04/30/2010(Fri)
GW企画「恋のぼり」1話
僕には、何もなかった。
いつの間にか寺で他の孤児と一緒に生活をして、仲の良かった友達もいつも間にか消えていった。僧侶の人に、あの子はどこに行ったのかと尋ねると、決まって新しい人に引き取られたのだと言われた。今となっては本当のところ、どうなのかは分からない。僕のように偶々本当に引き取られたかもしれないし、人身売買に遭ってしまったかもしれない。
僕には繋がりがなかった。
十の時分から引き取られた先の家で下働きをさせてもらってはいるが、所詮は他人でしかない。旦那様の家族には、奥様と二人の子供たちがいて、ちゃんと家族が既に成り立っている。商売が忙しい裕福な旦那様と奥様は、手のかかる次男の遊び相手兼家の手伝いという名目で僕を引き取った。
何故僕だったのか、それは長男の龍ノ助さまが決めて下さったからだ。
あの時、あの雨の日に屋根から落ちる雨水の落ちる音を音楽の代わりに聞いて一人で遊んでいると、当時十才だった僕よりも3つ上だった龍ノ助さまが近づいて来られた。
「何してるの?」
「え・・雨水の音を聞いてるの。色んな音がするから・・」
「ふーん・・」
僕達は一緒に音を聞いた。不規則な音がリズムになってそれを僕は真似て口ずさんだ。
「君、この音が歌えるんだ。凄いね。」
僕は驚いた。いつもいつも一人で雨の日はこうして遊ぶのが常だった事が凄いと言われた。僕は初めて言われた言葉に耳まで火照り、顔を赤くしてしまった。何故あんなに顔が熱くなったのか。今ならその感情がどんな時に沸き起こるのかが理解できる。
「健康で丈夫そうな、素直な子がいいわねぇ、アナタ。」
「うーん、そうだなぁ。あの子なんかいいんじゃないか?がっちりしてるし。」
近くで会話が聞こえてきた。偶にしか話さない次郎と呼ばれていた子を指差しているのが見えた。
「えー、ヤダぁー」
はっきりと本人を目の前にして否定を言葉にした僕と同い年位の気の強そうな子がダダを捏ねている。僕は自分が言われた訳でもないのにズクンと胸が痛んだ。
「来て。」
横にいた龍ノ助さまがスクッと立ち上がって僕を誘導した。龍ノ助さまがご両親の所まで僕を案内すると、何やら交渉しているようだった。僕は、僕の事を睨む弟の鋭い目線から居心地の悪さで小さく縮こまっていた。
「女の子みたいで可愛いんだけど・・大丈夫かしら?」
「仕方ないなぁ。お前がそう言うなら・・まぁいいだろう。」
そう聞こえた時だった。振り返った龍ノ助さまがふわりと優しい笑顔を向けて僕にこう言って下さったんだ。
「おいで。」
そう言って手を差し伸べられた。僕はどうしていいか分からずモジモジしているとそっと手を取って「今日から家で一緒に暮らすんだ」と、言ってくれた。
「えー・・ヤダァ・・」
今度は自分に向けて言われた言葉にやっぱり胸が痛んだけれど、向けられたあまりに優しい龍ノ助さまの笑顔に惹き込まれていたので、あまり気にならなかった。
僕はもう、あの時からずっと龍ノ助さまに恋をしてるんだと思う。
「雨音!雨音ッ!これ、片付けとけよ!」
「あっ・・はい。ただいま・・。」
雨音はあの日、龍ノ助さまが僕に付けて下さった名前だ。それまで適当に太郎だの一郎だのと呼ばれていた僕は元々の名など知らないと言った。
「じゃあ、雨の音を聞いていたから雨音というのはどうだ?」
(アマネ・・・素敵な名・・)
初めて貰った名。僕の、僕だけの名は大好きな龍ノ助さまから頂いた。
「おいッ何ボサッとしてんだよ雨音!早くしろよッ!」
突然背中に衝撃が走り、前へドサリと胸を打ち付けて呼吸が苦しくなる。
「ゴホッ・・」
引き取られてから既に約二年余り経つが、あの日から龍ノ助さまの弟の俊平さまは僕を目の敵にするかの如く、絶えず辛く当たってくる。この仕打ちもいつもの事だ。それでも龍ノ助さまの側にいられるなら何だって我慢ができる。
それにこんな僕を引き取って下さったこの家の方はやっぱり僕にとってはとても身近で、やっぱり愛おしく感じるんだ。例え一方通行だったとしても。
いつか俊平さまにも普通にお話が出来たらいいなと思う。
俊平さまは僕と同い年だ。やんちゃで気が強く、我侭放題の甘えん坊だ。それに、龍ノ助さまにベッタリだったので、僕に優しくする兄を見る度に陰で僕を足蹴にした。
僕からすれば、家族が居て、あんな素敵な兄がいて血が繋がっているという何物にも変えがたい事実があるのに、それでも更に独り占めしようとする俊平さまの気持ちが、ただの兄弟に向けられるものだけではない気がした。
<<目次へ 次へ>>
5月の企画、┣>・)BBB≪ こいのぼり
始動です♪
でもこんな爽やかなタイトルなのに
シリアスになっちゃった(ノДT)アゥゥ
ポチして頂けたら嬉しいですO(≧∀≦)O
にほんブログ村
いつの間にか寺で他の孤児と一緒に生活をして、仲の良かった友達もいつも間にか消えていった。僧侶の人に、あの子はどこに行ったのかと尋ねると、決まって新しい人に引き取られたのだと言われた。今となっては本当のところ、どうなのかは分からない。僕のように偶々本当に引き取られたかもしれないし、人身売買に遭ってしまったかもしれない。
僕には繋がりがなかった。
十の時分から引き取られた先の家で下働きをさせてもらってはいるが、所詮は他人でしかない。旦那様の家族には、奥様と二人の子供たちがいて、ちゃんと家族が既に成り立っている。商売が忙しい裕福な旦那様と奥様は、手のかかる次男の遊び相手兼家の手伝いという名目で僕を引き取った。
何故僕だったのか、それは長男の龍ノ助さまが決めて下さったからだ。
あの時、あの雨の日に屋根から落ちる雨水の落ちる音を音楽の代わりに聞いて一人で遊んでいると、当時十才だった僕よりも3つ上だった龍ノ助さまが近づいて来られた。
「何してるの?」
「え・・雨水の音を聞いてるの。色んな音がするから・・」
「ふーん・・」
僕達は一緒に音を聞いた。不規則な音がリズムになってそれを僕は真似て口ずさんだ。
「君、この音が歌えるんだ。凄いね。」
僕は驚いた。いつもいつも一人で雨の日はこうして遊ぶのが常だった事が凄いと言われた。僕は初めて言われた言葉に耳まで火照り、顔を赤くしてしまった。何故あんなに顔が熱くなったのか。今ならその感情がどんな時に沸き起こるのかが理解できる。
「健康で丈夫そうな、素直な子がいいわねぇ、アナタ。」
「うーん、そうだなぁ。あの子なんかいいんじゃないか?がっちりしてるし。」
近くで会話が聞こえてきた。偶にしか話さない次郎と呼ばれていた子を指差しているのが見えた。
「えー、ヤダぁー」
はっきりと本人を目の前にして否定を言葉にした僕と同い年位の気の強そうな子がダダを捏ねている。僕は自分が言われた訳でもないのにズクンと胸が痛んだ。
「来て。」
横にいた龍ノ助さまがスクッと立ち上がって僕を誘導した。龍ノ助さまがご両親の所まで僕を案内すると、何やら交渉しているようだった。僕は、僕の事を睨む弟の鋭い目線から居心地の悪さで小さく縮こまっていた。
「女の子みたいで可愛いんだけど・・大丈夫かしら?」
「仕方ないなぁ。お前がそう言うなら・・まぁいいだろう。」
そう聞こえた時だった。振り返った龍ノ助さまがふわりと優しい笑顔を向けて僕にこう言って下さったんだ。
「おいで。」
そう言って手を差し伸べられた。僕はどうしていいか分からずモジモジしているとそっと手を取って「今日から家で一緒に暮らすんだ」と、言ってくれた。
「えー・・ヤダァ・・」
今度は自分に向けて言われた言葉にやっぱり胸が痛んだけれど、向けられたあまりに優しい龍ノ助さまの笑顔に惹き込まれていたので、あまり気にならなかった。
僕はもう、あの時からずっと龍ノ助さまに恋をしてるんだと思う。
「雨音!雨音ッ!これ、片付けとけよ!」
「あっ・・はい。ただいま・・。」
雨音はあの日、龍ノ助さまが僕に付けて下さった名前だ。それまで適当に太郎だの一郎だのと呼ばれていた僕は元々の名など知らないと言った。
「じゃあ、雨の音を聞いていたから雨音というのはどうだ?」
(アマネ・・・素敵な名・・)
初めて貰った名。僕の、僕だけの名は大好きな龍ノ助さまから頂いた。
「おいッ何ボサッとしてんだよ雨音!早くしろよッ!」
突然背中に衝撃が走り、前へドサリと胸を打ち付けて呼吸が苦しくなる。
「ゴホッ・・」
引き取られてから既に約二年余り経つが、あの日から龍ノ助さまの弟の俊平さまは僕を目の敵にするかの如く、絶えず辛く当たってくる。この仕打ちもいつもの事だ。それでも龍ノ助さまの側にいられるなら何だって我慢ができる。
それにこんな僕を引き取って下さったこの家の方はやっぱり僕にとってはとても身近で、やっぱり愛おしく感じるんだ。例え一方通行だったとしても。
いつか俊平さまにも普通にお話が出来たらいいなと思う。
俊平さまは僕と同い年だ。やんちゃで気が強く、我侭放題の甘えん坊だ。それに、龍ノ助さまにベッタリだったので、僕に優しくする兄を見る度に陰で僕を足蹴にした。
僕からすれば、家族が居て、あんな素敵な兄がいて血が繋がっているという何物にも変えがたい事実があるのに、それでも更に独り占めしようとする俊平さまの気持ちが、ただの兄弟に向けられるものだけではない気がした。
<<目次へ 次へ>>
5月の企画、┣>・)BBB≪ こいのぼり
始動です♪
でもこんな爽やかなタイトルなのに
シリアスになっちゃった(ノДT)アゥゥ
ポチして頂けたら嬉しいですO(≧∀≦)O
にほんブログ村
| ホーム |
コメント
こんばんは~☆
> 雰囲気出てますね。
出てますか?!嬉しいですぅ~
またまた時代モノ・・。もっと萌え中心のものを書こうとすると、全く違う案がふわ~と出てきてしまって。
> 雨音って名前も素敵です。
> 雨音を聞いていたエピソードから、キャラの容姿とか性格までも想像できちゃいます。
ありがとうございます
大好きな龍ノ助さまに付けて貰った名なので雨音もきっと喜びます^^
それにエピソードでキャラを想像できると言って頂けて、もう嬉し過ぎです。
「あ、さとうさま、ありがとうございますっm(_)m」←雨音より
コメントありがとうございました
雰囲気出てますね。
雨音って名前も素敵です。
雨音を聞いていたエピソードから、キャラの容姿とか性格までも想像できちゃいます。
> ものすごい世界観と描写の美しさだね~~!!
ΣΣ( ̄◇ ̄;)!ハウッ!?
勿体なきお言葉!!
美しいなんて・・世界観だなんてェーッ ε=ε=ε=(ノTдT)ノ ワアァァ・・!!
> 堪能~~~(〃▽〃)
感動~~~o(T◇T)oオオオン
> 続きがものすごい楽しみです!!!
頑張ります!!!ムキッ
コメありがとうございました
堪能~~~(〃▽〃)
続きがものすごい楽しみです!!!
コメント