02/23/2012(Thu)
貴方の狂気が、欲しい 36話
木戸の脳裏に弘夢の所で見かけた車が思い出された。
あれはきっと時枝の乗って来たものだったに違いない。あの時まだ中に乗っていたのか、もうどこかへ行ったかは定かではなかったが、直ぐにその車を追跡した。
GPSで空からの映像で確認すると、まだ同じ場所に車はあるままだった。直ぐにその周辺を調べるが、時枝らしき人物は見当たらない。
「あのバカ……早とちりしやがって……」
木戸は今自分の持っている力を全て使って時枝を探し出そうと決めていた。
同時に、これまで均衡を保ってきた勢力図が大きく変わってきていた。巨大な李グループが勢いを増して木戸の取引先を吸収していった。
この意味を分かっている由朗には小さな罪悪感と、その理由が分かっている為にどうしても動く事が出来なかった。
事情の分からない部下たちからは反感を買い、条件の良い李の方へ寝返る者も多く出てきた。
それでも他の事態には目もくれず木戸は時枝を探していた。
今まで十二分に人やシステムを使っていたが、それも日を追う毎に不自由になってきた為、木戸は自分の足で探した。
まだ使える部下と手分けして探す事を繰り返し、一週間が過ぎた頃から木戸の焦りと不安は大きく膨らんできた。
国を出た形跡もない。ならばまだ国内にいる筈だった。だが木戸が探せば大抵は見つかる筈の人間が一向に見つからない。
(まさか殺されたのか……)
既に灰となってどこかの場所に散布でもされていたら、と考えて身体中が軋んで痛みが木戸の全身を襲った。
既に、時枝が側にいないという事だけで今までにない異常事態で精神が想像以上に不安定だった。
そして更に一週間が過ぎた頃、木戸は暁明の所へ赴いた。
「どうも、木戸さん……。酷い顔ですね。殆ど眠っていない顔をしている」
まさか中へ案内されるとは思っていなかった木戸はコートに忍ばせていた銃から意識を離した。
「ドアを開けたら撃ってくるかと思っていたが」
「私はそんな事はしません」
目の前にいる男が時枝と同じ血を通わせていると思うと、不思議と愛おしく感じた。
客間に通されるや否や、暁明は張りつめた表情で切り出してきた。
「時枝……いや、香を探しているのでしょう?」
敢えて名前を呼び直した暁明に、木戸は悟った。
「事情はもう知っているようだな」
「えぇ……まさか……腹違いの弟だったとは……。でも、どんな生まれ方だったにしろ、私は香が弟だと知って嬉しかった。今までの彼への不思議な執着心というか、可愛いと思う気持ちが妙に納得できましたから」
木戸は暁明の言葉を聞いて胸が熱くなった。
「早く……あいつにその言葉を聞かせてやりたい」
「……木戸さん。少し変わりましたね。以前も鋭くて素敵でしたが、今は情熱的でもっと魅力的です」
「貴方にこんな事を頼んでいいか分からないが、他にもう頼れる人が……。頼む。あいつを一緒に探してくれないか」
人に頼み事などした事のない木戸は、初めて仕事以外で頭を下げた。
「香に罪はありません。そして木戸さん、貴方にも。今一番苦しいであろう香を直ぐに助けてあげたいのは私も同じ気持ちです。グループが反対をしたとしても、私は探します」
「恩にきる」
木戸はハッキリとした声で男らしく、そして礼儀正しくお辞儀をした。
「可能性が高いのは、もう捕まっているという線ですね。それか香が一人で身を隠しているか。彼もプロですからそうそう簡単には見つからないでしょう。ただ、もし既に捕まっていたとしたら厄介ですね……。私は内部の方から探ってみます」
「分かった。俺も手当たり次第探してみる。頼みます」
いつもきちんとしている髪を少し乱しながら、そのまま暁明の家を急ぎ足で出て行った。
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あれはきっと時枝の乗って来たものだったに違いない。あの時まだ中に乗っていたのか、もうどこかへ行ったかは定かではなかったが、直ぐにその車を追跡した。
GPSで空からの映像で確認すると、まだ同じ場所に車はあるままだった。直ぐにその周辺を調べるが、時枝らしき人物は見当たらない。
「あのバカ……早とちりしやがって……」
木戸は今自分の持っている力を全て使って時枝を探し出そうと決めていた。
同時に、これまで均衡を保ってきた勢力図が大きく変わってきていた。巨大な李グループが勢いを増して木戸の取引先を吸収していった。
この意味を分かっている由朗には小さな罪悪感と、その理由が分かっている為にどうしても動く事が出来なかった。
事情の分からない部下たちからは反感を買い、条件の良い李の方へ寝返る者も多く出てきた。
それでも他の事態には目もくれず木戸は時枝を探していた。
今まで十二分に人やシステムを使っていたが、それも日を追う毎に不自由になってきた為、木戸は自分の足で探した。
まだ使える部下と手分けして探す事を繰り返し、一週間が過ぎた頃から木戸の焦りと不安は大きく膨らんできた。
国を出た形跡もない。ならばまだ国内にいる筈だった。だが木戸が探せば大抵は見つかる筈の人間が一向に見つからない。
(まさか殺されたのか……)
既に灰となってどこかの場所に散布でもされていたら、と考えて身体中が軋んで痛みが木戸の全身を襲った。
既に、時枝が側にいないという事だけで今までにない異常事態で精神が想像以上に不安定だった。
そして更に一週間が過ぎた頃、木戸は暁明の所へ赴いた。
「どうも、木戸さん……。酷い顔ですね。殆ど眠っていない顔をしている」
まさか中へ案内されるとは思っていなかった木戸はコートに忍ばせていた銃から意識を離した。
「ドアを開けたら撃ってくるかと思っていたが」
「私はそんな事はしません」
目の前にいる男が時枝と同じ血を通わせていると思うと、不思議と愛おしく感じた。
客間に通されるや否や、暁明は張りつめた表情で切り出してきた。
「時枝……いや、香を探しているのでしょう?」
敢えて名前を呼び直した暁明に、木戸は悟った。
「事情はもう知っているようだな」
「えぇ……まさか……腹違いの弟だったとは……。でも、どんな生まれ方だったにしろ、私は香が弟だと知って嬉しかった。今までの彼への不思議な執着心というか、可愛いと思う気持ちが妙に納得できましたから」
木戸は暁明の言葉を聞いて胸が熱くなった。
「早く……あいつにその言葉を聞かせてやりたい」
「……木戸さん。少し変わりましたね。以前も鋭くて素敵でしたが、今は情熱的でもっと魅力的です」
「貴方にこんな事を頼んでいいか分からないが、他にもう頼れる人が……。頼む。あいつを一緒に探してくれないか」
人に頼み事などした事のない木戸は、初めて仕事以外で頭を下げた。
「香に罪はありません。そして木戸さん、貴方にも。今一番苦しいであろう香を直ぐに助けてあげたいのは私も同じ気持ちです。グループが反対をしたとしても、私は探します」
「恩にきる」
木戸はハッキリとした声で男らしく、そして礼儀正しくお辞儀をした。
「可能性が高いのは、もう捕まっているという線ですね。それか香が一人で身を隠しているか。彼もプロですからそうそう簡単には見つからないでしょう。ただ、もし既に捕まっていたとしたら厄介ですね……。私は内部の方から探ってみます」
「分かった。俺も手当たり次第探してみる。頼みます」
いつもきちんとしている髪を少し乱しながら、そのまま暁明の家を急ぎ足で出て行った。
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