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貴方の狂気が、欲しい 59話

 木戸が目を開けると、いつの間にか辺りは暗くなっていた。
 二人ともそのまま快楽の渦に飲み込まれるようにして気を飛ばしてしまった。
 隣で寝ている時枝の肩を触るととても冷たかった。風邪を引いてはいけないと布団を掛けようとしたが、身体も綺麗にするついでと思い、木戸は時枝を起こしてもう一度風呂へ入った。
 風呂から出て来ても時枝は夢現で蕩けた表情のままだった。そんな時枝が可愛くて、木戸は何度も頬にも瞼にも唇にもキスをした。

 記憶が戻ってから暫く何も考えず、二人は激しく抱き合った。時には優しくゆっくりと抱き合い、時には獣同士の交尾のように挑発的に抱き合った。
 毎日茹だるような暑さの中、確かめ合うように肌を重ねる生活をしていた頃だった。
 懐かしい顔が玄関のチャイムを鳴らした。

「健太……」
「あ……時枝さん……」
 どうしても黙っていてくれと頼まれた事を裏切ってしまった事が気がかりで、ずっと謝りたかったとの事だった。
 何度も来ようとしたが、二人が喧嘩でもしていたらと考えると怖くて来れなかったと健太は言った。
「時枝さんに恨まれてるんじゃないかって思って僕……ごめんなさい」
 健太が涙目になった。
 時枝はそんな健太の頭を優しく撫でた。
「いえ。君のお陰で、君が居たから私は元に戻れました。今まで色々とありがとうございました」
 そう言う時枝の顔を見て、健太は少しだけ寂しそうに言った。
「時枝さん……本当はそういう顔をするんですね」
 健太の知っている時枝はまるで何も知らない子供か動物のようだった。故に落ち着いている大人な時枝を見て寂しく思った。
「本当はもっと口数が少なくて無表情だったんだが、お陰でこんなに色っぽくなった」
 木戸が茶々を入れる様に人差し指で時枝の顎をクイと上げたが、「健太の前です」と厳しく言われてムスッとした。
「時枝さんに叱られる木戸さんて……何かおかしいのっ」
 と、健太は無邪気に笑い、その場が和んだ。
 そして健太が何かを見つけたように目を丸くして時枝の頭を指した。
「あっ! 時枝さんの髪……根元が少し黒くなってる!」
「うん……髪も戻って来たようなんだ」
 時枝も嬉しそうに微笑んだ。そして他愛ない話しで時間が過ぎた。

「こうして健太とたまに話すのも最後ですね」
 夕飯も終わり、談笑の途中でサラリと言った時枝の言葉は突然だった。
「え……?」
 驚いたのは健太だけではなかった。木戸も動きを止めた。
「だって、いつまでもこうしている訳にはいきませんし……まだカタもついていませんから」
「お前、それってもしかして」
「ええ。東京に戻りたいと思います」
「い、嫌だよッ! 何で? 別に東京に仕事で行ってもまたここに帰って来ればいいじゃん!!」
 何とか思いを留まらせようと騒ぐ健太の横で、難しい顔をしていた木戸が溜息をついた。
「健太。俺達の夏休みは終わったらしい」
「木戸さ……いやだよぉ」
 健太は駄々をこねる子供のように涙を瞳に溜めた。
「もう、これきりにしましょうね」
 時枝が静かにそう言うと、健太が顔を赤くして声を荒げた。
「どうして!? また会えるでしょ!?」
「私たちは……あまり良い事をしてきませんでした。残念ながらもう会えません。偶然会っても、もう他人として接します」
 こんな時に寂しそうだがとても優しい笑顔を向けた。
「なんで……酷いよ……」
 泣き崩れる健太の横で、木戸がタバコに火を点けた。
「時枝はお前を想って言ってるんだ。分かれよガキ。俺たちと知り合いだって分かったら結構面倒な事に巻き込まれる率が高いんだよ」
 暫く黙って鼻を啜っていた健太だったが、懸命に表情を戻した。

「分かった……でも……忘れないから。初恋の時枝さんも……意地悪でライバルだった木戸さんも……」
 健太は表情が崩れるのを我慢出来ずポロポロと涙を零した。
「元気でいて下さい。あんな状態の私でも好きになってくれて、ありがとう」
 時枝は心から健太という少年にお礼を言った。
 健太の純粋無垢な心に触れていた事は決して時枝の心に影響が無かったとは言えない。
「お前とは無関係になるが……俺達も忘れてはやらねーから。元気でやれよ」
 木戸がポンと健太の頭に手をやった。
「うぅぅぅ……っ」
 そして二人は泣きながら帰って行く健太の後ろ姿を見送った。

「本当にもう、いいのか?」
「はい……もう、大丈夫です。東京へ、行きましょう」

 次の日、二人は荷物を纏めて出て行った。




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ばいばい。健太(ノ△・。)

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00:00 | 貴方の狂気が、欲しい | comments (2) | trackbacks (0) | edit | page top↑
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コメント

けいったんさま
> 健太・・・冬特有の曇天が続く中 時折覗く 暖光のような存在でしたね。
> 将来 いい男になるよ~・:*:・゚☆d(≧∀≦)゚+.゚

何と素敵な表現。゚+.ヽ(´∀`*)ノ ゚+.゚
本当、そんな存在でしたね!
きっと将来いい男になって、そしてイイ男をゲット出来ると思います!
∑d(ゝω・´*)グッ☆! ←


> いつの間にか 季節は春 新しい出発に相応しい時季
> 時枝!しっかり カタをつけて 過去からの旅立ちだね♪
> ~~~ヾ(〃^∇^)o イッテラッシャィ!...byebye☆

ァィ(。・Д・)ゞ
過去からの旅立ちですね!
木戸が側についているのでもう大丈夫だと思います!
リアルの方も少しずつですが暖かくなってきましたね!
桜、満開が楽しみです(*´∀`*)

コメントどうもありがとうございましたe-415
桔梗.Dさん | 2012/04/01 23:47 | URL [編集] | page top↑
健太・・・冬特有の曇天が続く中 時折覗く 暖光のような存在でしたね。
将来 いい男になるよ~・:*:・゚☆d(≧∀≦)゚+.゚

いつの間にか 季節は春 新しい出発に相応しい時季
時枝!しっかり カタをつけて 過去からの旅立ちだね♪
~~~ヾ(〃^∇^)o イッテラッシャィ!...byebye☆
けいったんさん | 2012/04/01 13:46 | URL [編集] | page top↑

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