02/15/2012(Wed)
貴方の狂気が、欲しい 31話
時枝は木戸との事をきちんと話しをしなければと思い、久し振りに屋敷の方へと行く事にした。
木戸に言えばきっと反対されるので、心配させないように仕事のフリをして屋敷へと向かった。
「お帰り、香」
待っていた由朗の部屋は霞が掛ったかのような煙が充満していた。
一呼吸めにいやに甘い香りが鼻腔をつき、二呼吸めにジンと頭が痺れるような感覚になった。
「由朗さま、またこんなものを」
時枝は口元にハンカチを当てた。
言ってみれば軽いドラッグのようなものだが、これは独自に後進国で作らせたものでまだあまり出回ってはいない。
中毒性は殆どなく、必要な時だけ気分をハイに出来る代物だった。だが怖いのは、脳神経を鈍らせる作用がある為、記憶が混乱する事だった。
実験では、この煙の中で刷り込まれる記憶は一種強い思い込みの究極のような作用で記憶の改ざんすら出来る事が分かっている。
それを避ける為に、その作用を抑える植物を同時に研究していた。由朗はその葉から出来るお茶を飲んでいた。その葉に含まれる成分に一番効力があるからだ。
「お茶、飲まなくていいの?」
時枝は由朗に差し出された小さな器に近寄った。
時枝が受け取ろうとした時、由朗はスッと器を引いた。
「飲ませてあげよう」
時枝は静かに由朗の前で膝まづき、顔を上げ口を少し開いた。
由朗はニヤつきながら時枝の細い顎を無理矢理開きお茶を強く流し込むと、時枝は気管に水分が入って息が詰まった。
どくだみのような風味が鼻を抜ける。
「んっ……っ」
「お前は約束を破ったね、香。私は怒っているんだよ?」
時枝は咳き込みながら濡れた口元を袖で拭った。
「ゲホッ……も…うしわけ…ございません」
「全く……私の楽しみが減ってしまった」
由朗は高級そうな葉巻きを加えて火を点けた。
「由朗さま。私は本気で慶介さまを愛しています。だから、これからは慶介さまの言いつけだけを守っていきたいのです。勝手な事を言って申し訳ありませんが、どうかお許し頂きたい」
「慶介が本当に香を好きになると思う?」
由朗は子供に意地悪をするような目つきで言い放つと、同時にモワリと紫煙が口から出てきた。
「……忘れさせて欲しいと、言って下さいました」
由朗は葉巻の煙を深く吸い込み、それを時枝の顔に吹きかけた。
時枝の黒くサラサラとした髪が揺れる。
「へぇ。慶介、香にそんな事言う程忘れられない子なんだね。弘夢くんって」
時枝の腹部に鋭い痛みが走った。
「香。暁明たちのグループは少し他の組織と変わっているのを知っているか?」
「……?」
由朗の突然の会話の流れに時枝は理解出来なかった。
「彼らは宗教や習わしのせいもあって家族は大切にするようにと育てられている。裏切ってはいけないとね。だから絆は深い。恐らく世間一般でいう家族の絆も深いのだろうが、それよりも少し病的にだ。そんな環境の中、暁明の母親が一度誘拐された事があった」
そんな話しは一度も聞いた事がなく、また何故そんな話しを急にしだしたのか分からない時枝は、ただジッと聞く事しか出来ないでいた。
「グループ総出で母親を探し続けていたが全く居場所が分からずに一年半程経ったらしい。そんな中、急に母親は見つかって戻って来たらしいが、その時には既に精神を病んでいたんだそうだ」
時枝には家族間でのそういう独特の悲しみは理解出来なかったが、きっと辛かったのではないかと想像した。
「結局、犯人はビジネスで付き合いのあったグループの息子だった。その息子、当時まだ中学に上がる前だったんだと。今もだが、元々イカれている奴だったんだよ。交流もあって顔見知りだったそいつに油断して、買物の途中拉致されて監禁されてたって訳だ」
「そのグループ内で拉致監禁している事実は分からなかったのですか?」
時枝が静かに聞く。
「あぁ。小さい頃からの奇行で既に向こうの親も見放していたようだ。放任し過ぎてそいつの天下だった事もあって何人かの使用人もたかがガキ一人に脅されて共犯していたらしい」
暁明にそんな過去があったとは思いも寄らなかった。
それだけ家族を大切に思ってきた彼らだとしたら、その時の怒りや悲しみは尋常ではない筈だ。
(暁明さま……)
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暁明の過去が… (*゜Д゜)
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木戸に言えばきっと反対されるので、心配させないように仕事のフリをして屋敷へと向かった。
「お帰り、香」
待っていた由朗の部屋は霞が掛ったかのような煙が充満していた。
一呼吸めにいやに甘い香りが鼻腔をつき、二呼吸めにジンと頭が痺れるような感覚になった。
「由朗さま、またこんなものを」
時枝は口元にハンカチを当てた。
言ってみれば軽いドラッグのようなものだが、これは独自に後進国で作らせたものでまだあまり出回ってはいない。
中毒性は殆どなく、必要な時だけ気分をハイに出来る代物だった。だが怖いのは、脳神経を鈍らせる作用がある為、記憶が混乱する事だった。
実験では、この煙の中で刷り込まれる記憶は一種強い思い込みの究極のような作用で記憶の改ざんすら出来る事が分かっている。
それを避ける為に、その作用を抑える植物を同時に研究していた。由朗はその葉から出来るお茶を飲んでいた。その葉に含まれる成分に一番効力があるからだ。
「お茶、飲まなくていいの?」
時枝は由朗に差し出された小さな器に近寄った。
時枝が受け取ろうとした時、由朗はスッと器を引いた。
「飲ませてあげよう」
時枝は静かに由朗の前で膝まづき、顔を上げ口を少し開いた。
由朗はニヤつきながら時枝の細い顎を無理矢理開きお茶を強く流し込むと、時枝は気管に水分が入って息が詰まった。
どくだみのような風味が鼻を抜ける。
「んっ……っ」
「お前は約束を破ったね、香。私は怒っているんだよ?」
時枝は咳き込みながら濡れた口元を袖で拭った。
「ゲホッ……も…うしわけ…ございません」
「全く……私の楽しみが減ってしまった」
由朗は高級そうな葉巻きを加えて火を点けた。
「由朗さま。私は本気で慶介さまを愛しています。だから、これからは慶介さまの言いつけだけを守っていきたいのです。勝手な事を言って申し訳ありませんが、どうかお許し頂きたい」
「慶介が本当に香を好きになると思う?」
由朗は子供に意地悪をするような目つきで言い放つと、同時にモワリと紫煙が口から出てきた。
「……忘れさせて欲しいと、言って下さいました」
由朗は葉巻の煙を深く吸い込み、それを時枝の顔に吹きかけた。
時枝の黒くサラサラとした髪が揺れる。
「へぇ。慶介、香にそんな事言う程忘れられない子なんだね。弘夢くんって」
時枝の腹部に鋭い痛みが走った。
「香。暁明たちのグループは少し他の組織と変わっているのを知っているか?」
「……?」
由朗の突然の会話の流れに時枝は理解出来なかった。
「彼らは宗教や習わしのせいもあって家族は大切にするようにと育てられている。裏切ってはいけないとね。だから絆は深い。恐らく世間一般でいう家族の絆も深いのだろうが、それよりも少し病的にだ。そんな環境の中、暁明の母親が一度誘拐された事があった」
そんな話しは一度も聞いた事がなく、また何故そんな話しを急にしだしたのか分からない時枝は、ただジッと聞く事しか出来ないでいた。
「グループ総出で母親を探し続けていたが全く居場所が分からずに一年半程経ったらしい。そんな中、急に母親は見つかって戻って来たらしいが、その時には既に精神を病んでいたんだそうだ」
時枝には家族間でのそういう独特の悲しみは理解出来なかったが、きっと辛かったのではないかと想像した。
「結局、犯人はビジネスで付き合いのあったグループの息子だった。その息子、当時まだ中学に上がる前だったんだと。今もだが、元々イカれている奴だったんだよ。交流もあって顔見知りだったそいつに油断して、買物の途中拉致されて監禁されてたって訳だ」
「そのグループ内で拉致監禁している事実は分からなかったのですか?」
時枝が静かに聞く。
「あぁ。小さい頃からの奇行で既に向こうの親も見放していたようだ。放任し過ぎてそいつの天下だった事もあって何人かの使用人もたかがガキ一人に脅されて共犯していたらしい」
暁明にそんな過去があったとは思いも寄らなかった。
それだけ家族を大切に思ってきた彼らだとしたら、その時の怒りや悲しみは尋常ではない筈だ。
(暁明さま……)
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