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貴方の狂気が、欲しい 32話

「今、我々の島で何が起こっているか分かるか?」
「え……いえ」
 その時ふと時枝の脳裏にここの所起きている島荒らしが浮かんだ。
「子探しだよ」
「子探し?」
「そう。<ruby>暁明<rt>シャオミン</ruby>の母親は身籠っていたんだよ」
「まさか……」
 時枝は目を見開いた。
「そうだ。ガキに犯された母親は悪戯にガキを孕ませられた」
 時枝は顔を歪ませた。
「何て事……」
 大きな組織に守られ、何不自由なく過ごして幸せな家庭を持った女性の絶望と、家族に与えられた衝撃は想像するのも痛ましかった。
「勿論、そんなグループとは絶縁状態だ。戦争にならなかったのが奇跡としか言えない……いや、あの親父の力量だ。さすが俺の親友だよ」
「親友?」
「そうだ。あいつの母親は中国で生まれ育った日本人で元は俺の友人だ。俺達は大学の時からいつも一緒だった。勿論最初日本人など嫁に貰うのは反対だと言われていたが、あの親父は純粋に<ruby>愛理<rt>アイリ</ruby>を愛していた」
 時枝は由朗の昔の話しなど初めて聞いた。
 懐かしそうに目を細めて話す由朗の顔は、初めて見る顔だった。優しげで悲しげで、思わず抱きしめたくなるような哀愁すら漂っている。
「香……お前だよ」
「……?」
 訳の分からない由朗の言葉にただ耳を傾けるが、スッと時枝を見た由朗の目が鬼のように恐ろしく見えた。
「お前が、その孕んだ子だって言ってるんだ」
 
     * * *

 頭を巨大なカナヅチで殴られたかのような衝撃だった。
 今の今までどういう風に自分が呼吸をしていたかが分からない。息を吐き過ぎて苦しいのか、吸い過ぎて苦しいのか。
 「嘘だ」と大声を出せる程自分の出生を知らなければ疑うような生い立ちもない。それが真実味をただ色濃くしていった。
 自分なら有り得る、と。
「愛理は、本当は逃げ出したんだよ。デカイ腹抱えて、真っ先に俺の所へ助けを求めてきた。生みたいって、悔しそうに泣きながらな。細くって骸骨みたいな身体に腹が異様に膨れて見えた。ずっと縛られ続けていた手首やら首には色素沈着する程の痣があった」
 時枝は吐き気がして口元を抑えて床に倒れ込んだ。
 それでも、やけに響く由朗のゆっくりとした話しは鼓膜に届いて来る。
「もう、精神ギリギリの状態だって分かったから、俺は生まれるまで匿ったよ。ニューヨークの、チャイナタウンに場所を移させてな」
 街の名前を聞いた途端、自分を「香」と呼んだ女の人の影が一瞬脳裏に過った。ハッキリと思い出せない顔だったが、小さく頭に響くあの声は母親だったのかと思った瞬間、嗚咽に襲われた。
 何千メートルも底がある夜の海に放り出された気がした。広く黒い海で足も着かず、ただ精神力が捥がれ、泣き叫んでも誰もいない。そんな感覚だった。

「うっ……ッぁ……」

――何だ、私は? この罪深さは何だ?!
 
 今まで何も知らずに生きてきた事事態が更に罪を重く感じさせた。
 手足に何十キロもある枷を付けられたかのように身体が重く動かない。

「身体が落ち着いた愛理を、家の近くに落として、暫くしてからお前を迎えに行った……どこでどう疑われる事になったのか分からないが、お前を探しに李が動いている」
 瞬きもしない時枝の目からは止まる事なく涙が頬を伝っていた。床に黒い染みが幾つも作られる。だが泣く行為すら罪に加算される気がした。
 由朗の話を聞きながら、時枝は一つの言葉だけを繰り返していた。

――ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。

「由朗……さまも……」
 
(今まで私を憎んでいましたか?)

「……さぁな」

 か細く掠れた声で、憎んでいたに決まっている答えに、何を質問をしているのかと途中で言葉を止めたが、その質問に由朗は曖昧に答えた。
「もし、由朗さまが私を育てていたと知れたら……」
「まぁ……エライ事にはなるだろうな」
 由朗が落ち着いたトーンで葉巻を吸いながら言う。



 そこからどういう会話をして、どう屋敷を出たか覚えていない。
 とにかく木戸の声を聞きたかった。




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00:00 | 貴方の狂気が、欲しい | comments (4) | trackbacks (0) | edit | page top↑
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コメント

けいったんさま
> エェエェエェc⌒っ゚Д゚)っェエェエェエ 時枝の出生!
> 生まれながらの悲しい運命に 言葉も出ないです。

時枝さん、エライ過去でした(´Д`A;)
きっと時枝自身も突き付けられた初めての過去に
大き過ぎるショックを受けていると思います…。


> 知っていて育てた由郎の気持ちが、分かんないよ~
> 憎しみからなのか、愛理への愛からなのか?

本当。
今更何で? 今まで何で?
まだ色々と納得いかない事だらけですよね(>_<)


> 時枝が 壊れて行く・・・
> ママァ・・・・ヽ(´Д`)ノbyebye☆

崩壊を止めて欲しいです!
木戸!!!(>△<)
頼むぜ木戸!!

コメントどうもありがとうございましたe-415
桔梗.Dさん | 2012/02/16 23:39 | URL [編集] | page top↑
秘コメK.Sさま
ヾ(´д`;)ノぁゎゎ
叫ばせてしまってすみませんっ;

あ、エチィだけでは終わりません(笑)

時枝、壮絶な過去に苦しんでいます(>_<)
確かに彼にとっては初めて聞く話ですし、
好きでそうなった命ではないですものね。
木戸の事もある時に傷口に塩を塗る様なことを…。
(´Д`A;)
今頼れるのは木戸しかいないですよね…。
早く助けてあげて欲しいです(>_<)

確かにお母さんは生みたいって言ってくれたのが救いですよね!
時枝……頑張って欲しいです(>_<)

コメントどうもありがとうございましたe-415
桔梗.Dさん | 2012/02/16 23:32 | URL [編集] | page top↑
エェエェエェc⌒っ゚Д゚)っェエェエェエ 時枝の出生!
生まれながらの悲しい運命に 言葉も出ないです。

知っていて育てた由郎の気持ちが、分かんないよ~
憎しみからなのか、愛理への愛からなのか?

時枝が 壊れて行く・・・
ママァ・・・・ヽ(´Д`)ノbyebye☆

けいったんさん | 2012/02/16 00:37 | URL [編集] | page top↑
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さん | 2012/02/16 00:29 | URL [編集] | page top↑

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