03/21/2012(Wed)
貴方の狂気が、欲しい 52話
「時枝。起きろ。飯出来たぞ」
目を開けると起きぬけにでもドキッとするような整った顔があった。
「あ、はい……」
着替えようと服を探していると、木戸が浴衣に着かえさせようと時枝の服に手をかけた。
「あ、大丈夫です。じ、自分で……」
「あぁ……そうか。つい。悪ィ」
自分が異常に木戸を意識しているのが分かる。今までどうして平然と世話をして貰っていたのか、何で記憶がところどころ欠けているのか分からないが、それでも今は木戸に意識が集中していた。
取り敢えず洗面所に向かう。
そして流しの前に立って唖然とした。
ガタンッと大きな音を立てて後ろにぶつかると、その音で木戸がすぐに駆けつけた。
「どうした時枝!?」
「あの……あの……これは……」
鏡の中を指さす。
突然伸びた髪は銀色に近い白に変わり、顔も若干痩せて細くなっていた。
何が起こったのか、本当に自分なのか分からず言葉が出ない。
「あぁ……そうか。そんな色になっちまって、びっくりしたよな。大丈夫だ。すぐ元に戻る。ちょっと体調が悪かったからそうなっただけだ」
木戸がゆっくりと腕を掴んで立たせ、パニックになった頭を優しく撫で、サラサラと流れる髪の間に指を滑らせる。
それが何だかこそばゆくて嬉しかった。
「本当に?」
破裂しそうな程暴れていた心臓が静まっていく。
「ああ。久々に鏡見たから髪も伸びてるけど、嫌なら切ってやる」
「では……あとでお願いします」
「分かった。さぁ、顔洗ったら飯だぞ」
木戸の言葉で時枝の心は直ぐに落ち着いた。木戸が大丈夫だと言ったのであれば、大丈夫なのだと、素直に心が受け入れる事ができた。
無理に色々と思い出そうとすると頭痛がする。
木戸は絶対に無理矢理思い出そうとするなと言ったが、少し逸る気持ちもある。
何故この田舎で木戸と二人で暮らしているか、木戸に聞いても答えてはくれなかった。
不可思議な事は沢山あったが、どうやら病気になったらしいとの事だった。
今はこうして療養するのが仕事だと言われ、やっとこの時間を楽しむ事が出来る様になった。
時枝の時間が少しずつ動きだした。
だが困った事に時枝は昔から知っているようで、記憶が曖昧な分よく知らないこの木戸という男に惹かれてしまっていた。
あの妙にリアルな夢のせいもあるのか、実際夜にそういう夢もよく見る。
「時枝、買物行くぞ」
「あ、はい」
夕飯の買い出しを二人でなどまるで恋人か夫婦のように思ってしまう。
チラチラと自分よりも目線の上にいる木戸の横顔を盗み見る。他を寄せ付けないかのような雰囲気の筋の通った高い鼻と鋭い目を何度も見る。
何度見ても飽きない。
買物のように外にいる時の方がこうして木戸の事を見る機会が多くて好きだと思った。
家の中も嬉しいが、あまりに近くてかえって緊張して顔がまともに見られない。
木戸は休んでいろと言ったが、何かしていないと手持ち無沙汰になるので最近ではよく掃除をするようになった。
世話になっていた事を思い出す度に申し訳ない気持ちになるからだ。
だが時枝が自分も一度料理を頑張ってみたいと申し出た時、何故か木戸は頑なにそんな事をしなくていいと断ってきた。
しかし、時枝は木戸の為にもっと何かしたいと説得し、煮物に挑戦してみた。
自分では何故か上手く出来そうな気がしたのだが、完成したのは大量の、恐ろしく色の黒い物体だった。
木戸はそれを見て可笑しそうに笑って、そして嬉しそうだけど少し寂しそうに「だから言ったろ」とだけ言った。
その時、今度図書館へ行って煮物の参考資料を手に入れなければという使命を持った。
<<前へ 次へ>>
料理の腕は相変わらず( ´艸`)ムププ
そして先日も沢山の拍手をありがとうございます!
過去にまで…(号泣
いつも本当に嬉しく思っております。゚(。ノωヽ。)゚。
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拍手秘コメの場合は普通コメント欄にてお返事致します。
お礼画像あり☆6種ランダム
目を開けると起きぬけにでもドキッとするような整った顔があった。
「あ、はい……」
着替えようと服を探していると、木戸が浴衣に着かえさせようと時枝の服に手をかけた。
「あ、大丈夫です。じ、自分で……」
「あぁ……そうか。つい。悪ィ」
自分が異常に木戸を意識しているのが分かる。今までどうして平然と世話をして貰っていたのか、何で記憶がところどころ欠けているのか分からないが、それでも今は木戸に意識が集中していた。
取り敢えず洗面所に向かう。
そして流しの前に立って唖然とした。
ガタンッと大きな音を立てて後ろにぶつかると、その音で木戸がすぐに駆けつけた。
「どうした時枝!?」
「あの……あの……これは……」
鏡の中を指さす。
突然伸びた髪は銀色に近い白に変わり、顔も若干痩せて細くなっていた。
何が起こったのか、本当に自分なのか分からず言葉が出ない。
「あぁ……そうか。そんな色になっちまって、びっくりしたよな。大丈夫だ。すぐ元に戻る。ちょっと体調が悪かったからそうなっただけだ」
木戸がゆっくりと腕を掴んで立たせ、パニックになった頭を優しく撫で、サラサラと流れる髪の間に指を滑らせる。
それが何だかこそばゆくて嬉しかった。
「本当に?」
破裂しそうな程暴れていた心臓が静まっていく。
「ああ。久々に鏡見たから髪も伸びてるけど、嫌なら切ってやる」
「では……あとでお願いします」
「分かった。さぁ、顔洗ったら飯だぞ」
木戸の言葉で時枝の心は直ぐに落ち着いた。木戸が大丈夫だと言ったのであれば、大丈夫なのだと、素直に心が受け入れる事ができた。
無理に色々と思い出そうとすると頭痛がする。
木戸は絶対に無理矢理思い出そうとするなと言ったが、少し逸る気持ちもある。
何故この田舎で木戸と二人で暮らしているか、木戸に聞いても答えてはくれなかった。
不可思議な事は沢山あったが、どうやら病気になったらしいとの事だった。
今はこうして療養するのが仕事だと言われ、やっとこの時間を楽しむ事が出来る様になった。
時枝の時間が少しずつ動きだした。
だが困った事に時枝は昔から知っているようで、記憶が曖昧な分よく知らないこの木戸という男に惹かれてしまっていた。
あの妙にリアルな夢のせいもあるのか、実際夜にそういう夢もよく見る。
「時枝、買物行くぞ」
「あ、はい」
夕飯の買い出しを二人でなどまるで恋人か夫婦のように思ってしまう。
チラチラと自分よりも目線の上にいる木戸の横顔を盗み見る。他を寄せ付けないかのような雰囲気の筋の通った高い鼻と鋭い目を何度も見る。
何度見ても飽きない。
買物のように外にいる時の方がこうして木戸の事を見る機会が多くて好きだと思った。
家の中も嬉しいが、あまりに近くてかえって緊張して顔がまともに見られない。
木戸は休んでいろと言ったが、何かしていないと手持ち無沙汰になるので最近ではよく掃除をするようになった。
世話になっていた事を思い出す度に申し訳ない気持ちになるからだ。
だが時枝が自分も一度料理を頑張ってみたいと申し出た時、何故か木戸は頑なにそんな事をしなくていいと断ってきた。
しかし、時枝は木戸の為にもっと何かしたいと説得し、煮物に挑戦してみた。
自分では何故か上手く出来そうな気がしたのだが、完成したのは大量の、恐ろしく色の黒い物体だった。
木戸はそれを見て可笑しそうに笑って、そして嬉しそうだけど少し寂しそうに「だから言ったろ」とだけ言った。
その時、今度図書館へ行って煮物の参考資料を手に入れなければという使命を持った。
<<前へ 次へ>>
料理の腕は相変わらず( ´艸`)ムププ
そして先日も沢山の拍手をありがとうございます!
過去にまで…(号泣
いつも本当に嬉しく思っております。゚(。ノωヽ。)゚。
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拍手秘コメの場合は普通コメント欄にてお返事致します。
お礼画像あり☆6種ランダム
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コメント
(○≧ω≦)ノゎぁぃゎぁぃヽ(≧ω≦●)
時枝が少しずつ回復、そして記憶が戻りつつあって本当に良かったですよね!
確かに早く思い出して欲しいですが、
すると必然的に辛い事も思い出すので複雑ですよねヾ(´д`;)ノぁゎゎ
今後の展開にドキドキをありがとうございます!
引き続きがんばります(*´∀`*)
拍手秘コメントどうもありがとうございました
> あっそれと パパに拉致監禁されて ムニャムニャの事も!
色々辛い事に関連している事柄が
モヤッとしている模様です σ(´-ε-`)ウーン…
> このまま記憶を失くしたままで 新たに 木戸を好きになった方がいいのかも・・・
そうですねぇ(>△<)
それはきっと純粋に幸せと言えば幸せですよね。
きっとそれでも木戸は無くなった時枝の過去ごと愛すると思います。
でも我々としては二人で乗り越えて欲しいですよね!(>ω<)
> ねぇ どう思う?
> って、誰も 居ねぇーしっ!てか (家族の)誰にも聞けねぇーしっ!
> (o´ェ`o)ゞエヘヘ...byebye☆
聞けませんね!(≧∀≦*)ゞ
私もむやみやたらに関係図のメモとか机に置けません(笑)
コメントどうもありがとうございました
何か、あんな思い出でもきっと木戸にとっては
切なくて嬉しいんだろうなって思ってしまいます。
バンバンヾ(≧▽≦)ノギャハハ☆
木戸に蹴られてもいいから留守番希望ですか!?(笑)
了解致しました!
そこまでの覚悟がおありならばっっ!(えw
木戸には蹴らせません!(`・д・´)キリッ
あ、健太の気持ち理解して下さいますか(笑)
時枝に片想い楽しんで頂けているようで
とても嬉しく、そして可愛らしく思います。
(*´Д`)ハァハァ ←あれ?w
コメントどうもありがとうございました
あっそれと パパに拉致監禁されて ムニャムニャの事も!
このまま記憶を失くしたままで 新たに 木戸を好きになった方がいいのかも・・・
ねぇ どう思う?
って、誰も 居ねぇーしっ!てか (家族の)誰にも聞けねぇーしっ!
(o´ェ`o)ゞエヘヘ...byebye☆
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