03/19/2012(Mon)
貴方の狂気が、欲しい 50話
「ただいま」
低いが玄関から響き、健太は身を硬くした。
それなりの体重だと分かる廊下の軋む音が近づく度に鼓動が速まった。
スッと木戸が居間へ現れると、案の定怪訝そうな顔をして居間に寝る時枝を見た。
「どうした? 何かあったのか?」
健太はゴクリと生唾を嚥下した。
「いや……別に。何か、途中で時枝さんがウトウトしちゃって、だから俺が布団を敷いてやったんだっ」
「そうか。世話をかけたな……ほら、小遣いをやる」
木戸の差し出す金を目の前にして健太は首を大きく振った。
「いいよッ」
「何でだ。いつも喜んで貰うじゃないか」
「いいんだってばッ。俺別に何もしてないし」
頑なに拒む健太に「そうか……じゃあこれ」と木戸は少し大きめの紙袋を差し出した。
「なにそれ」
「土産だ。人に聞いたら東京の高校生の大半は皆これに夢中だと言うから」
木戸はいつも偉そうだ。まるでどこかの王様のような目つきと態度に加えて意地が悪い。
そして怖い。何が、とは健太にはよく分からなかったが、本能的に怖いと感じる事が多々ある。逆らえない絶対的な空気という方が分かりやすいかもしれない。
だが、木戸は優しかった。もしかしたら普段の怖さから比べているのでちょっとした気遣いがやたら優しく思えるのかもしれないが、でも健太は木戸にはとても深過ぎる優しさを知っている。
時枝を本当に必要としているのだと間近で見ていて思う。
「ありがと……」
健太は手を伸ばして土産を受け取った。
「何だお前……嬉し泣きか?」
そう言われて初めて健太は自分が涙を浮かべている事に気付いて顔を背けた。
「ちっ、違うよッ」
時枝に関して深い愛情を持っている木戸を知っているだけに、時枝が話せるようになった事を言えないのが辛かった。
健太にも、木戸が時枝と話せるようになる事を期待しているのが痛い程分かるからだ。
だが時枝の言った「こわい」という言葉が引っ掛かって言えずにいた。
「何だ、もう帰るのか?」
「うん……お土産、ありがとう」
「気を付けて帰れよ。一日ご苦労だったな」
健太は少し間を空けてから木戸の方を向いた。
「ねぇ、時枝さんてさ、前は普通に話せてたり……したの?」
「あぁ。話せてた」
木戸は変に誤魔化しもせず、普通に答えた。
「恋人だったんだよね?」
健太はどうして恋人だった相手を怖いと感じるのかが理解できず、つい探るような質問をした。
「……厳密に言うと、違う」
「え?」
「最初はアイツが俺を一方的に好きだった。だが俺は他の奴が好きだったからアイツの気持ちに気付きもしないで……結構酷い事をした。俺がアイツを愛していると気付いた時には、もう今の状態だよ」
木戸は皮肉な笑みを浮かべて机の上に置いてあったタバコに火を点けた。
「何それ……時枝さん、可哀想だよ」
「あぁ。分かってる。だからちゃんと伝えたいんだ」
少しの間沈黙が流れ、ただ部屋にフワフワと紫煙が漂った。
健太はギュッと拳を握る。
「時枝さん、今日少し思い出したよ」健太はそれだけ言い残すと、勢いよく庭から出て行った。
「どういう……事だ!? おいッ」
木戸が叫んだ時には健太は既に駆けて行ってしまっていた。木戸はタバコを揉み消して立ち上がった。
(思い出した? 嘘だろ? まさか本当に……)
ドクドクと鼓動が大きくなる。
健太がわざわざこんな意味のない嘘をつくとも思えなかった。
目の前で眠る時枝の顔を別段変わってもいなく、それだけに信じ難かった。
木戸は洗面所へ行き顔を洗い、そしてまた居間へ戻った。
今直ぐ時枝を起こして確かめたい気持ちを抑える。
(焦るな……きっとほんの少し話せただけに違いない……でも…それでも……)
寝ている時枝の頬を撫で、そっと口付けをした。
<<前へ 次へ>>
子供は黙ってはいられません……。
∑d(ゝω・´*)グッ☆!
★拍手コメントのお返事はボタンを押して頂いた拍手ページ内に致します。
拍手秘コメの場合は普通コメント欄にてお返事致します。
お礼画像あり☆6種ランダム
低いが玄関から響き、健太は身を硬くした。
それなりの体重だと分かる廊下の軋む音が近づく度に鼓動が速まった。
スッと木戸が居間へ現れると、案の定怪訝そうな顔をして居間に寝る時枝を見た。
「どうした? 何かあったのか?」
健太はゴクリと生唾を嚥下した。
「いや……別に。何か、途中で時枝さんがウトウトしちゃって、だから俺が布団を敷いてやったんだっ」
「そうか。世話をかけたな……ほら、小遣いをやる」
木戸の差し出す金を目の前にして健太は首を大きく振った。
「いいよッ」
「何でだ。いつも喜んで貰うじゃないか」
「いいんだってばッ。俺別に何もしてないし」
頑なに拒む健太に「そうか……じゃあこれ」と木戸は少し大きめの紙袋を差し出した。
「なにそれ」
「土産だ。人に聞いたら東京の高校生の大半は皆これに夢中だと言うから」
木戸はいつも偉そうだ。まるでどこかの王様のような目つきと態度に加えて意地が悪い。
そして怖い。何が、とは健太にはよく分からなかったが、本能的に怖いと感じる事が多々ある。逆らえない絶対的な空気という方が分かりやすいかもしれない。
だが、木戸は優しかった。もしかしたら普段の怖さから比べているのでちょっとした気遣いがやたら優しく思えるのかもしれないが、でも健太は木戸にはとても深過ぎる優しさを知っている。
時枝を本当に必要としているのだと間近で見ていて思う。
「ありがと……」
健太は手を伸ばして土産を受け取った。
「何だお前……嬉し泣きか?」
そう言われて初めて健太は自分が涙を浮かべている事に気付いて顔を背けた。
「ちっ、違うよッ」
時枝に関して深い愛情を持っている木戸を知っているだけに、時枝が話せるようになった事を言えないのが辛かった。
健太にも、木戸が時枝と話せるようになる事を期待しているのが痛い程分かるからだ。
だが時枝の言った「こわい」という言葉が引っ掛かって言えずにいた。
「何だ、もう帰るのか?」
「うん……お土産、ありがとう」
「気を付けて帰れよ。一日ご苦労だったな」
健太は少し間を空けてから木戸の方を向いた。
「ねぇ、時枝さんてさ、前は普通に話せてたり……したの?」
「あぁ。話せてた」
木戸は変に誤魔化しもせず、普通に答えた。
「恋人だったんだよね?」
健太はどうして恋人だった相手を怖いと感じるのかが理解できず、つい探るような質問をした。
「……厳密に言うと、違う」
「え?」
「最初はアイツが俺を一方的に好きだった。だが俺は他の奴が好きだったからアイツの気持ちに気付きもしないで……結構酷い事をした。俺がアイツを愛していると気付いた時には、もう今の状態だよ」
木戸は皮肉な笑みを浮かべて机の上に置いてあったタバコに火を点けた。
「何それ……時枝さん、可哀想だよ」
「あぁ。分かってる。だからちゃんと伝えたいんだ」
少しの間沈黙が流れ、ただ部屋にフワフワと紫煙が漂った。
健太はギュッと拳を握る。
「時枝さん、今日少し思い出したよ」健太はそれだけ言い残すと、勢いよく庭から出て行った。
「どういう……事だ!? おいッ」
木戸が叫んだ時には健太は既に駆けて行ってしまっていた。木戸はタバコを揉み消して立ち上がった。
(思い出した? 嘘だろ? まさか本当に……)
ドクドクと鼓動が大きくなる。
健太がわざわざこんな意味のない嘘をつくとも思えなかった。
目の前で眠る時枝の顔を別段変わってもいなく、それだけに信じ難かった。
木戸は洗面所へ行き顔を洗い、そしてまた居間へ戻った。
今直ぐ時枝を起こして確かめたい気持ちを抑える。
(焦るな……きっとほんの少し話せただけに違いない……でも…それでも……)
寝ている時枝の頬を撫で、そっと口付けをした。
<<前へ 次へ>>
子供は黙ってはいられません……。
∑d(ゝω・´*)グッ☆!
★拍手コメントのお返事はボタンを押して頂いた拍手ページ内に致します。
拍手秘コメの場合は普通コメント欄にてお返事致します。
お礼画像あり☆6種ランダム
| ホーム |
コメント
こちらこそまたまたコメントして頂けて嬉しいです!
ありがとうございます(*´∀`*)
過呼吸ヽ(゚Д゚;)ノ!!
そんな興奮して頂けたなんて恐縮です!
しかし気を付けて下さいね!?(笑)
かくゆう私もお慕いして頂けているという事に
興奮して鼻血が噴水状態でした!!(笑)
( ̄i ̄)□ヾ(・ω・`*)フキフキ
あはは(笑)
確かにすれ違いまくっておりますが、
取り敢えずは時枝が人間に戻ってくれたので嬉しいです(笑)
Kさまにも喜んで頂けて良かったです(´∀`*)ウフフ
健太もナイスパスを出し逃げしてくれたものです(笑)
あはは(≧∀≦)
次回シバかれるフラグが立ちましたね(笑)
更新楽しみにして下さってありがとうございます!
今夜はお休みの前日ですからね!
ちょっと頑張れそうです!(笑)
ァィ(。・Д・)ゞ
コメントどうもありがとうございました
> あの…47話の「K*」って、私のことです。HNミスりました…!!お許しください!!((土下座
全然大丈夫ですよ!!
K*さまはみなとさまでしたか(*´∀`*)
あぁっ!頭をお上げ下さいぃぃっ(>△<)
> 閑話休題。時枝さん、少しもとに戻りましたね!!よかったです。でも木戸さんには詳しく言わないでほしい、なんて…中間にいるケンタくんに言うのは、罪ですねぇ。
ほんの少しですが戻りつつあります!
確かに健太に黙ってて欲しいなんて罪な事をですよね(。-д-)ウー
じれます(鼻息
> どちらの気持ちも、客観的にみているケンタくんだからこそ、ヒント、みたいな形で木戸さんに言ったんでしょうかね…??
そうかもしれません。
気持ち時枝の味方だけれども、木戸が時枝を大切にしている事を
知っているだけに木戸を不憫にも思えたのでしょうか。
二人共好きだからヒントを残して走りさったのかもですね(*´д`*)
> 時枝さんの、怖い発言…分からなくもないです。全て思い出せば、妾の子供だということも、(勘違いにせよ)ヒロムくん相手に、好きといっていた木戸さんの姿も、思い出すことになりますもんね…(>_<;)
> ただでさえ父親のもとへ行ったとき、精神状態が不安定だったのに……。
> 幸せになってもらいたいです!
ウン(*-ω-)(-ω-*)ウン
そうですよね。
思い出すと辛い事は目に見えてますし、
でもそれでも木戸と乗り越えて行って欲しいですよね(>ω<)!
> 名前の件は、「みなと」に確定します!;
> 乱文本当に失礼致しました…((汗
了解です♪では「みなと」さまでヾ(*´∀`*)ノ゛
いえいえ!
お気になさらずv
全然大丈夫ですからね♪
わざわざありがとうございました(*´∀`*)
コメントどうもありがとうございました
,、'`,、((ヾ(≧∇≦)ノ)),、'`,、
ナイスポロリ!
> 木戸よかったねちょっと
>
> 時枝がもとに戻って(^O^)
本当ですよね(*´∀`*)
きっと木戸にとっては大きな変化ですよね!!
> しかし寝込みを襲うのはいけないね(笑)
(*´∀`*)ゞ ←
いけませんねぇ(ニヤニヤ)
> じれったすぎるおっ
>
> 更新まってます!!
ですよね(>ω<)!
ジレジレですが展開がある……模様!?
更新待って下さってありがとうございます!!
ヮ─☆・゚:*ヾ(○´∀`)从(´∀`●)ノ*:゚・☆─ィ
コメントどうもありがとうございました
あの…47話の「K*」って、私のことです。HNミスりました…!!お許しください!!((土下座
閑話休題。時枝さん、少しもとに戻りましたね!!よかったです。でも木戸さんには詳しく言わないでほしい、なんて…中間にいるケンタくんに言うのは、罪ですねぇ。
どちらの気持ちも、客観的にみているケンタくんだからこそ、ヒント、みたいな形で木戸さんに言ったんでしょうかね…??
時枝さんの、怖い発言…分からなくもないです。全て思い出せば、妾の子供だということも、(勘違いにせよ)ヒロムくん相手に、好きといっていた木戸さんの姿も、思い出すことになりますもんね…(>_<;)
ただでさえ父親のもとへ行ったとき、精神状態が不安定だったのに……。
幸せになってもらいたいです!
名前の件は、「みなと」に確定します!;
乱文本当に失礼致しました…((汗
健太ナイスぽろりっ!!
木戸よかったねちょっと
時枝がもとに戻って(^O^)
しかし寝込みを襲うのはいけないね(笑)
じれったすぎるおっ
更新まってます!!
コメント