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悪魔と野犬ノ仔 4話

 先程見た水無月は素直に美しかった。ただ、それだけではなく、要の身体がさっきの水無月に反応した事が解せなかった。
 しかし今はしっとりと汗を掻きながら自分に凭れかかっている水無月が無償に愛おしくてぎゅっと抱き締めた。

 犬は基本的にグループで行動する生き物だ。その中でもリーダーを見極め、居れば従い、居なければ自分がリーダーとして頑張る。リーダーとして動く犬は責任を負う為ストレスを受けやすい。早死にする事も多々ある。家族やグループを守ろうと攻撃的にもなるが、それは人間にとってはただの言う事の聞かない吠え癖のある困った犬に過ぎない。
 水無月の中でのリーダー的存在は要だった。その傲慢にも見える態度は有無を言わさず水無月をコントロールした。それが水無月に安心感を与えているなど夢にも思わない周りは心配していた。
「水無月は?」
 風呂から上がった拓水は濡れた短髪を几帳面にタオルで拭きながら母親に聞いた。
「今要がお散歩してるわ」
「散歩……。まるで犬だな」
 苦虫を噛み潰した様な顔した拓水がタオルをソファへ強く投げた。
「母さん。水無月、やっぱり怖がってると思う。だって要を見る時だけ凄くチラチラ怯える様に何度も何度も見るし……散歩とか行って枝でも投げて拾って来させてるんじゃないのか」
「拓水」
 母親は拓水の言葉を少し強めに止めた。
「あの子は……昔からちょっと乱暴だったけど、でもミナちゃんがうちに来て随分普通に話しをしてくれるようになったじゃない。だからあの子にとってもこうしてミナちゃんと一緒にいる時間は良い傾向なんじゃないかって思うのよ」
 息子を信じる母の心境としてはプラスに考えるのは普通だ。だが子供の頃からの奇行を見て来た拓水はどうしても信じ切れなかった。
「俺だってそう思いたいけどさ……水無月が酷い事されてなきゃいいなって心配で……せっかく人間らしくなってきたのにさ」
「大丈夫よ」
 親子は一抹の不安を脳の隅へと了った。
「ただいま」
「タダイマ」
 そんな心配をされているとは知らない水無月と、どうせ自分たちのいない間にそんな会話でもされていると思っている要が帰って来た。
「水無月、お帰り。散歩は楽しかったか? 何か寝むそうな顔してるけど大丈夫か?」
 拓水が近づくと、シャンプーの香が水無月の鼻腔に届いてクンと匂いを嗅ぐようにして「うん」とだけ返事をした。それも要に言われていた事だった為、水無月は余計な事は言わない。
「ミナちゃん、明日からまた先生来るんだから早くお風呂入って寝なさい」
 母親が台所から顔を出しながら言った。
「あい」
 水無月は小さな口を開けて欠伸をして風呂場へ向かった。
 水無月の姿が見えなくなると拓水が強い目で要を見てきた。
 「何?」
 何を言いたいのか分かっている要は“鬱陶しいよ”、という意味を込めて冷めた視線を返した。その沼の底の様に暗く光のない瞳に拓水は悪寒を感じた。
「俺も疲れたしもう寝るよ。オヤスミ、お兄ちゃん」
 要は茶化すように言って口の端を上げるとそのまま二階へ消えた。

 拓水は昔から運動神経が良く、野球の強い公立高校へと進学した。精悍な面持ちとガッシリとした体格は既に大人だった。毎朝早朝から朝練へと繰り出し、試合が近くなると夜の練習も重ねていた。
 対して要は都内の有名私立中学へ行く実力があったのにも関わらず、その奇行で結局は地元の公立の中学校に通っていた。
 一人でいる時は暇だからと本を読み漁る延長線として勉強をしていた為、テストをすれば満点も簡単に取る。だがそれも気分によって変わる。立て続けに全教科で満点を記録したかと思えば次の期末では全教科白紙で出してみる。理由は単に教師の驚いた顔がたまに見たくなるからというものだった。

「進藤ってさ……なんかイイよね」

「うん、こう危ない感じがねっ。綺麗な顔だから余計オーラがあるよね!」

「そうそう!」

 一見すれば少女漫画にでも出てくるような美しく整った顔立ちと、刃物のような鋭く危ない雰囲気が相乗効果を出しているのか、周りに人は寄らなかったものの女子生徒の隠れファンは多かった。そういう変わった者に惹かれる年だから余計にかもしれない。
 クラス替えの時期も近づくにつれ、どちらかと言えば不良に近い大人びた女子生徒が要に近づく様になった。そういう生徒は自意識が強く、自分ならば彼と話せる関係になって一目置かれる事も可能だろうと考える傾向がある。



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00:00 | 悪魔と野犬ノ仔 | comments (2) | trackbacks (1) | edit | page top↑
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コメント

けいったんさま
> さすが、拓水 よく 御存じで!
> 要の兄を ずっとしてた(←?)訳は無いって事ですよね~

あはは、確かにだてに要の兄をしていた訳ではありません、
拓水兄ちゃん、よく分かっておるようです!(笑)

> でも 要と水無月の歪みながらも成立している関係に 拓水が絡んで来たら…
>
> うわぁ~すっごく 複雑過ぎて 予想も出来ないわぁ~~~
> アワワヾ(´д`;)ノ。o ○【??】...byebye☆

何やら解読がしづらい状況になってきました。。
拓水はそもそも要たちの間に成立はないと思っているので
この真っ直ぐな彼の直球に二人がどう対応していくのか、ちょっと心配でございます。

コメントどうもありがとうございました
e-415
桔梗.Dさん | 2013/05/14 00:41 | URL [編集] | page top↑
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さん | 2013/05/13 15:20 | URL [編集] | page top↑

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