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万華鏡-江戸に咲く-10

 美月はとにかくあの男のいる店が見えなくなる所まで走った。

(悔しい・・悔しい・・!人のこと軽く見やがって・・あんな、体しか見てないような目で見やがって!)

 美月は火照る顔に外気の風を当てながら走っている間も、あの美しい男に与えられた媚薬のような甘美な口付けを思い出していた。ズクンと下っ腹の方から鈍痛が沸くと、身体にも火照りが帯びてくる。  走るのを止め、息を整いながら歩く。

 男の意地の悪そうな目つきを思い出し、囁かれた言葉を思い出す。

―もっと苛めて欲しいんだろう?

 胸の尖りを男の硬い爪で引っ掛かれた時の感覚が鮮明に蘇る。それだけで落ち着き始めていた筈の胸元の蕾に硬さが戻り出す。

(俺、おかしいよ。知らない奴なのにあんなに感じたりして。くそっ。あいつのせいだ。あの、夜とかいう遊び人の!)

―きっと男前でテクニシャンな奴に偶々会って不覚にも感じてしまっただけだ、テクニシャンなのだから感じてしまっても仕方ない。あの男はとても魅力的な容姿をしていたから、それで少し気分が高揚して油断をしてしまったに違いない。ああやって誰にでも手を出すような遊び人なんだ。

 美月は自分に冷静に言い聞かせると些か強引なようだが、一先ず納得できた。

 歩いているうちに少しずつ落ち着きを取り戻してきた美月はひとまず茶屋に寄って一息つきたくなった。店先に出された大きな傘下に赤い長椅子が置かれていたのでそれに腰をかけると店員が中から注文を取りに来る。

 早速店員にお茶と団子を頼むとすぐに用意をしてきた。
「はい、お団子お待たせね~。お茶と団子で八文だよ。」
「・・・はちもん?」
「そだよ。・・あんた、まさかお金がないってんじゃないだろうねえ?」

(やべーッ!!すっかり忘れてた!こっちの金、俺持ってね~のに何ちゃっかり頼んでんだ?!)

「こ・・これじゃあダメ?」
ダメ元で500円玉を渡してみる。
「なーんだいこりゃあ?」

(ですよね~。はぁ・・団子あきらめよ・・グスン)

 諦めて席から立ち上がるとすぐ隣に別の客が座り、店員に注文をしてきた。
「これで私と彼の分。私にも彼と同じものをお願いできるかな?」
「あ・・ああ、はいはい。ただいま。」
 店員が中へそそくさと入ると、美月はこの見ず知らずの男に今しがた奢られたのだと気付いて慌てて礼を言う。

「あの!すみません、有難うございました!本当に助かりました。こんな見ず知らずの方に・・なんてお礼を言っていいか・・」
 改めて隣に座る男を見ると、30代半ば位であろうか。肩甲骨辺りまである長い髪をそのまま自由に流しただけの髪型に、上は白い着物で下にきちんと袴を履いているので、何となく現代におけるスーツ姿のサラリーマンを連想した。

 男は硬派で清潔な雰囲気が漂っているが、大人の色香が纏っていた。
 その理由の一つには男の容貌が大きく関わっているのは一目瞭然だった。端整な顔立ちは穏やかで、涼しげな目元はすっきりとした奥二重で、高く筋の通った鼻が顔の立体感を作っている。少し薄めの唇は全体の優しげな表情をキリッと引き締めている。

「いやぁ。いいんだ。袖刷りあうも多少の縁ってね。さ、お食べなさい。」

(うわー。優しい人だなぁ。大人の男性って感じ。しかも格好いいし。何かここら辺、男前多くないか?)

 少し小腹の空いていた美月は男の大らかな雰囲気に安心して夢中で団子を頬張ると、ふふっと涼しげな眼を細めて笑いかけられる。

―この笑顔できっと多くの人が落ちてきたんじゃないだろうか。

 現代ではエリート敏腕商社マンとか似合うのではないかなどと勝手に想像をして楽しんでいると目の前を歩いていた老人が隣の男に気付いて話しかけてきた。
「おや、先生。いつもお世話になって。今日はもう終わりですかい?」

(先生?)

「いやぁ。そうなんですよ。今丁度帰りでね。」
「そうですか。ではまた。ごめんくださいね」
 会話を一緒に聞いていた美月に隣の男が話しかけてきた。
「あぁ、僕はこの町の医者をやっているんだ。君は?役者さんか何か?」

(お医者さんだったのか!う~ん・・それも似合う。)

「お医者さんだったんですねっ。あ、俺は役者では無いんですが・・今ちょっと困ってて・・」

 話していると、横道の路地付近で若い女が急に座り込んで苦しげな表情を浮かべだした。
 それに気付いた男は「ちょっと失礼」と席を立ち、その女に駆け寄る。
「どうしました?どこか具合が悪いのですか?」
 若い女性は顔色が真っ青で額には脂汗を浮かせていた。不安な目つきで言いたいけど言いにくそうなそんな表情をしていた。そんな彼女の意思を瞬時に察知したのか男はそっと自分が医師である事を告げ、安心して症状を話すように促した。すると女は安心したように話し出した。

「実は今、月のもので・・。まだ安定していないみたいで、痛みが凄くて。先生、痛み止め頂けないでしょうか・・お代は必ずお支払いに伺いますから。くっ・・」
 女はまだ10代くらいだろう。生理に慣れない若い女はその波のように襲ってくる痛みに苦悶の表情で耐えていた。

(生理痛か。痛そうだな。あの痛みは男には耐えられないとか言うしな。)

「しまったな・・。僕は今痛みようのクスリを手元に持っていないんだ。君、ここで少し待っていてもらえないか?すぐに家から調合して持ってくるから!」
 男が早々に立ち上がると美月は思いついたように呼び止めた。
「あ、待って先生!俺クスリ持ってる!」
 ポケットから錠剤が入っている銀色のアルミ箔を取り出すと自分の飲んでいたお茶を女に手渡し、飲むように勧める。
「心配しないで。すぐに痛みが和らぐよ。」
 女は相当痛いようで、ワラをも掴む想いで美月の手渡した薬を素直に飲んだ。

(今日頭痛かったから余計に痛み止め持ってて良かった。)

 この時代の人の身体に余程効き目があるのか、女性の顔色がみるみる良くなって程なくすると普通に歩けるほどに痛みが緩和されたようだ。
「本当に有難うございました。お陰であっという間に良くなりました。こんなの初めてです!あの、先生のお弟子さんでしょうか?お代はおいくら・・」
 こんな効力のある薬はきっと目を丸くするほどの値段に違いない、と不安な面持ちを隠しきれない女にブンブンと手を振り美月は断った。
「あーっ、そんなの全然いいよ!俺はこの先生の弟子じゃないし、お金なんてもらうつもりないから。俺んち、まだ沢山この薬あるし!」
 その言葉に女は目を潤ませて喜び、再度深く感謝をすると美月の名を聞いて立ち去って行った。

「君は、秋本美月というのか。団子を食べるお金も持ち合わせていないというのに、あのような素晴らしい薬を無償で娘に与えるとは。」
「あ!そう言えば俺、お金なかったんじゃん!ま、いいや。あの子楽になって良かったし。あんな薬でそこまで喜んでもらえるなら逆に得した気分だよっ。へへ。」
「君は不思議な人だ。」
 そう言って見つめる男の顔があまりにも優しく微笑むので美月の心臓がドキリと大きく波を打った。

(反則だな、その笑顔・・)

「そうだ、おぬし先ほど何やら困り事があるような事を言っていたが・・?私でよければ力になろう。先ほどの礼も兼ねて。」
 この男なら自分の話を信じてはもらえなくても力を貸してくれるような気がした。

 取り敢えずこの浮いている格好をどうにかしなくては、と思いダメ元で頼んでみる。
「じゃあ、お言葉に甘えて・・あの、何か着るものを貸してもらえないでしょうか?」
 突拍子もない頼みごとだが、言われて見るとその奇妙な格好をしていては困るのも無理ないと思い男は可笑しそうにフフッと笑うと答えた。

「いいよ。私ので良ければ貸そう。家に寄って行きなさい。あ、私は幸村抱月という者だ。幸せな村に抱く月と書く。宜しく。」

「コウムラ・・ホウゲツ先生。俺は季節の秋に本当の本。美しい月と書いてアキモトミヅキと言います。お世話になります。」




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お医者さん・・ムフッ

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