01/26/2012(Thu)
貴方の狂気が、欲しい 24話
「いやあ、やっぱり君はいいねぇ! こんな綺麗な子と一緒に仕事が出来るなんて本当、木戸くんが羨ましいよ!」
昔から取引先の常連として付き合いのある山崎だった為、邪険にも出来ないのが辛いところだ。
「ねぇ……時枝くん。君、何かスゴク色っぽくなったんじゃない?」
時枝は、山崎がその気になる前に話をサッサと切り出した。
「山崎様、申し訳ありませんが本日はこの後も急な仕事が入っている為、早速ですが本題に入らせて頂きます」
「え! そうなの!? 何だよせっかく君を行かせるって木戸くんが言ったって杉田が言ってたから」
さっきは白々しく木戸の事を聞いてきたタヌキ親父に時枝は溜息すらつかずに淡々と無表情のまま話を進めた。
「今、他の所もそうですが、歌舞伎町でも大分どこの誰とも知らないグループが末端から人を買収しだしているんですがご存じですよね」
「ん? あぁ。そんな事も起きているようだね」
山崎はスッと視線を逸らして意味を含んだような言い方をした。そのまま自然と間を空けるように酒に手を伸ばして乾いてもない喉を潤す。
情報を聞き出すとすれば、山崎の要求を飲むかどうかの交渉になる。
金で解決出来るビジネスならたやすいが、こちらが不利になる情報を要求されると厄介だ。その他、自分たちの手を汚さずに片付けたい物事を頼まれるのも結構苦労する。
荒があれば警察にも口をきかないといけなかったりと意外と手間も掛る。
手持ちの情報は商品みたいなもので相応に手渡せる札は幾つもあるが、山崎のような代々付き合いのあるところだとなかなかそれが通用しない。
だがうまい事に、父親の代からこのバカ息子へと代わり、要求されるのは身体ばかりだった。
会社としてはその方がベストだ。
そういう企みもあって由朗は交渉の担当は見目のいいものばかりを行かせた。
時枝も例外ではない。
「教えてあげるからさ、ちょっといいだろう? な。時枝くん」
すり寄ってきた山崎は時枝の手を握った。
「わぁ、なんて柔らかい手だろうね! スベスベだ」
山崎のザラついた頬に手の甲をスリ付けられて痛い。そして気色悪い。
「この美しい手で何人もこの世から消しているなんてね……ゾクゾクするねぇ」
時枝は人形のように眉一つ動かさなかった。
「山崎様。そういう事は外では仰らないで下さい」
「ハァっ……そうだね。悪かった。フゥ……ね、キスくらいいいだろう? ね? 今日の君にはすごくキスしたいんだよ」
時枝は困った。
今まで身体を繋ぐ事以外、断った事がなかった。断ってはいけない事くらいは承知していた。由朗が良しとしないからだ。
だが、木戸には他の奴に触らせるなと言われた。
そしてこれも仕事。
(どうしよう……やはりここは筋を通す為に由朗様に相談してから……)
「あの……山崎様」
「んん? 何?」
山崎がもう身を乗り出して鼻息を荒くしている。
「私事で申し上げにくいのですが、ちょっと諸事情がありましてこういった行為を行う前に由朗様に一つ電話を掛けたいのですが宜しいでしょうか」
山崎は不機嫌そうに拗ねた表情を見せて「早くしてよ?」と許し、直ぐにスラリとした感じのボーイを側に呼んだ。
(全く。一時も触っていないと気が済まないのでしょうか、あの方……)
道端の小石を見る様に、チラリと山崎を視界に捉えてから由朗に電話を掛けた。
「香? 私だ」
「あ、お忙しいところお電話すみません。ちょっと急ぎでご相談したい事がありまして」
「あぁ、何?」
「あの……山崎さまと仕事で今一緒にいるのですが、その、キスをしたいと仰っていて」
「……それで?」
「申し上げにくいのですが、木戸様から他の奴には触らせるなと命令されまして……」
「香」
「はい」
「香は誰に雇われているんだっけ?」
「……由朗様です……」
「誰が慶介の為に働けと命じた?」
「由朗様です」
「うん。だったら慶介の命令など意味はない。キス一つで情報が入るならするのがお前の役目だろう?」
「……はい」
キス一つ、という言葉で木戸としたあの甘いキスを思い出した。感情の伴ったキスはとても大事に思える事を知った時枝は、由朗の考えに違和感を感じた。
「仕事、出来るね? 香。出来なかったらお前に用はない。あの弘夢くんだっけ? あの子にでも来て貰うかな」
時枝は頭から冷水を被せられたように血の気が引いた。
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昔から取引先の常連として付き合いのある山崎だった為、邪険にも出来ないのが辛いところだ。
「ねぇ……時枝くん。君、何かスゴク色っぽくなったんじゃない?」
時枝は、山崎がその気になる前に話をサッサと切り出した。
「山崎様、申し訳ありませんが本日はこの後も急な仕事が入っている為、早速ですが本題に入らせて頂きます」
「え! そうなの!? 何だよせっかく君を行かせるって木戸くんが言ったって杉田が言ってたから」
さっきは白々しく木戸の事を聞いてきたタヌキ親父に時枝は溜息すらつかずに淡々と無表情のまま話を進めた。
「今、他の所もそうですが、歌舞伎町でも大分どこの誰とも知らないグループが末端から人を買収しだしているんですがご存じですよね」
「ん? あぁ。そんな事も起きているようだね」
山崎はスッと視線を逸らして意味を含んだような言い方をした。そのまま自然と間を空けるように酒に手を伸ばして乾いてもない喉を潤す。
情報を聞き出すとすれば、山崎の要求を飲むかどうかの交渉になる。
金で解決出来るビジネスならたやすいが、こちらが不利になる情報を要求されると厄介だ。その他、自分たちの手を汚さずに片付けたい物事を頼まれるのも結構苦労する。
荒があれば警察にも口をきかないといけなかったりと意外と手間も掛る。
手持ちの情報は商品みたいなもので相応に手渡せる札は幾つもあるが、山崎のような代々付き合いのあるところだとなかなかそれが通用しない。
だがうまい事に、父親の代からこのバカ息子へと代わり、要求されるのは身体ばかりだった。
会社としてはその方がベストだ。
そういう企みもあって由朗は交渉の担当は見目のいいものばかりを行かせた。
時枝も例外ではない。
「教えてあげるからさ、ちょっといいだろう? な。時枝くん」
すり寄ってきた山崎は時枝の手を握った。
「わぁ、なんて柔らかい手だろうね! スベスベだ」
山崎のザラついた頬に手の甲をスリ付けられて痛い。そして気色悪い。
「この美しい手で何人もこの世から消しているなんてね……ゾクゾクするねぇ」
時枝は人形のように眉一つ動かさなかった。
「山崎様。そういう事は外では仰らないで下さい」
「ハァっ……そうだね。悪かった。フゥ……ね、キスくらいいいだろう? ね? 今日の君にはすごくキスしたいんだよ」
時枝は困った。
今まで身体を繋ぐ事以外、断った事がなかった。断ってはいけない事くらいは承知していた。由朗が良しとしないからだ。
だが、木戸には他の奴に触らせるなと言われた。
そしてこれも仕事。
(どうしよう……やはりここは筋を通す為に由朗様に相談してから……)
「あの……山崎様」
「んん? 何?」
山崎がもう身を乗り出して鼻息を荒くしている。
「私事で申し上げにくいのですが、ちょっと諸事情がありましてこういった行為を行う前に由朗様に一つ電話を掛けたいのですが宜しいでしょうか」
山崎は不機嫌そうに拗ねた表情を見せて「早くしてよ?」と許し、直ぐにスラリとした感じのボーイを側に呼んだ。
(全く。一時も触っていないと気が済まないのでしょうか、あの方……)
道端の小石を見る様に、チラリと山崎を視界に捉えてから由朗に電話を掛けた。
「香? 私だ」
「あ、お忙しいところお電話すみません。ちょっと急ぎでご相談したい事がありまして」
「あぁ、何?」
「あの……山崎さまと仕事で今一緒にいるのですが、その、キスをしたいと仰っていて」
「……それで?」
「申し上げにくいのですが、木戸様から他の奴には触らせるなと命令されまして……」
「香」
「はい」
「香は誰に雇われているんだっけ?」
「……由朗様です……」
「誰が慶介の為に働けと命じた?」
「由朗様です」
「うん。だったら慶介の命令など意味はない。キス一つで情報が入るならするのがお前の役目だろう?」
「……はい」
キス一つ、という言葉で木戸としたあの甘いキスを思い出した。感情の伴ったキスはとても大事に思える事を知った時枝は、由朗の考えに違和感を感じた。
「仕事、出来るね? 香。出来なかったらお前に用はない。あの弘夢くんだっけ? あの子にでも来て貰うかな」
時枝は頭から冷水を被せられたように血の気が引いた。
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