03/13/2012(Tue)
貴方の狂気が、欲しい 47話
時枝は、本当に少しずつだったが言葉数を増やしていった。
不安定だった精神年齢も、徐々に元の年齢に安定するようになっているように見えた。
あと少し、と思うのだがなかなか思うようにいかないのが歯痒い。
「おい、買物行って来い」
「えぇぇ」
「暇だろう? ……ほら、小遣いやるから行って来い」
「分かった」
一度逃げ出した筈の高校生はあれから懲りずに何度か近くで見かける様になった。
余程時枝に興味を持ったのか、男同士の世界に怖い物見たさで興味を持ったのか、暫く放っておいた木戸だったが時枝に少しでも刺激になるかと声を掛けてやった。
少年は健太と言った。
名前の通り健康そうな日焼けした肌と野球でもやっているような筋肉のついた身体をしていた。
青年というにはまだ幼さの残る顔立ちは少し田舎くささがあるが、それが素朴で爽やかだ。
キリッとした眉と意思の強そうな目鼻立ちは、洗練すれば芸能界にいるあの軍団の一員に立候補でも出来るのではないかと思える。
木戸はそんな純朴な少年を捕まえては、からかったり買物を押し付けたりしていた。
「時枝。風呂に入るぞ」
木戸は庭に生えている雑草で延々と三つ編みを作っていた。
木戸が呼ぶと、餌を貰う動物のように意味が分かっているのか分かっていないのか不明な表情で、ただその声の元へ寄って行く。
最初の頃の怯えは無くなり、こうして木戸の言う事を聞くようになったのは進展だった。
(一生このままだとしたら……)
木戸はそう考えて急に寂しくなった。
軋む廊下で立ち止まると、後ろについて来ていた時枝も止まった。
ただじっと木戸の動きを待つ時枝を、強く抱き締めた。
「いいよ。別にこのままでも。今までお前に愛して貰ったから、いい。この先は俺がお前を愛してやるから」
いつもされるがままにぶらりと下がっていた時枝の腕がゆっくりと上がる。
そして初めてほんの少しだけ木戸の袖口を握った。
「分かるか? 俺の気持ちが……時枝」
時枝はそれ以上別段変わらなかったが、それでもきっとまだ眠っている時枝に想いが少し流れ込んだような気がして木戸は嬉しかった。
「じゃあ健太が帰って来る前に洗っちまうか。あいつ、お前に惚れてるみたいだからな。くっくっく」
手際良く時枝を風呂で洗って髪を乾かしてやっていると、健太が夕飯の買い物を済ませてきた。買物をする場所はここから遠目なので結構助かっているのも事実だ。
「食ってくか?」
「う、うん」
健太は時折こうして一緒に夕飯を食べる事もあった。
少し前の木戸なら考えられない事だった。
(俺も余程暇なのか)
そんな事を想いながらも悪くない生活だと感じていた。
別段変った事ない日だった。いつものように日中はネコと畳の上で日向ぼっこをする時枝を傍らに仕事をし、家事を何となく済ませて酒を嗜んで床についた。
いつものように時枝を抱き抱えて眠っていた筈だった。
無意識に時枝の温もりと感触を確認しながら睡眠を取る癖がついていた為、腕の中に何もない事に気が付くと木戸は飛び起きた。
「時枝?! 時枝ッ!?」
心臓が一気に鼓動を速めて冷や汗が毛穴からじわじわと出て木戸の身体を冷やす。
家の中を一通り探し回り、時枝の姿が確認出来ないと木戸の胸が苦しくなってきた。
(もう、これ以上時枝を俺から離さないでくれよ)
木戸が玄関から出ようと手を掛けた時、鍵が閉まったままなのが引っ掛かった。
(あれ……)
そして何かに気付いたように勢いよく庭へと向かった。
「時枝ッ」
広い庭の片隅に、浴衣姿の時枝は立っていた。
「お前っ……何してんだッ! 心配した……だろう……」
時枝は泣いていた。
「おい……どうした? 何、泣いてんだよ」
星なのか月なのか、それとも薄く広がった雲なのか、じっと遠くの空の方を見て泣いていた。
どの位そこでそうして泣いていたのだろうか。目尻を赤くさせて、胸元には大きな涙の染みが出来ていた。
木戸はそっと時枝を抱き締めた。
胸の中で啜り泣く声がした。
ゆっくりと時枝の頭を撫でてやる。
「怖い夢を見たのか?」
もしかしたら現実にあった事を寝ている間に思い出して悲しくて起きてしまったのかもしれない、木戸はそう思った。
きっとハッキリと思い出すというよりかは悲しいという感情だけを思い出したという事に近いかもしれない。
木戸にもそういう経験はあった。
「ほら。部屋に戻るぞ……今度から悲しかったら俺の所で泣けよ?」
時枝は暫く静かに啜り泣いていた。
そして、その状態は毎晩の時もあれば二、三日経ってからの時もあった。
そしてそのどれも、時枝は木戸の腕から抜けていった。
<<前へ 次へ>>
木戸の愛は深くなっていっているというのに(>ω<)
どうしたの時枝くん…(>ω<。)
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不安定だった精神年齢も、徐々に元の年齢に安定するようになっているように見えた。
あと少し、と思うのだがなかなか思うようにいかないのが歯痒い。
「おい、買物行って来い」
「えぇぇ」
「暇だろう? ……ほら、小遣いやるから行って来い」
「分かった」
一度逃げ出した筈の高校生はあれから懲りずに何度か近くで見かける様になった。
余程時枝に興味を持ったのか、男同士の世界に怖い物見たさで興味を持ったのか、暫く放っておいた木戸だったが時枝に少しでも刺激になるかと声を掛けてやった。
少年は健太と言った。
名前の通り健康そうな日焼けした肌と野球でもやっているような筋肉のついた身体をしていた。
青年というにはまだ幼さの残る顔立ちは少し田舎くささがあるが、それが素朴で爽やかだ。
キリッとした眉と意思の強そうな目鼻立ちは、洗練すれば芸能界にいるあの軍団の一員に立候補でも出来るのではないかと思える。
木戸はそんな純朴な少年を捕まえては、からかったり買物を押し付けたりしていた。
「時枝。風呂に入るぞ」
木戸は庭に生えている雑草で延々と三つ編みを作っていた。
木戸が呼ぶと、餌を貰う動物のように意味が分かっているのか分かっていないのか不明な表情で、ただその声の元へ寄って行く。
最初の頃の怯えは無くなり、こうして木戸の言う事を聞くようになったのは進展だった。
(一生このままだとしたら……)
木戸はそう考えて急に寂しくなった。
軋む廊下で立ち止まると、後ろについて来ていた時枝も止まった。
ただじっと木戸の動きを待つ時枝を、強く抱き締めた。
「いいよ。別にこのままでも。今までお前に愛して貰ったから、いい。この先は俺がお前を愛してやるから」
いつもされるがままにぶらりと下がっていた時枝の腕がゆっくりと上がる。
そして初めてほんの少しだけ木戸の袖口を握った。
「分かるか? 俺の気持ちが……時枝」
時枝はそれ以上別段変わらなかったが、それでもきっとまだ眠っている時枝に想いが少し流れ込んだような気がして木戸は嬉しかった。
「じゃあ健太が帰って来る前に洗っちまうか。あいつ、お前に惚れてるみたいだからな。くっくっく」
手際良く時枝を風呂で洗って髪を乾かしてやっていると、健太が夕飯の買い物を済ませてきた。買物をする場所はここから遠目なので結構助かっているのも事実だ。
「食ってくか?」
「う、うん」
健太は時折こうして一緒に夕飯を食べる事もあった。
少し前の木戸なら考えられない事だった。
(俺も余程暇なのか)
そんな事を想いながらも悪くない生活だと感じていた。
別段変った事ない日だった。いつものように日中はネコと畳の上で日向ぼっこをする時枝を傍らに仕事をし、家事を何となく済ませて酒を嗜んで床についた。
いつものように時枝を抱き抱えて眠っていた筈だった。
無意識に時枝の温もりと感触を確認しながら睡眠を取る癖がついていた為、腕の中に何もない事に気が付くと木戸は飛び起きた。
「時枝?! 時枝ッ!?」
心臓が一気に鼓動を速めて冷や汗が毛穴からじわじわと出て木戸の身体を冷やす。
家の中を一通り探し回り、時枝の姿が確認出来ないと木戸の胸が苦しくなってきた。
(もう、これ以上時枝を俺から離さないでくれよ)
木戸が玄関から出ようと手を掛けた時、鍵が閉まったままなのが引っ掛かった。
(あれ……)
そして何かに気付いたように勢いよく庭へと向かった。
「時枝ッ」
広い庭の片隅に、浴衣姿の時枝は立っていた。
「お前っ……何してんだッ! 心配した……だろう……」
時枝は泣いていた。
「おい……どうした? 何、泣いてんだよ」
星なのか月なのか、それとも薄く広がった雲なのか、じっと遠くの空の方を見て泣いていた。
どの位そこでそうして泣いていたのだろうか。目尻を赤くさせて、胸元には大きな涙の染みが出来ていた。
木戸はそっと時枝を抱き締めた。
胸の中で啜り泣く声がした。
ゆっくりと時枝の頭を撫でてやる。
「怖い夢を見たのか?」
もしかしたら現実にあった事を寝ている間に思い出して悲しくて起きてしまったのかもしれない、木戸はそう思った。
きっとハッキリと思い出すというよりかは悲しいという感情だけを思い出したという事に近いかもしれない。
木戸にもそういう経験はあった。
「ほら。部屋に戻るぞ……今度から悲しかったら俺の所で泣けよ?」
時枝は暫く静かに啜り泣いていた。
そして、その状態は毎晩の時もあれば二、三日経ってからの時もあった。
そしてそのどれも、時枝は木戸の腕から抜けていった。
<<前へ 次へ>>
木戸の愛は深くなっていっているというのに(>ω<)
どうしたの時枝くん…(>ω<。)
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コメント
> 時枝さん、泣いてますねえ。
> 高校生が居ついたことで、ヒロムっちを思い出しているなんてことは無いですよね!うん。
はい(ノ△・。)
可哀想に、夜な夜な泣いているようです(涙
はっ!∑(°ロ°*)
確かにちょっと若い子を手元に置いて弘夢を……。
いや、でも恐らく木戸は時枝の事しか頭にないと思います!
> どんどん予測できない方向へ行ってますね~時枝さんも、早く良くなるといいですけど…。
> 木戸さんがまいらないか不安でもあります。
ペットのような高校生も遊びに来るようになりましたし、
少しずつ感情も出てくるようにはなっているし、
もう一息のような気もしますが…どうなる事やらです(´Д`A;)
木戸も心配して下さってありがとうございます(ノД`)・゜・
奴ならきっと大丈夫だと思います(>ω<)
心はきっと狭くてとても深い男だと思います。(複雑
> でも、まあ、今まで時枝は我慢してきたので、少しくらいは木戸さんにも、耐えてもらいたいものです。
> …ちょっと厳しく言ってみました((笑
ですよね!!(笑)
時枝だってずっと辛い片想いをしてきたんですもの!
> 毎回楽しみに覗いていますww
> お体に気をつけて、更新、頑張ってくださいね!b
> でわ、乱文失礼いたしました。
うおーん(ノД`)・゜・
いつも覗きに来て頂いてありがとうございます!!
毎日更新といかず申し訳ありません( p_q)エ-ン
身体の事まで気遣って下さりありがとうございます!
頑張ります!!( >ω<)9
コメントどうもありがとうございました
高校生が居ついたことで、ヒロムっちを思い出しているなんてことは無いですよね!うん。
どんどん予測できない方向へ行ってますね~時枝さんも、早く良くなるといいですけど…。
木戸さんがまいらないか不安でもあります。
でも、まあ、今まで時枝は我慢してきたので、少しくらいは木戸さんにも、耐えてもらいたいものです。
…ちょっと厳しく言ってみました((笑
毎回楽しみに覗いていますww
お体に気をつけて、更新、頑張ってくださいね!b
でわ、乱文失礼いたしました。
>
> には泣けた(T_T)
> 今世紀の純愛大賞に確定!
゚+。゚(*ノ・Д・)ノオォオォ゚。+゚
ありがとうございます!!
そんな名誉な大賞をぉぉっ!
でも、今は時枝は分からなくても、
時枝から愛して貰った事がかけがえのない宝物というか、
支えでもあるんでしょうね(´Д`)
幸せよ~早くこい~(叫
コメントどうもありがとうございました
>
> 優しすぎて見てて辛い(>_<)
エーン(pωq)ヽ(・ω・。)ヨチヨチ
木戸、こんだけ優しくなる程好きなんだって
思ったら切ないのに少し嬉しくもあり、
そして悲しいですよね(ノД`)・゜・
> 木戸はこんなにも好きなのに
>
> かなしすぎるよぉぉお
>
> そんで泣いてる時枝も
>
> すんごく可哀想……………
>
> 幸せになれるんだろうか(;_;)
(ノ*´Д`)ノオォオォ
何だか見てて胸が痛いですよね(>_<)
でも泣くって事も感情の一つなので、
少しずつ改善に向かっているようには思います!
木戸ならきっと時枝と幸せになってくれると
信じております(ノ△・。)
コメントどうもありがとうございました
そのようです(笑)
何を飼い慣らしているんでしょうね((´∀`))ヶラヶラ
> 健太の持つ純朴で爽やかな雰囲気が、妖怪屋敷に 新風を運んで 時枝の 刺激になれば いいのになぁ~*:.。☆..。.(´∀`人)
確かにこの素朴な暖かい刺激で時枝に良い影響を
もたらしてくれたらいいなって思いますが……
(´-ω-`)ウーン・・・
> ェッ... Σ(:゚ω゚) 時枝は、夜な夜な泣いてるの?
>
> 感情が顕になる事は いい傾向だけど...
> その原因が 分からないのは辛いね、木戸
> (´・ω・`)ショボーン...byebye☆
何故か涙する時枝…。
どうしたと言うのでしょうね(´Д`)
何度も木戸の腕から抜けて一人泣くのが切ないです(涙
でも感情が出てきた感じはします(>ω<)
コメントどうもありがとうございました
には泣けた(T_T)
今世紀の純愛大賞に確定!
木戸…(´;ω;)ブワッ
優しすぎて見てて辛い(>_<)
木戸はこんなにも好きなのに
かなしすぎるよぉぉお
そんで泣いてる時枝も
すんごく可哀想……………
幸せになれるんだろうか(;_;)
健太の持つ純朴で爽やかな雰囲気が、妖怪屋敷に 新風を運んで 時枝の 刺激になれば いいのになぁ~*:.。☆..。.(´∀`人)
ェッ... Σ(:゚ω゚) 時枝は、夜な夜な泣いてるの?
感情が顕になる事は いい傾向だけど...
その原因が 分からないのは辛いね、木戸
(´・ω・`)ショボーン...byebye☆
コメント