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万華鏡-江戸に咲く-2

 何となく一人で帰りたかった美月は、貴之に用事があるからと言って一人で先に大学を出てた。
 美月は近くの公園とは言い難い銀杏の木や紅葉の立ち並ぶ丘へ足を運び、ぽつぽつとまばらに置いてある木製の古いベンチに座る。
 仰向けに木の葉の天井を見上げると真夏の濃い葉になる前の、まだ柔らかそうな葉がさわさわと音を奏でていた。美月はこの新緑と青空のコントラストが大好きだった。
 初夏の寒くも暑くもない心地良い風が頬に当たると同時に、美月の絹糸のようなサラサラとしたほんのり栗色の髪が頬を撫でて揺らぐ。

「はぁ……」

 無意識に溜息を漏らしていた。無意識だったからこそ、指摘されるまで気付かなかった。
「溜息ついてどうしたの?」
 聞いた事のない声に誰の顔も思い浮かばなかった。空へ向けていた頭をゆっくりと持ち上げると真正面に、見た事のない美しい男が立っていた。

 シンプルにジーンズと真っ白なワイシャツだけの出で立ちが男の美しさを引き立てているように見える。
 目が合うとそっと微笑むようにして見つめるその瞳は、キレイなガラス玉のようにキラキラと光を乱反射させているように見えた。その美しい人はゆっくりと美月の隣へ腰掛けてくる。
 美月はつい、隣で間近に来るまで視線を外せないまま見入ってしまっていた。

「そんなに君みたいな魅力的な人に見つめられると、少し照れてしまうんだけどな」
 フッと目を細めて笑いかけられて初めて自分が瞬きも忘れる程魅入っていた事に顔が熱くなる。
「あ……す……すみませんっ。つい……あまりにも、キレイだったんで」
 慌てて視線を逸らす美月を楽しそうにクスクス笑いながら話をする。
「光栄だな。君のような可愛い子にそう言ってもらえて。ねぇ、さっきは何で溜息ついていたの?」
 初対面だというのに自然と人の中に染み込んで来るような声と雰囲気だ。

「ああ……。溜息なんて俺、ついてたんですね。言われるまで気付きませんでした。……俺、凄く恵まれていて、多分幸せなんです。何不自由無いですし、彼氏もいますし。あ、俺男が好きなんですけどね。……って普通に今カムアウトしっちゃったけど、気持ち悪いですか?」
 ベンチの背もたれに肘を付いている隣の男を恐る恐る見る。
「全然平気だから気にしないで思ってること全部話していいよ。僕の恋人も男だから」
「そ、そうなんだ……。……あの、俺よく分からないんですよ。やりたい事も特に無いし将来の夢っていうのも別に無いし。趣味って言っても自慢するようなものも無いし……」

「エッチは好き?」
 少し企むような意地の悪い顔して聞いてくる。
「え?! ……ええ。好き……です……多分……すごく。でも……」
「満足してない?」
 心の中を見抜かれたのかと思った。

――俺はそんなに欲求不満そうな顔に見えたのだろうか。

 隣の男を見ると何を言うでもなく薄く笑みを浮かべながら美月の髪を気持ち良さそうに指に絡めている。美月は途端に素直な気持ちが言葉で出てしまっていた。
「はい……。彼は俺より早くてなかなか満足出来ないっていうか。でも優しいし体だけの付き合いじゃないからって。……いや、違うな。今までも……。いや。不満と呼べるような大層なものは無いんだ。なのに……」
「燻ってる何かを感じてるんじゃない? 平凡な毎日が幸せだから不満を抱くことに罪悪感を感じてて。でも最近前よりももっと何か違和感というか、心のざわつきを感じるんじゃない?」

――この人は霊能者かも知れない。

 図らずもそんな事を思ってしまったほど的確に自分の心中を言葉にしてみせた。
「何で分かるんですか? あなた、霊能者かなんかですか?」
「あはは! 違うよ。でも君で合ってたようだ。逢えて良かった。これで契約が渡せる」

(は? 契約? 何? ……この人やばい人なんじゃあ……)

 緊張した美月を素早く察知するとそっと頬に手を添えて顔を近づける。
「大丈夫。君にいいものを渡すだけだから。使うかどうかは君次第だしね。ただ、使わない時と役目を果たし終わった時は次の人にまた渡してもらいたいんだ。これから僕が君に渡す方法と同じようにしてね」
 どんどんと綺麗なガラス細工のような瞳が近づいて来る。美月は思わずベンチの端まで後ずさった。

「君はさっき平凡で不安で意味の分からない苛立ちや虚無感を感じていると確信したね。それには理由があるんだよ。僕もそうだったからよく分かるんだ」
 ガラス細工の瞳はもう顔全体が視界に入らない程近くまで来ていた。
「あなたも同じだった? どういう……え?」
 近くでよく見るとその瞳は万華鏡のようにも見えた。光を受けた瞳の中にはクルクルと綺麗な宝石がその形を変えるように見える。

――吸い込まれそう……。



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