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悪魔と野犬ノ仔 19話


――俺を……拒否した……?

 その後どういう会話の流れで電話を切ったか覚えていない。

――もうこの状況に慣れたっていうのか?

 要はジットリと手に汗を掻いた。

――俺以外の沢山の人間がアイツと関わっているのか。

――仲良い奴が出来て、知らない世界を知って……普通の人間になっていくのか。

――彼女とかも出来て?

 要はコメカミに釘を打たれているような痛みを感じて手で押さえた。全身の血流が凄い速さで脳内を駆け巡っているようだ。

(いや、待て。何を焦る必要がある。まだだ……まだ会わない。アイツはどうしたって人間になりきれない)

 要の鋭い瞳の中で、瞳孔はまん丸に見開きそのまま背中に黒い翼でも生えてしまいそうな禍々しい空気を纏った。

(大丈夫だ。水無月は俺しか見ていないんだ)

 先に道を進んでいるようで、本当はずっと同じ場所に要一人取りが残されている気がした。
 水無月はそんな沼に嵌って動けない要の周りにずっと付いていてくれる存在だと、勝手に思い込んでいただけに、今回の態度は思った以上に打撃は大きかった。

 ボーっとしていたらいつの間にか窓の外で夕方五時を知らせる音楽が鳴った。要はベッドに放置していた携帯に手を伸ばすと夜のバイト先へ電話を掛けた。
「すみません。今夜急遽時間出来たんで入っていいですか……ああどうも。どぎついやつがいいんですが……はい、お願いします」
 要は電話を切るとそのままずっと一点を見つめた。

 その夜、バイト先ではちょっとした騒動になりかけた。
 会員制のSMクラブで、Mの男色家を相手に遊んでやるという特殊なアルバイトをしていた要はその日、筋金入りのドMだという男性を相手にしていた。
 その日の要は酷く意地の悪い事をしたい欲求に駆られていた。

「あなた方みたいな人たちってどこまでが気持ちいいんですか?」

 やたら腹だけ出っ張った男は涎を垂らしながら要の靴裏を丹念に舐めていた。
「君みたいな素敵な子にだったら、私は何をされても興奮してしまうよ……ハァハァ」
 男は要がどんな場所にでも唾を飛ばせば喜んで舐めに行く変態だった。
「そう? じゃあオジサンはチンコさえシコってれば生体解剖とかしても気持ちイイんですよね? 凄いっすねェ」
 切れ長の瞳の中で、瞳孔は鷹のようにまん丸に開いていた。
「生体……? はははっ、それは大袈裟な。それは少し違うんじゃないかね?」
 要は無表情のまま持ち込み不可の刃物や医療器具をバッグから取り出し始めた。そして徐に監視カメラのレンズにメスを突き刺して壊すと、男は半ば信じ難い恐怖で息を止めた。
「おじさんくらいの変態だったらこういう事件とかもありですよねぇ? 俺、まだ高校生だし。あ、知らなかったですよね? で、早速なんですけど、俺今日なんか内側がグチャグチャしてて。相手して下さいね? 色々そういう人体の資料持って来ましたから。実験体になって下さい。やり方とか説明するんで……よく聞いて下さいね。きっと興奮しますよ……」
 元々手足に枷をしていた男の自由を奪うのにそう苦労はしなかった。ベッドの上で大の字に拘束された男は、要の迷いのない手つきに恐怖し失禁した。
「だらしないですね……オジサン。そんなだらしない局部の中身はどうなってるか拝見させて頂きましょうか」
 少しずつ男の局部に痛みを加えた時点で、男は恐怖の余り失神した。要は一気に興が冷め、フロントに救急箱を用意するように頼んだ。
 目が覚めた男性は「悪魔に殺される」とずっと呟いていた。そして店側からは要には二度と来るないいと言い渡された。
 相手に快感があればいいが、要には恐怖だけ煽り、痛みを与え続ける事に興奮する趣味はない。少しやつあたりが過ぎただけの事だった。
「ちょっと……苛め過ぎたか」
 要は少しだけ反省した。
 雑踏にお座成りに並べてあるだけの銀杏並木を見て、要は可哀想に思った。もしかしたら等間隔に置いてあるこの木々たちは独自の言葉で不満を言い合っているのかもしれないと思うと、葉のざわめきも少し違って聞こえてきた。
 要はコンクリートに突き刺された銀杏の幹に両手を回して抱きついた。街ゆく人々は奇異の視線を投げてくるが、それに構わず幹の匂いを嗅ぐ。
 乾いた木の皮に染みついた排気ガスの匂いがした。

(あの土と緑の匂いが懐かしいな)

 要は月夜に浮かんだ水無月の笑顔を思い出した。




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私事で申し訳ないのですが、ちょっと週末実家に帰りますので
お返事は帰宅後させて頂きますm(_ _)m
そして次の更新は月曜からになります。すみません(>_<)

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