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悪魔と野犬ノ仔 20話

 急激に身体の間接が痛くなりだしたのは背が伸び始めた証拠だった。最初に買った制服は小さくなり、新しいサイズを新調する羽目になった。
 部活には入っていなかったが、休みになると行った事のない山へ行く事が趣味の一つになっていた。そのせいか、全体的に筋肉もついてすっかり大人の体型になってきた。
 それは既に高校三年の夏休み半ばにもなった頃だった。

「要、荷物まとめてどうしたの?」
 幼さの残るふっくらとした白い頬が要の肩に乗った。
「そろそろ田舎に一度帰ろうかと思って」
「えーっ、何で突然! 酷いよ事前に何も言ってくれないのっ」
 要は駄々をこねるルームメイトの尚哉を無視してボストンバッグに最低限の物を詰め込んだ。
「寂しいよぉ」
「知らねーよ、お前もどっか遊びに行けばいいだろ」
「やだよ面倒クサイ」
 尚哉が柔らかいパンチをトントンと要の引き締まった腕に当てると、要は表情を変えずに尚哉の頭を軽く掴みベッドへ投げた。
「わあっ」
 まるで動物でも相手にしているように尚哉の相手をするのは少し楽しかった。
 尚哉と同じ部屋になって一年程経ったが、尚哉以外誰もが要と同じ空間を共有出来る人はいなかった。
 尚哉の顔はとても可愛かったが、腹黒く貞操観念の薄い事で有名な彼は比較的嫌われるか、そういう性的な対象とでしか見られてこなかった。
 そのあっけらかんとした性格と怖いもの知らずな無鉄砲さは要の空気をも恐れず、寧ろ好奇心旺盛な猫のように近づいて来た。そして今に至っている。
 要はどうもこの悪戯好きの猫に好かれてしまったようだった。機嫌が悪く何日も一言も喋らなくても、尚哉は勝手に喋り、勝手に遊び、そしてぐっすりと寝る。
 尚哉はスルリと要の足の間に入り込むと、悪戯ッ子の子猫のような目つきで笑ってキスをしてきた。
「つまんないから早く帰って来てね」
 尚哉は色っぽいアーモンド型の目を細めた。
「ああ。ゆっくりしてくるわ」
 要はそう言うと尚哉に構わず立ち上がった。その勢いで尚哉が転がる。
「じゃあな」
 尚哉が部屋でギャアギャアと叫んでいたが、要はドアを閉めて帰路を急いだ。


 長時間掛けて久し振りに帰省した田舎はやはり深い緑の匂いで噎せ返りそうになった。
 点々と広く散らばる家の前をバスで通り過ぎ、お馴染みの場所でバスから降りた。そこからは少し歩く。
 見慣れた風景は少しずつ新しい建物が増えていて変わっていた。道路も綺麗になっている個所が多い。そして何より交通量がやたらと増えた気がした。
 少し坂になっている道を通り過ぎ、斜めに立っている電柱が見えたらオレンジの屋根が見えてくる。そこが要の家だ。知っている道順に要の足は無意識に速まった。
 坂を進んだ所で、要の足はゆっくり止まった。オレンジの屋根のある家の玄関先で、浮世離れしたような美しい姿の青年が立っていた。
 要の心臓がドクンと大きく跳ねる。
 信じられないような気持ちだったが、あの美しい生き物は水無月の他に考えられなかった。
 再び足を動かし始めると、水無月の方も要に気付いたようで緊張が伝わってきた。
 段々と近づくにつれて水無月の姿が鮮明になってくる。
 まだ幼さの残る姿しか頭になかっただけに、スラリと伸びた四肢は白く艶やかに育った姿に目を奪われた。
「お帰りなさい。要兄さん」
 近所の人に挨拶をする時のような笑顔を向けられ、要の心は少し苦しくなった。もっと我を忘れて犬のように思い切り飛びついて来るかと思っていただけに要は肩透かしを喰らったような気分になった。
「ただいま。久し振りだな」
 頭一つ小さいが、要も随分背が高くなったので水無月も背が十分に高い方だと分かる。
「うん。久し振り。兄さん、凄い背が伸びて最初違う人かと思っちゃったけど、でも匂いが兄さんだったから分かったよ」
「そうか。相変わらず嗅覚はいいんだな」

(兄さん……ね)

「うん」



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00:00 | 悪魔と野犬ノ仔 | comments (2) | trackbacks (1) | edit | page top↑
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コメント

けいったんさま
> 高校在学中は 帰省しないと思っていたけどなぁ~
> 「根競べ」は、要の負けだね!(苦笑)

実は結構気になっていたようで…(笑)
我慢出来なかったんでしょうね(笑)

> あの頃の野生さは 微塵も感じられず 人らしく(?) 美しく育っているミナを目にすれば 要が 必死に抑え込んでいる感情が爆発するかもね♪
> そして ミナは 逞しくなった要を見て どう思っているんだろう?

時限爆弾抱えていざ出陣です!
ミナちゃんも人間らしくなっているようですし少しは二人で
落ち着いて話しでも出来ればよいのですが…。
お話…(´-ω-`)ウーン・・・

> この帰省の間に 何かが起こる予感~~!∑(; ̄□ ̄Å アセアセ
>
> 嗅覚は まだ鋭いミナ、要に沁みついてる猫(←尚哉)の匂いに気付いたりしてね♪
> ニャァ♪d(=^‥^=)b~~~ クンクンUー'`ー;U ムムッ!...byebye☆

悪戯猫の匂いに気付いてしまうのか(汗
帰省は無事に終わるか不安でございます(笑)

コメントどうもありがとうございましたe-415
桔梗.Dさん | 2013/06/04 23:17 | URL [編集] | page top↑
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さん | 2013/06/04 09:34 | URL [編集] | page top↑

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真夜中のユートピア 悪魔と野犬ノ仔 20話
2013/10/19 (Sat) 18:41 | グッチ 財布