01/17/2012(Tue)
貴方の狂気が、欲しい 14話
そして素早く「アポの時間がありますので、失礼します」と身を翻して去った。
別にアポは無かったが、その場に居られなかった。
弘夢と比べられたら叶う筈がない、そう分かっていたのにも関わらず、木戸が向けてくれた今までと違う表情に少しでも期待をしたのが悪かった。
時枝は自分が弘夢のように愛される事はないと再度実感した。
時枝の美しい瞳に、次から次へと静かに涙が湧き出る。
仕事とは言え、自分は色んな事をしてきた。穢れの仕事がメインと言っても過言ではない、と時枝自身分かっている事だけに辛い。
穢れる事でしか生きて来れず、それを必要とされれば淡々とこなしていく。それを否定されれば時枝自身をも否定する事になる。
時枝は予想外の大きなショックを受けていた。
この感情をどうコントロールしていいのか分からず、ふらふらと車に乗り込み、そして電話を掛けた。
「はい」
電話の向こうから聞こえるのはさっきまで聞いていた声と似ている相手だった。
「……由朗……様……っ」
声が詰まって思う様に言葉が出て来ない。
「どうした? 泣いているのか?」
本当に心からかなのかは分からないが、心配そうな優しい声が余計に時枝の涙を溢れさせた。
「……誰かに頼りたくても……私には由朗様しか思い当たらなくて……っ……申し訳ありませ……っ」
「今どこだ? 迎えを寄こすから取り敢えずこっちに来なさい。いいね?」
「はい」
少しして、電話の画面に時枝の番号を出したまま難しい顔をした木戸が外へ出てきた。
ふと木戸が道路の向こう側を見ると、目元を赤くした時枝が立っているのが見えた。
その姿を見てドキリとする。
不謹慎だが、時枝の泣き顔はとても可愛いと思った。木戸は自分が泣かせたと思うと、何とも言えない充実感に加え、下半身がズクンと高揚した。
目元を赤くした時枝は少し幼くも見える。俯き加減で、長めの前髪を耳に掛けた美しい顔は、憂いを含んだ時の方が艶を帯びて惹き込まれる。
誰とも身体を繋げた事はない、自分に愛されたいと泣いた時枝を思い出し、木戸は罪悪感に襲われた。
時枝の事だから何も感じず、「自分はそういう事をするのが仕事ですから仕方ありません」とでも言うのではないかと、今までの木戸だったら思っていた。
――泣いてくれて良かった。
何故か時枝の赤い目元を見て安堵した。
何となく面白くなくて嫌味を言ってみただけだと、誤解を解こうと時枝を呼んだ時だった。
時枝の前に黒塗りの大きな車が停まり、時枝はその中へと吸い込まれて去って行った。
(どこに行ったんだアイツ。あんな顔して)
木戸は、先程時枝が屋敷に帰る事があると言ったのを思い出した。
「まさか親父のところか?」
木戸は携帯を取り出し、GPS機能のついたアプリケーションを起動させた。自分の居場所をタッチすると番号が出てくる。それをもう一度タップすると「すぐにお迎えに上がります」とメッセージが出てきた。
近くに駐留するハイヤーからの連絡だった。
木戸がタバコを吸っている間に車は静かに到着した。それに乗り込み、屋敷へと急ぐように運転手に伝えた。
少し混雑しているのが木戸を苛つかせたが、その時間を利用してパソコンを開き仕事をした。
「木戸様、到着致しました」
運転手の言葉を聞いて木戸は窓の外を見た。
暫く帰らなかったが、相変わらず大きな古い洋館だった。派手過ぎず、年代が経っている事が伝わるその雰囲気はとてもモダンで美しかった。
木戸の姿を見た使用人達は、予想だにしなかったのか慌てて出迎えた。
「お帰りなさいませ」
木戸はその中でも一番の古株である執事の林に話かけた。齢七十近い林だが、背筋は相変わらず綺麗に伸びている。
「林、親父は帰ってるか?」
「いえ。帰宅されておりませんが」
「何? じゃあ時枝は来たか?」
「時枝様ですか? いえ、本日はまだお見えになっておりませんが」
「……あいつは頻繁に帰っているのか?」
「そう……でございますね……多い月もあれば少ない時もございますが、平均して月に四、五回程はいらっしゃるでしょうか。殆ど帰られると旦那様とご一緒に居られますよ」
林は微笑ましい感じで話すが、それを聞いた木戸の表情は益々険しくなった。
「そうか。分かった。ご苦労」
そう言って木戸は再び車に乗り込んだ。
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お礼画像あり☆6種ランダム
別にアポは無かったが、その場に居られなかった。
弘夢と比べられたら叶う筈がない、そう分かっていたのにも関わらず、木戸が向けてくれた今までと違う表情に少しでも期待をしたのが悪かった。
時枝は自分が弘夢のように愛される事はないと再度実感した。
時枝の美しい瞳に、次から次へと静かに涙が湧き出る。
仕事とは言え、自分は色んな事をしてきた。穢れの仕事がメインと言っても過言ではない、と時枝自身分かっている事だけに辛い。
穢れる事でしか生きて来れず、それを必要とされれば淡々とこなしていく。それを否定されれば時枝自身をも否定する事になる。
時枝は予想外の大きなショックを受けていた。
この感情をどうコントロールしていいのか分からず、ふらふらと車に乗り込み、そして電話を掛けた。
「はい」
電話の向こうから聞こえるのはさっきまで聞いていた声と似ている相手だった。
「……由朗……様……っ」
声が詰まって思う様に言葉が出て来ない。
「どうした? 泣いているのか?」
本当に心からかなのかは分からないが、心配そうな優しい声が余計に時枝の涙を溢れさせた。
「……誰かに頼りたくても……私には由朗様しか思い当たらなくて……っ……申し訳ありませ……っ」
「今どこだ? 迎えを寄こすから取り敢えずこっちに来なさい。いいね?」
「はい」
少しして、電話の画面に時枝の番号を出したまま難しい顔をした木戸が外へ出てきた。
ふと木戸が道路の向こう側を見ると、目元を赤くした時枝が立っているのが見えた。
その姿を見てドキリとする。
不謹慎だが、時枝の泣き顔はとても可愛いと思った。木戸は自分が泣かせたと思うと、何とも言えない充実感に加え、下半身がズクンと高揚した。
目元を赤くした時枝は少し幼くも見える。俯き加減で、長めの前髪を耳に掛けた美しい顔は、憂いを含んだ時の方が艶を帯びて惹き込まれる。
誰とも身体を繋げた事はない、自分に愛されたいと泣いた時枝を思い出し、木戸は罪悪感に襲われた。
時枝の事だから何も感じず、「自分はそういう事をするのが仕事ですから仕方ありません」とでも言うのではないかと、今までの木戸だったら思っていた。
――泣いてくれて良かった。
何故か時枝の赤い目元を見て安堵した。
何となく面白くなくて嫌味を言ってみただけだと、誤解を解こうと時枝を呼んだ時だった。
時枝の前に黒塗りの大きな車が停まり、時枝はその中へと吸い込まれて去って行った。
(どこに行ったんだアイツ。あんな顔して)
木戸は、先程時枝が屋敷に帰る事があると言ったのを思い出した。
「まさか親父のところか?」
木戸は携帯を取り出し、GPS機能のついたアプリケーションを起動させた。自分の居場所をタッチすると番号が出てくる。それをもう一度タップすると「すぐにお迎えに上がります」とメッセージが出てきた。
近くに駐留するハイヤーからの連絡だった。
木戸がタバコを吸っている間に車は静かに到着した。それに乗り込み、屋敷へと急ぐように運転手に伝えた。
少し混雑しているのが木戸を苛つかせたが、その時間を利用してパソコンを開き仕事をした。
「木戸様、到着致しました」
運転手の言葉を聞いて木戸は窓の外を見た。
暫く帰らなかったが、相変わらず大きな古い洋館だった。派手過ぎず、年代が経っている事が伝わるその雰囲気はとてもモダンで美しかった。
木戸の姿を見た使用人達は、予想だにしなかったのか慌てて出迎えた。
「お帰りなさいませ」
木戸はその中でも一番の古株である執事の林に話かけた。齢七十近い林だが、背筋は相変わらず綺麗に伸びている。
「林、親父は帰ってるか?」
「いえ。帰宅されておりませんが」
「何? じゃあ時枝は来たか?」
「時枝様ですか? いえ、本日はまだお見えになっておりませんが」
「……あいつは頻繁に帰っているのか?」
「そう……でございますね……多い月もあれば少ない時もございますが、平均して月に四、五回程はいらっしゃるでしょうか。殆ど帰られると旦那様とご一緒に居られますよ」
林は微笑ましい感じで話すが、それを聞いた木戸の表情は益々険しくなった。
「そうか。分かった。ご苦労」
そう言って木戸は再び車に乗り込んだ。
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コメント
((((((ノ゚⊿゚)ノヌオォォォ
胸が痛い上に萌えぇまでっっ!!
嬉しいですーっ+゜*。..+゜ ウ ェ ━ヽ(*´Д`*)ノ━ イ ゜+..。*゜+
あぅぅ…私なんぞの更新にお礼など勿体ないお言葉!!
こちらこそいつも読んで下さってありがとうございます(涙)
時枝の涙に胸を痛めながら萌えるだなんて
さりさまさすがです(〃∇〃)
木戸の気持ちが!?…さてはさりさまってばSッ気が!
'`ァ'`ァ((o(*´д`*)o))'`ァ'`ァ ←
んぎゃー!
私の書く拙文で申し訳ないのですが
そんなお褒め頂いてもう汗だくです(-"-;A ...アセアセ (本気で)
これからもなるべく毎日うひうひ言って頂けるように頑張ります!
(○≧ω≦)ノゎぁぃゎぁぃヽ(≧ω≦●)
時枝をどんどん好きになって頂けて嬉しいです!!
くそっ 時枝め!羨ましいぜ!
エイ!(*`・д・´)ノ゛)Д`)ペション ←あ
コメントどうもありがとうございました
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