2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

--:-- | スポンサー広告 | edit | page top↑

悪魔と野犬ノ仔 47話

 水無月は毎晩、要にお呪いの様に少しずつ要の指先や毛先に触れた。
 触れられた所はほんの一部だったが、要はその場所に陽だまりのような暖かさを感じる事が出来た。少しずつだったが、触れられた場所から浄化されるようなイメージが湧いてくるようにさえなった。
「兄ちゃん、明日僕の手伝ってるショップを見に来てよ」
 要は今は大学に行く意味も見出せず休学している状態だ。単に水無月が自分の頑張っている姿を見せようとして言っているのかと思い軽く承諾した。
 次の日、夕方頃要は水無月の通うショップへと顔を出した。
「あっ兄ち……兄さん!」
「あ、お兄さん来たの? こんにちは」
 水無月の横からまるで慣れ親しんだ者のように顔を出して挨拶してきた爽やかな笑顔の男を見て要は無表情のまま会釈をし、「水無月がいつもお世話になっています」と挨拶をした。
 ショップの中には沢山の犬や猫がガラスの個室に入れられていた。その動物を懸命に世話をする水無月はとても優しい顔をしており、まるで会話でもするように上手に相手をしていた。
「水無月くんは本当に動物と会話できるみたいに上手に世話をするんです」
 ショップのイケメン男性が嬉しそうにそう要に言ってきた。
「……」
「それに水無月くんはとても頑張り屋さんで、最近は動物病院なんかにも勉強しに行っているんですよ。僕の知ってる先生に頼んで勉強させて貰いに行ってるんですけど、そこにもお兄さんを連れていきたいって言ってましたよ。仲が良いんですね」
 そこまでの話しは聞いていなかった要は一々報告してくるこの男性に苛立ちながらも表情は変わらずジッと水無月を見ていた。
 水無月の世話で嬉しそうにはしゃぐ犬たちを見ていると、要は無償に嬉しくなってきた。
 ショップの男性が言うように、水無月は次の日動物病院に来るように要を誘った。要は余計な事は言わず、水無月の言うとおりに病院の方にも顔を出した。
 病院の中では包帯を身体の一部分に巻きながらも水無月を見るととても嬉しそうに尻尾を振る犬やじゃれてくる猫の姿があった。
 先生方の処置を懸命に見ながらメモを取ったり、その様子を見る水無月の真剣な表情と助けられていく動物の姿が印象的だった。
 中には心身共に傷ついて人間が怖くなってしまった犬もいた。それでも水無月には少し近寄って来るようになったと先生は言っていた。
「兄ちゃんもあの子みたいなんだと思う」
「俺も犬か」
「うん。だから僕が絶対治してあげるんだ」
 水無月の言葉はとても力強く、それが要に希望すら見せる程だった。
 何回か水無月の通う場所に顔を出していると、要自身も動物と触れ合う機会があった。
 幼い子犬たちは要の事情など知らず無邪気に容赦なく飛びついてきた。要は驚く暇も余計なイメージを持つ暇もなかった。要は思わず子犬たちを抱きとめるとその体温の暖かさに心がとても癒された。
 夜、いつものように要の足下に転がる水無月のふわふわと動く薄い茶色の髪の毛を見ていると、無意識に要はそれに手を伸ばしていた。
 柔らかい糸のような水無月の髪はとても気持ち良く、水無月は嬉しそうに笑った。
 余りに穏やかな気持ちに要は麻痺したように、要はただ無心に水無月の柔らかい頬を触った。久々に触る水無月の肌はとても柔らかく、それでいて赤ん坊のように滑々としていた。
 水無月は大きな瞳を開けると、そのままゆっくりと要の前に立ち上がった。
 要はベッドに足を広げて座った状態のまま突然立ち上がった水無月を見上げた。
 水無月はとても愛おしげな眼差しで上から要を見つめ、そしてゆっくりと顔を近づけた。
 要は放心したようにその天使のような顔を見ていた。ゆっくりと近づいた水無月の唇は要の唇の一センチ手前で止まって目が合った。
 要の内側から眠っていたような欲望が一斉に目覚め、身体中の体温が一気に上がった。頭が真っ白になる程水無月が欲しくなり思わず水無月の両肩を力強く掴んだ。
――しまった。
 途端に要の目の先に黒い煙がモヤモヤと出始めた時だった。
「兄ちゃん……よく見て。僕に触ったらほら……兄ちゃんの黒いのが消えていくよ」
 要は固唾を飲んで自分の手先を見た。すると黒い煙はやはり浄化されるように消えていくのが見えた。
「僕が……チリョウしてあげる」
 水無月は屈むとゆっくり舌を出した。
「お兄ちゃん。舌をだして」
 要は恐る恐る舌先を差し出すと、そこに甘く柔らかな水無月の舌が絡みついた。
 柔らかな水無月の唇が要の唇に触れて要の頭が痺れた。
「ぼくの、飲んで……きれいになるよ」
 水無月の少し冷たい唾液が要の舌を伝って送り込まれると、要はそれをコクっと飲み込む。
 要は内側から化学反応を起こす様に穢れが消えていくのを感じた。




<<前へ      次へ>>


★拍手コメントのお返事はボタンを押して頂いた拍手ページ内に致します。
  拍手秘コメの場合は普通コメント欄にてお返事致します。m(_ _)m

web拍手 by FC2
画像5種ランダムあり(*ノωノ)
00:00 | 悪魔と野犬ノ仔 | comments (2) | trackbacks (0) | edit | page top↑
悪魔と野犬ノ仔 48話 | top | 悪魔と野犬ノ仔 46話

コメント

秘コメMさま Re: 澄んでゆく
Mさまこんばん(*´∀`*)
いえいえこちらこそです!
確かに色々と立て込んではありますが物語を書く事、
そして皆さまと交流する事が癒しでもありますのでお気遣いなく(´∀`*)

「日にちぐすり」。
良い言葉ですね。
私の方こそMさまの暖かいお言葉、心に染みました。ありがとうございます(*´∇`*)
私もお兄さまのにささやかではありますがご冥福を祈らせて頂きます。

そうですね、要の心の一部は今も尚幼子のように未熟で恐れを持っているようです。
反対に何も知らないで育った水無月には芯の強さがあるように思えます。

返信不要とのお心使いありがとうございます。
しかしながらこれは楽しみでもありますので意気揚々と書かせて頂いております♪
*:.。(´∀`)。.:*

このところ少し涼しくなってきて楽になってますが
冷えないように、お互い身体の管理に気をつけましょうね(*´∇`*)

コメントどうもありがとうございましたe-415
桔梗.Dさん | 2013/07/18 02:58 | URL [編集] | page top↑
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
さん | 2013/07/17 09:57 | URL [編集] | page top↑

コメント

管理者にだけ表示を許可する

trackbacks

この記事のトラックバックURL:
http://kikyo318d.blog.2nt.com/tb.php/671-180ef0e7
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)