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悪魔と野犬ノ仔 5話

 昔の事件があったお陰で、元々要は有名だった。だが誰一人としてその事件について聞いて来る生徒はいなかった。ただでさえ聞きづらいのもあるが、要と同じ小学校から上がった生徒たちは中学に上がっても暫く昔の要の姿を覚えている為怖くて近づこうとしなかった。
 だがそうした生徒たちも別の小学校から上がって来た生徒たちの要を見る目に影響されたのか、恐怖が興味に変化していった。それは特に女子に顕著に見られた。
 中二にもなると、要の目立った奇行というのはテストを白紙で出したり、授業中に激し過ぎる睡魔に襲われると横になって寝る為に教室から出る事くらいになった。その為、それを少し格好いいとポジティブに捉える女子が増えた。ただ、髪を染めたりピアスをしたりと分かりやすい不良のような事は全くしていない為、違和感のある怖さはあった。

 要は最後の授業が終わると同時に音も無くサッと席を立った。要はいつもチャイムと同時に移動を始める。
 夕焼けの赤い太陽が差し込む廊下で「進藤くん」と呼び止められた。
 要はゆっくり振り向くと、少し長めの前髪の間から相手の顔を見た。
「……」
 赤い日の光が要の白く端正な顔に色味を付けてしっとりとした色香を引き出していた。
 声を掛けた女子生徒はその匂い立つような要の色香に動機を速めた。
「あの……さっ。ちょっと時間いいかな」
「……何」
「ちょっとだけ校舎の裏で話したいんだけど……いいかな」
 女子生徒は茶色に染めた自慢の長い髪をわざとかき上げてみせた。
 丁度暇だった要は女子生徒の要求を聞き入れ、人気のない校舎裏へと移動する。移動する途中何人かの生徒に二人が一緒に歩く姿を見られた。その視線を感じた女子生徒は得意気に歩き、その視線を気に留めない要は校舎に所々入ったヒビを気にしていた。
 中庭とは言えない雑草の生えた校舎の裏は建物に囲まれているお陰で暗い影になっていた。夏場は涼しい為によく授業をサボっている不良の溜まり場として有名だ。

「あのさっ……えと……進藤くん、彼女とかいる?」

「彼女? いないよ」

 そう言えば告白すらされた記憶がない。

「へ、へぇ……じゃあ好きな子とかは?」

 それもいた事がない。

「いない」

 要は女子生徒をジッと見た。自分に興味を持っている事は伝わってきていたので、見定めていた。同い年の中では大人びてはいるがまだまだ発展途上だ。顔は悪くない。
「どんな子が好きなの?」
 女子生徒は自分の一番可愛く見える角度で首を頑張ってねじ曲げて見せていた。
「面白いって思える奴」
 女子生徒が目を大きく見せたいが為に瞬きも我慢して目玉を目一杯見開いているのは正直少し面白いと思えた。
「面白い? 明るくて楽しいっていう事?」
「いや、俺が面白いって思える奴」
 女子生徒は理解が出来ないのか都合の良い返しを考えるように目を泳がせていた。その間にとうとう目が乾ききったのか連続で瞬きをしていた。

「あとは……」

 要は女子生徒に一歩近づいて、そして上から意地の悪い不敵な笑みを見せた。

「言う事聞いてくれる可愛い子……とか?」

「……っ」

 女子生徒は催眠術にでも掛けられたようにその一瞬の笑みで要に心を明け渡した。
「進藤くん……好きです……付き合ってほしいです」
 本当は少し話しをする関係に持っていくだけのつもりだった。だが今の一瞬で落とされた彼女は告白をするしか選択肢が無かった。
「彼女はいらないかな」
 女子生徒はじわりと涙が瞳に浮かぶのを感じて下を向いた。
「でも犬ならほしい」
「……?」
 意味不明の言葉に顔を上げる女子生徒に、要は囁くように言った。
「俺、犬なら欲しいって言ってるんだけど?」
 尚もその心理が分からない女子生徒は考えを巡らせた。
「えっ……じゃあ私、どこかで子犬貰ってくるけどっ……」
 要は何かに気付いたようにして言った。
「ああ! そういう思考回路になるのか……ははっ」
 そう軽く笑うとそのまま何事も無かったように歩き出した。

「えっ、ちょっと待って! 何?! どういう事?! 私、明日犬を持って行けばいいのね?!」

 要は女子生徒の叫び声を学校のチャイムと同じ感覚で捉えながらそのまま帰宅した。




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