04/20/2010(Tue)
万華鏡-江戸に咲く-24
「よし、できた。」
そう言って夜は無造作に美月の隣に腰を下ろす。その急な至近距離にドキッとする。別に何もしないと言っているのに、何かをされると期待でもしているのだろうか。本当に何もされなかった時の事を想像すると妙に空しい感じになるのはやはり期待をしているからか。それともただの恐れからくるものなのか・・・
ごちゃごちゃと訳のわからない事を考えていると夜が口開いた。
「おい、天井見てろよ」
「うん・・」
(って言われても真っ暗で天井がどこにあるかも見えないんだけど・・)
カパッと隣で何かの蓋を開ける音がした。
すると一つ、二つ。四つ、六つ。
どんどん緑色の点滅する光が方々へ散っていく。
十、十五、・・二十くらいはあるだろうか。
「綺麗・・・なに・・これ」
暗闇の点滅する光は動かないのもあれば方々に移動しているのもある。
「ホタルだ。ここは川べりだから結構いるんだ。」
自然のイルミネーションは幻想的だった。電灯もネオンもない、クラクションも電化製品の微妙な音もない。ただ横に流れる水音を背景に聴き、ゆらゆらと自由に闇を行き来する緑色の光がただただ美月を感動させた。
その初めて見る光景にも勿論感動したのだが、疾しい事をうだうだ考えて夜を疑っていた頃、夜はこんなにも美しい光景を見せる為に色々と準備をしてくれていたという事に胸を打たれた。
隣に座っていた夜が美月の横に寝る。二人とも無言で同じ光の乱舞を見つめていた。
「夜・・ありがと。すごい、綺麗だ。俺、こんなの初めて見たよ。現代の俺の家の近くには、いないから。」
「そうか。それぁ良かった。夕方かき集めといて良かった、ははっ」
夜が一人で川べりに立ち、一生懸命ホタルを捕まえている様子を思い描くと自然と笑みが零れてしまった。
一つの光が近くを飛んでいたので暗闇の中に手を差し出してみると、光が指先に留まった。
「夜っ見て!ホタルが指にとまったよ!」
ゆっくりと指先を顔の近くに持ってくる。その光を見せようと隣にいる夜の方へ顔を向ける。そのままゆっくりと夜の方へ指先の小さな点滅を伸ばすと、仄かな光にうっすらと夜の横顔が映し出された。その意外にも間近にあった顔にドキッとする。
(暗くて・・全然わかんなかった・・まさかこんなに近くに顔があったなんて・・)
ゆっくりとした間の点滅は、明かりが灯る時にしか夜が見えない。ふっと明かりが消えて、次にと灯った時には仄かに照らされた夜の横顔が美月の方を向いていた。
そのコマ送りのような動きに見え隠れする夜の美しくも男らしい顔が美月と向かい合う形になる。
美月は視線が外せなかった。そっと夜の手が動くのが見える。何かされると思い身を硬くすると、ふと光の灯る指先に夜の長い指が触れた。光はゆっくり夜の指先へと移動する。夜の指先に宿った光はスーっと美月の瞳の前に差し出された。
「すげぇ綺麗だ。緑の光が光ると美月の瞳の中の宝石が舞い上がる。降り積もった桜の花びらを人が両手で空に舞い上げてるみたいだ。」
美月は心臓が高鳴った。夜が美月の瞳を覗き込んでいるからなのか、素直に綺麗だと言われたからなのか、指先がそっと触れたからなのか。ただ、鼓動が早くなった。
ふっと指先の光は宙を舞い、夜の作り出した点滅する星空の一部となっていった。
その様子を見届けると、顔を元の位置に戻す。きっと夜も同じ事をしている。暗闇の中で2人は横向きに向かい合っていた。二人とも身体を仰向けにする音は立てていない。見えていない筈の暗闇の中で、2人の視線は絡まっているようだった。
(何か・・話した方がいいのかな・・動けないし。夜も動かないし・・どうしよう。でも変に動いたら夜に触っちゃうし・・)
ふいに美月の手の甲に夜の暖かい手の甲が触れた。それは故意的に触れたものというよりは、当たったという方に近かった。だが、お互い触れ合う手の甲は動かそうとはせず、その偶然の体温を感じているかのようにジッとしている。美月は余計に動けず、ただただ緊張が高まっていくだけだった。暗闇では相手の表情も位置も読み取れない。
触れた夜の手の甲はほんの少し動かされた。すると美月の全身系はその動かされている部分に集まって心臓の音が大きく鼓舞する。
ゆっくりと夜の長い指が美月の指を絡めて、親指が愛おし気に美月の手を撫でる。
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そう言って夜は無造作に美月の隣に腰を下ろす。その急な至近距離にドキッとする。別に何もしないと言っているのに、何かをされると期待でもしているのだろうか。本当に何もされなかった時の事を想像すると妙に空しい感じになるのはやはり期待をしているからか。それともただの恐れからくるものなのか・・・
ごちゃごちゃと訳のわからない事を考えていると夜が口開いた。
「おい、天井見てろよ」
「うん・・」
(って言われても真っ暗で天井がどこにあるかも見えないんだけど・・)
カパッと隣で何かの蓋を開ける音がした。
すると一つ、二つ。四つ、六つ。
どんどん緑色の点滅する光が方々へ散っていく。
十、十五、・・二十くらいはあるだろうか。
「綺麗・・・なに・・これ」
暗闇の点滅する光は動かないのもあれば方々に移動しているのもある。
「ホタルだ。ここは川べりだから結構いるんだ。」
自然のイルミネーションは幻想的だった。電灯もネオンもない、クラクションも電化製品の微妙な音もない。ただ横に流れる水音を背景に聴き、ゆらゆらと自由に闇を行き来する緑色の光がただただ美月を感動させた。
その初めて見る光景にも勿論感動したのだが、疾しい事をうだうだ考えて夜を疑っていた頃、夜はこんなにも美しい光景を見せる為に色々と準備をしてくれていたという事に胸を打たれた。
隣に座っていた夜が美月の横に寝る。二人とも無言で同じ光の乱舞を見つめていた。
「夜・・ありがと。すごい、綺麗だ。俺、こんなの初めて見たよ。現代の俺の家の近くには、いないから。」
「そうか。それぁ良かった。夕方かき集めといて良かった、ははっ」
夜が一人で川べりに立ち、一生懸命ホタルを捕まえている様子を思い描くと自然と笑みが零れてしまった。
一つの光が近くを飛んでいたので暗闇の中に手を差し出してみると、光が指先に留まった。
「夜っ見て!ホタルが指にとまったよ!」
ゆっくりと指先を顔の近くに持ってくる。その光を見せようと隣にいる夜の方へ顔を向ける。そのままゆっくりと夜の方へ指先の小さな点滅を伸ばすと、仄かな光にうっすらと夜の横顔が映し出された。その意外にも間近にあった顔にドキッとする。
(暗くて・・全然わかんなかった・・まさかこんなに近くに顔があったなんて・・)
ゆっくりとした間の点滅は、明かりが灯る時にしか夜が見えない。ふっと明かりが消えて、次にと灯った時には仄かに照らされた夜の横顔が美月の方を向いていた。
そのコマ送りのような動きに見え隠れする夜の美しくも男らしい顔が美月と向かい合う形になる。
美月は視線が外せなかった。そっと夜の手が動くのが見える。何かされると思い身を硬くすると、ふと光の灯る指先に夜の長い指が触れた。光はゆっくり夜の指先へと移動する。夜の指先に宿った光はスーっと美月の瞳の前に差し出された。
「すげぇ綺麗だ。緑の光が光ると美月の瞳の中の宝石が舞い上がる。降り積もった桜の花びらを人が両手で空に舞い上げてるみたいだ。」
美月は心臓が高鳴った。夜が美月の瞳を覗き込んでいるからなのか、素直に綺麗だと言われたからなのか、指先がそっと触れたからなのか。ただ、鼓動が早くなった。
ふっと指先の光は宙を舞い、夜の作り出した点滅する星空の一部となっていった。
その様子を見届けると、顔を元の位置に戻す。きっと夜も同じ事をしている。暗闇の中で2人は横向きに向かい合っていた。二人とも身体を仰向けにする音は立てていない。見えていない筈の暗闇の中で、2人の視線は絡まっているようだった。
(何か・・話した方がいいのかな・・動けないし。夜も動かないし・・どうしよう。でも変に動いたら夜に触っちゃうし・・)
ふいに美月の手の甲に夜の暖かい手の甲が触れた。それは故意的に触れたものというよりは、当たったという方に近かった。だが、お互い触れ合う手の甲は動かそうとはせず、その偶然の体温を感じているかのようにジッとしている。美月は余計に動けず、ただただ緊張が高まっていくだけだった。暗闇では相手の表情も位置も読み取れない。
触れた夜の手の甲はほんの少し動かされた。すると美月の全身系はその動かされている部分に集まって心臓の音が大きく鼓舞する。
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