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万華鏡-江戸に咲く-21

 現代に里帰りした美月は早速炊飯器に入っている白米でふりかけと海苔、そして中身は冷蔵庫にあった鮭やオカカ、梅干など器用に使い分けておにぎりを作った。随分と量があった白米は全ておにぎりとして姿を変えた。元々料理には若干興味を持っていた美月は、一人で夕飯を作る事も多かったのでこのくらいは朝飯前だった。

「これは夜の分・・こっちは先生の分・・まぁ、ムカついたけど熊って夜の同居人のも作ってやるか。夜が食べてるのに可哀想だもんな。」
 こうして誰かの為に料理を作ることがこんなにも楽しいなんて思わなかった。
 更にソーセージや出し巻き卵、漬物などをプラスチックの使い捨て容器にバランスよく詰め込む。
「こんなもんでいっかな・・」
 早速帰ろうとした時に、棚にある誰も手の付けない貰いものの日本酒が目に入った。それを手に取り、玄関にあるサンダルを履いて夜の元へ飛んだ。
 店の前には夜が欠伸をしながら店の春画をパラパラとつまらなそうに見ていた。
 何となくこちらから話しかけるのに緊張した。いつもは見かければ顔を逸らし、逃げていたのが今回は自分から話しかけるのだ。
「お・・・おお、おいっ」
 夜、と名前が言えなかった。
 夜はその声に気付くと驚いた顔をして見上げた。顔が熱くなっていくのを感じた。何を恥ずかしがることがあるのか訳がわからないことにすら、少し腹が立つ。
「お前、本当に来たんだなぁ。それに何だその大荷物は?まぁ・・上がれや」
 
 中に誘われたが、以前のように急に変な事をされてはたまらないと警戒するが、それを見越して夜が「別に何もしやしねーよ」と不敵に笑ったので、一応信用して入ることにした。
「はい。これ下駄。ありがとう。・・それとコレ、一応俺が作って持ってきたんだ。弁当。良かったから食って。」
「本当か!?そりゃあありがてぇな。丁度腹減ってて夕飯何食おうか考えてたんだ。」
 はしゃいだ感じがあまりに幼くてつい笑ってしまった。

 何が可笑しいのか、きっと無意識に笑ったのだろう。初めてみる美月の笑顔はこの上なく夜を惹き付けた。まるで濡れた満月が太陽の光を反射して一層輝きを増したような、艶のある美しくも可愛らしい笑顔だった。
「何?食べないの?」
 話しかけられて弁当に視線を移した。

「おい。変わった入れ物だな。それに・・何だコレは?」
 夜にはソーセージが奇妙に映ったらしい。
「いいから食ってみろって。うまいからっ。」
「え・・いや・・これは一番最後にする。おおっ白米じゃねーか!すげーなどうしたんだ!?」
 明らかにソーセージを避けている。
「現代では殆ど白米なんだよ。ホラ、ソーセージ避けてないで食え!俺が食わしてやる!」
 お箸を奪うとソーセージを掴み、夜の口元へ運ぶ。
「俺が食べさせてやるんだ。ありがたく食えっ。」
 その言葉に強張る顔の夜が条件を出してくる。

「な・・なら、それ食ったら口付けさせろ」
「なんっで俺がテメーに物を食わしてやった挙句キスさせなきゃなんねーんだッ!!いいから食え!!」
 無理やり口にソーセージを突っ込むと夜は意を決して咀嚼した。

「う・・・うめぇ・・」
「だろ?」
 美月は満足気に笑う。すると夜が美月の手首を掴み引き寄せる。
「ちょっ・・何すんだお前!!」
「お前じゃねぇ。夜七だ。」
「は・・?ヤシチ?お前ヨルって言うんじゃねーのかよ?」
「いや、夜に七と書いて夜七だ。それが名で皆ヨルと呼んでいるだけだ。お前は?」
「あ・・俺は秋本美月だ。美しい月と書く。」
「・・美しいな名だな。」
 そう言って後頭部にそっと手を置かれ夜が唇を近づける。
 心臓がバクバク言って、何かの魔法か催眠術かに掛かってしまったように引き寄せられた。
 だが顔が近づいてふと目が合うと恥ずかしさで夜を引き剥がした。一瞬、柔らかな感触が唇の先端を掠った。

「何すんだよ!さっきの約束はしてないだろ!調子に乗んなッ」
 夜はチッと残念そうにする。
 一瞬触れた唇の先端に残る感触が生々しく残っている。その部分に熱と神経が集中しているようで顔が赤くなる。

 夜は感激しながら美味い美味いとキレイに弁当を平らげてしまった。意識しない為にも、これらは現代で作ってきたものだという話をしていると、信じられないという顔をしながらも信じてくれたようだった。




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