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悪魔と野犬ノ仔 8話

「ただいま」
 要が帰って来た。
 途端に無意識に鼻奥からキューキューと主人を求めるような犬の鳴き声が出た。
 その微音が聞こえたのか、要の足音が真っ直ぐ水無月のいる部屋へ向かって来た。
 ドアがカチャリと開くと、少し間を空けて要が「どうした」と聞いてきた。
 何だか久々に会ったような気がして、水無月はベッドから下りると這うようにして近づき要の腰に抱きついた。するとフワリとまた嫌な匂いがして、直ぐに離れた。
 今度の匂いは前のと違う、もっと若々しい青臭い匂いだ。
 離れた理由を分かっているような要は意地悪く口角を上げながらドアに凭れ掛った。
 色々とモヤモヤしていた水無月はついに怒りで大きな声を出した。
「その匂い、ヤダッ!!」
「……」
「前の匂いもッ! ヤダッ!!」
 水無月の大きな声に反応した子犬が横でキャンキャンと騒いだ。だが水無月の低い唸り声を聞いた子犬は小さい身体をもう一回り小さくして隅へ逃げた。
 喉奥から唸り声のようなものを出す技術はきっと普通の人間には出来ないだろう。細い身体一杯に怒りを湛えている水無月を取り敢えず落ち着かせようと要は手を出した。
 興奮で我を忘れていた水無月は、その別の匂いのついた要の手に咄嗟に噛みついた。牙が無かったのが幸いし、そこまで深く刺さらなかったものの要の手の甲に血が滲んできた。
 要は眉一つ動かさず反対の手で水無月の髪をグッと引き、反対に水無月の白い首筋に歯を立てた。
「ギャンッ」
 噛まれた場所が命に関わる場所だと瞬時に判断した水無月は直ぐに自分の攻撃を止めて倒れ込み、完敗の意味を込めてひっくり返る。
 その様子で主従関係を理解した子犬は、既に吠えるのを止めて遠巻きにクンクンと匂いを嗅ぎながら様子を窺っていた。
 だが、水無月は無意識に涙が瞳に浮かんできた。確かに文句の言える立場ではないのは理解したのだが、どうしても嫌だという感情が溢れて涙になった。
「わかったよ。取り敢えず風呂に入って来るから。そこにいろ」
 要の足音が下に下りると、水無月の溜まった涙はポロっと頬に流れ落ちた。

(噛んだから……ぼくはやっぱりノライヌで、危ないのかな……でも要兄ちゃんもボクを噛んだ……でも前の兄弟喧嘩の時もこうやってた)

 水無月は噛まれた首筋にそっと細い指を沿わせて色々とぐるぐる考えていると、嫌な匂いをすっかり取った要が上半身裸で部屋へ戻って来た。
 スラッとしている割には筋肉がついているのは山でそれなりに動いているからだ。
「なんだ、苛々して」
 要はまだ床に寝っ転がりながらベソをかいている水無月を見下ろしながらベッドに座わって濡れた頭をタオルで拭いた。
「だって……要兄ちゃん、ミナのきらいな匂いする時あるから……」
 要はタオルを首に掛けると、水無月に手を差し出した。水無月の噛んだ跡が赤く腫れている。水無月がそこを舐めようとすると、要は水無月をグッと抱き上げて自分の膝に向かい合わせに座らせた。
 間近で要の切れ長の黒い目を見た水無月は、何だか少し恥ずかしくなって目を逸らした。それと同時に要の舌が水無月の赤くなっている首筋に伸びた。
「あっ」
 少しヒリっとした所が要の舌先で快感に変換されていく。
 後頭部に添えられた要の掌が水無月に安心感を与えた。さっき見せた要の有無を言わさない空気とは対極の、優しくて包み込むような空気は水無月を甘やかすようだった。
 水無月が甘える様にキスをすると、要はそれに応えて蕩ける様なキスをする。
 今は先程まで渦巻いていたような嫉妬心は消えていた。だが水無月に芽生え始めていた人としての心は成長するにつれ、要に対して独り占めしたいという欲求を生み出していた。
 そして人で在りながら、まだ人として完成しきれていない要自身はそんな水無月にも少なからず影響を与えられていた。
 落ち着いた雰囲気になった事に安心したのか、子犬が二人に近づいて短い尻尾を振ってきた。
 水無月は方手で要の首に掴まりながら、上半身を下に屈ませて子犬をもう方手で持ち上げた。
「要にいちゃん、これはノライヌじゃないの?」
 水無月が子犬を要の前に差し出した。
「……家の中にいるから違う。今は飼い犬だ」
「拓水兄ちゃんはノライヌは噛むから危ないんだって。外に一人で歩いたらダメだって言ったの。でもぼくさっき要兄ちゃん噛んだよ。ノライヌなの?」
「お前は俺が飼ってるから野良じゃない。それに噛むのには理由があるだろ。縄張りを広げたくて戦うのに噛んだり、逆に侵入されて怒って噛んだり、獲物を仕留めようと噛んだり」
「うん」
「ノライヌが危ないんだったら人間の方が危ない。理由もなく人を殺すから。食べないのに殺す。楽しいから殺す。殺さなくても、嫌がる相手に痛い事して喜ぶ奴だっている」
「こわい……」
 要の言っている事はとても簡単に理解出来る。
 理不尽な恐怖というものがある事を知った水無月は怖くなって要の首に抱きついた。
「要兄ちゃんもさっきぼくを噛んだけど、お兄ちゃんは誰に飼われているの?」
 水無月の素朴な疑問に要は楽しそうな笑みを浮かべた。水無月の中で要は人間の部類に入っていないようだ。
「さァ……俺は野良かもな」

(いつだってお前に噛みつきたくてウズウズしてる)

 「え? え?」と混乱して首を左右に曲げる水無月が可愛くて、要は何度か軽いキスをした。
「ねぇ、じゃあぼく、前はノライヌだったの?」
 拓水に聞けなかった事を聞く。
「そうだよ。人に飼われないで勝手に生きている犬は皆そう呼ばれているだけだ……人間が勝手にそう決めて呼んでるだけ。大した事じゃないよ」
 要の言葉にスッと心が軽くなった。自分の心と言葉が通じる事に安堵し、自分の全てを受け入れてくれる喜びに浸った。
 そういう魅力的なリーダーはきっと外でも他が近寄ってくるだろうと水無月なりに少し納得した。
 力の強い魅力的な者には選ぶ権利がある、そう思った水無月はどうしたら自分が要の一番になれるか自分の柔らかい髪の毛を指にクルクルと巻きながら考え出した。




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要くんも少しずつ人間に近づいてくれる事を祈っています。。(笑)


00:00 | 悪魔と野犬ノ仔 | comments (2) | trackbacks (0) | edit | page top↑
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コメント

けいったんさま
> 人間になりきれない水無月と 人として未完成の要の関係は、互いにとって 安らぐののでしょう。
>
> でも 2人に近しい所にいる 家族は?
> たとえば 兄の拓水は、その関係の危うさと狂気を感じ 懸念しているでしょうね。
> それで 何らかの行動を起こさなきゃいいけどなぁ

確かに奇妙なバランスで保たれていて
お互いの存在は欠かせないように思います。
そうなんですよ。
二人を見てる家族の反応なんですが、今日のUPで少し動きがあるかと思います。
(((=ω=)))ブルブル


> この要と水無月の2人は 
> 『死が2人を分かつまで』離してはいけないと 思うの私。

そうですね。
ある意味離れてはいけない気がします…。
指輪の代わりに二人で首輪交換…とか(笑)


> まだ 衣替えが終わりません。
> でも 明日は雨、いったい いつになったら終わることやら…(´;д;`)ウッ...byebye☆

衣替え、実はその最中に衣以外にも目が行ってしまったり
するんですよね(>_<)
時間、かかりますが気温が上昇する前に終わらせてしまいたいですね!
がんばって下さいー!

コメントどうもありがとうございましたe-415
桔梗.Dさん | 2013/05/18 23:19 | URL [編集] | page top↑
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さん | 2013/05/18 13:45 | URL [編集] | page top↑

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