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万華鏡-江戸に咲く-33

 待ち合わせ場所に時間より少し早めについた美月だったが、貴之は既に来ていた。
「ごめん、待たせた?早いな、いつから居たんだ?」
「美月も早いじゃんか。はは。俺は今来たとこだよ。」
 貴之の顔を見るのは随分と久しぶりの感じがした。
「久しぶりだなぁ。貴之。」
「あ?昨日学校で会ったじゃんか。なんだ、そんなに寂しかったの?」
 貴之にそっと頬を撫でられるとつい思った事を口走ってしまったことに焦る。何も知らない貴之はその勘違いにご機嫌になり、映画代を払ってくれた。

 だが美月には映画の内容などまるで頭に入らず、館内でそっと握られた手に気まずい思いをしていた。

(どうしよう・・いつ言えばいいんだ・・)

 なかなか言い出せないでいると、上機嫌の貴之はカラオケやらボーリングやら景気良く美月を連れまわした。こうテンションの高い相手に切り出す機会はなかなか難しい。せめてドライブとか2人きりで静にしんみりと出来る所の方が切り出しやすい気もする。
 時間はあっという間に過ぎて夕飯を食べた後にカフェでお茶をしていた。
「美月・・何か雰囲気変わったね。すごく綺麗になった。昨日とはまるで別人みたいに。どうしたの?今日のためにエステでもしてきた?」

(いや、一ヶ月程江戸に居て、つい先日恋に落ちました・・とは言えない・・)

 なんだかんだと話をうやむやにして帰宅しようかという雰囲気になった時だった。貴之に抱き寄せられ、暗い路地裏まで引っ張られると強引に唇を重ねてきた。
 ふわりと香るタバコの香りで脳裏に浮かんだのは夜の顔だった。でも舌に感じるものは全く別の、ただのヌルヌルとした感触だった。それまでの貴之とのキスは、それなりに気持ちの良いものだったし、美月も興奮もしていた。しかし今は何も感じない上に罪悪感が募ってくる。
「なぁ・・今夜ホテルに・・」
 そう耳元で囁かれた美月は貴之を引き離すと、意を決して口を開いた。

「ごめん、貴之。別れよう・・」
 貴之は固まったように動かずいたが、ふいに我に返ると質問攻めをしてきた。
「え・・え・・何で?何で急にそんな・・だってさっきまで普通だったじゃんか。俺・・俺なんかしたか?言ってくれ!俺すぐ直すし!な?」
「違うんだ!・・その・・好きな奴ができて・・本当にごめん・・」
「は?好きな奴・・っていつから居たんだよ!?誰だよ!!」
 貴之は困惑と怒りの混ざる声で強く美月の肩を掴むと壁際に押し付けた。
「え・・と、貴之の知らない奴。大学の奴じゃなくて・・昨日学校帰りに初めて逢ったんだけど・・ごめん。好きになっちまったんだ。」
 貴之は信じられないという顔で指に力を入れると今度は説得するような口調になる。
「はぁ?昨日逢ったばかりの奴を好きになった?!何言ってんだよ、お前ともあろうものが。そいつはどうなんだよ!そいつもお前の事好きだって言ったのかよ?」
 美月の胸に一瞬戸惑いの揺れが生じた。
「い・・いや・・はっきりとは言われた訳じゃないんだけど・・でも多分気は・・あるっぽい。」
 貴之は美月の方に両手を掛けたまま頭を垂れた。
「お前・・何言ってんだよ。何だよそれ・・。そんなの一目惚れで片思いみてーなもんじゃねーか!そんなの無理だって!」
「そうだよ。俺は・・きっと一目見た時から惹かれてたんだ。片思いでもいい。好きになっちまったんだ。仕方ねーだろ。自分からこんなん・・初めてだしよ・・だから、ごめん。」

 まっすぐ自分の言葉に納得するように話す美月の真剣な眼差しは静かな煌きを湛えていた。その瞳を見た時に貴之は、美月の意思の硬さと自分への僅かな希望の無さを悟った。
「はぁ・・。何だろうなぁ・・。俺・・結構本気でお前の事好きだったんだぜ?これからも誰にも渡すつもりも無かったんだ。お前がどこか本気で今までの奴の事も俺の事も好きになれてないのは、感じてたんだ。でも時間を掛けて、一緒に暮らしたりしてりゃあいつかはって思ってた。」
 貴之がそこまで思っていてくれていたなんて思いもしなかった美月は、正直驚いた。それと同時に、嬉しさと別れる哀しさが溢れてきた。
「おいおい。俺を振っといて目を潤ませんな。また惚れ直したらどう責任取ってくれんだよ。」
 零れそうな涙を貴之は指でぬぐった。

「なぁ・・。せめて、親友で居てもいいか?」
「ん・・」
 声が詰まる。
「いつか・・会わせろよ。そいつに。上手くいけばだがよ!ま、上手くいかなかったらまた俺の所に戻って来いよなっ」
 強がりな笑顔を作ってくしゃくしゃと美月の頭を撫でるがその言葉が本気に聞こえて胸が苦しくなる。
「ごめん・・ごめんな。貴之・・。」
「ん・・・。また明後日、学校でな!サボんなよ!!」

 これ以上は強がれなかったのだろう。いつも駅のホームまで見送ってくれる彼は先に走って駅とは反対の街へと消えた。

―ごめんな・・貴之。ありがとう。

 美月は胸を落ち着かせると、家路に急いだ。
 



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