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万華鏡-江戸に咲く-32

 夜を見ると異様に高鳴る胸の鼓動も、変に反発していた心も、今ゆっくりと向き合ってみると少し分かってきた気がした。
 夜に素直に抱きしめられた時に感じたこの上ない幸福感と高揚感。ふと企むように微笑む顔も未来の話を食い入るように聞く少年のような顔も、急に普通の高校生のように笑う笑顔も全て美月の心臓をおかしくさせる。
 無理強いする所もあるが、遊び人のくせに変に人の心を汲み取って気遣ったり。もうそんな細かい事を並べる以前に夜に心が惹かれていた。

(・・好きに・・なっちゃった・・。)

 美月の頭の中には既に夜でいっぱい犇いていた。

 美月が好きだと抱月に狂わしく抱かれた際に言われた言葉は今尚残っていた。正直に言って美月の心にも夜に対してとはまた別の好きな感情が抱月にある。この感情をどう説明すればいいのか、分からない。とても大切で、あんな風に抱かれても最後に優しく抱きしめられるだけで安心して眠れてしまう。それはとても不思議な感情だった。
 抱月はあの後、何食わぬ顔で爽やかに起きて挨拶をしてきたので美月は何だか拍子抜けしてしまった。
「先生の・・意地悪・・」
 そう膨れっ面で言ってみると
「はは。苛めてみたくなったから。ヤキモチなんて・・初めてだよ。」
 そんな風に返されてしまった。思わず顔を赤らめて恥ずかしさと緊張が走った。
「昨日俺に言った事・・」
「ん?ああ、覚えているのか?てっきり朦朧としていたから何も覚えていないと思ったんだが」
「それは、先生がおかしな薬を使うからでしょ!もう・・。でも・・あれは、本気なの?」
 抱月は真っ直ぐ美月を見る。
「ああ。本気だ。私は美月、お前を愛している。」
 美月は身体中の血が沸騰しそうになった。
「あ・・ああ・・あの、でも、先生かよさんは?だって許嫁でしょ?来月結婚もするって・・」
「私は・・・美月さえ居ればいい。」
 こんなに面と向かってストレートに感情を告白されたのは初めてで恥ずかしさで気が動転してしまう。
「先生・・俺・・先生の事、好きなんだ。好きなんだけど・・夜の事が・・」
「ああ。分かってる。美月を見ていれば分かる。だが、自分でもどうしようもない程お前を好きになってしまっているようだ。はは。迷惑だろうが、お前が振り向くまで待つよ。私にも脈が無い訳ではなさそうだしね」
 ちょっと意地悪そうな、得意気な顔つきで抱月が笑う。鼻がツンとした。涙が出そうな程嬉しくて、思わず抱き付いてしまいたかったが、同時に申し訳ない気持ちと切ない気持ちが入り組んだ。
「ありがとう先生。」

 美月は決めた。

(よし。取り敢えず帰って、貴之と別れよう・・)

 これだけはっきりと自分の気持ちに気付いてしまった以上、ケジメを付けないといけない。

 現代へ帰ると未だ夕方だ。だが、この僅かな現代時間のうちに美月は一人皆よりも1ヶ月程先に多く生きていることになる。
 大げさに言えば、ほんの数時間で向こうの世界に何十年と過ごせば年寄りになって帰ってくることになる。時間調整が結構手間だ。美月は近いうちに現代でも夏休み期間に入るまで過ごそうと思った。
 取り敢えずシャワーを済ませると久々に寝巻きに着替える。
「うん。やっぱ楽だな。」
 疲れたのでベッドに寝転がると少し物足りなさを感じた。既に習慣のように抱月が寝ている美月の布団をぴたりと寄せ、布団の中で美月をズズッと腕の中へ引っ張り込んで寝るのだ。
 美月はこれが嫌いじゃなかった。むしろ、親鳥の羽毛の中で安堵して眠るヒナの気分だった。

(美しい月を抱くためにある腕・・かもね)

 ふふっと思い出し笑いが出る。出逢ったばかりの頃、こじつけで言われたなかなかロマンチックな言葉に今ではまんざら嘘ではない気もしてきた。
 抱月に抱きしめられると自然と眠気が差す。キスをされても最近は頭を撫でられているような感覚に近かった。ただ抱月があからさまな欲に駆られて雄になれば話は別だったが。
 何しろ元々慣れていて上手い上に美月の弱点を巧みに突いてくるので、身体が敏感に反応してしまうのだ。

 よっぽど疲れていたのか、気が付くと翌朝になっていた。
「あ!!やばっ!今何時だ?・・はぁ。まだ朝7時か・・。約束・・確か昼前だったよな。」
 空腹を感じ、下へ降りると母が既に調理していた。
「あら、早いのね。私も今日早くから出掛けるんだけど・・それにしてもあなた、夕べは凄いお腹空いてたのねぇ。ご飯、空だし冷蔵庫の中身結構減っててびっくりしたわよ。」
「ああ・・そうなんだ。ちょっと凄い腹減っててさ。・・で、悪いんだけど今も凄い腹減ってんだ・・」
「んまっ。あなた、胃下垂かなんかじゃないの?お父さんに見てもらいなさい。」
 母の心配をよそに、美味そうにご飯をかきこむ息子に母は楽しそうに腕を振るった。

 着替えを早々に済まし、ばったり会った父親にいらない医学書を貸してくれと頼むと目を丸くして驚かれた。
「ちょっと興味が出てきて・・さ」
そう言うと、少し嬉しそうに書斎へ入ると得意気にあれもこれもと紙袋2つ分程の本を貸してくれた。
 
「いってきまぁす!」
 元気よく玄関から去った美月を眺めながら美月の父親が呟いた。
「なぁ。あいつ、医学に興味が出たって言ってさっき本貸してくれって言ってきたんだ・・」
「あのこ、夕べ炊飯器いっぱいにあったご飯、全部食べて今朝もお替りまでしたのよ・・」
 うーん、と唸った父に母が思いついたように言った。
「反抗期かしら!」
「・・それは・・なかなか興味深い症例だな。」
 間の抜けたような会話だったが二人の顔はとても嬉しそうに笑っていた。



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しばらく忘れられていた貴之
久々の登場かと思いきや、いきなし別れる決意されてしまいました
ごめん、貴之ちん。また別の所で活躍できたらいいな♪



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04:05 | 万華鏡-江戸に咲く- | comments (2) | trackbacks (0) | edit | page top↑
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コメント

Re: こんばんは^^
秘コメSさま

読んで頂いてありがとうございます(ノД`)・゜・
お忙しい中わざわざすみませんm(_)m
お暇で死ぬって時にでも是非また覗いてやって下さい♪

メール受け取りました!!ご丁寧にありがとうございました☆
また改めてブログの方に行かせて頂きます^^

コメントありがとうございましたO(≧▽≦)O
桔梗さん | 2010/04/29 01:00 | URL [編集] | page top↑
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さん | 2010/04/28 22:47 | URL [編集] | page top↑

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