04/10/2011(Sun)
一周年記念 万華鏡-江戸に咲く-「やせ我慢」10話
昼過ぎ。
美月は着替えた状態でベッドの中にいた。布団を鼻の辺りまで被って少し苦しいのを我慢していた。
カチャリと部屋のドアが開いて夜が入って来るのが分かって少し緊張する。
相変わらず忍者のように足音を立てない男だ。闇夜に居る時は瞳が夜行性の動物のように怪しく光ってまるで黒豹だ。
夜の気配に気付かないうちに、そっと被っていた布団を下げられて身体がビクッと動きそうになる。
「行ってくる」
そう囁いた低く艶っぽい声に胸がきゅんとなる。そして寝ているフリをしている美月の唇にそっとキスをして夜は出て行った。
玄関のドアが閉まる音を聞いた美月は布団から這い出し、急いで夜の後を追って家を出た。
「美月っ」
少し早めに家の側で待機していて貰った貴之が小声で名前を呼んで合流してきた。
「ごめん貴之……ありがとな」
「バカ。いいんだよ……俺だって気になるし、本気だった奴にはやっぱ幸せになって貰わないと諦めつかねーし」
貴之はあっけらかんとした物言いで美月の絹糸のような髪を無造作に掻き回した。
(ありがとう)
夜は昔と変わらず野暮ったい歩き方をしていた。変わったのは履物だ。
下駄から靴になった。あのカランコロン、と響く音が懐かしい。
最寄りの駅前に来ると、見た事のある綺麗な子が夜を見付けて駆け寄ってきた。
薄茶色のキャスケットを被り、見た事のある有名なロゴのTシャツを着ていた。裏原宿の方で店舗を構える有名なストリートブランドのものだと言う事は美月にもすぐに分かった。
上に着た薄い春色のシャツが色白の顔をよく引き立たせている。斜めがけした焦げ茶色のビンテージっぽい鞄も良く似合っている。
バランスが難しそうな少し短めのカラーパンツを、その体型を上手く活かして着ていた。人目でお洒落な子だと分かる。
(でもそんな事したって夜には通じないぞ)
美月はイライラしながら人ごみに紛れて近づいていった。
「夜っ。えへへ。どう……かな? 可愛い?」
「あぁ……いつもと違って見える……なかなか可愛らしい」
他の人を褒める事などしなかった夜が見た目を美月以外で認めたのは初めて聞いた。
美月は悔しさと悲しさで既に逃げ出したい衝動に駆られてきた。自分は一体何をしているのか、情けなくさえ思えてくる。
「ハァ……」
無意識に出た溜息で美月の心の内を悟ったのか、貴之がポンと肩を叩いた。
「俺はお前の方がずっと可愛いと思うぜ?」
「な……」
「恥ずかしい事言うな!」と言いたい所だったが、それ以上に嬉しかった。励ましてくれているのが分かる。
美月はグッと顔を上げて再び二人を追った。
案の定、抱月が言っていた場所辺りに二人は移動していた。
昼過ぎからこんな怪しい繁華街に何の用だ、と考えても思い浮かぶのは一つしかない。
既に視界に入って来ている建物はホテルばかりだ。
「ねぇ、夜の家じゃやっぱりダメなの? 同居人がいるだけなんでしょ?」
「ダメだ」
「けちっ」
周りの妖しい雰囲気に気押されてか、少し不安気に夜の腕を掴んでいた。
二人の雰囲気は美月から見たらもう恋人のように見える。
(家には、俺がいるからダメ……って事でここか。ははっ……それは俺、邪魔だろうなぁ)
惨めな気持ちは美月をどんどん小さく縮こませる。
そして二人は適当なホテルのエントランスへと吸い込まれていった。
「美月……。もう、これが現実だ」
貴之の優しい声が頭の上でする。
「あ……あ、でももしかしたら映画鑑賞とか」
「美月」
「まったり昼寝に付き合うとか」
「美月ッ」
「ゲームとか」
美月の身体は突然強い力で抱き締められた。それだけで泣きそうになった自分が既に現実を認めている事を再確認してしまうようで涙を必死に塞き止める。
「俺……二人が出てくるまで待つ……」
美月は自分が一体何をしたいのか分からなかった。分からないが、出てきた後の二人で決定的なものを自分に見せつけないとまだ何かに縋りそうだと思った。
「もう止めよう美月。これ以上は辛いだけだ。俺が……俺の事は別に好きじゃなくていい。だから俺に頼ってくれよ。俺、今一人暮らしだし、俺の所に来いよ。な?」
<<前へ 次へ>>
更新遅れましてスミマセン!
夜……本当に裏切っているのか…。
そしてツイッターやってます!
慣れてきたので良かったらお気軽にフォローしてやって下さいませv
ユーザー名「kikyo_318d」もしくはプロフ下か拍手ボタン下をクリックして下さいませ♪
★拍手コメントのお返事はボタンを押して頂いた拍手ページ内に致します。
拍手秘コメの場合は普通コメント欄にてお返事致します。
お礼画像あり☆5種ランダム
美月は着替えた状態でベッドの中にいた。布団を鼻の辺りまで被って少し苦しいのを我慢していた。
カチャリと部屋のドアが開いて夜が入って来るのが分かって少し緊張する。
相変わらず忍者のように足音を立てない男だ。闇夜に居る時は瞳が夜行性の動物のように怪しく光ってまるで黒豹だ。
夜の気配に気付かないうちに、そっと被っていた布団を下げられて身体がビクッと動きそうになる。
「行ってくる」
そう囁いた低く艶っぽい声に胸がきゅんとなる。そして寝ているフリをしている美月の唇にそっとキスをして夜は出て行った。
玄関のドアが閉まる音を聞いた美月は布団から這い出し、急いで夜の後を追って家を出た。
「美月っ」
少し早めに家の側で待機していて貰った貴之が小声で名前を呼んで合流してきた。
「ごめん貴之……ありがとな」
「バカ。いいんだよ……俺だって気になるし、本気だった奴にはやっぱ幸せになって貰わないと諦めつかねーし」
貴之はあっけらかんとした物言いで美月の絹糸のような髪を無造作に掻き回した。
(ありがとう)
夜は昔と変わらず野暮ったい歩き方をしていた。変わったのは履物だ。
下駄から靴になった。あのカランコロン、と響く音が懐かしい。
最寄りの駅前に来ると、見た事のある綺麗な子が夜を見付けて駆け寄ってきた。
薄茶色のキャスケットを被り、見た事のある有名なロゴのTシャツを着ていた。裏原宿の方で店舗を構える有名なストリートブランドのものだと言う事は美月にもすぐに分かった。
上に着た薄い春色のシャツが色白の顔をよく引き立たせている。斜めがけした焦げ茶色のビンテージっぽい鞄も良く似合っている。
バランスが難しそうな少し短めのカラーパンツを、その体型を上手く活かして着ていた。人目でお洒落な子だと分かる。
(でもそんな事したって夜には通じないぞ)
美月はイライラしながら人ごみに紛れて近づいていった。
「夜っ。えへへ。どう……かな? 可愛い?」
「あぁ……いつもと違って見える……なかなか可愛らしい」
他の人を褒める事などしなかった夜が見た目を美月以外で認めたのは初めて聞いた。
美月は悔しさと悲しさで既に逃げ出したい衝動に駆られてきた。自分は一体何をしているのか、情けなくさえ思えてくる。
「ハァ……」
無意識に出た溜息で美月の心の内を悟ったのか、貴之がポンと肩を叩いた。
「俺はお前の方がずっと可愛いと思うぜ?」
「な……」
「恥ずかしい事言うな!」と言いたい所だったが、それ以上に嬉しかった。励ましてくれているのが分かる。
美月はグッと顔を上げて再び二人を追った。
案の定、抱月が言っていた場所辺りに二人は移動していた。
昼過ぎからこんな怪しい繁華街に何の用だ、と考えても思い浮かぶのは一つしかない。
既に視界に入って来ている建物はホテルばかりだ。
「ねぇ、夜の家じゃやっぱりダメなの? 同居人がいるだけなんでしょ?」
「ダメだ」
「けちっ」
周りの妖しい雰囲気に気押されてか、少し不安気に夜の腕を掴んでいた。
二人の雰囲気は美月から見たらもう恋人のように見える。
(家には、俺がいるからダメ……って事でここか。ははっ……それは俺、邪魔だろうなぁ)
惨めな気持ちは美月をどんどん小さく縮こませる。
そして二人は適当なホテルのエントランスへと吸い込まれていった。
「美月……。もう、これが現実だ」
貴之の優しい声が頭の上でする。
「あ……あ、でももしかしたら映画鑑賞とか」
「美月」
「まったり昼寝に付き合うとか」
「美月ッ」
「ゲームとか」
美月の身体は突然強い力で抱き締められた。それだけで泣きそうになった自分が既に現実を認めている事を再確認してしまうようで涙を必死に塞き止める。
「俺……二人が出てくるまで待つ……」
美月は自分が一体何をしたいのか分からなかった。分からないが、出てきた後の二人で決定的なものを自分に見せつけないとまだ何かに縋りそうだと思った。
「もう止めよう美月。これ以上は辛いだけだ。俺が……俺の事は別に好きじゃなくていい。だから俺に頼ってくれよ。俺、今一人暮らしだし、俺の所に来いよ。な?」
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更新遅れましてスミマセン!
夜……本当に裏切っているのか…。
そしてツイッターやってます!
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コメント
お返事遅くなってごめんよー!!(>ω<)
やっと直りました!!
意気揚々と尾行スタートさせてからのズーンに吹いたよ(笑)
あ、そんな雰囲気じゃないんだけどね?(笑)
でもウケた(笑)
> 二人が出てくるトコまで美月ちゃんに見させるなんてっ!
> 桔梗ちんってば鬼畜なんだから~ツンツン(。゚ー゚)σ
> ・・・あれ?見ずにイッちゃうのかな!?
> 何だか貴之が急にイイ奴に見えてきた(爆)
> 次話をヵモ-ンщ(゚Д゚`щ)ヵモ-ン
(*´∀`*)ゞ ←
貴之、株が上がります^^;
でもコイツ、実はイイ奴なんだよね(笑)
良かったね、貴之!!
(*ノノ) ←貴之くん
> 8万Hit♪~q(^-^q) q(^0^)p (p^-^)p~♪おめでとお
> くそぅ、また踏めなかった(ノд-。)クスン
> これからも桔梗ちんのペースで書き続けてね♪
どうもありがと~~っ(ノД`)・゜・
いやいや!!私も気付かなかったしね?^^;
そう思ってくれただけで嬉しいよ!!
うむ!これからも頑張ります!!
コメントどうもありがとうございました
二人が出てくるトコまで美月ちゃんに見させるなんてっ!
桔梗ちんってば鬼畜なんだから~ツンツン(。゚ー゚)σ
・・・あれ?見ずにイッちゃうのかな!?
何だか貴之が急にイイ奴に見えてきた(爆)
次話をヵモ-ンщ(゚Д゚`щ)ヵモ-ン
8万Hit♪~q(^-^q) q(^0^)p (p^-^)p~♪おめでとお
くそぅ、また踏めなかった(ノд-。)クスン
これからも桔梗ちんのペースで書き続けてね♪
> んにゃ、夜さんは裏切ってない!あれだ!←今は言わないぞ。やぴは空気が読めるナイスな変態なのだ(`・ω・´)ノ ァィ
あはは(≧∀≦)
ナイスな変態さん!!(笑)
(`・ω・´)ノ ァィヽ(・ω・。)イイコイイコ
もしアレでしたら秘コメとかで(笑)
> でも、ホテル街って独特の雰囲気あるよねぇ~。ってうちの方は普通に川沿いとかにあるけど…海沿いとか…
> 最近のってどーなってるんだろう?しらふで行った事ないしな。←普通に寝に行く(-_-;)
> 見学ツアーに行きたいなぁ~。
寝に行くんですか!?(笑)
色んなのありますよね!和風や旅館もどきやお城や…。
でも是非とも鏡張りに行きたいですね…。(〃∇〃)←変態さんv
> 桔梗さま、やはりツイッターを!なんかブログの上の方に目印があるなぁ~って思ってたんですよ。あたしもやりたいとは思うんですが、ブログで精いっぱい。←2つやってるので…
> いつかやる時が来たら、フォローしたいです。
お~☆気付いて頂けていた!
嬉しいですー!
何とやぴさまも二つ!!やっぱ忙しくなりますよね^^;
しかもお仕事しつつだから目回りますよね(>ω<)
私…アホなんで三つやってるんすよ(-ω-;)
色々と使い分けです(笑)
まぁ、でもユートピア以外はかなり雑然としてて更新が怪しいですが(爆)
で、ツイッターアカウントも二つやってます;
メールアドレスが溢れそうです~(゚∀。)アヒャ ←壊
はい!是非お時間や余裕のある時にフォロって下さいまし☆
あ、やぴさまのネーム教えて頂けたらフォローしたいです~!
コメントどうもありがとうございました
んにゃ、夜さんは裏切ってない!あれだ!←今は言わないぞ。やぴは空気が読めるナイスな変態なのだ(`・ω・´)ノ ァィ
でも、ホテル街って独特の雰囲気あるよねぇ~。ってうちの方は普通に川沿いとかにあるけど…海沿いとか…
最近のってどーなってるんだろう?しらふで行った事ないしな。←普通に寝に行く(-_-;)
見学ツアーに行きたいなぁ~。
桔梗さま、やはりツイッターを!なんかブログの上の方に目印があるなぁ~って思ってたんですよ。あたしもやりたいとは思うんですが、ブログで精いっぱい。←2つやってるので…
いつかやる時が来たら、フォローしたいです。
エーン(pωq)ヽ(・ω・。)ヨチヨチ
> うっ、うっ、夜のバカ~もう、凶器はチョン切っておしまいっ゜。(p>∧<q)。゜゜
アベ☆ダ!?ひ~っ
でも……凶器没収ですよねっ(>ω<)!!
> 美月ちゃんは夜を信じて「ラブホ見学説」を唱えてるのに~~(;´∩`)
> でも!夜の潔白を信じてる!
私も信じたいですっ(ノД`)・゜・
美月の見学説が切ないですね…。
> ラブホ行って、エロビデオ見て、ベッドをクルクル回して、ついでにミラーボールも回して、ガラス張りのお風呂に入って、ゲームして、カラオケして、寝る?←ラブホが古い?
私も小学生位の時そのイメージでした(笑)
> だって、ほら!江戸にラブホはないじゃん!うんうん!
ですよね!!もっとオープンな茶屋がありますものね!!
(・ω・)ん?
> そうそう!ラブホから出て来た車に男の人二人乗ってたから、二度見してしまった(笑)
> きゃーっ\(^O^)/見ちゃった、ラッキー!と、喜んでたら、車に〇〇電器工事の文字が・・・車はダミーだろ?あんたらガチだろ?と、腐りきった主婦目線で見ちゃった(笑)どっちだろ?聞きたかった(≧▼≦)
うわぁー!それはぁああ!
フェイクですよ!!絶対!!(笑)
というか、工事の同僚と来たのでは!?
(〃д〃)キャ~♪(←願望と決めつけが激しいw)
コメントどうもありがとうございました
うっ、うっ、夜のバカ~もう、凶器はチョン切っておしまいっ゜。(p>∧<q)。゜゜
美月ちゃんは夜を信じて「ラブホ見学説」を唱えてるのに~~(;´∩`)
でも!夜の潔白を信じてる!
ラブホ行って、エロビデオ見て、ベッドをクルクル回して、ついでにミラーボールも回して、ガラス張りのお風呂に入って、ゲームして、カラオケして、寝る?←ラブホが古い?
だって、ほら!江戸にラブホはないじゃん!うんうん!
そうそう!ラブホから出て来た車に男の人二人乗ってたから、二度見してしまった(笑)
きゃーっ\(^O^)/見ちゃった、ラッキー!と、喜んでたら、車に〇〇電器工事の文字が・・・車はダミーだろ?あんたらガチだろ?と、腐りきった主婦目線で見ちゃった(笑)どっちだろ?聞きたかった(≧▼≦)
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