08/09/2011(Tue)
妄想列車 22話
「なぁ……お前さ。別の会社に移る気はないか?」
「え……? 何言ってんだよ突然」
「お前の会社、情報セキュリティ専門だろ? でも万全って訳じゃないし、いつどうなるか分からない。何かあれば会社自体ダメになるなんてハイリスクだろ」
それは、そうだけど。
でもそうならないように俺たちは日夜頑張って進化していっている。
「俺は今の仕事に誇りを持っているし、目的を持っている」
「目的って?」
リツカなら……いいかな。
「国を……守る」
「……」
「ごめん。実は俺、極秘だから言えなかったんだけどSTSの職員なんだ。だから国のが守ろうとしている事を俺は守るのが使命だと思っている」
「機密情報内容……知っていると?」
「暗号化されてたけど……解読出来ちゃったから……。でも全てを知った訳じゃない」
歴史の教科書に載っている事実が実は、事前に政府側が把握していて、既に承諾されたものだと知った時には愕然とした。
ただ、意図していたものと違う方向に流れてしまった事も事実のようだった。それらの事を踏まえた上での国同士の慎重な取引。
俺はその時暫く頭が真っ白になった。
でも、もしかしたらそうせざるを得ない状況だったかもしれないし、それが最善の状況だったかもしれない。
文章をもう一度読んで、俺はそう感じたんだ。
でも人間の創り上げてきた歴史なんてそんなものだろう。国の真意とは、結局大勢の人々の織りなす考えという事なんじゃないかな。
それを全て明らかにしたら、その時の真意は伝わらない気がした。
だって物事の受け方は人それぞれだから。また意見の違う人同士で争いになる。
俺はそれだったらこれからも母国を信じていきたいって思ったんだ。
そして内容を知ったのはきっと俺だけだ。
知っているという事を話した人間はいない。リツカだけだ。
「納得したのか? その内容に」
「ごめん、これ以上は言えない……けど、俺はとにかくこの国の国民で、国の心臓とも言えるものの番人になったから……守るだけだ」
リツカが怒ったような、泣きそうな顔をしたのが引っかかった。
そっと俺の頬を触るリツカの指が冷たい。
「会社、ダメになるぞ?」
「は? 何でそんな事リツカが言うんだよッ」
「俺は……お前と一緒に居たいみたいだ」
みたい?
みたいってなんだよ。
「俺だってそうだよ! べつに居ればいいじゃんか! 俺は離れていかないよ!」
電車が止まり、大勢の人たちの入れ替えが始まった。
リツカは、「ありがとう」と優しい笑顔を向けてキスをするとそのまま降りて行ってしまった。
そして会社に着くと、オフィスには殆ど人がいなかった。
「ハッキングされた!」
俺は言われている事に現実味を持てなかった。
人がいなかったので探し回っていたら、汗だくの上司が駆け寄ってきてそう言った。
「え……どうやって……」
「どうもこうも、最初におかしいと思っていた時から種を蒔かれていたらしいんだ」
最近ではそういう技術も開発している奴がいるらしいという噂は聞いた事があった。
ウイルスの卵とも言われている。人間が知らずに寄生虫に卵を体に産みつけられるようにハッカーは種を産みつけにくる。
だが、その技術があったとしてもうちのような会社のセキュリティを先ずは掻い潜る事が条件だ。それも不可能に近い。
種は見つかりにくいが単純なプログラムである為に、毎日行われる自動クリーニングシステムで除去されると同じ種はもう二度と進入させる事ができない。
それだけ新しいプログラムを毎日作れる奴がいたって事か?
とにかく、それが突破口となり、進入口を確保したハッカーはセキュリティの入り口にまでたどり着いた訳だが、問題はそこでの解読技術とその先にすんなりと入れた事実だ。
社員でもない限り簡単に入る事は不可能だ。
という事は社員が先に狙われ、ハッキングされたかミスをしたかになる。
その日から俺たちはずっと家に帰れない状態が続いた。
リツカに電話しても出ない。いつもなら必ず掛けなおしてくれていたのに、一番声の聞きたい時に声が聞けない辛さが更に精神的疲労を増幅させた。
「殆どの情報が盗まれた……もう、ダメかもしれない。これで国の情勢が悪化したら俺たちの責任だ」
清水先輩が一週間で痩せた顔を俯かせてそう言った。
俺は何も言えなかった。
<<前へ 次へ>>
ヾ(´д`;)ノぁゎゎ
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お礼画像あり☆6種ランダム
「え……? 何言ってんだよ突然」
「お前の会社、情報セキュリティ専門だろ? でも万全って訳じゃないし、いつどうなるか分からない。何かあれば会社自体ダメになるなんてハイリスクだろ」
それは、そうだけど。
でもそうならないように俺たちは日夜頑張って進化していっている。
「俺は今の仕事に誇りを持っているし、目的を持っている」
「目的って?」
リツカなら……いいかな。
「国を……守る」
「……」
「ごめん。実は俺、極秘だから言えなかったんだけどSTSの職員なんだ。だから国のが守ろうとしている事を俺は守るのが使命だと思っている」
「機密情報内容……知っていると?」
「暗号化されてたけど……解読出来ちゃったから……。でも全てを知った訳じゃない」
歴史の教科書に載っている事実が実は、事前に政府側が把握していて、既に承諾されたものだと知った時には愕然とした。
ただ、意図していたものと違う方向に流れてしまった事も事実のようだった。それらの事を踏まえた上での国同士の慎重な取引。
俺はその時暫く頭が真っ白になった。
でも、もしかしたらそうせざるを得ない状況だったかもしれないし、それが最善の状況だったかもしれない。
文章をもう一度読んで、俺はそう感じたんだ。
でも人間の創り上げてきた歴史なんてそんなものだろう。国の真意とは、結局大勢の人々の織りなす考えという事なんじゃないかな。
それを全て明らかにしたら、その時の真意は伝わらない気がした。
だって物事の受け方は人それぞれだから。また意見の違う人同士で争いになる。
俺はそれだったらこれからも母国を信じていきたいって思ったんだ。
そして内容を知ったのはきっと俺だけだ。
知っているという事を話した人間はいない。リツカだけだ。
「納得したのか? その内容に」
「ごめん、これ以上は言えない……けど、俺はとにかくこの国の国民で、国の心臓とも言えるものの番人になったから……守るだけだ」
リツカが怒ったような、泣きそうな顔をしたのが引っかかった。
そっと俺の頬を触るリツカの指が冷たい。
「会社、ダメになるぞ?」
「は? 何でそんな事リツカが言うんだよッ」
「俺は……お前と一緒に居たいみたいだ」
みたい?
みたいってなんだよ。
「俺だってそうだよ! べつに居ればいいじゃんか! 俺は離れていかないよ!」
電車が止まり、大勢の人たちの入れ替えが始まった。
リツカは、「ありがとう」と優しい笑顔を向けてキスをするとそのまま降りて行ってしまった。
そして会社に着くと、オフィスには殆ど人がいなかった。
「ハッキングされた!」
俺は言われている事に現実味を持てなかった。
人がいなかったので探し回っていたら、汗だくの上司が駆け寄ってきてそう言った。
「え……どうやって……」
「どうもこうも、最初におかしいと思っていた時から種を蒔かれていたらしいんだ」
最近ではそういう技術も開発している奴がいるらしいという噂は聞いた事があった。
ウイルスの卵とも言われている。人間が知らずに寄生虫に卵を体に産みつけられるようにハッカーは種を産みつけにくる。
だが、その技術があったとしてもうちのような会社のセキュリティを先ずは掻い潜る事が条件だ。それも不可能に近い。
種は見つかりにくいが単純なプログラムである為に、毎日行われる自動クリーニングシステムで除去されると同じ種はもう二度と進入させる事ができない。
それだけ新しいプログラムを毎日作れる奴がいたって事か?
とにかく、それが突破口となり、進入口を確保したハッカーはセキュリティの入り口にまでたどり着いた訳だが、問題はそこでの解読技術とその先にすんなりと入れた事実だ。
社員でもない限り簡単に入る事は不可能だ。
という事は社員が先に狙われ、ハッキングされたかミスをしたかになる。
その日から俺たちはずっと家に帰れない状態が続いた。
リツカに電話しても出ない。いつもなら必ず掛けなおしてくれていたのに、一番声の聞きたい時に声が聞けない辛さが更に精神的疲労を増幅させた。
「殆どの情報が盗まれた……もう、ダメかもしれない。これで国の情勢が悪化したら俺たちの責任だ」
清水先輩が一週間で痩せた顔を俯かせてそう言った。
俺は何も言えなかった。
<<前へ 次へ>>
ヾ(´д`;)ノぁゎゎ
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コメント
> 先輩痩せちゃったじゃないかっ(≧▼≦)
> ついでに、シンちゃんも痩せてるぞ~~~~っ、抱き心地悪くなってもしらんぞ~(;´∩`)
本当です!
エイ!(*`・д・´)ノ゛)Д`)ペション
痩せてしまった先輩^^;
でも困るのはシンが痩せたら悪くなる
抱き心地の方っていう(笑)
抱き心地って大切ですよね……orz
> こらこらこら~~~~っ、急に、愛国主義になっちまう、ちこさんだぞぉ~~~っ(@_@;)えっ?
> そんなリツカはちこが調教してやるぅ(//∀//)エヘッ←あ、すみません、ちこさんドMでした。きっと、鞭渡します(笑)
ちこさん、愛国主義者!?
*:.。(●´∀`)人(´∀`●)。.:*
なんと!ちこさんがリツカを調教っていう
斬新なスタイル!!
と、思いきや鞭を手渡すようだっ!(笑)
さすがです(笑)(≧ω≦)b
> 一週間も下半身を放置してるシンちゃんが、心配・・・(//∀//)エヘッ
はっ!∑(°ロ°*)
本当だ!
……心配になってきた……(笑)
ま、我慢もたまにはいいですよね?
(//∀//)エヘッ ←
コメントどうもありがとうございました
はい(´Д`A;)
もう、どうするつもりなんでしょうか、リツカの奴…;
> シンさんを通してリツカさんが突破したのか、先輩を落とした健さんが突破したのかが気になります
>
> (◎□◎){ドウナッチャウノ…!?
>
> リツカさんがいなくなったら、シンさんが壊れちゃいそうで、心臓がバクバクします~
どちらがどんな風に突破したのか。
次で明らかになるかもです(>ω<)
(でも進まなくてスミマセン;)
明日UP出来るかな……(-"-;A ...アセアセ
リツカがいなくなったら…原因を知ったら…
何だか不穏な空気です(>ω<)
コメントどうもありがとうございました
先輩痩せちゃったじゃないかっ(≧▼≦)
ついでに、シンちゃんも痩せてるぞ~~~~っ、抱き心地悪くなってもしらんぞ~(;´∩`)
こらこらこら~~~~っ、急に、愛国主義になっちまう、ちこさんだぞぉ~~~っ(@_@;)えっ?
そんなリツカはちこが調教してやるぅ(//∀//)エヘッ←あ、すみません、ちこさんドMでした。きっと、鞭渡します(笑)
一週間も下半身を放置してるシンちゃんが、心配・・・(//∀//)エヘッ
シンさんを通してリツカさんが突破したのか、先輩を落とした健さんが突破したのかが気になります
(◎□◎){ドウナッチャウノ…!?
リツカさんがいなくなったら、シンさんが壊れちゃいそうで、心臓がバクバクします~
コメント