05/30/2013(Thu)
悪魔と野犬ノ仔 18話
高校生活は淡々と過ぎ、三か月程経った時だった。
週末になり、丁度要が部屋でアルバイト先を探していた時に携帯電話が鳴った。画面を見ると「母親」と記されていた。
母親からはこうしてしょっちゅう電話が掛ってくる。
「もしもし」
「あ、要? ごめんね今ちょっといいかしら? ミナちゃんが……」
「ああ。いいよ」
慌ただしく母親から水無月へと電話が代わる。
「……」
「ミナ」
要が名前を呼ぶと、電話の向こうでキュウキュウと鼻の奥で鳴く声がした。
要が東京へ出て一か月程、水無月は情緒不安定で騒いだり暴れたりと大変だったようで、医師が付きっきりの状態だったようだ。最近では抜け殻のように言葉も発さずずっとキュウキュウと鳴いていると聞かされていた。その度に胸が締め付けられるように苦しかった。
母親からは一度戻って来て水無月によく言い聞かせて欲しいと頼まれていたが、要はその度に断っていた。電話にもずっと出ないようにし、伝言だけ伝える様に頼んでいた。
そして三カ月経ってようやく電話に出た。
「ミナ。良い子にしてるか?」
要の問いかけに只管鳴き続ける水無月に対して少し厳しい声を出した。
「水無月、電話ではちゃんと言葉を話せ」
「かなめ兄ちゃ……どこにいるの……戻ってきてよ。あいたいよ」
「今俺は遠い所にいるんだ。暫く戻らないよ。それに、お前がそんな鳴いてばかりじゃ戻れないな」
「どうして!? ぼく、悪い事してないよッ! 会いたいよォッ」
要を求める悲痛な叫びに身体の温度が上昇する。
「分かったよ。いい子にしてたら、そしたらちゃんと会いに戻るから。な?」
水無月と一緒に居ればそのうち水無月の目に映るものは自分だけに限定し、生きて行く上での動作も全て自分の命令なしでは出来ない状態になるが分かっていた。
(きっと俺はアイツを監禁ぐらいする)
決して傷付けたり汚したくない相手だからこそ生まれる恐ろしい真逆の欲求があった。
東京に来てから家にいた時に感じていた不明な不安と向き合ってきたが、依然としてハッキリとした理由は分からなかったが、現にこうして離れて水無月を思いやっている部分と、こうして自分を激しく求める水無月を更に愛おしく思う自分がいた。
可愛くて仕方なく、余りに純粋無垢に自分を信頼し求める水無月を試したくなってくる。
例えば四肢の自由を奪い、目と口を塞ぎ、苦痛と快楽を与え続けて廃人となったとしても、その信頼は保たれるものか、などそんな事をボンヤリ考えてしまう。要は自分がそれを行動に移してしまう種類の人間だと分かっていた。
歯止めの効かない歪んだ愛情を持っているのだ。だから離れたのだと思う事にした。
それから半年以上も経つと、段々と母親からの連絡も頻度が少なくなっていった。久し振りに電話が来た時、要はファミリーレストランでアルバイトをする生活をしていた。
週末の昼はファミリーレストラン、そして週三回は内緒で夜のアルバイトをしていた。夜のアルバイトとは言っても、ホストの類ではない。少しずつ大人っぽくはなってきたがさすがに年齢がばれるので、他言されない特殊なアルバイト先を見つけた。
最初はホスト紛いの事もしていたが、それはそれで皆色々な事情を持ちながら働いているという事、そして別の人格を作ってサービスをする事の重要性を人並みに学んだ気がした。ただ、要の感想は「疲れる」の一言であり、当面の目的は金を稼ぐ事に絞られた。
「要? 元気?」
「ああ。元気だよ。そっちは?」
「ええ……お兄ちゃんがね、ここよりもう少し田舎にある農業大学に行くって、この間話しをしに来てくれたのよ」
母親は嬉しそうな声を出していた。
「そう。良かったね。ミナは?」
「ミナちゃんは……ここのところとても大人しいの。こっちが心配になる程勉強して、施設の学校にも塾なんかにも通うようになったのよ」
「学校に?」
要の胸に形のない不安が過った。
「ええ。お母さん、とても良い事だと思うの。最近凄いのよ。きちんと敬語で近所の人やなんかにも挨拶したりお話だって出来る様になったし……でも、ただ偶に夜散歩に行くと泥だらけになって帰って来るの。聞いても答えてくれないし」
「ああ。それは放っておいてやって。アイツのストレス発散みたいなもんだから。ただ走ってるだけだし」
「そう? ならいいけど」
「それより何で急に学校なんか行ってるんだよ」
「さぁ。やっぱり要みたいに学校に行ってるのに憧れているんじゃないかしら。でも沢山お友達も出来てとっても楽しそうで、本当に良かったわ」
要の頭の中で大きな鐘が鳴っていた。
「ミナに代わって」
母親が受話器を置くと、暫くして戻って来た。
「あぁ……えっと、ミナちゃん今塾の宿題してるみたいで電話はまた今度って……」
要はジーンと麻酔薬を吸い込んだ様に頭が痺れた。
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週末になり、丁度要が部屋でアルバイト先を探していた時に携帯電話が鳴った。画面を見ると「母親」と記されていた。
母親からはこうしてしょっちゅう電話が掛ってくる。
「もしもし」
「あ、要? ごめんね今ちょっといいかしら? ミナちゃんが……」
「ああ。いいよ」
慌ただしく母親から水無月へと電話が代わる。
「……」
「ミナ」
要が名前を呼ぶと、電話の向こうでキュウキュウと鼻の奥で鳴く声がした。
要が東京へ出て一か月程、水無月は情緒不安定で騒いだり暴れたりと大変だったようで、医師が付きっきりの状態だったようだ。最近では抜け殻のように言葉も発さずずっとキュウキュウと鳴いていると聞かされていた。その度に胸が締め付けられるように苦しかった。
母親からは一度戻って来て水無月によく言い聞かせて欲しいと頼まれていたが、要はその度に断っていた。電話にもずっと出ないようにし、伝言だけ伝える様に頼んでいた。
そして三カ月経ってようやく電話に出た。
「ミナ。良い子にしてるか?」
要の問いかけに只管鳴き続ける水無月に対して少し厳しい声を出した。
「水無月、電話ではちゃんと言葉を話せ」
「かなめ兄ちゃ……どこにいるの……戻ってきてよ。あいたいよ」
「今俺は遠い所にいるんだ。暫く戻らないよ。それに、お前がそんな鳴いてばかりじゃ戻れないな」
「どうして!? ぼく、悪い事してないよッ! 会いたいよォッ」
要を求める悲痛な叫びに身体の温度が上昇する。
「分かったよ。いい子にしてたら、そしたらちゃんと会いに戻るから。な?」
水無月と一緒に居ればそのうち水無月の目に映るものは自分だけに限定し、生きて行く上での動作も全て自分の命令なしでは出来ない状態になるが分かっていた。
(きっと俺はアイツを監禁ぐらいする)
決して傷付けたり汚したくない相手だからこそ生まれる恐ろしい真逆の欲求があった。
東京に来てから家にいた時に感じていた不明な不安と向き合ってきたが、依然としてハッキリとした理由は分からなかったが、現にこうして離れて水無月を思いやっている部分と、こうして自分を激しく求める水無月を更に愛おしく思う自分がいた。
可愛くて仕方なく、余りに純粋無垢に自分を信頼し求める水無月を試したくなってくる。
例えば四肢の自由を奪い、目と口を塞ぎ、苦痛と快楽を与え続けて廃人となったとしても、その信頼は保たれるものか、などそんな事をボンヤリ考えてしまう。要は自分がそれを行動に移してしまう種類の人間だと分かっていた。
歯止めの効かない歪んだ愛情を持っているのだ。だから離れたのだと思う事にした。
それから半年以上も経つと、段々と母親からの連絡も頻度が少なくなっていった。久し振りに電話が来た時、要はファミリーレストランでアルバイトをする生活をしていた。
週末の昼はファミリーレストラン、そして週三回は内緒で夜のアルバイトをしていた。夜のアルバイトとは言っても、ホストの類ではない。少しずつ大人っぽくはなってきたがさすがに年齢がばれるので、他言されない特殊なアルバイト先を見つけた。
最初はホスト紛いの事もしていたが、それはそれで皆色々な事情を持ちながら働いているという事、そして別の人格を作ってサービスをする事の重要性を人並みに学んだ気がした。ただ、要の感想は「疲れる」の一言であり、当面の目的は金を稼ぐ事に絞られた。
「要? 元気?」
「ああ。元気だよ。そっちは?」
「ええ……お兄ちゃんがね、ここよりもう少し田舎にある農業大学に行くって、この間話しをしに来てくれたのよ」
母親は嬉しそうな声を出していた。
「そう。良かったね。ミナは?」
「ミナちゃんは……ここのところとても大人しいの。こっちが心配になる程勉強して、施設の学校にも塾なんかにも通うようになったのよ」
「学校に?」
要の胸に形のない不安が過った。
「ええ。お母さん、とても良い事だと思うの。最近凄いのよ。きちんと敬語で近所の人やなんかにも挨拶したりお話だって出来る様になったし……でも、ただ偶に夜散歩に行くと泥だらけになって帰って来るの。聞いても答えてくれないし」
「ああ。それは放っておいてやって。アイツのストレス発散みたいなもんだから。ただ走ってるだけだし」
「そう? ならいいけど」
「それより何で急に学校なんか行ってるんだよ」
「さぁ。やっぱり要みたいに学校に行ってるのに憧れているんじゃないかしら。でも沢山お友達も出来てとっても楽しそうで、本当に良かったわ」
要の頭の中で大きな鐘が鳴っていた。
「ミナに代わって」
母親が受話器を置くと、暫くして戻って来た。
「あぁ……えっと、ミナちゃん今塾の宿題してるみたいで電話はまた今度って……」
要はジーンと麻酔薬を吸い込んだ様に頭が痺れた。
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コメント
> そして ただただ 自分を恋しがる声に 揺らぐ事の無い 2人の関係に 安堵している要
>
> …だったのに…
ミナから離れる事で自我の暴走を止めて正常な感覚を取り戻せる、
もしくは得体の知れない不安感を把握できると思ったのに今の時点では
眼先の欲望を満たす事しかできないでいる要…。
自分を恋しがっているミナの声だけで満足してるだけじゃだめなんだぞぉー(叫
> ミナが 学校へ塾へと通いだし 友達も出来たと聞けば その「絶対的な信頼」が 揺らいできそうかな?
> 決定的なのは いつも要の声が聞ける電話に飛びついて来るのに 宿題を優先させてるし~~!ヾ(´д`;)ノぁゎゎ
> ミナにはミナの考えがあって 頑張っているんだろうけど、ねー
>
> 何事にも動じないけど ミナだけは特別な存在。
> さて 要は どうするんだろう?(´・ω・`)モキュ?...byebye☆
特別な存在によってもたらされる事態に要はどう変化していくのか。
ジッと見守りたいと思います(>ω<)
コメントどうもありがとうございました
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