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悪魔と野犬ノ仔 44話

 拓水は要が玄関のドアを開けるよりも先に手首を掴んだ。
「待てって……ッ」
 ゆっくりと振り返った要の表情はやはり寂しそうな目をしていた。
「何かあったんだろうが」
 要は拓水の手を振りほどこうとはしなかった。
「話せよ、聞いてやるから」
「……何を……どうやって話していいか分からない」
「話し終わるまで何日でも居ていい」
 要は下を向いたまま片方の口端を少しだけ上げた。
「いいのかよ……俺また拓水を襲うかもしんねぇよ?」
「……今のお前、そんな事出来るぐらい元気には見えないが?」
 要はフンと鼻で自虐的に笑うと下を向いたまま再び拓水の部屋の中に入って行った。
 要は口数少なく「汚い」などと文句をポツリポツリと言いながら拓水の散らかった部屋をただ只管日が暮れるまで片付けた。拓水はそんな要の様子をベッドの上で横になりながら不思議な気持ちで見つめていた。拓水にはその要の行動が自分の心の整理をしているようにも見えた。
「ただいま」
 要は拓水のその言葉でいつの間にか拓水が外出していた事に気付いた。要はどうも暗くてよく見えないと思ったら既に日は落ちて外は青く沈んでいた。
「すごい綺麗になったな」
 拓水は部屋の電気を付けると、コンビニの袋をガサガサと手に持って台所へ移動した。何か食べ物を買って来たようだ。
 要は意外と身体が疲れている事に気付いてベッドに座って溜息をついた。
 拓水は冷えたビールの缶を何も言わず要の前に出し、二人は何も言わず乾杯をして勢いよく飲んだ。
「俺、水無月が好きなんだ」
「……そういう……意味でか?」
「うん」
「……そうか」
「でも、ミナには触れないんだ」
「何で」
 要は残りのビールを全て飲みきると、次の缶を開けた。
 そこからゆっくりと時間を掛けて話し始めると、自分の気持ちと過去に混乱していた幼い自分が少しずつ一致するような気がしてきた。
 拓水は信じられないのか、耐えられなくなりそうな自分をしっかりと保とうとする為なのか、時折頭を力一杯押さえては離すような動作をしながらも最後まで聞いていた。
 話し終わる頃には日が昇っていた。だが二人に睡魔は一瞬たりとも襲って来なかった。
「要……少し仮眠したら、少し散歩に行ってみないか」
「散歩?」
「ああ。ここはいいぞ。自然が豊富で落ち着く」
「……分かった」
 要は眠れそうになかったが、それでも身体は疲れているのが分かっていたので床で仮眠を取ろうと体勢を崩した。
「お前はベッドで寝ろよ」
「いやいいよ」
「いいから」
 拓水は不機嫌そうに要を無理矢理ベッドに上げると、ぶっきらぼうに自分は床でブランケットだけ掛けて横になった。
 要は不思議と心が幼い頃に戻ったように、少し恥ずかしいが、甘えた様な気持ちになって瞳を閉じる事ができた。





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