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悪魔と野犬ノ仔 17話


――臭い。

 耳が休まる事のない雑音に要は既に疲れ切っていた。
 ボストンバッグを肩に掛けながら、電車の中では常に人と密着を余儀なくされ、街を歩けば常に排気ガスと都会特有の鉄っぽい匂いで鼻がどうかしそうだった。
 街の中心部から少し離れた場所に学校の指定した寮があった。
 一見して普通のマンションのような小綺麗な建物に少し安心する。意外と潔癖なところがある要としては有難かった。
 生徒と共同部屋になるかと思っていたが、まだ寮に来る生徒は少ないのか部屋には要一人しか入る予定はないようだった。
 有名私立高校だからか、色々と余裕のある作りになっていた。
 制服はそれまでは随分長い間学ランだったようだが、数年前からブレザーに変わったとパンフレットに大々的に載っていた。有名なデザイナーが手掛けたとかで、一見して決して派手ではない紺色のジャケットにパンツ、そしてネクタイというスタイルだったが、その分ディテールとシルエットに拘ったというだけあってとてもセンスがいい。女子の制服も比較的地味だが人気は高い。
 部屋に着いた要は黒いバッグを無造作に床に投げると、その身をベッドの中央へ投げ出した。
 他にも寮に着いた生徒たちは何人かいたが、もう既に同じ寮の生徒たちは互いに話し掛け合いながら交流を深めていた。要はその雑音を聴き流しながら深い眠りについた。
 要は東京の高校へ通い出した。
 最後まで要を心配し過ぎる母親に、成績が落ちればそのまま地元へ帰るという条件で有名私立の高校の特待生として入る事を自分から申し出た。
 トントン、とドアがノックされる音に、要はうつ伏せのまま瞼を開けた。
「進藤くん? あの……ご飯の時間だって……」
 おそるおそるドアを開けてくる知らない生徒に、要は「勝手に入って来るな、今行く」とだけ言った。
「何だよ、人が折角呼びに来てやったってのにッ」
 生徒はボヤくように文句を吐き捨て足早に食道へ向かって行ってしまった。
 要は空いていないお腹を摩りながら人の集まる食道へ出向くと溜息をついた。
 修学旅行のようにワイワイと楽しそうに食べるジャージ姿の男子生徒の集団を見て、要は少し離れた場所に座って一人気怠るそうに食べた。
 一人で食べる要を気遣う男子生徒の何人かは声を掛けてきたが、要のやる気のない態度に気を悪くして近づかなくなった。ただ、要のその美貌に幾つもの視線をずっと向けられていた。

 高校生活が一週間も過ぎると、早速見知らぬ女の先輩から声を掛けられた。
「あの……進藤要くんだよね?」
「……何ですか」
 休み時間になるべく人気の少ない場所で本を読んでいた要は少し機嫌が悪くなる。
 女子生徒は二人組で、顔を合わせては興奮したようにコソコソと密談をしながら話しかけてくる。
「進藤君、入学した時から凄い噂になってるの、知ってる?」
「そう! 凄かったんだよ!」
 やたら下半身がしっかりしている背の低い女子生徒は背の高い茶髪の方に相槌を求める。
「噂?」
「そう! 超格好いいって!!」
「でね! 私たち進藤君のファンクラブ作りたいなって思って許可を得に来たのっ」

(迷惑な)

「へぇ。でも俺みたいななまっ白い奴じゃなくて、なんかすげぇガタイの奴一年にいたけど、ああいうのがモテるんじゃないんすか?」
「ああ、一年の凄い大人っぽい子でしょ?! 佐藤くん!」
「確かに格好いいんだけど、もう、漫画からそのまま出てきたみたいな進藤君に比べたら……!」
 背の高い女子は大袈裟にクラッと眩暈する振りをして見せる。
「そう!! 王子様みたいな!!」
「王子様? そんな事言われたの初めてっすよ」
「えッ! 嘘でしょ!? 中学の時とか凄いモテたでしょ?!」
「いや。皆俺の事避けてましたし……友達とか彼女とか別に居ませんでしたよ」
「ウソっ。イジメ……とか? てか、彼女居なかったって……経験とか……なかったりするの?」
 背の低い女子が興味深々に聞いてくる。
「ちょっとそれはいきなり失礼じゃないのっ」
 背の高い方が偽善的に止めるが顔はとても聞きたがっているのが分かった。
「さァ。どうでしょうね」
 要は意地の悪い笑みを浮かべて伸びた横髪を耳に掛けるとそのまま会釈をして教室へ向かった。
 要の言葉で女子二人は顔を一気に赤く染め上げた。
「きゃああっ! 髪を掛けたッ!! 掛けたよおぉッ! ハァハァ、どうしよう……私本当に本気で惚れそうッ」
「ちょっと! 抜け駆けはダメだよッ! そんなの私だって同じなんだからッ」
「じ、じゃあやっぱりファンクラブ作ろうッ!」
「そうだねッ。もう、王子様っていうか、表向き王子様なんだけど裏では色々悪い事してるっていう……どう?!」
「イイっ」
 女子生徒たちの妄想は膨らみ、要の知らない所で注目を浴びる事となっていった。
 表情のあまり変わらない要だが、寮にいる際に伸びた髪をゴムで縛っている時など珍しい瞬間はいつの間にかファンクラブの中で売買されるまでになった。誰かがファンクラブの手先となって要の隠し撮りをしているのは明白だった。
 だが自分に直接的な害がないので、動物園の中で生活をしていると思えばそのまま普通に過ごすのになんら支障はなかった。




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