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小悪魔な弟 33話

 合宿当日、早朝から家を出た久耶は練習の為の気合いしか入っていなかった。その顔はまるで修行場に赴く険しい侍の顔だった。
 そんな男らしい姿に胸をときめかせている男がすぐ近くにいた。
 バスでちゃっかり久耶の隣に座っていた透はうっとりと蕩けるような眼差しを久耶に投げかけていた。
 暫くバスに乗って合宿場に着くと皆テンションが上がり歓喜の声を上げ、それぞれの部屋割ごとに自分の荷物を部屋に置きに行った。
 勿論、部屋割表を作る際にコーチを手伝うと称して、透はしっかり久耶と同じ部屋にセッティングした。
「久耶、一緒の部屋だねっ。夜は一緒に寝ようねー」
 部屋割表を見た透はおちゃらけた感じでひっつくと、久耶は「はいはい」と言うような顔で何も言わず黙々と部屋に向かった。
 部屋は六人一部屋で割り振られていた。メンバー九人と控え選手九人にコーチ、合わせて十九人だが、コーチは一人で部屋を取っていた。

 着いて早速練習が始まった。
 ハードな練習内容に皆選手たちは息切れをしながら集中的に体力作りに励んだ。
 久耶はその中でもペースを落とさずに淡々とメニューを一人こなしていた。
 透はそんな久耶でもたまに見せるきつそうな顔を見るのが好きで必死にメニューに喰いついていた。
 
 合宿場は山の中にある為、辺りが暗くなってくると電灯が殆どないからか真っ暗になってしまう。
 薄暗いところでその日の練習は終り、皆ふらふらしながら風呂へと向かった。風呂場は温泉となっていて九人ずつ入る事になった。
「この練習メニューきつくねぇ?」
「俺、ふくらはぎヤべぇ」
 選手たちは口ぐちに辛さを吐きながら脱衣所で泥だらけのユニフォームを脱いでいった。
 少し後から入って来た透が服を脱ぎ出すと、皆チラチラと盗み見だした。

 透にとっては日常茶飯事の事だった上に、自分の裸体がやけに艶めかしい事も理解していた。
 だが、それに慣れていない久耶はその異様な雰囲気にふと気付いて透の方を向いた。
 背中をしならせるようにして上半身の服を脱ぐと、汗ばんだ白い肌の裸体が眩しく目に飛び込んできた。
 スルスルと下のズボンも下着ごと脱ぎ去ると、丁度いい筋肉のついた綺麗な下半身と引き締まった白い臀部に皆釘づけになった。
 透はふと顔だけ後ろを向くと、自分をじっと見ている連中に向かって挑発するような笑みを浮かべた。
「何ジロジロ見てんの? やらしいっ」
 前を向かなければ男性器は見えず、振り向いた顔は女性よりも美しい為に皆おかしな気分になる。
「おい、さっさと入るぞ」
 低く落ち付いた声で久耶は皆を風呂場へと押しやった。

 一通り洗い終えると、皆わいわいと子供の様にはしゃぎながら湯船に浸かった。
「しかしこうしてお湯に浸かって顔だけ出してると、何か混浴してるみたいだぜ」
「俺たちの間に来いよ、透」
 すっかり湯船の中のアイドルと化した透は調子に乗って男たちの真ん中へ移動した。
 久耶は一人端の方で瞑想をしているかのようにじっと目を閉じて動かずにいる。

「お前の肌すべすべだなぁ。気持ちいいー」

「やだ、ちょっと触らないでよ」

「やべー、俺ムラムラしてきた」

 男しかいない空間に勘違いを引き起こしそうになる容姿の透はわざと煽るように大袈裟に嫌がってみせて楽しんだ。

「いやっ……いやあっ」

「おい、そっち抑えろよ」

「乳首、感じる?」

 とうとう悪乗りしてきた男たちによって押さえられ、身体中を触られだした透は久耶に助けを求めた。
「やあっ……久耶っ……助けてぇ」
「あいつ、なんか地蔵みたいになっちまってるから無理だってー」
「あっ……ちょっ……お前らやり過ぎっ……あんっ」
 お湯の中できつく乳首を抓られて、敏感な性感帯を刺激された透はつい高い声を上げてしまった。
「うひょっ……イイ声だなぁ、もっと出せよー」
「やべぇって! 俺勃っちまったよ!」
 エスカレートしてきた男たちの力を振りほどけずに少し暴れていると、ばしゃばしゃとお湯をかき分けて久耶が割って入った。
「その辺にしとけ。出るぞ東城」
「う、うんっ」
 久耶は透の手首を掴むと、引っ張るようにして湯船を出た。
「んだよー久耶は堅いんだよー!」
 後の方から飛び交うブーイングを聞きながら、透の顔は湯あたりでもしたような赤い頬に染まっていった。



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