03/17/2012(Sat)
貴方の狂気が、欲しい 48話
昼間はいつもと変わらぬ時枝で、夜になると泣きだす。
木戸は不安にはなったが、それでも時枝が腕から抜け出す度に、起きては迎えに行った。
根気よく、何度も何度も行った。
腕から抜ける瞬間が分かっても、無理に引き留めるのは返ってよくない気がして泣きたいだけ泣かせる事にした。
そんな中、どうしても一度東京へ戻らなくてはいけない用事が出来た。
木戸は時枝を連れては行きたくなかった。かと言って、使える使用人も敢えて呼びたくなかった。
まだ街の香りのするものを時枝に近づけさせたくなかったからだ。
そして、時枝に言葉を話させようとゆっくり単語を並べている健太が目に入った。
「こんにちは!」
「…………」
「こ・ん・に・ち・は」
「コンニチハ」
「名前はなんですか?」
「……。ケンタデス」
「あぁっ、違うよ時枝さん! それは僕の名前だから、時枝です、だよ!」
なかなか良い講師ぶりの健太は、こうして最近真剣に時枝に言葉を教えている。
健太は時枝が元々先天的な疾患がある人かと思い込んでいる。木戸にとっては都合が良かった。
「おい、健太」
木戸の低い声に健太が振り返る。健太は全くとは言えないが、少し前まであった木戸に対する怯えはない。
「何?」
「ちょっと留守番を頼みたいんだが」
「留守? いいけど……俺学校あるよ?」
「週末でいい。一日こいつの面倒を見ててくれないか?」
健太の目がみるみる丸くなった。
分かりやすく頬が赤く染まり、嬉しそうに少し焦っているのが可愛い。
だが木戸が釘を刺す。
「俺の恋人を信用して預けられるのはお前くらいなんだ……いいか?」
途端に健太の表情が明らかにガッカリした。恋人とハッキリ言ったのは初めてだ。
「あ、うん……いいよ」
「変な事するなよ」
「しっ……しないよっ」
そして週末、木戸は時枝を健太に預けて都内へ戻った。
健太は胸をときめかせていた。
恋をする相手としては、あまりにも次元の違う人だと分かっていたにも関わらず惹かれてしまった。
まともに言葉も交わせず、無表情で銀の長い髪の男――。
「何でだろうなぁ俺。ハァ……」
そして先日、恋人だと宣言されて完全に純情な恋心は砕け散った。
きっと初めて時枝を見つけた時には既に一目惚れをしていたのだろう。
「時枝さんはさ、木戸さんの事好きなの?」
「……」
案の定、時枝は何も答えない。
「時枝さんが分からなければさ……別に恋人だって言えないんじゃないの?」
健太は腕を組み、虚ろな目をした時枝を見ながら考えを口に出す。
「だ、だったら俺だって時枝さんのコイビトっ!」
健太は自分で言ってみてから恥ずかしさでみるみる体温が上がり思わず顔を押さえた。
時枝の表情は変わらない。
健太の好奇心とダメだと言われているのにしたくなる誘惑がどんどん大きくなってきた。
(キスとか……しても多分時枝さん分からないよね……そしたら木戸さんだって分からないじゃんね……)
健太の心臓はバクバクと大きな音を立て、目線はもう時枝のふっくらとした艶っぽい唇しか捉えていなかった。
(どうしよう……いいかな……いいよね……一瞬とかなら)
健太がそっと覗きこむようにして時枝の顔に自分の顔を近づけた。
あと数センチで触れる。
そして健太はギュッと目を瞑って唇を目標に付けた。
(あぁっ……ファーストキス!! ……何か……思ったより硬い……?)
健太が唇に感じる違和感に瞼を上げると、自分の唇が時枝の指先にキスをしているのが見えた。
時枝が指先で健太の唇を押さえていた。
「いけませんね」
<<前へ 次へ>>
( Д ) ゚ ゚
★拍手コメントのお返事はボタンを押して頂いた拍手ページ内に致します。
拍手秘コメの場合は普通コメント欄にてお返事致します。
お礼画像あり☆6種ランダム
木戸は不安にはなったが、それでも時枝が腕から抜け出す度に、起きては迎えに行った。
根気よく、何度も何度も行った。
腕から抜ける瞬間が分かっても、無理に引き留めるのは返ってよくない気がして泣きたいだけ泣かせる事にした。
そんな中、どうしても一度東京へ戻らなくてはいけない用事が出来た。
木戸は時枝を連れては行きたくなかった。かと言って、使える使用人も敢えて呼びたくなかった。
まだ街の香りのするものを時枝に近づけさせたくなかったからだ。
そして、時枝に言葉を話させようとゆっくり単語を並べている健太が目に入った。
「こんにちは!」
「…………」
「こ・ん・に・ち・は」
「コンニチハ」
「名前はなんですか?」
「……。ケンタデス」
「あぁっ、違うよ時枝さん! それは僕の名前だから、時枝です、だよ!」
なかなか良い講師ぶりの健太は、こうして最近真剣に時枝に言葉を教えている。
健太は時枝が元々先天的な疾患がある人かと思い込んでいる。木戸にとっては都合が良かった。
「おい、健太」
木戸の低い声に健太が振り返る。健太は全くとは言えないが、少し前まであった木戸に対する怯えはない。
「何?」
「ちょっと留守番を頼みたいんだが」
「留守? いいけど……俺学校あるよ?」
「週末でいい。一日こいつの面倒を見ててくれないか?」
健太の目がみるみる丸くなった。
分かりやすく頬が赤く染まり、嬉しそうに少し焦っているのが可愛い。
だが木戸が釘を刺す。
「俺の恋人を信用して預けられるのはお前くらいなんだ……いいか?」
途端に健太の表情が明らかにガッカリした。恋人とハッキリ言ったのは初めてだ。
「あ、うん……いいよ」
「変な事するなよ」
「しっ……しないよっ」
そして週末、木戸は時枝を健太に預けて都内へ戻った。
健太は胸をときめかせていた。
恋をする相手としては、あまりにも次元の違う人だと分かっていたにも関わらず惹かれてしまった。
まともに言葉も交わせず、無表情で銀の長い髪の男――。
「何でだろうなぁ俺。ハァ……」
そして先日、恋人だと宣言されて完全に純情な恋心は砕け散った。
きっと初めて時枝を見つけた時には既に一目惚れをしていたのだろう。
「時枝さんはさ、木戸さんの事好きなの?」
「……」
案の定、時枝は何も答えない。
「時枝さんが分からなければさ……別に恋人だって言えないんじゃないの?」
健太は腕を組み、虚ろな目をした時枝を見ながら考えを口に出す。
「だ、だったら俺だって時枝さんのコイビトっ!」
健太は自分で言ってみてから恥ずかしさでみるみる体温が上がり思わず顔を押さえた。
時枝の表情は変わらない。
健太の好奇心とダメだと言われているのにしたくなる誘惑がどんどん大きくなってきた。
(キスとか……しても多分時枝さん分からないよね……そしたら木戸さんだって分からないじゃんね……)
健太の心臓はバクバクと大きな音を立て、目線はもう時枝のふっくらとした艶っぽい唇しか捉えていなかった。
(どうしよう……いいかな……いいよね……一瞬とかなら)
健太がそっと覗きこむようにして時枝の顔に自分の顔を近づけた。
あと数センチで触れる。
そして健太はギュッと目を瞑って唇を目標に付けた。
(あぁっ……ファーストキス!! ……何か……思ったより硬い……?)
健太が唇に感じる違和感に瞼を上げると、自分の唇が時枝の指先にキスをしているのが見えた。
時枝が指先で健太の唇を押さえていた。
「いけませんね」
<<前へ 次へ>>
( Д ) ゚ ゚
★拍手コメントのお返事はボタンを押して頂いた拍手ページ内に致します。
拍手秘コメの場合は普通コメント欄にてお返事致します。
お礼画像あり☆6種ランダム
| ホーム |
コメント
ヾ(:´Д`●)ノアワワワヾ(●´Д`;)ノ
背筋を凍らせてしまいましたかっ!
でもある意味怖いかもですよね^^;
ホラーからラブストーリーに戻れるか(笑)
コメントどうもありがとうございました
>
> ↑に吹いてしまった(笑
あはは(≧∀≦)
スミマセン、つい目玉を飛ばしてしまいました(*´∀`*)ゞ
> えっ時枝えっ????
>
> まさか前から記憶あったとか!!?
> 日本語がペラペラですよ………
>
> (οдО;)
どうなんでしょう!?(`・д´・ ;)ゴクリ
日本語ぺらぺら(笑)
彼は異国の者ではナカッタ!(笑)
果たして記憶が実はあったのか、今たまたまなのか…。
期待が高まります(>ω<)
乞うご期待ヾ(*´∀`*)ノ゛
コメントどうもありがとうございました
あ、「ケンタです」発言に萌えて頂きましたか!?
嬉しいです(笑)
ありがとうございます!!(*´∀`*)ゞ
きっと健太が一生懸命手本を見せていたのでしょうね(笑)
そして時枝は至ってマジメに真似したという(笑)
コメントどうもありがとうございました
Sさまも一緒に目玉を飛ばして下さっている!(笑)
え!ちびりそうなので!?
構いません!!
見ていて差しあげます!
さァ!遠慮なんてする事ありませんよ!
さァ!! ポカッ (._+ )☆\(-ω-;)ヤメンカ!
実はSさまのここでの片想いキャラにとても萌える(笑)
時枝め!!
確かに願わくば前の時枝の姿が見たいですよね(ノД`)・゜・
もう一息な感じですがどうなるか……(>ω<)
コメントどうもありがとうございました
(ノ*´Д`)ノオォオォ
次話が待ちきれないと仰って頂けて嬉しいです(ノД`)・゜・
ありがとうございます!
時枝が!?な状態での寸止めスミマセン;
今夜次話UP予定でございます(*´∀`*)
コメントどうもありがとうございました
( Д) ゜゜
↑に吹いてしまった(笑
えっ時枝えっ????
まさか前から記憶あったとか!!?
日本語がペラペラですよ………
(οдО;)
コメント