04/26/2010(Mon)
万華鏡-江戸に咲く-31
こちらの画像はぱぱいあ日記(仮)】のさとうかずみさんからお借りしました♪
現在更新中です☆⇒【続山月記】 & 【恋の呪文にご注意】
―真夜中の星―
辺りの雑草も、そこらに生えている草木も随分と青々と茂ってきた。本格的に夏色の季節に突入したようだ。虫も勢いよく所構わず飛んで人々に煩わしい顔をさせている。日差しも日々強くなってきているようで、しばらく歩くとうっすらと汗が出てくる。
夜はカランカランと下駄で渇いた剥きだしの地面の音をさせながら夜は目的地へ歩いていた。袖の中には途中で買った饅頭の土産を持ってその人のいる玄関の戸を叩くと、中から透き通る声がして戸が開いた。
「あっ夜七!」
「よぅ。雪之丞。土産持ってきたぜ。」
中で掃除でもしていたのか、少し顔を紅潮させて汗ばんでいる雪之丞は、いつもの蒼白な顔が健康的で艶があった。夜はスッと雪之丞の頬を指で撫でる。
雪之丞は困ったような嬉しそうな顔をして夜を招き入れた。
「もぅ。いつも土産はいいって言ってるのにっ」
「いいんだって。お前はもっと食って栄養つけねぇといけねぇ。」
「全く。夜七は少しは自分の為にお金を使ってよ。あ、今お茶入れるからお饅頭、一緒に食べよう!」
夜はお勝手に立ってお茶の用意をする雪之丞の後へ立つと、その華奢な背中を抱きしめた。
「ほら。こんなに痩せてる・・」
少しでも強く力を入れたら折れてしまいそうな細い身体をギリギリの力加減で抱きしめる。
「あっ・・お茶がこぼれちゃうよ・・」
細くて真っ白な項を目の前にして、思わずそこに口付けをしそうになる欲をぐっと堪えて腕を緩めた。
「ほら、あっちに行こう夜七。」
―そう。今まで耐えてきたように、これからも耐えなきゃいけない。大切なこいつを守っていけるなら、どんな事も耐えられる。俺は約束をしたんだから・・
「ただいまぁ・・・・あーっ!!夜兄だっ。最近来てくれないからどうしたのかと思ったよ!あー!!ずるいよ兄さんと二人で饅頭食ってぇ!!」
「よぅ、喜助。久しぶりだなぁ。ちゃんと勉強してるか?」
夜の事が大好きな喜助は夜の懐に満面の笑みで飛び込んできた。
「こら、喜助。お前の分もちゃんとあるから暴れてないで荷物置いてきなさい」
雪之丞が嗜めると、「ふぁ~い」と気の抜けた声で返事する。
雪之丞の4つ下の弟、喜助は天真爛漫な子だった。
雪之丞が7つ、喜助がまだ3つの時に二人の住む小さな村は山賊に襲われ、両親も殺された。
幼馴染だった夜の家も同様で、偶々三人でかくれんぼをして少し離れた場所に居たのが幸いだった。その後、喜助をおぶり、泣き崩れる雪之丞を連れて夜は寺へ助けを求める事になる。
色々な事があったが、まだ幼かった喜助には曖昧な記憶しかなかった。それも、夜がそうさせた部分が大きかった。
喜助には知らない兄、雪之丞の過去もあったが、せめて喜助には変な気を使わせないで普通の生活をさせて、寺小屋できちんと勉強をさせたいと言う雪之丞をずっと夜は支えてきた。
「三人で昔みたいにこうしてると家族みたいだねっ」
嬉しそうに饅頭を頬張りながら喜助が言う。
「うん。ある意味家族みたいなもんだしね。ね?夜七。」
「ああ。」
「じゃ、俺遊びに行ってくるね兄さん!夜兄もまた来てよね!」
慌ただしく嵐のように出て行った喜助に雪之丞は軽く溜息をつくと、夜に視線と疑問を投げかけてきた。
「夜、何か良い事でもあった?」
覗き込むように聞かれてドキッとする。
「何かって・・なんだ?」
「だって・・何だか、凄く生き生きしてるから。楽しそうだし。そんな夜七は初めてだからさ。」
「そうかぁ?別段変わった事もねぇよ。・・あ、あったとすりゃぁ面白い奴と知り合えたぜ?そいつ、未来から来たって言うんだよ!今抱月ん所で弟子してる奴でよ・・」
雪之丞の目が大きく見開いて表情がパッと明るくなった。
「それって!もしかして美月の事?!」
「え・・あ、ああ。知ってんのか?」
「うんっ。前に検診に来てくれて、それからたまに遊びに顔出してくれるんだ。何だか意気投合しちゃってさ!しかも夜七と一緒で色んなお土産持ってきてくれるから台所が大変。ふふ」
嬉しそうに笑う雪之丞を見ながら、美月と雪之丞の仲良くしている姿を思い描いて嬉しいような苦いような複雑な気持ちが絡み合った。
「でもまさか、夜七と美月が知り合いだったとはね。あ、でも僕はそのうち美月に夜七を紹介するつもりだったんだけどね。家族にはちゃんと紹介したいじゃない?いい友達になれた人はさ。」
夜は先日の美月を思い出していた。ホタルの光を見つめた美月は美しく、自分から唇を寄せられた時には正直驚いた。だが、それで夜の塞き止められていた気持ちも溢れてしまったのだ。
自然とお互いが求め合うように淫らな事をした。あの頑なに拒んでいた美月の乱れる姿は夜をこの上なく満足させた。それに、美月を気持ちよくさせてあげられた事が夜にとっては嬉しかった。だから美月が何か責任のようなものを感じて体を繋げてもいいと言われた時には、本気でお互いを求め合って繋がりたいと思ったから断ったのだ。
美月を見ると目が離せない。近くにいると触りたくなる。潤んだ目で見られたらどうしようもなく抱きたくなる。夜はきちんと認められていなかっただけで、先日美月と真正面から向き合った際にはっきりと自分は美月に惹かれていることを自覚した。
だが同時に目の前にいる雪之丞に対しても幼い頃より寄せていた想いがあった。雪之丞の事は好きだ。やはり、視界にいれば目は追うし、近くにいれば抱き寄せたい。叶う事ならば、一つになりたかった。だが、それは今でも叶うことはなかった。
だからただ、愛おしむ心を流し込むように抱きしめる事しか出来ないでいた。
<<前へ 次へ>>
何と!!
夜さん、実はずっと雪之丞が好きだったのですね
実家ニ帰ラセテモライマス! つД`)・゜・。・゜゜・*:.
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―真夜中の星―
辺りの雑草も、そこらに生えている草木も随分と青々と茂ってきた。本格的に夏色の季節に突入したようだ。虫も勢いよく所構わず飛んで人々に煩わしい顔をさせている。日差しも日々強くなってきているようで、しばらく歩くとうっすらと汗が出てくる。
夜はカランカランと下駄で渇いた剥きだしの地面の音をさせながら夜は目的地へ歩いていた。袖の中には途中で買った饅頭の土産を持ってその人のいる玄関の戸を叩くと、中から透き通る声がして戸が開いた。
「あっ夜七!」
「よぅ。雪之丞。土産持ってきたぜ。」
中で掃除でもしていたのか、少し顔を紅潮させて汗ばんでいる雪之丞は、いつもの蒼白な顔が健康的で艶があった。夜はスッと雪之丞の頬を指で撫でる。
雪之丞は困ったような嬉しそうな顔をして夜を招き入れた。
「もぅ。いつも土産はいいって言ってるのにっ」
「いいんだって。お前はもっと食って栄養つけねぇといけねぇ。」
「全く。夜七は少しは自分の為にお金を使ってよ。あ、今お茶入れるからお饅頭、一緒に食べよう!」
夜はお勝手に立ってお茶の用意をする雪之丞の後へ立つと、その華奢な背中を抱きしめた。
「ほら。こんなに痩せてる・・」
少しでも強く力を入れたら折れてしまいそうな細い身体をギリギリの力加減で抱きしめる。
「あっ・・お茶がこぼれちゃうよ・・」
細くて真っ白な項を目の前にして、思わずそこに口付けをしそうになる欲をぐっと堪えて腕を緩めた。
「ほら、あっちに行こう夜七。」
―そう。今まで耐えてきたように、これからも耐えなきゃいけない。大切なこいつを守っていけるなら、どんな事も耐えられる。俺は約束をしたんだから・・
「ただいまぁ・・・・あーっ!!夜兄だっ。最近来てくれないからどうしたのかと思ったよ!あー!!ずるいよ兄さんと二人で饅頭食ってぇ!!」
「よぅ、喜助。久しぶりだなぁ。ちゃんと勉強してるか?」
夜の事が大好きな喜助は夜の懐に満面の笑みで飛び込んできた。
「こら、喜助。お前の分もちゃんとあるから暴れてないで荷物置いてきなさい」
雪之丞が嗜めると、「ふぁ~い」と気の抜けた声で返事する。
雪之丞の4つ下の弟、喜助は天真爛漫な子だった。
雪之丞が7つ、喜助がまだ3つの時に二人の住む小さな村は山賊に襲われ、両親も殺された。
幼馴染だった夜の家も同様で、偶々三人でかくれんぼをして少し離れた場所に居たのが幸いだった。その後、喜助をおぶり、泣き崩れる雪之丞を連れて夜は寺へ助けを求める事になる。
色々な事があったが、まだ幼かった喜助には曖昧な記憶しかなかった。それも、夜がそうさせた部分が大きかった。
喜助には知らない兄、雪之丞の過去もあったが、せめて喜助には変な気を使わせないで普通の生活をさせて、寺小屋できちんと勉強をさせたいと言う雪之丞をずっと夜は支えてきた。
「三人で昔みたいにこうしてると家族みたいだねっ」
嬉しそうに饅頭を頬張りながら喜助が言う。
「うん。ある意味家族みたいなもんだしね。ね?夜七。」
「ああ。」
「じゃ、俺遊びに行ってくるね兄さん!夜兄もまた来てよね!」
慌ただしく嵐のように出て行った喜助に雪之丞は軽く溜息をつくと、夜に視線と疑問を投げかけてきた。
「夜、何か良い事でもあった?」
覗き込むように聞かれてドキッとする。
「何かって・・なんだ?」
「だって・・何だか、凄く生き生きしてるから。楽しそうだし。そんな夜七は初めてだからさ。」
「そうかぁ?別段変わった事もねぇよ。・・あ、あったとすりゃぁ面白い奴と知り合えたぜ?そいつ、未来から来たって言うんだよ!今抱月ん所で弟子してる奴でよ・・」
雪之丞の目が大きく見開いて表情がパッと明るくなった。
「それって!もしかして美月の事?!」
「え・・あ、ああ。知ってんのか?」
「うんっ。前に検診に来てくれて、それからたまに遊びに顔出してくれるんだ。何だか意気投合しちゃってさ!しかも夜七と一緒で色んなお土産持ってきてくれるから台所が大変。ふふ」
嬉しそうに笑う雪之丞を見ながら、美月と雪之丞の仲良くしている姿を思い描いて嬉しいような苦いような複雑な気持ちが絡み合った。
「でもまさか、夜七と美月が知り合いだったとはね。あ、でも僕はそのうち美月に夜七を紹介するつもりだったんだけどね。家族にはちゃんと紹介したいじゃない?いい友達になれた人はさ。」
夜は先日の美月を思い出していた。ホタルの光を見つめた美月は美しく、自分から唇を寄せられた時には正直驚いた。だが、それで夜の塞き止められていた気持ちも溢れてしまったのだ。
自然とお互いが求め合うように淫らな事をした。あの頑なに拒んでいた美月の乱れる姿は夜をこの上なく満足させた。それに、美月を気持ちよくさせてあげられた事が夜にとっては嬉しかった。だから美月が何か責任のようなものを感じて体を繋げてもいいと言われた時には、本気でお互いを求め合って繋がりたいと思ったから断ったのだ。
美月を見ると目が離せない。近くにいると触りたくなる。潤んだ目で見られたらどうしようもなく抱きたくなる。夜はきちんと認められていなかっただけで、先日美月と真正面から向き合った際にはっきりと自分は美月に惹かれていることを自覚した。
だが同時に目の前にいる雪之丞に対しても幼い頃より寄せていた想いがあった。雪之丞の事は好きだ。やはり、視界にいれば目は追うし、近くにいれば抱き寄せたい。叶う事ならば、一つになりたかった。だが、それは今でも叶うことはなかった。
だからただ、愛おしむ心を流し込むように抱きしめる事しか出来ないでいた。
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