01/18/2012(Wed)
貴方の狂気が、欲しい 15話
由朗の向かわせた車が到着したのは都心にあるホテルだった。
時枝がロビーの受け付けに行くと直ぐにスタッフが部屋番号を教えてくれた。その部屋番号のある最上階へと向かう。
エレベーターを降りると部屋のドアの反対側の壁がずっとガラス窓になっており、日が暮れかかっている群青色の街に明かりがポツポツと綺麗に見えた。
カーブになっている長い廊下の途中で、目当ての部屋番号があった。
部屋のドアをノックすると、カチャリと開いて紺色のガウン姿の由朗が迎えてくれた。
「あ……お休みでしたか?! 申し訳ありませんっ」
時枝が慌てて謝罪をしている側から、「いいから入りなさい」と由朗は優しく肩に手を掛けて招き入れた。
時枝は今まで由朗に自分から頼った事はあまりなかった。それが余計に緊張した。
まさか自分が泣いて由朗に電話を掛けるなど有り得ないと、今更恥ずかしくなってきた。
「少し飲むか?」
「……ではお言葉に甘えて、ほんの少しだけ」
由朗は時枝の赤い目元をチラリと盗み見ながらバカラのグラスにウィスキーを入れた。
「お前の泣き顔は、初めて見たよ」
「あ……別にこれは……」
時枝は慌てて目元を擦った。
飲み物を用意し終わった由朗が自分の元へ来る気配で、時枝は顔を向ける。
近づく由朗の手にグラスが一つだけ持たれているのを見て疑問を口にした。
「由朗様は飲まれないのですか?」
「ん? いや、飲むよ。これは私のだからね」
「え……」
さっき自分も飲むと言ったのだが忘れてしまったのか、それともわざと意地悪をしているのか、どちらにしてもたったこれだけの事で少し悲しくなった。
信じられない事に、時枝の目がしらがまた少し熱くなった。
「おや……。今度は私が泣かせてしまったかな?」
その言葉で時枝がハッと顔を背けた。
由朗はそんな初々しい時枝を見ながら旨そうに隣で一口ウィスキーを口に含んだ。そして時枝の顔を細い顎を掴むと乱暴に口付けをした。
「やっ……んん」
塞がれた口から豊潤な香りの強いウィスキーが時枝の口内へと流れ込んでくる。
「んっ……っ」
熱い液体が喉を通り過ぎてもまだ、由朗はそのまま時枝の舌を絡め取り味わっていた。
「なんて可愛いんだろうね、お前は……慶介に泣かされたのか?」
「ん……ぁっ」
「いい感じだ。あいつがお前を好きになったら、そしたらお前を抱いてあげよう」
時枝は反射的に由朗の手から逃げた。
「何を言っているのですか……」
「何って……お前は私に抱かれたくないのか? 拒めるのか?」
木戸の事はきっと純粋に好きだ。
だが由朗には逆らえない。
逆らう理由がない。
好きとか嫌いとかいう次元ではなかった。条件反射や催眠術に近いかもしれない。
由朗の言う事は聞くものとして育てられた。
最初は由朗が木戸を好きになりなさいと言ったから好きになった。
「お前は好きの意味が分からなくてずっと慶介の世話をし、付きっきりで手足となり言う事を聞いてきた……でも漸く本当に好きになったんだね。私は嬉しいよ」
嬉しいといいながら、由朗の微笑みはとても残酷に妖しく光っていた。
可愛い羊をまるまると自分の手で太らせて美味しく食べてしまうオオカミに似ている。
時枝は血の気が引いた。
(まさか……)
「私はね、慶介もとても愛しているんだよ。だから見てみたいじゃないか。二人の愛する者の泣き顔を……。あぁぁぁ…考えただけでゾクゾクするよ」
由朗は既に絶頂を向かえそうな高揚感を得ていた。
時枝はそんな由朗を冷めた目で見ながら思った。
――やはりこの人は私の事などお遊びの一つとしか見ていない。
それを分かっていても尚、崩れそうな心を少しでも元の形に直すのに由朗に縋る他なかった。
――きっとこの世で私を愛している者などいない。
今まで何も気にならなかったこんな事が、急に不安になる程時枝の心を占めていた。
(きっと初めて人を好きになったからなのだろう)
「香。こっちへ来なさい。気持ち良くして嫌な事を忘れさせてあげよう」
由朗がベッドへと時枝の白い手を引き寄せた。
<<前へ 次へ>>
木戸の父だな……(-ω-;)
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時枝がロビーの受け付けに行くと直ぐにスタッフが部屋番号を教えてくれた。その部屋番号のある最上階へと向かう。
エレベーターを降りると部屋のドアの反対側の壁がずっとガラス窓になっており、日が暮れかかっている群青色の街に明かりがポツポツと綺麗に見えた。
カーブになっている長い廊下の途中で、目当ての部屋番号があった。
部屋のドアをノックすると、カチャリと開いて紺色のガウン姿の由朗が迎えてくれた。
「あ……お休みでしたか?! 申し訳ありませんっ」
時枝が慌てて謝罪をしている側から、「いいから入りなさい」と由朗は優しく肩に手を掛けて招き入れた。
時枝は今まで由朗に自分から頼った事はあまりなかった。それが余計に緊張した。
まさか自分が泣いて由朗に電話を掛けるなど有り得ないと、今更恥ずかしくなってきた。
「少し飲むか?」
「……ではお言葉に甘えて、ほんの少しだけ」
由朗は時枝の赤い目元をチラリと盗み見ながらバカラのグラスにウィスキーを入れた。
「お前の泣き顔は、初めて見たよ」
「あ……別にこれは……」
時枝は慌てて目元を擦った。
飲み物を用意し終わった由朗が自分の元へ来る気配で、時枝は顔を向ける。
近づく由朗の手にグラスが一つだけ持たれているのを見て疑問を口にした。
「由朗様は飲まれないのですか?」
「ん? いや、飲むよ。これは私のだからね」
「え……」
さっき自分も飲むと言ったのだが忘れてしまったのか、それともわざと意地悪をしているのか、どちらにしてもたったこれだけの事で少し悲しくなった。
信じられない事に、時枝の目がしらがまた少し熱くなった。
「おや……。今度は私が泣かせてしまったかな?」
その言葉で時枝がハッと顔を背けた。
由朗はそんな初々しい時枝を見ながら旨そうに隣で一口ウィスキーを口に含んだ。そして時枝の顔を細い顎を掴むと乱暴に口付けをした。
「やっ……んん」
塞がれた口から豊潤な香りの強いウィスキーが時枝の口内へと流れ込んでくる。
「んっ……っ」
熱い液体が喉を通り過ぎてもまだ、由朗はそのまま時枝の舌を絡め取り味わっていた。
「なんて可愛いんだろうね、お前は……慶介に泣かされたのか?」
「ん……ぁっ」
「いい感じだ。あいつがお前を好きになったら、そしたらお前を抱いてあげよう」
時枝は反射的に由朗の手から逃げた。
「何を言っているのですか……」
「何って……お前は私に抱かれたくないのか? 拒めるのか?」
木戸の事はきっと純粋に好きだ。
だが由朗には逆らえない。
逆らう理由がない。
好きとか嫌いとかいう次元ではなかった。条件反射や催眠術に近いかもしれない。
由朗の言う事は聞くものとして育てられた。
最初は由朗が木戸を好きになりなさいと言ったから好きになった。
「お前は好きの意味が分からなくてずっと慶介の世話をし、付きっきりで手足となり言う事を聞いてきた……でも漸く本当に好きになったんだね。私は嬉しいよ」
嬉しいといいながら、由朗の微笑みはとても残酷に妖しく光っていた。
可愛い羊をまるまると自分の手で太らせて美味しく食べてしまうオオカミに似ている。
時枝は血の気が引いた。
(まさか……)
「私はね、慶介もとても愛しているんだよ。だから見てみたいじゃないか。二人の愛する者の泣き顔を……。あぁぁぁ…考えただけでゾクゾクするよ」
由朗は既に絶頂を向かえそうな高揚感を得ていた。
時枝はそんな由朗を冷めた目で見ながら思った。
――やはりこの人は私の事などお遊びの一つとしか見ていない。
それを分かっていても尚、崩れそうな心を少しでも元の形に直すのに由朗に縋る他なかった。
――きっとこの世で私を愛している者などいない。
今まで何も気にならなかったこんな事が、急に不安になる程時枝の心を占めていた。
(きっと初めて人を好きになったからなのだろう)
「香。こっちへ来なさい。気持ち良くして嫌な事を忘れさせてあげよう」
由朗がベッドへと時枝の白い手を引き寄せた。
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コメント
色々と障害がありそうな感じです(>ω<)
二人を一体どうする気なのか、
もうそっとしといてやってくれ~ (。>д<)ノと叫ぶばかりです!
ー ̄) ニヤッ Σ(ロ゚ ノ)ノビクッ!
↑
ヨシロー
拍手秘コメントどうもありがとうございました
ですよね~(;・∀・)
この底意地の悪さといい、興奮するツボといい…。
(;-_-) =3 フゥ
ん?!優しいだけじゃないと思っていたところに
何故かルンルンマークが!(笑)
> なぜなら私も泣かせたい派……
キタ━━━(゚∀゚)━━━!!!
Wさまご本人は自称Mなのに実はとってもドSなところもある神秘発言!(笑)
Wさまのウケたんの苛め方、本当ハンパないからなぁ(笑)
大興奮ですよッ!!
あぁぁ読みに行けてなくてスミマセン(>ω<)!!
でもアレですよね。(何にでも使える魔法の単語「アレ」)
可愛いなって思えば思う程嫌われるギリギリまで苛めたい心理とかありますよね。
それが痛いのに、悲しいのに、泣いているのに自分の事好きとか堪りません!
じゃあ我慢出来るよね…ってエスカレートさせていきたいぃぃ(//∀//)
(*´Д`)ハァハァ ←
すみません、勝手に話盛り上がってハァハァしだしました;
時枝くん、沢山の障害を乗り越えていけるか(-ω-;)
コメントどうもありがとうございました
そんな挙手をして頂いて嬉しいですvvv
木戸などいなくてもSさまが居て下さればきっと…(//∀//)
ぬぉぉ…時枝を愛しているとっ!!
何と羨ましい奴だ!
でもこれできっと時枝も寂しくありません!
ウン(*-ω-)(-ω-*)ウン
応援して下さっている皆さまの声を背に、
時枝も前向きになってくれればと思います(>ω<)
いや、木戸がもう少し素直に優しくなればいいのだな…。 (-ω-)
コメントどうもありがとうございました
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