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万華鏡-江戸に咲く-5

 時計を見ると時刻は丁度現代と同じ夕刻。日が傾き掛けているが、丁度商店街のような場所に差し掛かると人々の賑わいが一層多くなっている。

(うわー。本当に時代劇みたいだ。あ、お茶屋さんとか結構ある。甘味とかおいしそ。)

 本人はのん気なものだが当然の如く周りの人々の目は美月に向く。
その目線はもちろん美月の出で立ちに注がれているものだが同時に美月の美しい容貌も視線を集める要因となっていた。美月はそんな事はお構いなしに足早に街中を見て周る。
 興味津々という様子でキョロキョロと辺りを見渡しながらウィンドウショッピングの感覚で歩いて行くと本屋らしき店先に挿絵があるのが視界に入った。

(本屋だ。へぇ。浮世絵?おもしれー、本物だぁ)

「アンタ、べっぴんさんだねぇ。役者かい?ほら、春画もあるよ。見てみるかい?」
 店番らしき若い男が不適な笑みで本を幾つか目の前に置いてきた。
 適当に長くなった前髪をうっとうしいから自分で切った、という感じの前髪に一応髷が結ってある。現代で言うところの、彼女欲しくてとにかくナンパしてるが上手くいかない風の男だ。

(春画っつたらエロ本じゃねーか!江戸の人はオープンだな。・・つか丸見えじゃねーか。現代なら絶対アウトだぞ。)

「それともこっちがいいかい?」
 にやりと笑った男はバサッと違う春画を置いてきたので興味本位で開くとそこには卑猥な裸体の男同士が凄い体位で性行為をしている様がまざまざと描かれていた。
 描かれている男性器は、それは非現実的な大きさで思わず目が釘付けになってしまった。
 そんな美月を上から下までまじまじと見る男の視線に気が付くと、美月は急に顔が熱くなるのが分かったのでパタリと春画を閉じた。

「ははは。これがお気に入りみてぇだな。お前さん、妙な格好してるが顔はここらじゃ見かけない美人さんだねぇ。どこの店にいるの?今晩行くから教えなよ。それとも特訓中かい?なら芝居小屋まで行くからよぉ」

(はぁ?特訓?何言ってんだコイツ)

 急に手を取られて焦る。
「ちょ・・離して下さい!店ってなんですか!ちょ・・やめっ」
「おめぇ、本当に綺麗だなぁ。幾らでも出すから今からどうだい?こっち入んなよ。」
 男は力任せに奥へ引き込もうとする。
「離せよ!!ふざけんな!」
 抗っていると奥からむくりと影が起き上がるのが見える。

「ふぁ・・。んだようるせーな。なにやってんだよ熊。連れ込みかぁ?」
 脳内に心地よく痺れるような声が鼓膜に響いてきた。
 少し低めの音が甘い艶かしさを纏う声だ。
 ゆらゆらと眠そうな足取りで店先に出てきた男は現代に居れば間違いなくモデルか俳優になれるであろう美貌の若い男だった。年は容易に想像が出来ない。肌艶を見ると若そうだが纏っている雰囲気や物腰が年齢よりも成熟した感じを醸し出していたからだ。

 男は野暮ったい感じであるのに、美月は視線を奪われてしまったようにその男を見つめる。
 野生の美しさ、という方がしっくりと来るだろう。男の内側に潜む本能が相手を瞬時に蕩けさせてしまうようだ。
 美月は気付くと自分の鼓動が男を前に早まっていくのに困惑する。

(うっわすごいカッコイイ人・・。俺より少し上・・くらい?ていうか何かエロいなこいつ・・着物だから?)

 長い髪を上にポニーテールのように纏め上げているが、相当長いようで上からサラリと流れ落ちる髪は男の左肩に乗って胸の上位に掛かっている。前髪もこの時代ではめずらしく若干長めに額を覆っている。横髪が甘くなって長いもみ上げが何本か垂れているのが異様に淫らな印象だ。

 男はネイビーブルーの着流しを無造作に、でもしっかりと着ていて何とも粋な感じだ。
 男は美月の視線を捕らえると一瞬驚くように見入ったが、次の瞬間には企むような笑みを浮かべて近づいてきた。

「ほーう。ずいぶんと綺麗なのが居たもんだ。最近じゃそんな格好して客を取ってるのかい?」
 目の前に立った男は美月よりも10cmほど高く、間近に来ると見上げてしまう。近くで見れば見るほど魅力的な顔立ちと雰囲気に飲み込まれそうな男だ。目の前にある男の深く切れ長な瞳の奥に光が灯らず、闇がゆらゆらと揺れているように見える。

「おいおい。夜!そいつぁ俺が先に手付けたんだからな?!俺に先ヤらせてくれよ?!」
 最初にちょっかいを出してきたその男の言葉にカッとなる。
「おい!何が手を付けただ!誰も手なんか付けられてねーし、別に俺は男娼でもねーよ!バカにすんな!」
 ウサギのような小動物だと思い込んでいた男達は実はマングースだった美月の迫力に驚いてしまった。

 色男の方がさも可笑しそうに笑い声をあげた。
「あっはっはっは!そうか、違うのか!そりゃあすまねぇな。それだけ綺麗な顔してりゃあ化粧でもして客引きしてんのかと勘違いもされっちまうさ。違うならまぁ、何かの縁だ。茶でも飲んで行きなぃ。」
 今にも視姦しそうなあんな目をしていた男が無邪気に破願した表情があまりにも幼く可愛く見えてドキリとする。

「なんだよぅ・・違うのかよ。」
 熊という男はさも残念そうに店番に戻った。美月は案内されるまま、色男の後について奥の部屋へと足を運ぶ。
「はぁ。どうせ夜の野郎のもんになっちまうんだろーよ。ったく不公平だぜ。あいつに迫られて喜ばない奴なんかいねーっての。しっかし綺麗だったなぁ・・はぁ」
 熊はぶつくさと文句を言いながらこの借りは2,3人の相手で返してもらおうと決めるのだった。





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