01/02/2012(Mon)
貴方の狂気が、欲しい 2話
「んっ……っ」
塞いできた唇からは仄かにウィスキーの香りがした。時枝はウィスキーと混じる木戸の香りに酔いそうになった。
木戸の肉厚な舌が無理矢理押し入ってきて、抵抗出来る筈もなかった。時枝は眉を顰めながら口を開けた。
「んっ……ぁっ」
初めて味わった木戸の舌は、想像以上に時枝を溶かした。力強く乱暴なのに、人を欲情させるのが上手い。
気持ちいいのと同時に、初めてした濃厚なキスに緊張して鼓動が速くなる。
「柔らかいな……お前の舌」
そんな事を言われて、時枝は何となく顔を逸らした。居心地が悪かった。
時枝には、それが“照れ”だという事が分からなかった。
「木戸さま。私ももう少しお酒付き合いますから……どいて下さい」
「お前、絶対に酔わないじゃないか」
時枝が木戸よりも酒に強い事は承知のようだった。
「こうされるのが嫌なのか? 嫌じゃないだろう?」
「んっ……待っ」
ワイシャツの上からいやらしく腰を撫でられて、時枝の口から吐息が漏れた時だった。
自分を上から見下ろす木戸の表情を見て、胸がズキリと痛んだ。それは何度も見た事のある木戸の表情だという事に気が付いたからだ。
弘夢を抱く時の木戸の顔をよく知る時枝だからこそ分かる皮肉なものだった。
「私は、弘夢くんではありませんよ。木戸さま」
「……」
弘夢を見つめる目や、痛みを与える残酷な手先と裏腹な優しい表情、それらが自分にはまだ無い事など初めから分かっていた。
――あの子を愛したように自分も激しく狂乱する程求められたい。
「私は、貴方が好きです。ずっと、好きでした。弘夢くんを殺したい程に好きでした」
「気づかなかった」
「でしょうね。人からよく感情が分かりにくいと言われる方ですので。鈍感な貴方に分かる訳がありません」
時枝の皮肉な物言いに、木戸は挑戦的な笑みを浮かべた。
「泣かせろ、と言っているのか?」
木戸の熱い手が時枝の首をキュッと締める。時枝は下半身に脈打つ欲望を感じて眉を潜めた。
この太くて大きな手に体内を貫かれたい。上から見下ろしながら楽しげにピアスを打ち込み、滴る血液を舐め取って欲しい。
ずっとそんな気持ちをひた隠しにしてきた。
「貴方は……私を好きになれますか……?」
――あの狂気は愛があってこそ究極の愛撫になり得る。
時枝の言葉に木戸の手の力が緩まった。
「そういう目でお前を見た事はない」
時枝はゆっくりと布団と木戸の身体から抜けだして立ち上がった。
「もし、私と仕事がやりづらいのでしたらどうぞ、替えて下さい」
「そんな訳あるか。それじゃ仕事ができん」
木戸の意外な言葉に時枝は嬉しくなって、つい、ほんの少し頬が緩みそうになったので直ぐに後ろを向いた。
「……なら、結構です」
部屋をそのまま出て行こうとした時枝に向かって「どこへ行くんだ」と木戸の声がした。
「……隣の部屋ですが。何か」
「何で隣に行く必要があるんだ」
「何故って……私は隣に自分の部屋を取ったからですよ。お休みなさいませ」
木戸が、自分の置かられている特殊な環境下において自分を必要としてくれている事が嬉しかった。何より、どんな形でもこれからも側に居られる事が分かって安心した。
時枝が風呂から出ると、明日のスケジュールで伝え忘れた事があったのを思い出した。
「しまった」
まだ寝てはいないだろうと思い、時枝は浴衣姿のままで木戸の部屋の前に立った。
「あっ……あんっ……もうっ……やめっ」
中から知らない男の子の声が聞こえてきた。声から想像してかなり若い感じだ。甲高い声質が神経を逆撫でする。
木戸がコールボーイを呼んだのだろう事は直ぐに分かった。
確かに今夜は一人で居たくなかったのかもしれない。代わりに時枝が抱かれていたとして、弘夢の代わりにされるなどまっぴらだった。
それでも木戸が他の誰かと繋がっているのを知る度に、胸の奥に杭を打ち込まれるような痛みが走る。
さっき触れた木戸の乾いた唇や熱い舌が、今は知らない男が味わっているのかと思うと殺意が起こる。
自分の感情をグッと抑えた時枝は、相手の顔を見ずに部屋へ戻った。顔を知ってしまったらきっと我慢が出来ないからだ。
部屋へ帰っても、時折隣から聞こえてくる若い男の喜悦の叫びが壁をすり抜けてくる。
「あと四時間ほどの……我慢ですか……」
時枝はそう呟いて雲の掛った月を見上げた。
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お礼画像あり6種☆
塞いできた唇からは仄かにウィスキーの香りがした。時枝はウィスキーと混じる木戸の香りに酔いそうになった。
木戸の肉厚な舌が無理矢理押し入ってきて、抵抗出来る筈もなかった。時枝は眉を顰めながら口を開けた。
「んっ……ぁっ」
初めて味わった木戸の舌は、想像以上に時枝を溶かした。力強く乱暴なのに、人を欲情させるのが上手い。
気持ちいいのと同時に、初めてした濃厚なキスに緊張して鼓動が速くなる。
「柔らかいな……お前の舌」
そんな事を言われて、時枝は何となく顔を逸らした。居心地が悪かった。
時枝には、それが“照れ”だという事が分からなかった。
「木戸さま。私ももう少しお酒付き合いますから……どいて下さい」
「お前、絶対に酔わないじゃないか」
時枝が木戸よりも酒に強い事は承知のようだった。
「こうされるのが嫌なのか? 嫌じゃないだろう?」
「んっ……待っ」
ワイシャツの上からいやらしく腰を撫でられて、時枝の口から吐息が漏れた時だった。
自分を上から見下ろす木戸の表情を見て、胸がズキリと痛んだ。それは何度も見た事のある木戸の表情だという事に気が付いたからだ。
弘夢を抱く時の木戸の顔をよく知る時枝だからこそ分かる皮肉なものだった。
「私は、弘夢くんではありませんよ。木戸さま」
「……」
弘夢を見つめる目や、痛みを与える残酷な手先と裏腹な優しい表情、それらが自分にはまだ無い事など初めから分かっていた。
――あの子を愛したように自分も激しく狂乱する程求められたい。
「私は、貴方が好きです。ずっと、好きでした。弘夢くんを殺したい程に好きでした」
「気づかなかった」
「でしょうね。人からよく感情が分かりにくいと言われる方ですので。鈍感な貴方に分かる訳がありません」
時枝の皮肉な物言いに、木戸は挑戦的な笑みを浮かべた。
「泣かせろ、と言っているのか?」
木戸の熱い手が時枝の首をキュッと締める。時枝は下半身に脈打つ欲望を感じて眉を潜めた。
この太くて大きな手に体内を貫かれたい。上から見下ろしながら楽しげにピアスを打ち込み、滴る血液を舐め取って欲しい。
ずっとそんな気持ちをひた隠しにしてきた。
「貴方は……私を好きになれますか……?」
――あの狂気は愛があってこそ究極の愛撫になり得る。
時枝の言葉に木戸の手の力が緩まった。
「そういう目でお前を見た事はない」
時枝はゆっくりと布団と木戸の身体から抜けだして立ち上がった。
「もし、私と仕事がやりづらいのでしたらどうぞ、替えて下さい」
「そんな訳あるか。それじゃ仕事ができん」
木戸の意外な言葉に時枝は嬉しくなって、つい、ほんの少し頬が緩みそうになったので直ぐに後ろを向いた。
「……なら、結構です」
部屋をそのまま出て行こうとした時枝に向かって「どこへ行くんだ」と木戸の声がした。
「……隣の部屋ですが。何か」
「何で隣に行く必要があるんだ」
「何故って……私は隣に自分の部屋を取ったからですよ。お休みなさいませ」
木戸が、自分の置かられている特殊な環境下において自分を必要としてくれている事が嬉しかった。何より、どんな形でもこれからも側に居られる事が分かって安心した。
時枝が風呂から出ると、明日のスケジュールで伝え忘れた事があったのを思い出した。
「しまった」
まだ寝てはいないだろうと思い、時枝は浴衣姿のままで木戸の部屋の前に立った。
「あっ……あんっ……もうっ……やめっ」
中から知らない男の子の声が聞こえてきた。声から想像してかなり若い感じだ。甲高い声質が神経を逆撫でする。
木戸がコールボーイを呼んだのだろう事は直ぐに分かった。
確かに今夜は一人で居たくなかったのかもしれない。代わりに時枝が抱かれていたとして、弘夢の代わりにされるなどまっぴらだった。
それでも木戸が他の誰かと繋がっているのを知る度に、胸の奥に杭を打ち込まれるような痛みが走る。
さっき触れた木戸の乾いた唇や熱い舌が、今は知らない男が味わっているのかと思うと殺意が起こる。
自分の感情をグッと抑えた時枝は、相手の顔を見ずに部屋へ戻った。顔を知ってしまったらきっと我慢が出来ないからだ。
部屋へ帰っても、時折隣から聞こえてくる若い男の喜悦の叫びが壁をすり抜けてくる。
「あと四時間ほどの……我慢ですか……」
時枝はそう呟いて雲の掛った月を見上げた。
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コメント
あぁ…楽しみな時間が出来たなんて幸せなお言葉、本当にありがとうございます(ノД`)・゜・
そしてめげるな、時枝っ!
拍手秘コメントどうもありがとうございました
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