04/11/2011(Mon)
一周年記念 万華鏡-江戸に咲く-11話
美月はそれから一言も話さずジッと道路を見つめたまま動かなくなった。
灰色。
黒。
こげ茶。
白。
そんな細かい色の凸凹を延々とただ見ていた。
たまに視界に捨てられたタバコが飛んで入ってきた。
まだ火が消えていないそれが青白い煙を上げながら徐々に燃え尽きていくのを見ていた。
貴之は動かなくなった美月の足元に座って、昔と変わらない銘柄のタバコを吸い始めた。多分同じ銘柄、だ。匂いが同じだと思った美月はそう決め付けた。
何を言っても動かないのを分かっても尚放っておけない性格の貴之を見て、あのまま現代にずっといても案外幸せな人生を送れたかもしれないなんて思ってしまった。
約三時間が経った頃、夜たちは出てきた。寄り添う様にして出てきた二人は明らかにホテルに入る前よりも距離が縮まっている事は見て分かった。
相手の男の子も頬が赤らんでさっきまでとは一変したとても色っぽい顔つきになっていた。まだ何かの余韻にでも浸っているようなそんな表情だ。
今そんな顔で街を歩けばきっと狙われてしまうだろう。
それでもホテルの前で少し話した二人は別々の方向へと歩き出した。
「何だ? バレないようにここで別れるってか?」
貴之の言葉が耳を掠めた。
美月は迷わず夜の方を追おうと歩き始めた。
真正面から今まで夜と肌を合わせていた男が近づいて来る。焦る貴之を無視して美月は道路の真ん中を堂々と歩いた。
男に近づいていくと、美月の視線に気付いたその人の方も目を合わせてきた。
すれ違う瞬間。
男の綺麗な黒い瞳が魅入るように美月を追いかけるのを感じた。そしてすれ違いざまに感じた妙に纏わりつくようなネットリとした視線。
気持ちが悪い。
そしてシャンプーの香りがした。
甘い恋人同士の触れ合いを思い起こさせるようなフルーツ系の香りがふわりと漂って来た。
吐き気がする。
もしかしたら向こうは既に美月を知っていたかもしれない。夜を手に入れたいと思うなら自然と一番近くにいる人間を調べるだろう。
美月は絡みつく視線を振り切って急ぎ足で夜を追った。
夜はそのまま家の方へ帰宅して行った。貴之は心配そうにしていたが、もうどうする事も出来ない自分は何かあれば自分の所へ来るようにと美月に強く言い聞かせて帰って行った。
美月は既に夜の居る家の中へと重い足を引きずって入った。
「美月? お前出掛けてたのか」
リビングから夜の声がした。台所でお茶を入れているらしい音が聞こえる。
美月は今自分がいつもと同じ顔が作れているかどうか分からなかった。頑張って口角を上げてみる。そのままリビングへ入ると夜が振り返った。
「どこ行ってたんだ?」
(夜は?……夜と同じ所だよ?)
「うん……その辺を散歩。肩、凝っちゃったからさ」
「そうか」
美月がソファに座ろうと踵を返した時、一番欲しい温もりが背中から美月の身体を包み込んできた。
「よ……」
抱き締められた腕が嬉しかったのに、同時に香ったフルーツのようなシャンプーの香りが美月の脳細胞を死滅させていった。
気持ちの悪くなるような甘ったるい香り。さっき同じ香りを嗅いだばかりだ。
美月は目を閉じた。
「夜……」
「ん?」
「ばーか」
「何だよ」
「風呂、入って来いよ」
美月がその気になったと思った夜は艶っぽい笑みを口元に浮かべて美月の項にキスをした。
夜がその日二度目となるシャワーを浴びている間、美月は必要なものだけ持って家を出た。
「ごめんね……ばいばい」
<<前へ 次へ>>
(ノД`)・゜・
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灰色。
黒。
こげ茶。
白。
そんな細かい色の凸凹を延々とただ見ていた。
たまに視界に捨てられたタバコが飛んで入ってきた。
まだ火が消えていないそれが青白い煙を上げながら徐々に燃え尽きていくのを見ていた。
貴之は動かなくなった美月の足元に座って、昔と変わらない銘柄のタバコを吸い始めた。多分同じ銘柄、だ。匂いが同じだと思った美月はそう決め付けた。
何を言っても動かないのを分かっても尚放っておけない性格の貴之を見て、あのまま現代にずっといても案外幸せな人生を送れたかもしれないなんて思ってしまった。
約三時間が経った頃、夜たちは出てきた。寄り添う様にして出てきた二人は明らかにホテルに入る前よりも距離が縮まっている事は見て分かった。
相手の男の子も頬が赤らんでさっきまでとは一変したとても色っぽい顔つきになっていた。まだ何かの余韻にでも浸っているようなそんな表情だ。
今そんな顔で街を歩けばきっと狙われてしまうだろう。
それでもホテルの前で少し話した二人は別々の方向へと歩き出した。
「何だ? バレないようにここで別れるってか?」
貴之の言葉が耳を掠めた。
美月は迷わず夜の方を追おうと歩き始めた。
真正面から今まで夜と肌を合わせていた男が近づいて来る。焦る貴之を無視して美月は道路の真ん中を堂々と歩いた。
男に近づいていくと、美月の視線に気付いたその人の方も目を合わせてきた。
すれ違う瞬間。
男の綺麗な黒い瞳が魅入るように美月を追いかけるのを感じた。そしてすれ違いざまに感じた妙に纏わりつくようなネットリとした視線。
気持ちが悪い。
そしてシャンプーの香りがした。
甘い恋人同士の触れ合いを思い起こさせるようなフルーツ系の香りがふわりと漂って来た。
吐き気がする。
もしかしたら向こうは既に美月を知っていたかもしれない。夜を手に入れたいと思うなら自然と一番近くにいる人間を調べるだろう。
美月は絡みつく視線を振り切って急ぎ足で夜を追った。
夜はそのまま家の方へ帰宅して行った。貴之は心配そうにしていたが、もうどうする事も出来ない自分は何かあれば自分の所へ来るようにと美月に強く言い聞かせて帰って行った。
美月は既に夜の居る家の中へと重い足を引きずって入った。
「美月? お前出掛けてたのか」
リビングから夜の声がした。台所でお茶を入れているらしい音が聞こえる。
美月は今自分がいつもと同じ顔が作れているかどうか分からなかった。頑張って口角を上げてみる。そのままリビングへ入ると夜が振り返った。
「どこ行ってたんだ?」
(夜は?……夜と同じ所だよ?)
「うん……その辺を散歩。肩、凝っちゃったからさ」
「そうか」
美月がソファに座ろうと踵を返した時、一番欲しい温もりが背中から美月の身体を包み込んできた。
「よ……」
抱き締められた腕が嬉しかったのに、同時に香ったフルーツのようなシャンプーの香りが美月の脳細胞を死滅させていった。
気持ちの悪くなるような甘ったるい香り。さっき同じ香りを嗅いだばかりだ。
美月は目を閉じた。
「夜……」
「ん?」
「ばーか」
「何だよ」
「風呂、入って来いよ」
美月がその気になったと思った夜は艶っぽい笑みを口元に浮かべて美月の項にキスをした。
夜がその日二度目となるシャワーを浴びている間、美月は必要なものだけ持って家を出た。
「ごめんね……ばいばい」
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(ノД`)・゜・
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コメント
((((((ノ゚⊿゚)ノヌオォォォ
お久しぶりですー♪オカエシ(o-ω(ε-`o )チュッ
> 最近、コメントができなくて(-_-;)
> 何だか、コメントするとすぐにエラーになっちゃって…
> (日頃の行いが悪いせい?)←
いえいえ!!そんなお気になさらず!
こうしてたまに話かけて下さるだけで感動です!!(ノД`)・゜・
え!?エラー!?
時間帯…は関係ないですよね…。うちのブログがオカシイのかも;;
すみません;
はっ!∑(°ロ°*)もしや私の異常な電気体質のせいかも!?
> それはさておきw
>
> 美月ちゃんが…美月ちゃんがぁぁぁぁ(T_T)
> 出てっちゃうぅぅ
> 夜のバーカ、、、何で同じ香なんだ~(泣
本当です(>ω<)!
何同じ香り漂わせてるんだーっ(怒)
> ちこさんの書いてあった通りベッドとミラー
> ボールぐるぐる回しただけじゃなかったのか…
> \(゜ロ\)(/ロ゜)/アワアワ
( ´艸`)ムププ
って、笑っている場合ではなかった…;
本当ですよ…。それだけじゃないなら…何だ!!
何だーっ(o>Д<)o
> 桔梗s焦らしプレイはやめてください~(>_<)
( ̄  ̄)………( ̄ー ̄)ニヤ
> …そうそう、最近電車に乗るようになったんですが、
> そこで男の子が二人、頭をくっつけてケータイをいじってるのを見て
> 悶えそうになりました(♥^_^♥)
>
> おっと、ここら辺で終わりにしないと止まらなくなるので
> また、次回!次も楽しみにしてます(`^´)>
それは妄想が暴走しますね!!
美味しい状況に遭遇いいですね~(〃∇〃)
ふと顔をあげた二人は唇が…( ゚д゚)ハッ!無意識に妄想スタートしてました;
次も楽しみにして下さってありがとうございます!
コメントどうもありがとうございました
> それって、プライスレスなのに・・・(涙)
お返事遅くなってすみません(>ω<)!!
美月にはきつい仕打ちですね…(涙)
> なんで、同じ香りのシャンプーなんだ・・・やっぱ、ベッドとミラーボールぐるぐる回しただけじゃなかったんだね・・・夜の、バーカ(涙)
> だんだん、当たり障りのない男・貴之が、とてつもなくイイ男に思えてきた。
> そうだよね~平凡が一番!
もっと言ってやって下さい~っ(>ω<)
同じシャンプーの香りはきついですよね…。
あ、ベッドとミラーボールは決定なんですね(笑)
貴之さんは実はイイ奴なんですよ~(笑)(売り込み?w)
> 美月ちゃん出ていっちゃった~どうなるの?
> 美月ちゃん、行かないで~夜と話してみて~(涙)
> えーん゜。(p>∧<q)。゜゜えーん
エーン(pωq)ヽ(・ω・。)ヨチヨチ
それでも応援して下さるちこさん、お優しいっ
+.゜.(⊃Д`*)゜+.゜
コメントどうもありがとうございました
> 頑張れよ美月ちゃん~~っ。+゚(゚´Д`゚)゚+。
> て頑張れないよね、あんなの見ちゃったら・涙
> 私は激昂するタイプだからもどかしい・・・・涙
> 切なすぎ~~ウワァァァ。・゜(´Д⊂)゜・。ァァァン
お返事遅くなって申し訳ありません!!
決戦……ではなく何だか戦う前に不戦してしまったような…。
応援ありがとうございます(ノД`)・゜・
私も激情型なのでリアルにはこういうのはないですね^^;
自分にはないもどかしさを書く難しさ……orz
でも切ない、もどかしい、と仰って頂けて本望で嬉しいです!
二人、何とか元に戻って欲しいですが(´Д`)
コメントどうもありがとうございました
全くホテルでナニをやっていたのでしょうか(-ω-;)
おお!
Yさまもコロン系のネタを!!
香りって結構勘ぐったりしちゃいますよね。
直接的なものですしね。
さて、凶器の出番……あるかどうか;;
コメントどうもありがとうございました
> んぎゃー!
> また、血の気が…。・゚・(*ノД`*)・゚・。
> もおっ!桔梗さま~!楽観視しているはずのあたしを、どん底まで突き落とした(。´Д⊂)
(((( ;゚д゚)))アワワワワ
血の気が!?やぴさまの血の気をどうにかさせてしまった!
どん底にお行きなさったので!?
今助けに参りますッ ダッシュ!≡≡≡ヘ(*--)ノ
> 改めて、さっき来た気もするけど(笑)こんばんは。なんだかお得な気分。
> だけど、とことん落とすよねぇ~(;´Д`A ``` もう、心臓いかれそうです。
> でも、こういうの好きなのよねぇ(●´Д`●)
> 置手紙とかして去るの好きだし。←やったことある。すぐ戻るけど(笑)
沢山来て頂けて嬉しいです!!(ノД`)・゜・
お得な気分だなんて!!
+.゜.(⊃Д`*)゜+.゜
そんなに落しましたか!?すみません;;
あ、でも好きですと!?良かった(笑)
置き手紙とかいいですよね!!
そっと健気に思いつつのフェイドアウト…。くぅ~っ←
> あっ、桔梗さま8万Hitおめでとうございます♪
わーんっありがとうございますー!!(ノД`)・゜・
これからも頑張ります!
コメントどうもありがとうございました
最近、コメントができなくて(-_-;)
何だか、コメントするとすぐにエラーになっちゃって…
(日頃の行いが悪いせい?)←
それはさておきw
美月ちゃんが…美月ちゃんがぁぁぁぁ(T_T)
出てっちゃうぅぅ
夜のバーカ、、、何で同じ香なんだ~(泣
ちこさんの書いてあった通りベッドとミラー
ボールぐるぐる回しただけじゃなかったのか…
\(゜ロ\)(/ロ゜)/アワアワ
桔梗s焦らしプレイはやめてください~(>_<)
…そうそう、最近電車に乗るようになったんですが、
そこで男の子が二人、頭をくっつけてケータイをいじってるのを見て
悶えそうになりました(♥^_^♥)
おっと、ここら辺で終わりにしないと止まらなくなるので
また、次回!次も楽しみにしてます(`^´)>
それって、プライスレスなのに・・・(涙)
なんで、同じ香りのシャンプーなんだ・・・やっぱ、ベッドとミラーボールぐるぐる回しただけじゃなかったんだね・・・夜の、バーカ(涙)
だんだん、当たり障りのない男・貴之が、とてつもなくイイ男に思えてきた。
そうだよね~平凡が一番!
美月ちゃん出ていっちゃった~どうなるの?
美月ちゃん、行かないで~夜と話してみて~(涙)
えーん゜。(p>∧<q)。゜゜えーん
頑張れよ美月ちゃん~~っ。+゚(゚´Д`゚)゚+。
て頑張れないよね、あんなの見ちゃったら・涙
私は激昂するタイプだからもどかしい・・・・涙
切なすぎ~~ウワァァァ。・゜(´Д⊂)゜・。ァァァン
痛いよぉ、痛いよぉ。゚(PД`q*)゚。
桔梗ちんがいぢめるよぉ~~(Tーヾ)エグエグ...←
美月ちゃん何も聞かず伝えずに去るなんて…。
うぅ、次話upまでの時間が果てしなく長く感じる。
まんまと桔梗ちんの焦らしプレイの罠に嵌ってしまっている∑(・ω・ノ)ノ!
次~次~o(>_< *)(* >_<)o ジタバタ ←
また、血の気が…。・゚・(*ノД`*)・゚・。
もおっ!桔梗さま~!楽観視しているはずのあたしを、どん底まで突き落とした(。´Д⊂)
改めて、さっき来た気もするけど(笑)こんばんは。なんだかお得な気分。
だけど、とことん落とすよねぇ~(;´Д`A ``` もう、心臓いかれそうです。
でも、こういうの好きなのよねぇ(●´Д`●)
置手紙とかして去るの好きだし。←やったことある。すぐ戻るけど(笑)
あっ、桔梗さま8万Hitおめでとうございます♪
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