>ω<)･ﾟ･━━ﾝ!!!
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耳鳴りがした。
いやにバカでかい耳鳴りだ。
一つの音階の音が頭の中で長く続いている。不快だ。
ドアもクローゼットも木戸も横向きになって見える。
時枝が倒れたからだ。
木戸の唇が何か動いているが聞こえない。ビニール袋が口と鼻を覆う様に被された。
その中で、時枝は思い出した。
時枝の視点が激しく動きだした。黒目が左右上下に激しく動き、何かを見ていた。
時枝の身体中から一気に冷や汗が吹き出して濡れてきた。顔は真っ青だ。
時枝は故意的に蓋をしてきた過去を一気に見ているような視点の動きをしていた。
「ぁ……ぁ……う……あ！！」
奇声を発しそうなのが分かった。パニックを起こしている。
(マズイ！ 今度こそ時枝が壊れる！！)
木戸は思い切り時枝の頬を引っ叩いた。時枝が少し止まる。
「時枝ッ……こっち見ろッ！」
そしてもう二、三発叩いて痛みを送る。
「俺を見ろよッ！」
木戸の目に涙が浮かぶ。
「戻ってきて……くれよ……」
もう他に何をすればいいか分からなかった。
「愛してるんだ……」
木戸は自分の無力さと過去に犯した後悔の数々を恨んだ。
「木戸……さま……」
絞り出すような声に、木戸はハッと顔を上げた。口元にあったビニールを取る。
「私は……悪魔の子でした……」
時枝の四肢がガタガタと震えていた。
「時枝……大丈夫だ。お前とアイツは別だ」
「血が……繋がっています……怖い……あんな気の狂った血が入っているなんて……」
「大丈夫だ。その血はお前の母親や、暁明の血が浄化してくれている。そうだろう？ あんなにいい奴が兄貴だったんだ。お前に兄弟が居たんだ」
「兄……あの方が私の……」
「そうだ」
木戸は流れ続けている時枝の涙を拭った。
「由朗さまも……皆本当は誰も私を見てなかった」
「俺は見てる」
木戸の言葉に時枝は顔を歪めた。
「貴方はッ……弘夢くんを愛したように私を愛した事は一度もなかったッ」
感情の昂った時枝は再び嗚咽混じりに叫んだ。
木戸が時枝の肩を押さえつけ背けた顔を正面に向けた。
「当たり前だろッ！ アイツとお前は別人だ。でも今はお前を一番愛していると言っている！」
涙で覆われた時枝の目が座り、真っ直ぐ見返してきた。
「なら……彼にしたように……私にも痛みを下さい。あの狂気は貴方の愛の形なのでしょう？ 私はそれがずっと欲しかった。貴方の狂気が……欲しい」
木戸を試す様な眼差しだ。きっとこれが最後の本心なのだと木戸には分かった。ここで宥める為とか、取り敢えずの誤魔化しをすればきっとこれから先何を言っても信じて貰えない。
木戸は小さく溜息をついた。
「多分……いや、確信を持って言うが、俺の事を一番よく知っているのはお前だ。よく考えてみろ。俺は元々そういう痛めつけるのが好きな方だ。その俺がだ。こんなに人に尽くすとか有り得るか？」
時枝は小さく頭を振った。
「だろう？ 今の俺こそ正気の沙汰とは思えないんだが？」
木戸は力なく笑みを浮かべたが、本心からそう言った。
「そう……かもしれませんね」
時枝もほんの少し笑った。
その笑顔に木戸はやはり時枝の笑顔はいいなと胸を熱くした。
「お前はあんな風に傷つけたくない。それにあんな生ぬるい独り善がりな痛みは与えてやらないよ」
木戸が優しく時枝の頬を撫でると、時枝はゆっくり瞼を閉じた。
「私は……貴方にあの悪魔に犯され喜ぶ姿を見られました……どうしても思い出してしまうし……貴方だって忘れられる筈がない……いっそ死にたい」
時枝は恥じと後悔で顔を歪ませて涙した。
顔を覆う時枝の手を木戸はゆっくりとどける。
「そうだな……その姿は悪いが忘れない。一生妬き持ち妬かせて貰うから覚悟しろよ？」
木戸は意地悪く口角を上げた。
「ああァァッ――……」
それを見て、時枝は堰が切れたように咽び泣いた。
木戸の言葉が、時枝のそういう過去もとっくに全て受け入れているのだと伝わった瞬間だった。
木戸は時枝を包み込むようにして抱き締め、耳元で「全部愛してるから」と囁いた。そして気の済むまで泣かせた。
時枝は今まで生きてきた中で泣いた事が無かった。泣きたい場面は幾らでもあった。その分まで、全部吐き出すように悲しくて苦しい感情を涙に溶かして流した。
暫く泣き続けた後、木戸が全てを吐き出し切って力尽き、目を赤くした時枝を抱き抱えて立ち上がった。
「風呂でも入ろう。少し楽になる」
木戸に抱き抱えられながら、時枝はまるで雲の上にでもいるかのようにフワフワと良い気持ちになった。
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コメント
本当戻って良かったです！！
□⊂(・ω・｀) ﾅｶﾅｲﾃﾞ...
気持ちもお互いに通じ合って良かったです(*´∀｀*)
(ﾉ*´Д｀)ﾉオォオォ
私めのブログを好きでいて下さって本当に嬉しいです！！
本当、そう言って頂けるだけでブログやってて良かったなって
思える瞬間です(ノД`)・゜・
うあああぁぁあぁあそんなに読んで下さってッ！！
＿|￣|○､;'.･ ｸﾞﾊｧｯ(吐血)
それぞれのストーリーを把握して下さり、キャラたちを
愛して下さりそれらのＫさまの想いをサラリと纏めて下さるという神技 （*゜Д゜）
すごいです！！感動です！！
そしてありがとうございます！！
+゜*。..+゜ ｳ ｪ ━ヽ(*´Д｀*)ノ━ ｲ ゜+..。*゜+
あ、この後のあまぁい一夜は必須です o(*･ω･)ﾉ ｧｨ
もちろんｖ
悪魔への制裁……木戸がどう出るかですね。
(；・∀・)
楽しみにして下さってありがとうございますｖ
いえいえ！
長文嬉しいです！ヾ(´∀｀〃)ﾉ～♪
またお待ちしております♪ノシ
コメントどうもありがとうございました
> パパとの あ～んな事やこ～んな事などで また壊れなくて良かったよ～ε-(´；ω；｀)
ギリギリでしたが木戸の大きな愛と包容力で
無事に戻れたようです(*´∀｀*)
本当に良かったです！！
> 壊れそうだったら 私が奥の手を使おうかと 思ってました(￢_,￢)b
> 何だと思う。桔梗様？
え、何でしょう……（`・д´・ ；）ｺﾞｸﾘ
> それはねぇ・・・
> 時枝の耳元で 「弘夢、弘夢、弘夢、弘夢...」と、呪文の様に囁きかけ また記憶を失くさすのさぁ～
> 荒療治ってやつ！？
> ｵﾎﾎ━━(≧▽ﾉ≦*)━━ﾎﾎﾎ...byebye☆
そ、それは緊急停止療法ではありますが
非道でござりまする～～っ(｡>д<)ﾉ
んもう。
けいったんさまのいぢわる。。|壁|ｮз･｡)
コメントどうもありがとうございました
「ただいまです」と本人がはにかみつつ俯き加減で言っております。
声が小さいぞ、時枝(-ω-;)
でももしかしたらこのままかも…とちょっと不安でした。
木戸の優しくて大きな愛が時枝を戻せたのだと思います。
そして木戸自身もまさか自分がここまで時枝を愛せているとは
思っていなかったのではないでしょうか(笑)
本当良かったです(*´д｀*)
工工工工エエエエｴｴｴｴェェェェｪｪｪｪ Σ(ﾟДﾟﾉ)ﾉｪｪ,,
昨夜から何度も読み返して下さったのでッ！！
うぉぉおおありがとうございます！！
あぁっ！
涙までして下さったなんて光栄です+.゜.(⊃Д｀*)゜+.゜
ありがとうございます！
只今お涙、拭きに参りますッ！
ﾀﾞｯｼｭ!≡≡≡ﾍ(*--)ﾉ
コメントどうもありがとうございました
>
> ほんとによかった!!!
>
> 感動しました＊
本当良かったです！！
一時はどうなるかと…
ヽ(´・ω・(・xq｀ )ゝ
感動して下さって嬉しいです(涙
ありがとうございます！
> 著者様天才すぎまする(>_<)
Σ(ﾟ∀ﾟﾉ)ﾉｷｬｰ
天才とか！！
とんでもねーです！！恐縮です(>ω<)！
でも…う、嬉しいです///
ﾜ─―｡*.ﾟ+：ヾ(*･ω･)ｼ：+ﾟ.*｡──ｨ ←
> 時枝は幸せ者だね☆
>
> これから幸せになってほしいです
> 更新頑張ってください!!!
時枝くん、今から幸せになる時間ですねｖ
恥ずかしいでしょうが一杯甘えたらいいと密かに願っています
(￣ｰ￣)ﾆﾔ...
はい！更新がんばります！
((φ(-ω-｀*)ｶｷｶｷ
コメントどうもありがとうございました
パパとの あ～んな事やこ～んな事などで また壊れなくて良かったよ～ε-(´；ω；｀)
壊れそうだったら 私が奥の手を使おうかと 思ってました(￢_,￢)b
何だと思う。桔梗様？
それはねぇ・・・
時枝の耳元で 「弘夢、弘夢、弘夢、弘夢...」と、呪文の様に囁きかけ また記憶を失くさすのさぁ～
荒療治ってやつ！？
ｵﾎﾎ━━(≧▽ﾉ≦*)━━ﾎﾎﾎ...byebye☆
よかったよぉぉ(;ω;)
ほんとによかった!!!
感動しました＊
著者様天才すぎまする(>_<)
時枝は幸せ者だね☆
これから幸せになってほしいです
更新頑張ってください!!!
コメント