04/03/2010(Sat)
万華鏡-江戸に咲く-4
帰宅してベッドに横になる。
(あの人、結局キスしたかっただけだったんじゃん。唇を重ねるだけでいいものを。)
不思議と頭の中に浮かぶ疑問にすんなり答えが分かってくる。
ふと思いついたようにベッドから降りると手鏡を引き出しから取り出して自分の瞳を映してみた。
(あ!万華鏡・・本当に俺の中に入ってる・・)
鏡に映し出された見月の瞳は今までとは違い、先ほど男の中に見た宝石が今は自分の瞳の中にある。それは静かに転がるような煌きを放っていた。
だが、この万華鏡を渡される時のような激しい煌きとは違い、静かだが確かに見るものの心を奪うような魅惑的な輝きを放っていた。
若干瞳の色素が薄茶色に透明度が増しているようだ。太陽の光に当たるとまた色が微妙に変化する。
まるでシトリン(黄水晶)が入っているようだ。
RRRR・・・
携帯が鳴る。表示を見ると貴之からだった。通話ボタンを押していつものように他愛のない話をし、明日の土曜にデートの約束をした。しばらく話した後、携帯を切ってそれを見つめる。
―そう。この携帯でする事は決まっている。
(命令しなくちゃ。・・最初はただ、設定はせずに命令するだけ・・。)
譲渡されたその日のうちにとにかく命令して“必然の場所”へ飛ばされなくてはいけない。
必然を受け入れたくない場合、つまり現状の生活を維持したい場合は「譲渡するから次の者の所へ行け」と、命令すればいいだけだ。
だが、美月はこの心中のざわめきと平凡な日常から抜け出したい思いで“必然の場所”へ行く決意は出来ていた。
(ヨシ・・なるように・・なれ!!)
覚悟を決めて携帯に命令する。
「飛ばしてくれ!俺を・・その場所に!」
星の音がして、頭の中に宝石が一気に降ってきた。頭の中の煌きなのに眩しさを感じて思わず目を瞑った。
それは一瞬の煌きだったが、目を開けるとそれまで部屋に居たはずの美月は・・・
道端に立っていた。
「ひゃっこ~い、ひゃっこ~い。氷水あがらんか~汲み立てあがらんか~冷たい」
目の前を水桶を天秤棒で担ぎながら歩く人が見える。テレビで見た事のある光景だ。
(・・・。日光・・・江戸村?)
日光江戸村にしてはどうも廃れすぎている。あんなにきちんとした作りではなく、もっと雑然として人々の生活感があまりにもリアルで、どちらかと言うと美月の方が浮いている。
軒並ぶ長屋に剥き出しの道路。着物を着て歩く人々。まさに時代劇の中に迷い込んだような場所にいた。
呆気に取られて棒立ちになっていると、その奇妙な現代の服装に興味を持った周りの人々が集まって来た。
「おい、兄ちゃんなんだいその妙な格好はぁ?役者さんかい?」
「おーい、はちィー!妙な格好した役者が来てるぞー!こっち来てみなぃ!」
人が人を呼んでどんどんと集まってくる。だが、美月の方も集まる人たちに興味と不安を抱いていた。
「なにぃ!どれどれ。ほー!こらあたまげた!こいつぁ本当に妙な格好だ!でも平さん、コイツの顔よく見てみなぃ。格好は妙だがコイツは上玉だ!まさか女じゃねぇだろうな?」
「ホントだ!!こいつぁべっぴんだ!頭の色といい目の色といい、コイツ異人じゃあねーのかい?」
異人だ異人だと騒ぎだしたのでそろそろと口を開く。
「あ・・あの。俺は異人ではなく、ちゃんとした日本人です。で、つかぬ事を伺いますがここは・・どこですか?ってゆーかいつなんですか?」
突然口を開いた異人が流暢に日本語を話したので一瞬驚いた町民はますます興味をそそられたように見入ってくる。
「ここはどこって、坊主。旅行者かい?ここぁ江戸だよ。」
(江戸・・江戸時代か?って言われてもなぁ・・)
「あの、今の将軍は誰ですか?」
「あ?今の将軍ってー言ったら徳川家重様だよ。」
(家重だぁ?!えぇっと誰だっけかなぁ・・でも江戸中期だな。ええと何だっけ!確か9代目だっけか?)
「ええっと、9代目将軍ですか?」
「ああそうだよ」
(よっしゃあー!合ってた!受験勉強しといて良かった!・・じゃなくて。)
「ていう事は・・宝暦ですかね?何年ですか?」
「んー・・宝暦2年だよね?平さん。」
「んあぁ。そうだよ。春先に大岡越前忠相様がお亡くなりになったからね。あの人ぁよく・・」
(大岡・・なんか聞いた事あるような無いような。でも宝暦2年っつたら・・えと・・)
現状把握の為にフル回転する美月には他の言葉が耳に届く余裕がない。
「1752年かよ!!」
「うわっ。なんだい急にでっけぇ声出して。」
「あ・・ああ。すいません。ちょっと散歩するんで。じゃ、お世話になりました。」
「ああ、おい坊主!」
急いで駆け足で走り出すと後ろで何やら叫んでいた声も聞こえなくなった。
心臓がドキドキと鼓動を早める。走ったからだけではない鼓動は不安と期待が入り混じってワクワクさえするように感じた。
<<前へ 次へ>>
飛ばされました。江戸に
言葉遣いが現代風デス。
まるっきり江戸弁じゃあ色気が無いような気もしたので・・
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(あの人、結局キスしたかっただけだったんじゃん。唇を重ねるだけでいいものを。)
不思議と頭の中に浮かぶ疑問にすんなり答えが分かってくる。
ふと思いついたようにベッドから降りると手鏡を引き出しから取り出して自分の瞳を映してみた。
(あ!万華鏡・・本当に俺の中に入ってる・・)
鏡に映し出された見月の瞳は今までとは違い、先ほど男の中に見た宝石が今は自分の瞳の中にある。それは静かに転がるような煌きを放っていた。
だが、この万華鏡を渡される時のような激しい煌きとは違い、静かだが確かに見るものの心を奪うような魅惑的な輝きを放っていた。
若干瞳の色素が薄茶色に透明度が増しているようだ。太陽の光に当たるとまた色が微妙に変化する。
まるでシトリン(黄水晶)が入っているようだ。
RRRR・・・
携帯が鳴る。表示を見ると貴之からだった。通話ボタンを押していつものように他愛のない話をし、明日の土曜にデートの約束をした。しばらく話した後、携帯を切ってそれを見つめる。
―そう。この携帯でする事は決まっている。
(命令しなくちゃ。・・最初はただ、設定はせずに命令するだけ・・。)
譲渡されたその日のうちにとにかく命令して“必然の場所”へ飛ばされなくてはいけない。
必然を受け入れたくない場合、つまり現状の生活を維持したい場合は「譲渡するから次の者の所へ行け」と、命令すればいいだけだ。
だが、美月はこの心中のざわめきと平凡な日常から抜け出したい思いで“必然の場所”へ行く決意は出来ていた。
(ヨシ・・なるように・・なれ!!)
覚悟を決めて携帯に命令する。
「飛ばしてくれ!俺を・・その場所に!」
星の音がして、頭の中に宝石が一気に降ってきた。頭の中の煌きなのに眩しさを感じて思わず目を瞑った。
それは一瞬の煌きだったが、目を開けるとそれまで部屋に居たはずの美月は・・・
道端に立っていた。
「ひゃっこ~い、ひゃっこ~い。氷水あがらんか~汲み立てあがらんか~冷たい」
目の前を水桶を天秤棒で担ぎながら歩く人が見える。テレビで見た事のある光景だ。
(・・・。日光・・・江戸村?)
日光江戸村にしてはどうも廃れすぎている。あんなにきちんとした作りではなく、もっと雑然として人々の生活感があまりにもリアルで、どちらかと言うと美月の方が浮いている。
軒並ぶ長屋に剥き出しの道路。着物を着て歩く人々。まさに時代劇の中に迷い込んだような場所にいた。
呆気に取られて棒立ちになっていると、その奇妙な現代の服装に興味を持った周りの人々が集まって来た。
「おい、兄ちゃんなんだいその妙な格好はぁ?役者さんかい?」
「おーい、はちィー!妙な格好した役者が来てるぞー!こっち来てみなぃ!」
人が人を呼んでどんどんと集まってくる。だが、美月の方も集まる人たちに興味と不安を抱いていた。
「なにぃ!どれどれ。ほー!こらあたまげた!こいつぁ本当に妙な格好だ!でも平さん、コイツの顔よく見てみなぃ。格好は妙だがコイツは上玉だ!まさか女じゃねぇだろうな?」
「ホントだ!!こいつぁべっぴんだ!頭の色といい目の色といい、コイツ異人じゃあねーのかい?」
異人だ異人だと騒ぎだしたのでそろそろと口を開く。
「あ・・あの。俺は異人ではなく、ちゃんとした日本人です。で、つかぬ事を伺いますがここは・・どこですか?ってゆーかいつなんですか?」
突然口を開いた異人が流暢に日本語を話したので一瞬驚いた町民はますます興味をそそられたように見入ってくる。
「ここはどこって、坊主。旅行者かい?ここぁ江戸だよ。」
(江戸・・江戸時代か?って言われてもなぁ・・)
「あの、今の将軍は誰ですか?」
「あ?今の将軍ってー言ったら徳川家重様だよ。」
(家重だぁ?!えぇっと誰だっけかなぁ・・でも江戸中期だな。ええと何だっけ!確か9代目だっけか?)
「ええっと、9代目将軍ですか?」
「ああそうだよ」
(よっしゃあー!合ってた!受験勉強しといて良かった!・・じゃなくて。)
「ていう事は・・宝暦ですかね?何年ですか?」
「んー・・宝暦2年だよね?平さん。」
「んあぁ。そうだよ。春先に大岡越前忠相様がお亡くなりになったからね。あの人ぁよく・・」
(大岡・・なんか聞いた事あるような無いような。でも宝暦2年っつたら・・えと・・)
現状把握の為にフル回転する美月には他の言葉が耳に届く余裕がない。
「1752年かよ!!」
「うわっ。なんだい急にでっけぇ声出して。」
「あ・・ああ。すいません。ちょっと散歩するんで。じゃ、お世話になりました。」
「ああ、おい坊主!」
急いで駆け足で走り出すと後ろで何やら叫んでいた声も聞こえなくなった。
心臓がドキドキと鼓動を早める。走ったからだけではない鼓動は不安と期待が入り混じってワクワクさえするように感じた。
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言葉遣いが現代風デス。
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