2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

--:-- | スポンサー広告 | edit | page top↑

悪魔と野犬ノ仔 13話

 夜の風は昼間のそれよりずっと肌寒い。ここのところ毎晩のようにこうして夜一人で外へ出る。水無月の散歩は久しくしていない。
 曇りのせいで半分しか出ていない月は殆どその光を遮られていた。真っ暗な道には寂し気に佇む古い電灯だけが薄く光っていた。その光を頼りに暫く山へ向かって歩くと、草むらの方からガサガサと動物の気配が近づいて来た。
 ホタルのような二つの緑の光は草むらの向こうから様子を窺うように要を遠巻きに見ていた。
 要は手に持っていたパンを袋から出すとそれを草むらに少し投げた。
 緑に光る二つの目はそれに向かって来ると、次の瞬間咀嚼をするような音を出した。そしてゆっくりと要に近づくと、その姿が露わになった。
「よォ……ガキどうした?」
「……」
 四足で伺うようにそっと近づいてきたのは一匹の大きな雌の野良犬だった。乳が張っている事から最近子供を産んだのが分かる。
 母犬は全体的に痩せ細っており、あばら骨と背骨がくっきりと出ている。その無骨な姿は消して人に慣れない雰囲気を出していた。
 焦げ茶色の長い毛の大きな母犬は雑種のように見える。
 要はパンを千切って母犬の方へ投げた。母犬は少しずつパンに釣られ近づいて来たが一定の距離は保っていた。
 要がこの母犬に餌をやるようになったのはもっと随分前からだ。最初はこんなにも近づく事はなかった。ただ、一度水無月を触ってからエサをやった時に母犬が餌の匂いをしきりに嗅いで違った様子を見せたのを見て、もしかしたら水無月を育てた母犬かもしれない、と何となく思った。それから餌をやりに行く前には他の匂いを落とし、水無月の匂いだけを付けて行くようになった。すると母犬は随分と慣れて近づく様になった。
 水無月と一緒に育った兄弟犬はそれぞれ巣立ったのか姿は見えなかったが、代わりに何度か子犬を何匹か連れて現れた事があった。
「ミナは元気だよ……今な、勉強ってのをしてる」
 母犬は勿論要の言葉を理解などしていない筈だが、要の発する音をジッと聴いていた。
「それにしてもお前、また痩せたか? ちゃんと食ってんのか?」
 頭を人撫ですれば手が黒ずんでしまいそうな汚れた毛並みから、明らかに健康状態は良くない事が伺えた。
 要は何となく、暇を見つけては栄養のありそうな餌をやるようになった。
「お前、母親なんだろ? アイツに会いたいか? 覚えてるんだろ?」
 母犬は地面の匂いを嗅ぐようにしながら口を舐めていた。話しなど聞いていない素振りだ。それでもその場をまだ離れようとはしない。
「でもお前に会ったらアイツ、お前の所に帰って行くかな……」
 要は残りのパンを千切って全てやった。
「お前、アイツを育ててたんだな……凄いな。人間で犬の事自分の子供として乳やって育てた奴いんのかな……はは」
 要は無意識に手を母犬へ伸ばしていた。母犬はその伸ばされた白い人間の手にビクッと反応した。要は本能的に噛まれると身を硬くした。だが、母犬はスッと鼻先を要の指に伸ばすと、匂いを嗅ぎ、そして舐めた。
 暖かく大きな舌は要の指を何度も舐め、そして少し間を開けると再び草むらの中へと帰って行った。
 要は、水無月がまだ小さかった時に触れたであろうこの暖かい感触を同じように感じて、何だか胸が暖かくなった。
 家に帰るとパジャマに着替えた水無月がリビングで暖かいミルクを飲んでいた。
「ただいま」
「おかえりなさいっ、お母さんは部屋でないしょくをしてるよ!」
 水無月がきちんと報告をする。
「うん」
 要は靴を脱ぎ、そのまま洗面所に向かおうとして足を止めた。

(ミナは分かるだろうか)

 要は方向転換をすると、リビングで座っている水無月に近づき、そして手を顔の前にそっと手を伸ばした。
 途端に水無月の顔つきが変わった。
 全ての感覚を嗅覚のみにし、そこから情報を読み取っている様子だった。時間にして三、四秒程だった。水無月はガタッと立ち上がると泣きそうな顔をして口を開いた。
 だが開いた口からは言葉は出ず、何かを訴えるような犬のキュンキュンとした鳴き声が響いた。
「……母親か?」
 水無月の大きな瞳に涙が一杯浮かんだ。まるで一気にホームシックに掛ったような泣き顔だ。
「おか……さん」
 水無月は静かに涙を流しながら要の手に額を寄せた。
 要は水無月の身体を引き寄せ、ギュッと抱き締めた。自分が貰った暖かいものを受け渡す様に、水無月の頭を自分の心臓に押し当てる。
「会いたいなら、会わせてやる」
「ほんとう?」
「お前の兄弟はいないけど、でも別の赤ん坊が沢山いたぜ」
「うん……じゃあ、子犬もつれて行く」
 水無月の言う“じゃあ”の意味は分からなかったが、要は水無月のしたいようにさせようと思った。

「……ミナ。そういえば思ってたんだが」
「……?」
「子犬に名前、付けないんだな」
「うん……子犬」
「そうか」

(じゃあ大きくなっても子犬か)

 要は水無月の頬をふにっと摘まんだ。




<<前へ      次へ>>

5/25:うわぁっ(>ω<) すみません、間に合いそうにないので26日にUPしますー!
ごめんなさいぃぃっ
Σ(゚□´(┗┐ヽ(・◇・´)ノ ライダーキック!!


★拍手コメントのお返事はボタンを押して頂いた拍手ページ内に致します。
  拍手秘コメの場合は普通コメント欄にてお返事致します。m(_ _)m

web拍手 by FC2
お礼画像あり☆5種ランダム

00:00 | 悪魔と野犬ノ仔 | comments (2) | trackbacks (0) | edit | page top↑
悪魔と野犬ノ仔 14話 | top | 悪魔と野犬ノ仔 12話

コメント

けいったんさま Re: 人間らしい要って…
> 水無月を育てた雌犬に 餌を与え 撫でる要
> 彼が、人間らしい(?(笑))振る舞いや 優しいと思える事をしてたら 
> 「嬉しい。。。。。Σヾ(*☆ω☆*)ノギャアアーー!! 」となるのが 普通。
> 私も嬉しいよ!
> 嬉しいけど…
> でも… 何故か 怖さを感じたよ~~( ゚ω゚;)ブルッ
> それは きっと 要が見せる両極端の表情と行動のせいに違いない!

確かにちょっと人間みたいに可愛がって育てている感じがしますね(笑)
あ、けいったんさまが喜んで下さっている♪
しかしながらちょっと怖い…(笑)
何で奴ってば両極端な子なのでしょうね…。

> 要にとって 水無月に関する事以外は 全て 「嫌悪+憎悪の対象」
> そうなった原因は 何かしらねー
> _s(・`ω´・;)ゞ .. んん??...byebye☆

そうですね。
何だか人間自体嫌っている感じですものね(>_<)
自分も嫌いになっちゃわないか心配です。。
要くん。。遠くから見守っているお姉さんたちは君が心配だ(笑) ←


コメントどうもありがとうございましたe-415
桔梗.Dさん | 2013/05/25 19:56 | URL [編集] | page top↑
承認待ちコメント
このコメントは管理者の承認待ちです
さん | 2013/05/24 13:19 | URL [編集] | page top↑

コメント

管理者にだけ表示を許可する

trackbacks

この記事のトラックバックURL:
http://kikyo318d.blog.2nt.com/tb.php/636-489c5a2d
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)