01/14/2012(Sat)
貴方の狂気が、欲しい 12話
翌朝、木戸はそっと時枝の寝る部屋へ入ると、拾いベッドの端に時枝がまだよく寝ていた。
シーツの白さがよく似合う透き通った肌に、少し長い漆黒の髪が時枝の艶美な顔を際立たせている。
木戸はそっと近づくと、時枝の寝顔をまじまじと見た。その気配に気付いたのか、時枝が薄く目を開き、木戸を見るなり慌てて「お早うございます」と挨拶をした。
その様子と律義な態度に木戸は声を上げて笑った。
「お前、結構面白い奴だな」
「……いえ。私はどちらかと言えば比較的つまらない部類の人間です」
その答えを聞いた木戸がまた声を上げて笑った。
時枝は何に木戸が笑っているのかよく分からなかったが、楽しそうに笑ってくれる事がとても嬉しかった。
「今日は夜から出る。それまで仕事は他に回した」
「そんな事をしてはっ」
「別に俺じゃなくても出来る仕事なら他の奴にやらせたっていいだろ」
「全く……貴方という人は。これだから私が休んでいられないのですよ」
木戸は起き上ろうとした時枝の肩を乱暴に押さえつけた。
「俺も最近疲れたからな。夜まで休む事にした。安心しろ。お前の仕事の分も他の奴に振っておいたから」
諦めた時枝は軽い溜息をついて「では、遠慮なく休ませて頂きます」と瞼を閉じた。
「おい。また寝るのか」
「貴方が休めと仰ったのでしょう!」
遊びたいとでも言う様な木戸の態度に、時枝は可笑しくなって顔を布団で隠して小さく笑った。
――楽しい。
木戸とこんな風にふざけ合って笑える日が来るなんて思ってもみなかった。
何となくウトウトしていたのだろうか、気付けば既に昼を過ぎていた。
朝は木戸がシェフを呼んでおかゆを作らせていたが、昼も呼ぶのだろうかと時枝は気になってベッドから出た。
リビングのソファから長い足が出ているのが見えた。近づくと、すっかり寝入ってしまっている木戸がいた。
寝ているにも関わらず醸し出される威圧感はその大きな体型から来るものなのか分からない。
もう少し近づいて見ると、まだセットされていない髪が無造作に額に掛っていた。それがいつもと違って見え、時枝はこの髪型の木戸も良いなと密かに思った。
そのまま大きなキッチンに向かうと、おかゆの残りがあと僅かしかなかった。
「作ってみますか……」
時枝はシェフの残していったであろう大根を先ず手に取った。
その先どうしていいか分からない。
もう片方の手で包丁を握り、取り敢えずは大根を真っ二つに切ってみた。
時間を掛けて、いつも食べる大根を思い出しながら小さめに切っていく。だが形を整え過ぎてサイコロのようになってしまった。
時枝は無表情のままそれらを煮物にしようと試みた。
ガラガラと大きな鍋にサイコロたちを入れ、煮物の色を再現しようと大量の醤油をドボドボと流し込んだ――。
* * *
焦げ付くようなしょっぱい匂いが部屋に充満し、木戸はクシャミをして起きた。
視線の先には一流のシェフのような表情で台所に立つ時枝がいた。
「何だ、お前料理が出来るのか? ……ゴホッ」
「初めてです」
「……何を作ってるんだ」
「煮物です」
「……ゴホッ」
時枝が大鍋を豪快に皿に何かをゴロゴロと流し込むのが見えた。それを慎重に両手で運んでくる姿を見て、木戸はテーブルについた。
時枝が近づくにつれ、明らかになるその料理に期待が高まる。何しろ何でも万能にこなす時枝だ。
「お待たせ致しました」
大皿に盛られた大量の黒いサイコロを見て、木戸はそれを凝視した。
「……どこの国の料理だ」
「日本です」
木戸は時枝の飄々とした雰囲気に流され、取り敢えずつまんでみようという気になった。
「おい……飯はないのか?」
「申し訳ありません。ご飯の炊き方が分からず、試しにおかゆをフライパンで焼いてみたのですがお煎餅のようになってしまったので、一先ずは煮物をと思いまして」
「そ、そうか……では取り敢えず食ってみるか」
木戸はその黒いサイコロを一つ口の中に放り込んだ。
「ガハッ」
途端にサイコロを吐き出し水を飲みにキッチンへ駆け込んだ。
「お前ッ……しょう油の濃さを一点に集中させた恐ろしいものを作るなッ」
「やはりそうですか。ではこれは失敗ですね。……料理は大変難しいです」
木戸は初めて時枝にも不得意なものがあると知った。
<<前へ 次へ>>
プー!(*≧m≦)=3
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シーツの白さがよく似合う透き通った肌に、少し長い漆黒の髪が時枝の艶美な顔を際立たせている。
木戸はそっと近づくと、時枝の寝顔をまじまじと見た。その気配に気付いたのか、時枝が薄く目を開き、木戸を見るなり慌てて「お早うございます」と挨拶をした。
その様子と律義な態度に木戸は声を上げて笑った。
「お前、結構面白い奴だな」
「……いえ。私はどちらかと言えば比較的つまらない部類の人間です」
その答えを聞いた木戸がまた声を上げて笑った。
時枝は何に木戸が笑っているのかよく分からなかったが、楽しそうに笑ってくれる事がとても嬉しかった。
「今日は夜から出る。それまで仕事は他に回した」
「そんな事をしてはっ」
「別に俺じゃなくても出来る仕事なら他の奴にやらせたっていいだろ」
「全く……貴方という人は。これだから私が休んでいられないのですよ」
木戸は起き上ろうとした時枝の肩を乱暴に押さえつけた。
「俺も最近疲れたからな。夜まで休む事にした。安心しろ。お前の仕事の分も他の奴に振っておいたから」
諦めた時枝は軽い溜息をついて「では、遠慮なく休ませて頂きます」と瞼を閉じた。
「おい。また寝るのか」
「貴方が休めと仰ったのでしょう!」
遊びたいとでも言う様な木戸の態度に、時枝は可笑しくなって顔を布団で隠して小さく笑った。
――楽しい。
木戸とこんな風にふざけ合って笑える日が来るなんて思ってもみなかった。
何となくウトウトしていたのだろうか、気付けば既に昼を過ぎていた。
朝は木戸がシェフを呼んでおかゆを作らせていたが、昼も呼ぶのだろうかと時枝は気になってベッドから出た。
リビングのソファから長い足が出ているのが見えた。近づくと、すっかり寝入ってしまっている木戸がいた。
寝ているにも関わらず醸し出される威圧感はその大きな体型から来るものなのか分からない。
もう少し近づいて見ると、まだセットされていない髪が無造作に額に掛っていた。それがいつもと違って見え、時枝はこの髪型の木戸も良いなと密かに思った。
そのまま大きなキッチンに向かうと、おかゆの残りがあと僅かしかなかった。
「作ってみますか……」
時枝はシェフの残していったであろう大根を先ず手に取った。
その先どうしていいか分からない。
もう片方の手で包丁を握り、取り敢えずは大根を真っ二つに切ってみた。
時間を掛けて、いつも食べる大根を思い出しながら小さめに切っていく。だが形を整え過ぎてサイコロのようになってしまった。
時枝は無表情のままそれらを煮物にしようと試みた。
ガラガラと大きな鍋にサイコロたちを入れ、煮物の色を再現しようと大量の醤油をドボドボと流し込んだ――。
* * *
焦げ付くようなしょっぱい匂いが部屋に充満し、木戸はクシャミをして起きた。
視線の先には一流のシェフのような表情で台所に立つ時枝がいた。
「何だ、お前料理が出来るのか? ……ゴホッ」
「初めてです」
「……何を作ってるんだ」
「煮物です」
「……ゴホッ」
時枝が大鍋を豪快に皿に何かをゴロゴロと流し込むのが見えた。それを慎重に両手で運んでくる姿を見て、木戸はテーブルについた。
時枝が近づくにつれ、明らかになるその料理に期待が高まる。何しろ何でも万能にこなす時枝だ。
「お待たせ致しました」
大皿に盛られた大量の黒いサイコロを見て、木戸はそれを凝視した。
「……どこの国の料理だ」
「日本です」
木戸は時枝の飄々とした雰囲気に流され、取り敢えずつまんでみようという気になった。
「おい……飯はないのか?」
「申し訳ありません。ご飯の炊き方が分からず、試しにおかゆをフライパンで焼いてみたのですがお煎餅のようになってしまったので、一先ずは煮物をと思いまして」
「そ、そうか……では取り敢えず食ってみるか」
木戸はその黒いサイコロを一つ口の中に放り込んだ。
「ガハッ」
途端にサイコロを吐き出し水を飲みにキッチンへ駆け込んだ。
「お前ッ……しょう油の濃さを一点に集中させた恐ろしいものを作るなッ」
「やはりそうですか。ではこれは失敗ですね。……料理は大変難しいです」
木戸は初めて時枝にも不得意なものがあると知った。
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コメント
↑
つられ笑い(笑)
わーい♪Sさまにおもいっきし笑って頂けた~!
そして時枝に萌えの叫びをありがとうございます!!!
・:*:・:オォオォ(*´∀`人):・:*:・
可愛いですか!?おおぉ。嬉しいです!!
時枝にも後で沢山喜んで頂きたいと思います!
(・∀・)ニヤニヤ ←
つまんない所が面白いという事が木戸に気付いて貰えた(笑)
その通りですねーっバンバンヾ(≧▽≦)ノギャハハ☆
Σ(゚∀゚ノ)ノキャー
そんなこちらこそお礼を言いたいですよ!!
幸せなのは私でございます!!
読んで叫んで萌えて下さって本当ありがとうございます!!!!
しあ(*´ -`)人(´- `*)わせ
拍手秘コメントどうもありがとうございました
時枝超可愛いと仰って頂けて嬉しいです!!
ありがとうございます!!
意外な不器用さが何か可愛く見える所が、木戸の目にもそう映っているといいなと思います!
そう思うように私もマジナイを掛けたいと思いますっっ
(/--)/(/--)/(/--)/ \(・_\)神ヨー (/_・)/カミヨー
拍手秘コメントどうもありがとうございました
最高なんて素敵な褒め言葉を頂けて幸せです(*ノωノ)ポッ
あ、電車の中だったんですね!?(笑)
ニヤニヤして下さって(・∀・)ニヤニヤ
周りの人に紛れて私もそれを目撃したかったです[壁]д・)チラッ
そうですね!木戸も少しずつ時枝について発見して心が動いてくれたらいいなって思います!
時枝を応援して下さってありがとうございます☆
時枝の料理が苦手説意外でした?!
ですよね!(笑)
木戸もビックリな事実(笑)
あはは(≧∀≦)
家政婦の○タのように何でも出来そうなイメージって分かります!
本人は至って真剣なんですよね~(笑)
!!この出来ないのが可愛いって言って頂けて嬉しいです!
時枝もきっと安心すると思います!(笑)
拍手秘コメントどうもありがとうございました
コメント