04/09/2011(Sat)
一周年記念 万華鏡-江戸に咲く-「やせ我慢」9話
「せっ……先生ッ」
「あれ? 美月くん。どうしたの?」
抱月の包み込むような懐かしい笑顔を見た途端、不安や寂しさが一気に崩壊して流れ出た。
次から次へと流れ出る涙をそのままにして、美月は抱月の胸の中に飛び込んだ。
「どうしたんだッ? とにかくこっちに」
驚いた抱月はこの時間人が使っていないCTスキャンのある部屋へと連れて行った。病院特有の全体的に白っぽい部屋に近未来的にも見える大きな機械が異様な存在感を醸し出していた。
抱月は部屋のドアを閉めると子供のようにすすり泣く美月の肩を黙って抱きしめた。
理由を聞かないでいてくれた事がとても嬉しい。
しばらくすると落ち着いてきた美月が抱月の胸の中から顔を上げた。少し上から見つめ返す抱月はとても愛おしそうに美月の頬を撫でて、そっとおでこにキスをした。
美月が片目を瞑ると涙がスルリと抱月の指を跨いだ。
「君が泣くと何だか勝手に体が動くな。……困ったなぁ、美月くんは男の子なのに……ごめんよ」
少し困った感じで、左手の薬指にはめられた指輪を光らせながらも美月の見えない心の不安をゆっくりとぬぐい去っていくように濡れた美月の睫毛にキスをする。
「せんせ……」
出来心だったのだろう。美月は甘えるように、蕩けた視線を絡ませた。それは抱月から見れば明らかにねだるように見えた。
目の前にある抱月の喉が上下に動くのが目の前で見えた。美月がもう一度視線を合わせると、抱月の瞳に痛い程に分かる欲の色が垣間見えた。
唇がゆっくりと引き合う磁石のように近づいていく。美月の脳は麻酔でもかけられたように麻痺していた。
だがふと互いの吐息を唇に感じた途端、磁石は跳ね返った。
「す……すまない、美月くん……私は」
「あ……あ、すみません、俺……甘えてつい……」
それでも抱月は美月を胸元からは離そうとはせず、美月もその中からは逃げなかった。
今の抱月は既に結婚もしていてノーマルだという事は知っていた。それでも抱月自身もこうせざるを得ないというのは、きっと今の抱月の中に未だ眠っている昔の彼が慰めに出てきたのではないかと思ってしまう。
美月はそう考えるだけで心がホッと暖かくなって、「ありがと、先生」と微笑む事が出来た。
「不思議だね……美月くんの瞳の中……何だろう。少しキラキラと光るモノがあって……万華鏡のようだ」
「うん……夜もね。この俺の目が好きなんだ」
落ち付いた美月は抱月の腕の中から離れた。
「あ、夜くんと言えばこの間見かけたなぁ。可愛い子と一緒に歩いているのを見かけてね。彼女でも出来たのかな?」
「え?」
やっと寝静まった赤ん坊が急に叫んだように美月の心臓が騒ぎだした。
抱月は彼女と言ったが、遠目から見てあの子の容姿ならば女と間違えても納得出来る。それに、数日前は夜の帰りが遅かった時でもあった。
「どこで……見かけたんですか……」
抱月の話しによると病院から少し離れた街にいたようだった。そこは例えば高校生なんかが行くような場所では無い場所だった。大人の繁華街で、どんな趣味の人も自然と集まる街だ。人々は妖しいネオンの光に集まる変わった色形をした夜光虫のようだ。
勿論、ホテルも沢山ある。同性同士で入れるホテルなんかもそこには沢山建っていて、需要の多さを物語っているようなものだ。
美月は愕然としながらもこの決定的にも思える情報にケリをつけようと唇を噛んだ。
夜の事を愛しているからこそ、証拠を突きつけられて現実を受け入れられるかどうか、美月自身がどう行動をするかをハッキリさせたかった。
抱月を目の前にして、するべき事としたい事が明確になれた。
その夜、美月は貴之に謝りと決心を電話で伝えた。
貴之は美月の夜への想いを理解し、もう二度とおかしな真似はしない代わりに明日は美月に付き合わせてほしいと言ってきた。
正直一人だと不安と緊張で足が竦みそうだった美月はそれを承諾した。
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「あれ? 美月くん。どうしたの?」
抱月の包み込むような懐かしい笑顔を見た途端、不安や寂しさが一気に崩壊して流れ出た。
次から次へと流れ出る涙をそのままにして、美月は抱月の胸の中に飛び込んだ。
「どうしたんだッ? とにかくこっちに」
驚いた抱月はこの時間人が使っていないCTスキャンのある部屋へと連れて行った。病院特有の全体的に白っぽい部屋に近未来的にも見える大きな機械が異様な存在感を醸し出していた。
抱月は部屋のドアを閉めると子供のようにすすり泣く美月の肩を黙って抱きしめた。
理由を聞かないでいてくれた事がとても嬉しい。
しばらくすると落ち着いてきた美月が抱月の胸の中から顔を上げた。少し上から見つめ返す抱月はとても愛おしそうに美月の頬を撫でて、そっとおでこにキスをした。
美月が片目を瞑ると涙がスルリと抱月の指を跨いだ。
「君が泣くと何だか勝手に体が動くな。……困ったなぁ、美月くんは男の子なのに……ごめんよ」
少し困った感じで、左手の薬指にはめられた指輪を光らせながらも美月の見えない心の不安をゆっくりとぬぐい去っていくように濡れた美月の睫毛にキスをする。
「せんせ……」
出来心だったのだろう。美月は甘えるように、蕩けた視線を絡ませた。それは抱月から見れば明らかにねだるように見えた。
目の前にある抱月の喉が上下に動くのが目の前で見えた。美月がもう一度視線を合わせると、抱月の瞳に痛い程に分かる欲の色が垣間見えた。
唇がゆっくりと引き合う磁石のように近づいていく。美月の脳は麻酔でもかけられたように麻痺していた。
だがふと互いの吐息を唇に感じた途端、磁石は跳ね返った。
「す……すまない、美月くん……私は」
「あ……あ、すみません、俺……甘えてつい……」
それでも抱月は美月を胸元からは離そうとはせず、美月もその中からは逃げなかった。
今の抱月は既に結婚もしていてノーマルだという事は知っていた。それでも抱月自身もこうせざるを得ないというのは、きっと今の抱月の中に未だ眠っている昔の彼が慰めに出てきたのではないかと思ってしまう。
美月はそう考えるだけで心がホッと暖かくなって、「ありがと、先生」と微笑む事が出来た。
「不思議だね……美月くんの瞳の中……何だろう。少しキラキラと光るモノがあって……万華鏡のようだ」
「うん……夜もね。この俺の目が好きなんだ」
落ち付いた美月は抱月の腕の中から離れた。
「あ、夜くんと言えばこの間見かけたなぁ。可愛い子と一緒に歩いているのを見かけてね。彼女でも出来たのかな?」
「え?」
やっと寝静まった赤ん坊が急に叫んだように美月の心臓が騒ぎだした。
抱月は彼女と言ったが、遠目から見てあの子の容姿ならば女と間違えても納得出来る。それに、数日前は夜の帰りが遅かった時でもあった。
「どこで……見かけたんですか……」
抱月の話しによると病院から少し離れた街にいたようだった。そこは例えば高校生なんかが行くような場所では無い場所だった。大人の繁華街で、どんな趣味の人も自然と集まる街だ。人々は妖しいネオンの光に集まる変わった色形をした夜光虫のようだ。
勿論、ホテルも沢山ある。同性同士で入れるホテルなんかもそこには沢山建っていて、需要の多さを物語っているようなものだ。
美月は愕然としながらもこの決定的にも思える情報にケリをつけようと唇を噛んだ。
夜の事を愛しているからこそ、証拠を突きつけられて現実を受け入れられるかどうか、美月自身がどう行動をするかをハッキリさせたかった。
抱月を目の前にして、するべき事としたい事が明確になれた。
その夜、美月は貴之に謝りと決心を電話で伝えた。
貴之は美月の夜への想いを理解し、もう二度とおかしな真似はしない代わりに明日は美月に付き合わせてほしいと言ってきた。
正直一人だと不安と緊張で足が竦みそうだった美月はそれを承諾した。
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コメント
> 抱月センセーったら、あと一歩でオチてたね(//∀//)
抱月先生ってばいつの間にそんな処方箋を(-ω-;)(笑)
お客さん殺到っすよ~(笑)
そしてあと少しで落ちそうだったですね~危ない危ない(笑)
> 美月ちゃん誘っちゃうから~センセーの目撃談で、明日は夜の尾行か・・・貴之さんがついてきて誤解されなきゃいいんだけど・・・
> こうなったら!!
> ついていくしかありますまいっ!
> そして、夜の浮気現場に乗り込んでやれ(笑)
すみません、今夜尾行の筈がどこかの誰かさんが文章落したので
尾行初めからやり直しです |||||( _ _)|||||
すみませんです;;;
明日出来次第UP致します(>ω<)!!
明日こそ乗り込みじゃ~っ(涙)
コメントどうもありがとうございました
> 誰かの物にはなっていても、美月ちゃんを導いてくれるのには変わりないんだねぇ♪
そうよ~(。´Д`。)=3 フゥ
悲しいかな……。この時代では結ばれる運命ではないようだよ(>ω<)
また来世かな?(*´∇`*)
でもこうして導いてくれる先生……優し過ぎ(ノД`)・゜・
> ・・・ってナニユユュュュュュュュ(*`ロ´*ノ)ノ
> その抱月センセからの目撃情報が!!
> それは信憑性ありすぎですな( -Д-) ゚Д゚)フムフム
> とうとうそれを夜に突きつけてしまうのね((( ;゚Д゚)))
> でももう美月ちゃんも限界だもんね(T△T)
めっちゃ驚いてくれてありがとう(笑)
目撃情報きました!!しかも信憑性のたかいものが(´Д`A;)
うん……もう限界だからハッキリさせないとだよね(>ω<)
> しかし、貴之と一緒ってのがどう出るか(ボソっ ←
確かに!!!(笑)
そして書いた文章……消えるの巻 |||||( _ _)|||||
コメントどうもありがとうございました
抱月センセーったら、あと一歩でオチてたね(//∀//)
美月ちゃん誘っちゃうから~センセーの目撃談で、明日は夜の尾行か・・・貴之さんがついてきて誤解されなきゃいいんだけど・・・
こうなったら!!
ついていくしかありますまいっ!
そして、夜の浮気現場に乗り込んでやれ(笑)
誰かの物にはなっていても、美月ちゃんを導いてくれるのには変わりないんだねぇ♪
・・・ってナニユユュュュュュュュ(*`ロ´*ノ)ノ
その抱月センセからの目撃情報が!!
それは信憑性ありすぎですな( -Д-) ゚Д゚)フムフム
とうとうそれを夜に突きつけてしまうのね((( ;゚Д゚)))
でももう美月ちゃんも限界だもんね(T△T)
しかし、貴之と一緒ってのがどう出るか(ボソっ ←
> んふぅ(●´Д`●)←特に意味はないですが、分かったぞ!あたしのレーダーはいい方向へ向いた!もうそうなるしかないっ!だって、切ないもん。痛いもん。・゚・(ノε`)・゚・。
こんばんは^^
ドキィッ(//∀//)
そ、そんな艶っぽい溜息をついて……
やはりやぴさま私を誘って!?┣¨キ┣¨キ(〃∀〃)┣¨キ┣¨キ (違
ああっ!!痛がっているやぴさま!!
もう完全に私を誘って……(`・Д・)=○))`з')・:'.,
しかし確かに佳境に入って参りましたね;
美月も少しは癒されたようで何らかの行動を起こすきっかけに
なったようで良かった気がします(>ω<)
> というか、先生何気に波風立てちゃうのね。危うく唇も重なりそうだったけど…
> 重ならないところが、桔梗さまなのね。
ヽ(。・ω・。)ノぁぃ♪
先生も危うく崩れかけましたが……
二人して持ち直しました!!
(。´Д`。)=3 フゥ
> どんな趣味の人も自然と集まるって(笑)んじゃ、あたしもOK?何系の趣味になるんだろう?
> ただの変態か(;゚∀゚)=3ハァハァ
(゚∀゚)人(゚∀゚)ナカーマ ←
では我々も明日偶然にも土曜ですし(笑)
奴らの後をつけましょうか!!
コメントどうもありがとうございました
> 改めてしてなくてごめんね;
わ~!ありがとうございます!!
いえいえー!!
お忙しいのにいつもありがとうございます(ノД`)・゜・
> やった!
> いよいよ決戦だね!?←??;
> でも悩んで悲しんでるのはもう見てられないよ~・涙
> 先生と・・・?
> と思ったけど、ここでとどまってくれるのが私好みで幸せ・・・♪
ですね!決戦は金曜日とはよく言ったものです(`・ω・´)シャキーン
(それは歌のタイトルですね)
あ、WLさんもここ止まりが好みなのですね(〃∇〃)
( ´∀`)人(´∀` )ナカーマ
やはり美月はいくら淫乱王子とは言え、先生本人ではない人と
何か出来る程の精神状態ではないようです(>ω<)
先生本人とは約300年近く前に時代越えした時に会った
抱月っちゅー街医者なのでつ(*´∇`*)
> ところで、
> >唇がゆっくりと引き合う磁石のように近づいていく。
> 系の磁石のキスを昨日書いたばかりだったので、衝撃~~~・笑
> なにか伝心した!?!?
伝心!!!!*:.。(●´∀`)人(´∀`●)。.:*
ってそんな恐縮です~~~っ
うちのなど比べ物にならない磁石度です~~~(;´Д`A ```
> 次来れるのは週明けかな・・・涙
> 楽しみに待ってますッッ
あぅっ+.゜.(⊃Д`*)゜+.゜
週明けにまたお会い出来るのを楽しみにしてます!!
お仕事もぶっ続けお疲れ様でした~~!
コメントどうもありがとうございました
んふぅ(●´Д`●)←特に意味はないですが、分かったぞ!あたしのレーダーはいい方向へ向いた!もうそうなるしかないっ!だって、切ないもん。痛いもん。・゚・(ノε`)・゚・。
というか、先生何気に波風立てちゃうのね。危うく唇も重なりそうだったけど…
重ならないところが、桔梗さまなのね。
どんな趣味の人も自然と集まるって(笑)んじゃ、あたしもOK?何系の趣味になるんだろう?
ただの変態か(;゚∀゚)=3ハァハァ
改めてしてなくてごめんね;
やった!
いよいよ決戦だね!?←??;
でも悩んで悲しんでるのはもう見てられないよ~・涙
先生と・・・?
と思ったけど、ここでとどまってくれるのが私好みで幸せ・・・♪
ところで、
>唇がゆっくりと引き合う磁石のように近づいていく。
系の磁石のキスを昨日書いたばかりだったので、衝撃~~~・笑
なにか伝心した!?!?
次来れるのは週明けかな・・・涙
楽しみに待ってますッッ
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