06/05/2013(Wed)
悪魔と野犬ノ仔 21話
垢抜けた、と言った方が正しい。今までの様なTシャツに短パンだけの姿じゃなく、ユルっとしたカーキ色のパンツを踝が見えるまでロールアップし、黄色のTシャツにクシャっとさせたオフホワイトのシャツを羽織っていた。
髪もそれまでのような無造作な感じではなく、前髪は眉より短くカットされていた。
少し幼い感じにも見えるが、水無月の綺麗な顔が強調されているようだ。だが相変わらず毛先は癖づいている。
幼さのあった顔は少しシャープに削がれ、そのせいか鼻筋がとても綺麗に伸びているように見える。
全体的に黒っぽい要とは正反対だ。
「お前、随分雰囲気が変わったな」
「えっ……変かなっ」
「いや、変じゃないけど。前とは随分違う」
「に……兄さんが帰って来るって言ったら、友達が色々やってくれたんだ。初めて美容室に連れて行ってくれたり」
「……友達?」
要の心臓が静かにトン、と音を立てた。
「そう。僕、塾で友達が出来たんだ」
「そうか」
頭一つ上から水無月を見下ろす。
風にふわふわと戦ぐ毛先に指を伸ばすと、水無月は驚いた顔をして茶色い目を見開いた。そして少し顔を赤らめて要の前を歩いた。
要は無意識に水無月の肩を掴もうと伸ばした自分の手に驚いて手を引っ込めた。
要の全身がざわつく程、水無月から甘い良い香りが漂っていた。
白い首筋がピンクに染まっているのを、要はずっと見ていた。
家に入ると母親や父親が満面の笑顔で出迎えてくれた。一通り要の成長した姿に驚いた後、あれこれと世話を焼いているうちにあっという間に夕飯の時間まで経ってしまった。
「拓水も家を出てってしまってね。寂しかったけど、でもミナちゃんが居てくれたから良かったわ。それにしても要あなた随分と大きくなってお母さんビックリしたわよッ」
家族で食事をするのも久し振りだった。
「拓水と変わらないなぁ。いやあ立派になったのは嬉しいがその長い髪はどうにかならないのか? 暑いだろう。そんな目や首にまで掛って可哀想に」
父親がしきりに要の髪の長さを気にする。昔から目に掛る長さになるとこうして遠回しに切る様促してくる。
「分かったよ。縛るから」
要は無造作にポケットに入れていた黒いゴムで髪を一本に前髪ごと縛り上げると、父親が複雑な表情で侍みたいだ、と言った。
「うーん……ほら、ミナちゃんを見てみろ、こんなにスッキリとして可愛い」
父親が娘を見るように嬉しそうに水無月を見る。
「うん。可愛いね」
要が相槌でそう言うと、水無月は顔を赤らめて足を椅子から浮かせて上下に動かした。
前までは考えられない程穏やかな一家団欒を楽しみ、そして酒に酔った両親は早々と床に就いた。
水無月の後を歩いて二階へ上がると、少し気まずそうな顔をして要の方を振り向いた。
「兄さん」
「ん?」
「拓水兄さんの部屋でもいい?」
「俺がか?」
「うん……だってね……」
要はもじもじとしている水無月を通り越し自分の部屋を開けて電気を点けた途端唖然とした。
基本的なものはそのままだったが、やたら大きな観葉植物が置いてある。
「森か、ここは」
「ち、ちがうのっ。落ち着くし、ぼく、ここで寝てるからいいかなってっ」
「へぇ……お前、俺の部屋で寝てるんだ?」
「あっ……だって……要兄ちゃんの、匂いがするから……あっ、兄さんのっ」
水無月は思わず呼び方が昔に戻った事に焦って自分のTシャツをクシャっと掴んだ。
頑張って成長した姿を見せていたのだろう。それでもまだ昔の癖が戻ってしまうのが可愛くて、要は胸がギュッと締め付けられた。
「まぁいい、入れ」
要は水無月の手を引くと自分の部屋に連れ込み、鍵を閉めた。
「何だ、これは」
ふと視線を向けると、柔らかい毛の犬のぬいぐるみがベッドに二匹寝ている。その他、何故か狸のぬいぐるみまで置いてある。要はそれらを乱雑に除けるとベッドに座った。
「随分と人間らしくなったもんだな、水無月」
「うん」
「山、行ってるのか」
「うん、たまに」
「お前、無理してそんな人間っぽい事して疲れねェの?」
水無月はキュッと自分のTシャツを掴んだまま俯いていた。
「だって、ぼく、兄さんと同じ高校に行きたかったから……だから勉強頑張ってるんだよ! 鳴かないようにしてるんだよ!」
水無月の予想外の言葉に要は少し驚いた。
「お前の学力じゃ無理だ。それにもうそろそろ高校だって卒業だ」
要は首筋辺りがゾクゾクとしてきた。
(喰い下がれ)
「そんな事ないもんッ、塾でも褒められるもんッ」
「普通の学校に通った事のないお前がいきなり高校で生活なんて出来る訳ないだろ」
身の毛が立つように全身が粟立つ。
(もっと)
「普通に高校生活なんて送れなくていいッ! お兄ちゃんの所に行くんだもんッ!!」
水無月の大きな薄茶色の瞳からボタボタと涙が零れ落ちた。
「涙か……。ほんと、人間になり下がりやがって」
要はベッドの上に身体を横たえ、そしてジッと水無月が泣いているのを見た。
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髪もそれまでのような無造作な感じではなく、前髪は眉より短くカットされていた。
少し幼い感じにも見えるが、水無月の綺麗な顔が強調されているようだ。だが相変わらず毛先は癖づいている。
幼さのあった顔は少しシャープに削がれ、そのせいか鼻筋がとても綺麗に伸びているように見える。
全体的に黒っぽい要とは正反対だ。
「お前、随分雰囲気が変わったな」
「えっ……変かなっ」
「いや、変じゃないけど。前とは随分違う」
「に……兄さんが帰って来るって言ったら、友達が色々やってくれたんだ。初めて美容室に連れて行ってくれたり」
「……友達?」
要の心臓が静かにトン、と音を立てた。
「そう。僕、塾で友達が出来たんだ」
「そうか」
頭一つ上から水無月を見下ろす。
風にふわふわと戦ぐ毛先に指を伸ばすと、水無月は驚いた顔をして茶色い目を見開いた。そして少し顔を赤らめて要の前を歩いた。
要は無意識に水無月の肩を掴もうと伸ばした自分の手に驚いて手を引っ込めた。
要の全身がざわつく程、水無月から甘い良い香りが漂っていた。
白い首筋がピンクに染まっているのを、要はずっと見ていた。
家に入ると母親や父親が満面の笑顔で出迎えてくれた。一通り要の成長した姿に驚いた後、あれこれと世話を焼いているうちにあっという間に夕飯の時間まで経ってしまった。
「拓水も家を出てってしまってね。寂しかったけど、でもミナちゃんが居てくれたから良かったわ。それにしても要あなた随分と大きくなってお母さんビックリしたわよッ」
家族で食事をするのも久し振りだった。
「拓水と変わらないなぁ。いやあ立派になったのは嬉しいがその長い髪はどうにかならないのか? 暑いだろう。そんな目や首にまで掛って可哀想に」
父親がしきりに要の髪の長さを気にする。昔から目に掛る長さになるとこうして遠回しに切る様促してくる。
「分かったよ。縛るから」
要は無造作にポケットに入れていた黒いゴムで髪を一本に前髪ごと縛り上げると、父親が複雑な表情で侍みたいだ、と言った。
「うーん……ほら、ミナちゃんを見てみろ、こんなにスッキリとして可愛い」
父親が娘を見るように嬉しそうに水無月を見る。
「うん。可愛いね」
要が相槌でそう言うと、水無月は顔を赤らめて足を椅子から浮かせて上下に動かした。
前までは考えられない程穏やかな一家団欒を楽しみ、そして酒に酔った両親は早々と床に就いた。
水無月の後を歩いて二階へ上がると、少し気まずそうな顔をして要の方を振り向いた。
「兄さん」
「ん?」
「拓水兄さんの部屋でもいい?」
「俺がか?」
「うん……だってね……」
要はもじもじとしている水無月を通り越し自分の部屋を開けて電気を点けた途端唖然とした。
基本的なものはそのままだったが、やたら大きな観葉植物が置いてある。
「森か、ここは」
「ち、ちがうのっ。落ち着くし、ぼく、ここで寝てるからいいかなってっ」
「へぇ……お前、俺の部屋で寝てるんだ?」
「あっ……だって……要兄ちゃんの、匂いがするから……あっ、兄さんのっ」
水無月は思わず呼び方が昔に戻った事に焦って自分のTシャツをクシャっと掴んだ。
頑張って成長した姿を見せていたのだろう。それでもまだ昔の癖が戻ってしまうのが可愛くて、要は胸がギュッと締め付けられた。
「まぁいい、入れ」
要は水無月の手を引くと自分の部屋に連れ込み、鍵を閉めた。
「何だ、これは」
ふと視線を向けると、柔らかい毛の犬のぬいぐるみがベッドに二匹寝ている。その他、何故か狸のぬいぐるみまで置いてある。要はそれらを乱雑に除けるとベッドに座った。
「随分と人間らしくなったもんだな、水無月」
「うん」
「山、行ってるのか」
「うん、たまに」
「お前、無理してそんな人間っぽい事して疲れねェの?」
水無月はキュッと自分のTシャツを掴んだまま俯いていた。
「だって、ぼく、兄さんと同じ高校に行きたかったから……だから勉強頑張ってるんだよ! 鳴かないようにしてるんだよ!」
水無月の予想外の言葉に要は少し驚いた。
「お前の学力じゃ無理だ。それにもうそろそろ高校だって卒業だ」
要は首筋辺りがゾクゾクとしてきた。
(喰い下がれ)
「そんな事ないもんッ、塾でも褒められるもんッ」
「普通の学校に通った事のないお前がいきなり高校で生活なんて出来る訳ないだろ」
身の毛が立つように全身が粟立つ。
(もっと)
「普通に高校生活なんて送れなくていいッ! お兄ちゃんの所に行くんだもんッ!!」
水無月の大きな薄茶色の瞳からボタボタと涙が零れ落ちた。
「涙か……。ほんと、人間になり下がりやがって」
要はベッドの上に身体を横たえ、そしてジッと水無月が泣いているのを見た。
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コメント
> い~けないんだぁ~いけないんだぁ~
> 先生に~言うたろう~
> 泣~かしぃやった~泣かしやったぁ~」
> 私が住んでる関西で 小学生の時には 苛めっ子に向って よく歌ったものです。
> でも ...( = =) 。o ○ 遠い過去なので 合っているのか どうか?(笑)
けいったんさま関西なんですね!
こっちでもその歌ありましたよ~
でも「先生に~言ってやろ~」って標準語でした!
関西弁可愛い(*´∀`*)
> 要ったら 頑張ってるミナを泣かしてはダメでしょ!
> 啼かすのは いいけどね♪(o ̄∇ ̄o)ヘヘッ♪
> キュゥウ~ン キュゥウ~ン/(。・ⅹ・。)\ ...byebye☆
啼かすのはOK頂きましたッ!(笑)
要……GO!!←
犬文字可愛いです~♪
コメントどうもありがとうございました
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