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小悪魔な弟 34話

 その日の夜は皆疲れ切って泥のように眠ってしまった。
 透も、布団を久耶の隣に付けて顔を見ていた筈がいつの間にか眠ってしまった。
 そんな合宿生活も四日も経ってくると、思春期の男たちの目が風呂へ入る頃から夜にかけて血走ってくるようになった。
 さすがにそこまで来ると、透は悪ふざけをして煽るような事はしなくなった。だが、代わりに久耶に守って貰うように常にひっつくように行動するようになった。
 ついに男たちの間で二人はデキていると噂まで流れ出した。

「お熱いですね~お二人さん」
「ラブラブっすね~」
 などとヤジを飛ばす同級生たちに久耶は何も動じず、いつもと変わらずに皆と接していた。
 だが透はどこか嬉しさが込み上げてくるのに、怒りもしない久耶に寂しさと腹立たしさが同時に湧いてきた。

 夜になると我慢が出来ずにトイレに駆け込んで自慰をする輩が多数出てきた。
 久耶も既に少しでも刺激を感じれば、大きく反応してしまう状態だったが、殆ど精神力でそれを抑え込んでいた。
 消灯前の一時に、皆部屋の男たちはエロ話に花を咲かせた。皆それぞれ、どんな知恵を駆使して自慰を行っているだの、初体験は済ませたか否かという話で大盛り上がりした。
 久耶はその中で一人文庫本を横になりながら読んでいた。
 透はその久耶の布団の中に潜り込んでいくと、驚いた久耶が透を引き離そうとした。

「おいっ……何してんだ、東城!」
「いいじゃんか! 寒いから!」
 夏の暑いこの時期に透は苦しい言い訳をする。
「俺は暑い!」
 透の頭と肩を引き剥がそうと久耶は押した。

「人肌が恋しいの!」
 それでもひっつこうと透は必死にしがみ付いて来る。
 その様子を周りの男子はニヤニヤとしながら見ていた。
「なぁ、もう付き合えば? お前ら」
「いや、でも男同士って……ヤれんのか?」
「入れる所ないから扱きあうだけじゃねーの?」
 そんな普通の男子たちの憶測が狭い和室に飛び交った。

「エッチできるよ! そんな事も知らないの?」
 透は急に得意気に布団から飛び出すと、ツラツラと男同士のあれこれを皆に説明しだした。
 すると、皆興味津津のようで色々な質問が飛び交った。
 久耶はその説明が始まってから読んでいる筈の文章が一行も進まなくなった。
 話の上手な透はそれは魅力的にどれだけ気持ちがいいものかを説明するので、それに影響されて再び自慰をしに行く者さえ出た。
 今度は久耶も何やら限界に来たようで、ムクリと起き上ると黙って皆の来なさそうな離れたトイレへと向かった。
 部屋を出る時に案の定疑われたが、そこはいつもと変わらぬ表情で「違う、小便だ」と言い放った。久耶がそう言うと、誰もが何となく納得してしまう。
 だが久耶が出て行った後、透も後を追いかけるように部屋を出て透の後を追って来た事はまだ気付いていなかった。

 誰もいないトイレに入り、洗面台の小さな明かりだけつけて薄暗いまま個室に入ろうとすると、サッと透が入って来た。

「東城!?」
「シッ……」
 そう言って透は久耶と個室に入った。

 久耶が問いただす暇もない程に、透は既に息を荒くして潤んだ目をしたまま久耶を壁に押し付けるようにして抱き付いてきた。
「ハァハァ……もっ……ダメっ」
 透の熱い息が首に掛るとゾワリと鳥肌が立った。
「おいっ……何してんだ、止めろって、透ッ」
 透は見た目とは違う力強さで久耶の顔を引き寄せると、その慌てる唇に吸いついた。
「んーっ……ん! んん!」
 驚いた久耶の隙をつくように透がヌルリと舌を捻じ込む。

(こ、これは恋人のキス!)

 久耶は以前潤から教わった恋人のキスを思い出した。
 友人だと思っていた男から強引にされる恋人のキスに、久耶は訳が分からなくなって目が回って来る。
 だが薄暗い中で潤に似た男とのキスは決して気持ち悪いという感情を起こさせなかった。ただ、これはいけない事をしているという罪悪感だけが膨らんでいった。

 久耶は逃げようと頭を動かすが、後ろの壁と押さえつけられる透の手でなかなか振りほどけない。
 口内で舌を追いかけ回される。
「んっ……逃げないで」
「ハッ……やッ……めっ」
 久耶が息継ぎをする度に抵抗の言葉を一つずつ伝える。だが次に聞こえてきた透の言葉に、久耶の心臓は予想以上に跳ねた。

「んっ……兄ちゃんっ」



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