2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

--:-- | スポンサー広告 | edit | page top↑

万華鏡-江戸に咲く-15

「では回診に行こうか」
「はいっ」
 朝は爽やかに家を出たが夕べは何かと大変だった。


「先生。俺用の布団がありませんが・・」
「ああ。無い。私は一人暮らしだ。だから一つの布団で一緒にしばらく寝るより仕方がないのだ。ほら、早く入りなさい。」
「はぁ・・・」

 畳の上に敷かれた布団に先に入って嬉しそうに手招きをする抱月に若干不信感を抱きつつも恐る恐る入る。先に入っていた抱月の熱で暖められた布団は意外にも心地いい。
「こうやって同じ布団で誰かと一緒に寝るなんてすげぇ久しぶりな感じ。」
 抱月は腕を伸ばすとふわりと美月を抱きしめる。
「美月は本当にいい香りがする。爽やかなようで甘いような。そそられる香りだ」
 そう言って抱月は美月の髪に埋めていた鼻先と唇を耳の後ろに付けると首筋へ落としていく。
「ん・・シャンプーの香りでしょ?そんなに好き?先生も使ったからきっと同じ匂いするよ。」


 美月たちが夜、銭湯へ行った際に身体など洗う際には米ぬかの入った袋で洗うという説明をされて、急遽にして早々の里帰りを体験したのだった。
 いっそ家でシャワーを済ませて来ようかとも思ったがせっかくだから江戸の銭湯を経験する為、シャンプーと石鹸を持ってくる事にしたのだ。

 抱月の手を引っ張って銭湯の脇の路地に入ると、一瞬待っているようにと念を押し携帯の時間を夕方5時にセットした。丁度学校から帰宅して江戸に来る時が4時半頃だったので、現代では約30分しか経っていない事になる。
「じゃあ、行って来ます先生。すぐ戻ります。俺の部屋に飛ばしてくれ。」
 そう言うと、ここに来た時同様に星の音が聞こえて頭の中にキラキラと万華鏡が降り出し、眩しくて目を瞑って開けるともう部屋に戻っていた。
 現実に戻るとまるで今までが嘘みたいに感じる。この僅か30分の間でどれだけ沢山の事を経験しただろうか。
「まぁ、取り敢えず今はシャンプーとリンスと石鹸っと」
 急いで必要なものを揃えて江戸時間の2秒後をセットして再び飛んだ。

 江戸に戻ると目の前には端整な顔の中にあるはずの涼しげな瞳は点になっていた。
 瞬時に消えて2秒後に色々な物を抱えて現れた美月を見てさすがに驚きを隠せないでいる抱月を見た美月はそれが可笑しくてケラケラと笑ってしまった。

「だから未来から来たって言ったでしょ?これで分かった?センセッ」
 実際に分かって貰えても、気味悪がられたらどうしようかとも思ったが抱月なら大丈夫だという確信が持てた。案の定、抱月の受け入れは早かった。

「おぬし、本当に未来から来たのだな・・。これはたまげた。たまげたが、気に入ったぞ!」
 そう言った抱月は子供が未知のものにワクワクするような表情を見せて、美月は思わず年上でこれから師匠となる抱月を可愛いと思ってしまった。

 夜の銭湯は物凄く薄暗くなかなか大変だった。
 番頭で石ころを二つ貰って美月の頭上にはハテナマークが沢山浮いていた。聞くとその石をコツコツと叩き合わせて長くなった陰毛を切って長さを整える為のものだという。
 江戸のお洒落は陰毛にまで及んでいたのにビックリした。それが江戸の粋というものなのだとか。
 きちんと揃えないと遊女に田舎者とバカにされるらしい。
 そういう抱月の陰毛も先程は見る余裕も無かったので気付かなかったが、きちんと揃えて切ってある。遊女と会う為か、許嫁の為かと勘繰ると妙に嫌な気分になった。
 現代で陰毛が揃ってるのを恋人に見られたら笑われると抱月に言うと「陰毛の時代も今が花か」と呟いたので噴出してしまった。

 銭湯内では一時大変な騒ぎになったが久しぶりに大笑いした。
 シャンプーから出る尋常ではない泡の量に人々の関心が集まったので、面白いから皆にシャンプーや石鹸を分けてやったのだ。

 すると皆頭に大量の泡をこしらえて、我こそが一番と言わんばかりに盛り上がり、奇妙な泡乗せ大会になってしまったのだ。
 これにはもちろん、嫌がる抱月にも無理やり出場させたが彼はその長い髪が仇となり、泡が目に入るというベタなハプニングに自分でドクターストップを掛け、棄権するハメになったのだ。

 因みに優勝した川べりに住む天然パーマの源さんには、優勝商品としてプラスチックの容器が残って後々発見されてはいけないと思ったのでシャンプーはあげられなかったので、持ってきた石鹸を一つ丸ごとあげた。
 だが源さんは大喜びでそれを自慢げに持ち帰って行った。

「ほら、先生もいい匂い。」
 美月は上半身を少し起き上がらせて上から抱月の耳の後ろ辺りを嗅ぐように顔を寄せる。
 抱月の心臓がドキンと大きく跳ねた。鼓動が早くなるのが自分でも分かる。ゆっくりと顔をあげる美月と目が合うと、思わず反対に抱月が美月をくるりと押し倒した。長い髪がサラリと肩を落ちる。
 電気のない部屋は暗かったがほんのり月明かりで見えた美月の頬に少し赤みが差しているように見えたのは気のせいだろうか。

 ゆっくりと顔を近づけ、そっと口付けをする。顔を離すとそこには月明かりに反射して青にも金にも見える煌きを湛えた瞳が抱月を見据えていた。
「そんな瞳で見つめられたら、私はその美しい月の中に落ちてしまうよ」
 暗がりの中で整った美しい顔を近づけ何度も熱い口付けを交わす。

(本当に貴方ではないのですか?先生。先生ならいいのに。わからないよ。でも・・)

-先生がもし、運命の人なら、落ちてきても構わないのにな

 頬に、額に、髪に、鼻先に、瞳に、唇に・・温かく大きな腕の中で優しい口付けを受けると安心しきっていつの間にか眠りについてしまった。


「よし、あと5軒ほどで終わりだ。」
「はい。」
 順調に検診を進めていき、あと少しで今日の仕事も終わるところだった。

 初夏の江戸も現代とそう変わらずまだそんなには暑くないのだが、重い薬箱を持って長時間歩き続けていた美月はさすがに汗ばんでくる。
 ヨタヨタ歩いていると抱月に一人の男が二階の窓から話しかけてきた。

「よう。先生じゃねーか。検診かい?」
 それに反応して抱月は窓を見る。美月はしめたとばかりに荷物を下ろして一息つく。
「お前か。こんな時分からそんな所に入り浸って・・。本当に元気だな。雪の調子はどうだ?」
「ああ。今のところ調子はいいみてぇだ。先生のお陰だよ。感謝してるぜ。今度いい子紹介するよ。あ、そういやぁ俺 今人探しててよ!そいつがめっぽう変わった奴でよぉ!」
「あー、悪いんだが夜。俺達は今仕事中で忙しいんだ。また今度な。それと、紹介はいらないから」

(ん?夜・・?それにこの声、どっかで・・何かいやーな予感がする・・)

「んだよ、つれねーなぁ。ってその横にいる見かけねー奴は先生の弟子かい?随分とバテてるみてーだが?」
 嫌な予感は的中した。上を恐る恐る見上げると滅多に見る事の出来ない男前が窓辺に腰掛けてこっちを見ていた。この顔を忘れる訳がない。江戸に着いたそうそう美月に襲いかかり、思い切り引っ叩いてやった男なのだから。

 美月の顔を見た男は「あー!」と叫んで店から飛び出てきた。
「お前!昨日の!」
「美月、夜と顔見知りだったのか?」
 意外だというような顔で抱月は2人を見るが、ふと思いついたように顔を険しくさせた。
「おい、夜。お前美月に何もしてないだろうな?」
「え?いやぁ、むしろされたのは俺っつーか。うん。そうだよ。おい、お前。昨日の借りはきっちり返させてもらうからな。」

 ムカッとしてまたいつもの様に怒りをぶつける。
「何言ってんだ!お前が始めに襲ってきたんじゃねーか!だからぶったたいてやったんだよ!何が借りだよ、ふざけんな!!」
 初めて見る美月の剣幕に抱月は驚く。夜にこれだけの口をきく者を見たのも初めてだが、美月が感情を剥き出しにしているのに少し気になった。

 当の夜は意地の悪そうな顔で美月を眺めつつわざと怒らすような態度を取ったり、言葉を投げかけたりしている。
「おい、止めないかお前達。夜、お前が悪い。美月にちょっかいなぞ出すから。殴られて当然だ。でなければ俺が殴っていたところだ。」
「何だよ先生。随分とコイツの肩持つじゃねーか。さては先生、もう手ぇ出したんじゃねーの?」
 美月は図星を突かれて顔が真っ赤になった。それでも恥ずかしさをごまかすのに必死に否定する。

「そんな訳あるか!先生に失礼じゃないかっ。このエロ・・助平野郎!!行きましょう先生!」
 スタスタと先を歩く美月を眺める夜に抱月は顔を後ろに向けて勝ち誇った笑みを口元に浮かべる。
「だ、そうだ。またな、夜。」

 夜の文句を言っているだろう美月は顔を真っ赤にして抱月にギャーギャーと何かを必死に言っている。抱月はそれをさも面白そうに、又同時に夜も初めて見るような優しい目つきで美月を見つめていた。

「嘘だろ・・。先生、本当に手ぇ出したのか・・?アイツ、許したのか?」
 夜は何となく悔しいような、空しさと苛立ちが混ざる複雑な気持ちが込み上げてくる。
 夜はそのまま2人から視線を逸らすと再び店の中へと消えて入った。



<<前へ     次へ>>



この時代の人たちに泡が大人気

ポチして頂けたら嬉しいです(>▽<)
にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村
02:14 | 万華鏡-江戸に咲く- | comments (2) | trackbacks (0) | edit | page top↑
万華鏡-江戸に咲く-16 | top | 万華鏡-江戸に咲く-14

コメント

Re: 秘コメAさま
秘コメAさま

オォォーーー!! w(゚ロ゚;w(゚ロ゚)w;゚ロ゚)w オォォーーー!!
Aさま来て頂いてビックリ昇天・・いや、仰天!!
ありがとうございますo(TヘTo) クゥ

> 初めて時代モノBL読みました!!
そうなんですか!!時代ものと言っても現代風にアレンジしてあるし(知識浅いので;)ちゃんと伝わるか微妙なのでつが・・。

しかも面白くてエロいと言って下さって本当、感謝感激台風竜巻です(ノД`)・゜・
そして未来との行き来能力は・・BLの神がきっと与えたものなのでつw
便利ですよね~私にもくれッて感じです。

発想を褒めて頂いて、私はどうしたらいいでしょう。嬉しくて・・
ウ・・・━━(。-ω-)ウワ━(。・ω・)ァァ━・゚・(。>ω<)・゚・━━ン!!!

> 読んでいてとっても新鮮です!!
> 楽しいです♪エロもいいです!(^^)!
そんな褒めて頂いて・・座布団ドウゾ♪ (ヘ ̄▽ ̄)ヘ_

意外にも貴之の名が挙がりましたね!二本扱き、ムフフ。Aさまも好きでつねぇ♪
先生との絡みが意外とあるんですよね。
確かに先生、優しいし私も好きですe-415

はい!!分かりますか!?メッチャ楽しんでいるのを!!Aさま鋭いv-353
夜にもこれから活躍して貰わなくてはッv-217と意気込んでおります♪

コメントありがとうございましたO(≧▽≦)O e-266
桔梗さん | 2010/04/30 03:30 | URL [編集] | page top↑
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
さん | 2010/04/30 01:52 | URL [編集] | page top↑

コメント

管理者にだけ表示を許可する

trackbacks

この記事のトラックバックURL:
http://kikyo318d.blog.2nt.com/tb.php/20-7abcb5ab
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)