02/26/2012(Sun)
貴方の狂気が、欲しい 37話
一見して街がどう変わっただとか、報道されている会社の裏でどんな変化があっただとか、そういう事は一般的には分からない。
ただ、世の中に蔓延る商売は回り続け、人知れず廃れていく人々もいる。
由朗は屋敷に閉じこもりきりで酒を片手に煙の充満する部屋にいた。
木戸は残った自身の資産で時枝の行方を追って既に一か月を切ろうとしていた。
体験した事のない不安と疲労で、家には帰らず、ここ最近はずっと暁明の家に入り浸っていた。
木戸の状態を見兼ねた暁明の意向もあって、それに甘えさせてもらっている。
暁明の所なら、時枝が見つかった場合直ぐに連絡が来る上に、今は一人でいるよりもここに居た方が気持ちも楽になった。
何より、時枝の面影のある暁明と一緒に居たかった。
「木戸さん。こんな所で休まれては風邪を引きますよ」
転寝していた木戸が薄めを開ける。
自分を上から覗きこむ顔は時枝をもう少し凛々しく精悍な顔立ちにした感じだった。時々浮かぶ口元の笑みが艶っぽく、その雰囲気が何となく時枝に似ている。
(長い……黒髪……時枝……)
木戸はグイと暁明の首を掴み抱き寄せた。
「ちょっ……木戸さんッ……私です!」
「時枝……」
「全くこの人は……ちょっとすみませんね」
暁明は寝ぼけた木戸の手首を掴んで軽く捻った。
「痛ッ」
「起きましたか?」
木戸は不機嫌そうに上半身を起こした。
「何をする」
「それはこちらの台詞です。私を香と間違えたのでちょっと目を覚まさせて頂いただけです」
「……そうか」
木戸は普段の表情に戻すとふらついた足取りでシャワー室へと消えていった。
外の温度が妙に暑いと思った。やけに眩しく光る太陽を鬱陶しそうに見上げて腕まくりをする。
その時に、「もう夏か」と漸く気が付いた。
時枝の行方を追っていない時間は無気力な状態になる事が多くなった。
いつもピシッと身なりには気を使っていた木戸が、無精ひげを生やしネクタイもせずにいた。
少し草臥れたような風貌で、ワイシャツを開ける様子には妙な哀愁からか艶っぽい雰囲気があった。
整髪料で清潔に纏めていた髪は額に下ろされ、若干若く見えるが同時に危険な雰囲気を纏った男にも見えた。
ベタつく汗にイラつき、会いたい気持ちだけが時間に比例して無限に広がっていく。
そして周りにはいつの間にか彩豊かな木々が増えていた。
街でブーツを履く女性を見かけてまた四季が変わったのだと認識した。
そして時枝がいなくなって約十カ月も経とうとした頃だった。
暁明の小姓である愛人が慌ただしく部屋に入ってきた。
そして愛人の耳打ちを聞いた暁明が目を見開いて息を飲んだ。
そして脱兎の如く今はどこぞに残っている小さな事務所で寝泊まりをしている木戸の元へと急いだ。
木戸は、今はもう誰もいなくなった事務所のソファで眠っていた。
遠くから鉄でできた階段を駆け上がって来る音を不快に思いながらもそのまま動かずにいると、突然ドアを激しく叩かれて眉間にシワを寄せた。
ドンドンドン、と尚も激しくドアが叩かれる。
「木戸さんッ! 私だ、開けてくれッ」
(暁明?)
「暁明さま、どいて下さい。僕が鍵を開けます」
(この声は……愛人か? 何故二人でこんな所へ……俺は……今どこにいるんだっけか……)
数秒もしないうちにカチャリと音がして、簡易な鍵は愛人によって開けられた。
「木戸さんッ」
目を開けると、切羽詰まったような顔の暁明が走り寄って来た。
「時枝の居場所が分かった」
木戸は一瞬頭が真っ白になった。
望み過ぎた事が手に入った時、それを実感するのにどうしても時間がかかる、そんな感じだ。
だが、その言葉を理解した瞬間暁明に掴みかかった。
「どこだッ!? どこにいるッ」
「落ち着いて下さいッ、香は今杉下という男の所にいる」
「は?」
その男が一体何者なのか、木戸の脳内のファイルには一切候補が出て来ない。
「杉下真也……元の名を王猩紅。時枝の父親だ」
<<前へ 次へ>>
(ノ≧⊿≦)ノギャー!!!!
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お礼画像あり☆6種ランダム
ただ、世の中に蔓延る商売は回り続け、人知れず廃れていく人々もいる。
由朗は屋敷に閉じこもりきりで酒を片手に煙の充満する部屋にいた。
木戸は残った自身の資産で時枝の行方を追って既に一か月を切ろうとしていた。
体験した事のない不安と疲労で、家には帰らず、ここ最近はずっと暁明の家に入り浸っていた。
木戸の状態を見兼ねた暁明の意向もあって、それに甘えさせてもらっている。
暁明の所なら、時枝が見つかった場合直ぐに連絡が来る上に、今は一人でいるよりもここに居た方が気持ちも楽になった。
何より、時枝の面影のある暁明と一緒に居たかった。
「木戸さん。こんな所で休まれては風邪を引きますよ」
転寝していた木戸が薄めを開ける。
自分を上から覗きこむ顔は時枝をもう少し凛々しく精悍な顔立ちにした感じだった。時々浮かぶ口元の笑みが艶っぽく、その雰囲気が何となく時枝に似ている。
(長い……黒髪……時枝……)
木戸はグイと暁明の首を掴み抱き寄せた。
「ちょっ……木戸さんッ……私です!」
「時枝……」
「全くこの人は……ちょっとすみませんね」
暁明は寝ぼけた木戸の手首を掴んで軽く捻った。
「痛ッ」
「起きましたか?」
木戸は不機嫌そうに上半身を起こした。
「何をする」
「それはこちらの台詞です。私を香と間違えたのでちょっと目を覚まさせて頂いただけです」
「……そうか」
木戸は普段の表情に戻すとふらついた足取りでシャワー室へと消えていった。
外の温度が妙に暑いと思った。やけに眩しく光る太陽を鬱陶しそうに見上げて腕まくりをする。
その時に、「もう夏か」と漸く気が付いた。
時枝の行方を追っていない時間は無気力な状態になる事が多くなった。
いつもピシッと身なりには気を使っていた木戸が、無精ひげを生やしネクタイもせずにいた。
少し草臥れたような風貌で、ワイシャツを開ける様子には妙な哀愁からか艶っぽい雰囲気があった。
整髪料で清潔に纏めていた髪は額に下ろされ、若干若く見えるが同時に危険な雰囲気を纏った男にも見えた。
ベタつく汗にイラつき、会いたい気持ちだけが時間に比例して無限に広がっていく。
そして周りにはいつの間にか彩豊かな木々が増えていた。
街でブーツを履く女性を見かけてまた四季が変わったのだと認識した。
そして時枝がいなくなって約十カ月も経とうとした頃だった。
暁明の小姓である愛人が慌ただしく部屋に入ってきた。
そして愛人の耳打ちを聞いた暁明が目を見開いて息を飲んだ。
そして脱兎の如く今はどこぞに残っている小さな事務所で寝泊まりをしている木戸の元へと急いだ。
木戸は、今はもう誰もいなくなった事務所のソファで眠っていた。
遠くから鉄でできた階段を駆け上がって来る音を不快に思いながらもそのまま動かずにいると、突然ドアを激しく叩かれて眉間にシワを寄せた。
ドンドンドン、と尚も激しくドアが叩かれる。
「木戸さんッ! 私だ、開けてくれッ」
(暁明?)
「暁明さま、どいて下さい。僕が鍵を開けます」
(この声は……愛人か? 何故二人でこんな所へ……俺は……今どこにいるんだっけか……)
数秒もしないうちにカチャリと音がして、簡易な鍵は愛人によって開けられた。
「木戸さんッ」
目を開けると、切羽詰まったような顔の暁明が走り寄って来た。
「時枝の居場所が分かった」
木戸は一瞬頭が真っ白になった。
望み過ぎた事が手に入った時、それを実感するのにどうしても時間がかかる、そんな感じだ。
だが、その言葉を理解した瞬間暁明に掴みかかった。
「どこだッ!? どこにいるッ」
「落ち着いて下さいッ、香は今杉下という男の所にいる」
「は?」
その男が一体何者なのか、木戸の脳内のファイルには一切候補が出て来ない。
「杉下真也……元の名を王猩紅。時枝の父親だ」
<<前へ 次へ>>
(ノ≧⊿≦)ノギャー!!!!
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コメント
>
> 偶然ですね(^O^)♪
素敵な偶然に私も興奮してしまいました☆
。゚+.ヽ(´∀`*)ノ ゚+.゚
> これからも展開にわくてか!!
>
> 急がないと木戸ぉぉ(>_<)
wktkありがとうございます!!
展開がエライ方向に向かってますが
暖かく見守って頂けると幸いです!
そして木戸はとにかく急げ!!(>ω<)
コメントどうもありがとうございました
適当につけた名前なのに
偶然ですね(^O^)♪
これからも展開にわくてか!!
急がないと木戸ぉぉ(>_<)
>
> ところでコメント見てビックリ!
> お客様のお名前…
>
> うちのチビ、 にこら になったのです;
・:*:・:オォオォ(*´∀`人):・:*:・
何たる偶然!!
うああ(*´∀`*)可愛いお名前になりましたね!!
またいつかおちびちゃん拝見したいですv
まだ寒いですのでWLさまもご家族も風邪には
お気を付けて下さいね!
コメントどうもありがとうございました
((((((ノ゚⊿゚)ノヌオォォォ
けいったんさまが一緒に叫んで下さったあーっ
> まさか時枝が あんな父親の許に居たなんて~~
想像したくありませんよね…。
とてもイヤな感じがします(>ω<)
> 木戸っち、くたびれてる場合じゃないって 早く行かなきゃーー!
> って、思ったけど 時枝は誤解したままだったよね~Σ(゚д゚;)ガーン
本当です!!
くたびれている場合じゃないです!!
はっ!∑(°ロ°*)
そうでした…。おかしな場面を見てそのままの状態で
いるという最悪のシチュでした…。
と、とにかく木戸は一刻も早く時枝の元へですね!
(`・ω・´)
> えらいこっちゃ>ヽ(:ヽ゚ロ゚)(゚ロ゚ノ:)ノ<えらいこっちゃ ヨイヨイヨイヨイ!!...byebye☆
ヾ(:´Д`●)ノアワワワヾ(●´Д`;)ノ
つられてアワアワ中
コメントどうもありがとうございました
ところでコメント見てビックリ!
お客様のお名前…
うちのチビ、 にこら になったのです;
まさか時枝が あんな父親の許に居たなんて~~
木戸っち、くたびれてる場合じゃないって 早く行かなきゃーー!
って、思ったけど 時枝は誤解したままだったよね~Σ(゚д゚;)ガーン
えらいこっちゃ>ヽ(:ヽ゚ロ゚)(゚ロ゚ノ:)ノ<えらいこっちゃ ヨイヨイヨイヨイ!!...byebye☆
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