07/09/2013(Tue)
悪魔と野犬ノ仔 43話
要は飛行機から降りると、途端に肌寒い風が首筋を撫でて肩を竦めた。
空港からバスに乗り、市内の方へと走る道路はさすがに北海道だけあって広々としている。
要は市内も観光スポットも一切見ず、只管ある場所を目指して交通機関を乗り継いで進んだ。
だだっ広い道を時間を掛けてバスで乗って行くと緑の丘に点々と牛が牧草を食べているのが見えてきた。
要は白い紙切れをポケットから出すと、そこに書かれている住所へと向かった。
住所先は大学の敷地内にある寮だった。
そこに書かれている部屋番号のドアのインターホンを押すと、暫くして返事が中から聞こえた。
懐かしい、聞き覚えのある声だった。
「はい、どちらさまですか」
「……宅急便です」
中の声の主は不思議そうな間を開けてからドアを少し開けると、要の顔を見て途端に青ざめた。
「よぉ。拓水。久し振り」
「……! 要ッ……なんでッ」
拓水は慌ててドアを閉めようとしたが、既に要の足がドアの間に入れ込まれ、拓水が怯んでいる間に要はサッと身体を半分部屋へ捻じ込ませてしまった。
要よりも大きい身体の拓水は怯えた目つきで部屋の奥へと逃げた。
要はゆっくりとドアを閉めると、散らかった部屋の中に入って行った。
「お前ッ……何勝手に入って来てるんだよ! 出てけよ!」
「汚ねぇ部屋」
「うるさいッ」
要は勝手に散らかった服やゴミを片づけ始めた。
「触るな!!」
「これ……買ってきたから後で食べて」
要は買って来た手土産を冷蔵庫に入れた。
「……」
突然の要の来訪と、久し振りに見た弟の成長した姿に動揺した拓水は固まった表情のまま部屋の隅で立ちつくしていた。
「拓水……老けたな」
「……はぁ?」
「うそ。格好良くなったよ」
拓水はまるで中学生のように単純に顔を赤らめて怒ったような顔をした。
「何しに来たんだよ……俺はお前なんかに会いたくなかった」
「うん……知ってる……悪い。でも謝りたくなったっていうのと……少し顔が見たくなったから」
拓水は驚いた顔で言葉を失った。
今までの要とは何かが決定的に違う、まるで爪と牙を抜かれた猛獣のように思えた。
「悪かった、拓水」
真っ直ぐ拓水を見る要の顔は青白く、不気味な美しさがあった。だが今まで見た事もない悲壮感が無表情の中に滲み出ている気がした拓水はゴクリと唾を飲み込んでから声を出そうとした。
「おま……」
「じゃあ。それだけだから」
「え?」
要はサッと身を翻すと、そのまま玄関の方へ向かった。
「オイ! 何だよそれ! ちょっと待て!」
拓水は慌てて要の方へ走って追いかけた。
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空港からバスに乗り、市内の方へと走る道路はさすがに北海道だけあって広々としている。
要は市内も観光スポットも一切見ず、只管ある場所を目指して交通機関を乗り継いで進んだ。
だだっ広い道を時間を掛けてバスで乗って行くと緑の丘に点々と牛が牧草を食べているのが見えてきた。
要は白い紙切れをポケットから出すと、そこに書かれている住所へと向かった。
住所先は大学の敷地内にある寮だった。
そこに書かれている部屋番号のドアのインターホンを押すと、暫くして返事が中から聞こえた。
懐かしい、聞き覚えのある声だった。
「はい、どちらさまですか」
「……宅急便です」
中の声の主は不思議そうな間を開けてからドアを少し開けると、要の顔を見て途端に青ざめた。
「よぉ。拓水。久し振り」
「……! 要ッ……なんでッ」
拓水は慌ててドアを閉めようとしたが、既に要の足がドアの間に入れ込まれ、拓水が怯んでいる間に要はサッと身体を半分部屋へ捻じ込ませてしまった。
要よりも大きい身体の拓水は怯えた目つきで部屋の奥へと逃げた。
要はゆっくりとドアを閉めると、散らかった部屋の中に入って行った。
「お前ッ……何勝手に入って来てるんだよ! 出てけよ!」
「汚ねぇ部屋」
「うるさいッ」
要は勝手に散らかった服やゴミを片づけ始めた。
「触るな!!」
「これ……買ってきたから後で食べて」
要は買って来た手土産を冷蔵庫に入れた。
「……」
突然の要の来訪と、久し振りに見た弟の成長した姿に動揺した拓水は固まった表情のまま部屋の隅で立ちつくしていた。
「拓水……老けたな」
「……はぁ?」
「うそ。格好良くなったよ」
拓水はまるで中学生のように単純に顔を赤らめて怒ったような顔をした。
「何しに来たんだよ……俺はお前なんかに会いたくなかった」
「うん……知ってる……悪い。でも謝りたくなったっていうのと……少し顔が見たくなったから」
拓水は驚いた顔で言葉を失った。
今までの要とは何かが決定的に違う、まるで爪と牙を抜かれた猛獣のように思えた。
「悪かった、拓水」
真っ直ぐ拓水を見る要の顔は青白く、不気味な美しさがあった。だが今まで見た事もない悲壮感が無表情の中に滲み出ている気がした拓水はゴクリと唾を飲み込んでから声を出そうとした。
「おま……」
「じゃあ。それだけだから」
「え?」
要はサッと身を翻すと、そのまま玄関の方へ向かった。
「オイ! 何だよそれ! ちょっと待て!」
拓水は慌てて要の方へ走って追いかけた。
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コメント
>
> 過去の忌まわしい出来事を思い出した要には、何か思う所があったのでしょう
そのようです(´∀`*)
久々の拓水お兄ちゃんとの再会、
お兄ちゃんは案の定すごい拒絶(笑)
> でも あの出来事が まるで 昨日の様な 拓水の反応
> 彼にとって 要は あの時から今も 恐怖の対象でしかないみたい。
>
> それなのに いつもと違う要を前にすると やっぱり お兄さんになっちゃうんだね。
> 兄弟、仲良くなって欲しいな♪
> ☆。゚.+゜ナカヨシ♪( ,,・▽・人・▽・,, )コヨシ♪゚+.゜。☆...byebye☆
確かに自分の中の性癖が暴かれてしまった相手ですしね;
真っ直ぐだった拓水には嫌悪感が植え付けられてしまったようですが、
それでも要の様子が心配なのはお兄ちゃんならではなのでしょうかね。
兄弟愛、最高です(笑)
コメントどうもありがとうございました
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