03/27/2012(Tue)
貴方の狂気が、欲しい 55話
「貴方は? 何故私を知っているのですか?」
「え……何でって……僕ですよ? 弘夢です」
「……分かりません」
“弘夢”の声を聞く度に目の奥がキリキリと痛む。
――私はこの子を知っている?
「おーい、時枝! 用意出来たぞー」
木戸の声が少し遠くから響く。
「時枝さん、どうしたんですか? 僕が分からないんですか?」
――弘夢……弘夢……弘夢。
「時枝―!」
木戸が時枝を呼ぶ声で、懐かしい響きが耳奥で再生された。
『弘夢』
その声は確かに木戸の声で、何度も弘夢を呼んでいた。その事を時枝は知っていた。何故忘れていたのか不思議なくらい大きな過去だ。
――木戸さまは弘夢くんを愛していた。どうして今更思い出したのでしょう。
今まで気持ち良く浴びていた太陽の光を急に避けたい気持ちになった。
いっそ雨戸も、障子も、カーテンも、ドアも、全て閉めてしまいたい気分だ。
「あの、時枝さん……伝えて貰えますか? もうお金を振り込むのは止めて下さいって」
――お金って? あぁ。罪滅ぼしのつもりかまだ少しでも忘れられたくないという意識からか振り込みしていたやつ……。あれ……でも……木戸さまと弘夢くんは確か……。
そして時枝は最後に目に焼き付いた二人の姿を思い出した。
――ああ……そうでした……木戸さまはやっぱりずっと彼を愛していたんでした。
時枝の目に涙が浮かび上がり、次から次へと頬へ流れ落ちた。
胸がキリキリと痛んだ。
声を押し殺していても、我慢の効かない悲しみが襲ってくる。
電話口から弘夢の声が微かに聞こえるが、時枝の手からは既に携帯は離れていた。
「時枝!」
後ろから木戸が胸を押さえて蹲る時枝に駆け寄った。
「どうした!? どこか痛いのか?!」
青くなって時枝の肩を包んだ時、未だ通話中になっている携帯電話が視界に入って木戸は血の気が引いた。
「お前、携帯に出たのか!? 何か……思い出したのか!?」
木戸は急いで通話を切った。
「ぅ……ぅ……」
時枝は漏れる泣き声を手で強く押さえつけているが、それがかえって悲痛な呻き声に聞こえて木戸も胸が痛んだ。
「おい、よく聞け時枝。俺と弘夢は別にどうにもなってない。俺が好きなのはお前だけだ」
時枝は頭を振った。
――違う。貴方は優しいから。
「お前、最後俺と弘夢が抱き合ってたの、見たんだろ?」
――そうだ……あの時の木戸さまの優しい顔、覚えている。
「あれは……あの時、まだ自分がお前を好きなんだって自覚出来てなくて、むしゃくしゃしてたのもあって弘夢に会いに行ったんだ。会いに行ったのは悪かった。でもそのお陰で俺はお前が好きなんだって自覚できたんだ。本当だッ」
――私はあの後どうした……何故こんな形になった? 何故素直に木戸さまの言葉を喜べない?
時枝はクラリと眩暈を感じた。何だか空気が薄く感じる。
――あの後私は自棄になって……何故? 何かショックな事を聞いた……誰に? 木戸さまに似た……あ……由朗さまだ……何を聞いた?
空気が足りない。吸っても吸っても苦しくなるばかりだ。
時枝は激しくヒューヒューと気管を鳴らして肩で息を吸いだした。
「おいッ、もういい! もういいから時枝! 思い出すなッ」
木戸は直ぐに時枝が過呼吸になりだしたのに気付き、慌てて紙袋を探した。
<<前へ 次へ>>
思い出してきちゃった(>_<)!
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「え……何でって……僕ですよ? 弘夢です」
「……分かりません」
“弘夢”の声を聞く度に目の奥がキリキリと痛む。
――私はこの子を知っている?
「おーい、時枝! 用意出来たぞー」
木戸の声が少し遠くから響く。
「時枝さん、どうしたんですか? 僕が分からないんですか?」
――弘夢……弘夢……弘夢。
「時枝―!」
木戸が時枝を呼ぶ声で、懐かしい響きが耳奥で再生された。
『弘夢』
その声は確かに木戸の声で、何度も弘夢を呼んでいた。その事を時枝は知っていた。何故忘れていたのか不思議なくらい大きな過去だ。
――木戸さまは弘夢くんを愛していた。どうして今更思い出したのでしょう。
今まで気持ち良く浴びていた太陽の光を急に避けたい気持ちになった。
いっそ雨戸も、障子も、カーテンも、ドアも、全て閉めてしまいたい気分だ。
「あの、時枝さん……伝えて貰えますか? もうお金を振り込むのは止めて下さいって」
――お金って? あぁ。罪滅ぼしのつもりかまだ少しでも忘れられたくないという意識からか振り込みしていたやつ……。あれ……でも……木戸さまと弘夢くんは確か……。
そして時枝は最後に目に焼き付いた二人の姿を思い出した。
――ああ……そうでした……木戸さまはやっぱりずっと彼を愛していたんでした。
時枝の目に涙が浮かび上がり、次から次へと頬へ流れ落ちた。
胸がキリキリと痛んだ。
声を押し殺していても、我慢の効かない悲しみが襲ってくる。
電話口から弘夢の声が微かに聞こえるが、時枝の手からは既に携帯は離れていた。
「時枝!」
後ろから木戸が胸を押さえて蹲る時枝に駆け寄った。
「どうした!? どこか痛いのか?!」
青くなって時枝の肩を包んだ時、未だ通話中になっている携帯電話が視界に入って木戸は血の気が引いた。
「お前、携帯に出たのか!? 何か……思い出したのか!?」
木戸は急いで通話を切った。
「ぅ……ぅ……」
時枝は漏れる泣き声を手で強く押さえつけているが、それがかえって悲痛な呻き声に聞こえて木戸も胸が痛んだ。
「おい、よく聞け時枝。俺と弘夢は別にどうにもなってない。俺が好きなのはお前だけだ」
時枝は頭を振った。
――違う。貴方は優しいから。
「お前、最後俺と弘夢が抱き合ってたの、見たんだろ?」
――そうだ……あの時の木戸さまの優しい顔、覚えている。
「あれは……あの時、まだ自分がお前を好きなんだって自覚出来てなくて、むしゃくしゃしてたのもあって弘夢に会いに行ったんだ。会いに行ったのは悪かった。でもそのお陰で俺はお前が好きなんだって自覚できたんだ。本当だッ」
――私はあの後どうした……何故こんな形になった? 何故素直に木戸さまの言葉を喜べない?
時枝はクラリと眩暈を感じた。何だか空気が薄く感じる。
――あの後私は自棄になって……何故? 何かショックな事を聞いた……誰に? 木戸さまに似た……あ……由朗さまだ……何を聞いた?
空気が足りない。吸っても吸っても苦しくなるばかりだ。
時枝は激しくヒューヒューと気管を鳴らして肩で息を吸いだした。
「おいッ、もういい! もういいから時枝! 思い出すなッ」
木戸は直ぐに時枝が過呼吸になりだしたのに気付き、慌てて紙袋を探した。
<<前へ 次へ>>
思い出してきちゃった(>_<)!
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コメント
Σ(ロ゚ ノ)ノビクッ! ←
> 弘夢が スイッチを押しちゃった!
> そこまでで STOPだよ~!
> それ以上は 思い出さなくて いいから 時枝!
本当ですよね(>ω<)!
もうそれ以上無理に思い出さないでー!と言いたいです…。
が、押されたスイッチは止まらないようで……(ノ△・。)
> 私も過呼吸になりそう~~~
> /ヽァ/ヽァ/ヽァ/ヽァ ε= (´Д`;)=3 ハァハァハァハァ...byebye☆
はっ!∑(°ロ°*)
大丈夫ですかッ!?
過呼吸、本当苦しいですものね(*´Д`)ハァハァ
大丈夫です!いつでも紙袋持参で駆けつけますゆえ!
ダッシュ!≡≡≡ヘ(*--)ノ ◇
コメントどうもありがとうございました
はい(´Д`A;)
ついに戻りだしました…が!
雪崩のように辛い記憶が降って来て心配であります(>_<)
> そして過呼吸!((実に美味しいです
過度のストレスですね(>_<)
私も過去に何回か経験ありますが苦しいしパニック状態になります(>_<)
入院中、酸素濃度上げられ過ぎてなった事もありました;
過去が役に立ちました(*´∇`*) ←
> 木戸さん、果たしてどう対処するのか!?
木戸くんは対処できるか!?
ちょっと心配です(>ω<)
> 気になります~すごく! そして久々のヒロムくん!
> 記憶が完全に戻りそうなキッカケがヒロムくん! …皮肉ですね。頑張って乗り越えてほしいです。木戸さんも、時枝さんもっ!
何故今なのだ弘夢よ!!と言いたいですが、
きっと木戸が東京に戻った時にお金振り込んだりしたのでしょう (-ω-)
皮肉なタイミングですよね、本当(涙
補足として木戸くん、ネットでの振り込みを忘れたのかもしれません。
とにかく二人とも正念場です!
頑張って欲しいですね(>△<)!
> 更新がお早いのでとても嬉しいです。自分のペースで、続編、待ってます。
> では、乱文失礼しました…!!!
ありがとうございます(ノД`)・゜・
続けて更新出来る日と出来ない日もあるので
なるべく時間見つけて更新出来る様に頑張りたいと思います!
続編待って下さってありがとうございます(*´∇`*)
コメントどうもありがとうございました
弘夢が スイッチを押しちゃった!
そこまでで STOPだよ~!
それ以上は 思い出さなくて いいから 時枝!
私も過呼吸になりそう~~~
/ヽァ/ヽァ/ヽァ/ヽァ ε= (´Д`;)=3 ハァハァハァハァ...byebye☆
そして過呼吸!((実に美味しいです
木戸さん、果たしてどう対処するのか!?
気になります~すごく! そして久々のヒロムくん!
記憶が完全に戻りそうなキッカケがヒロムくん! …皮肉ですね。頑張って乗り越えてほしいです。木戸さんも、時枝さんもっ!
更新がお早いのでとても嬉しいです。自分のペースで、続編、待ってます。
では、乱文失礼しました…!!!
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