08/18/2010(Wed)
それから49話
『淳平が他の男と付き合っている』
『淳平が他の恋人と同棲している』
『淳平は俺を忘れようとシテイル』
予行練習のように幾度も脳内で繰り返した言葉だった。それなのに他人から聞かされるこの重みは何なのだろうか。まるで自分の言葉が張りぼてで出来たような軽さのものだった事に改めて気付く。
「ショックですか?」
時枝が優しい声で話しかけてくる。
ショックだった。
どこかで自分を死ぬまで愛してくれるのではないかと期待していなかったとは言い切れなかったからだ。
「そんなに泣くなんて、今でも余程好きなんですね」
そう言われて初めて自分が涙をボタボタと落している事に気付いた。
「痛いですか?」
痛かった。痛い臓器の部分の名称が思い浮かばないのがもどかしい程に痛くて苦しかった。
弘夢はコクリと壊れた人形のようにその問いかけに頷いた。
「なら、こうすると宜しいですよ」
時枝の落ち着いたその声と共に、肩に激痛が突きぬけた。
「ア゛ア゛ァァァァ-------ッ」
時枝の手にはアイスピック程の長さの待ち針程細く尖った硬い針が握られていた。弘夢はそれで鎖骨の間を深く突き刺されたのだ。目が眩む程の痛みで崩れるようにその場に膝を着き肩を押さえた。
「そこ、痛いでしょう?ほんの一部分を刺されたのに上半身全体を刀で貫かれた様に」
刺された方の左腕が上がらない。息を浅く整えながら弘夢は顔を上げた。
「・・ッ・・時枝さんも・・痛いんですね・・くッ」
この人は、きっとこの身体的痛みを必要とする程の心の痛みを味わった事がる。
弘夢の相手を労わるような顔に時枝は軽く溜息をついた。
「仲間意識ですか?ハァ・・君は子供ですか。さ、家に送りますから早く立って下さい」
何事も無かったようにいつもの無表情の時枝は淡々と肩を押さえて歩く弘夢をいつもの高級スィートルームへ送り届けた。
弘夢は時枝が与えてくれた痛みで、少し心の傷に麻酔がかけられたようだった。
弘夢は何回か訪れた事のあるこのセレクトショップ、シェーナー・プラーツに店員として働き始めた。
最初に研修出会った先輩は、以前弘夢が木戸たちと客として来た際に痴態を晒した人だった。だが、弘夢よりもその松田という店員の方が焦りの色を隠せないようだった。
一緒に働くという事で気を取り直し、松田は丁寧に仕事を弘夢に教えた。弘夢はその店に合う上質なスーツを見に纏い、懸命に仕事を覚えようと集中した。
幸いな事に弘夢は運転手に送り迎えをして貰い、好きなだけ働けた。まだ研修中の弘夢は覚える仕事に没頭する事で私情を押し殺し、淳平の祝福を祈れる自分に変えていこうとした。
ショップには財界の著名人や裏で動く人々が訪れた。そういう客にまだ接客が完璧にこなせない弘夢はお茶の用意など簡単な仕事をする。
そんな中でも弘夢に目を付け、執拗に迫る客もいたが皆首元にちらりと見えたオニキスの首輪を見ると、態度を変えて去って行った。
裏で何か木戸が公表でもしたのだろうか、弘夢にとってはそれはありがたいものだった。
一緒に働く松田もあの時から時枝に何か教えられたのか、弘夢を熱い目で見ていたとしても決して手は出して来なかった。その安心感からか、弘夢も違和感のある目線を感じても気にしないフリで仕事に没頭できた。
仕事始めは1日1日がやけに長く感じる。まだ1週間も経っていないというのに、弘夢はもう既に何カ月も働いているような感覚がした。
その間に許された射精はたった一度だけだった。既に弘夢のペニスは勃ち上がり、それを目立たせないように白いビキニで押さえつけるようにしていた。
だがその摩擦でさえ弘夢に甘い刺激を与えていた。
そんな中身体の状態も無視するようにお茶のセットを客人の元へ運び、通路を歩いていると急に手首を掴まれ、弘夢は驚いて振り向いた。
「淳・・平・・・」
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『淳平が他の恋人と同棲している』
『淳平は俺を忘れようとシテイル』
予行練習のように幾度も脳内で繰り返した言葉だった。それなのに他人から聞かされるこの重みは何なのだろうか。まるで自分の言葉が張りぼてで出来たような軽さのものだった事に改めて気付く。
「ショックですか?」
時枝が優しい声で話しかけてくる。
ショックだった。
どこかで自分を死ぬまで愛してくれるのではないかと期待していなかったとは言い切れなかったからだ。
「そんなに泣くなんて、今でも余程好きなんですね」
そう言われて初めて自分が涙をボタボタと落している事に気付いた。
「痛いですか?」
痛かった。痛い臓器の部分の名称が思い浮かばないのがもどかしい程に痛くて苦しかった。
弘夢はコクリと壊れた人形のようにその問いかけに頷いた。
「なら、こうすると宜しいですよ」
時枝の落ち着いたその声と共に、肩に激痛が突きぬけた。
「ア゛ア゛ァァァァ-------ッ」
時枝の手にはアイスピック程の長さの待ち針程細く尖った硬い針が握られていた。弘夢はそれで鎖骨の間を深く突き刺されたのだ。目が眩む程の痛みで崩れるようにその場に膝を着き肩を押さえた。
「そこ、痛いでしょう?ほんの一部分を刺されたのに上半身全体を刀で貫かれた様に」
刺された方の左腕が上がらない。息を浅く整えながら弘夢は顔を上げた。
「・・ッ・・時枝さんも・・痛いんですね・・くッ」
この人は、きっとこの身体的痛みを必要とする程の心の痛みを味わった事がる。
弘夢の相手を労わるような顔に時枝は軽く溜息をついた。
「仲間意識ですか?ハァ・・君は子供ですか。さ、家に送りますから早く立って下さい」
何事も無かったようにいつもの無表情の時枝は淡々と肩を押さえて歩く弘夢をいつもの高級スィートルームへ送り届けた。
弘夢は時枝が与えてくれた痛みで、少し心の傷に麻酔がかけられたようだった。
弘夢は何回か訪れた事のあるこのセレクトショップ、シェーナー・プラーツに店員として働き始めた。
最初に研修出会った先輩は、以前弘夢が木戸たちと客として来た際に痴態を晒した人だった。だが、弘夢よりもその松田という店員の方が焦りの色を隠せないようだった。
一緒に働くという事で気を取り直し、松田は丁寧に仕事を弘夢に教えた。弘夢はその店に合う上質なスーツを見に纏い、懸命に仕事を覚えようと集中した。
幸いな事に弘夢は運転手に送り迎えをして貰い、好きなだけ働けた。まだ研修中の弘夢は覚える仕事に没頭する事で私情を押し殺し、淳平の祝福を祈れる自分に変えていこうとした。
ショップには財界の著名人や裏で動く人々が訪れた。そういう客にまだ接客が完璧にこなせない弘夢はお茶の用意など簡単な仕事をする。
そんな中でも弘夢に目を付け、執拗に迫る客もいたが皆首元にちらりと見えたオニキスの首輪を見ると、態度を変えて去って行った。
裏で何か木戸が公表でもしたのだろうか、弘夢にとってはそれはありがたいものだった。
一緒に働く松田もあの時から時枝に何か教えられたのか、弘夢を熱い目で見ていたとしても決して手は出して来なかった。その安心感からか、弘夢も違和感のある目線を感じても気にしないフリで仕事に没頭できた。
仕事始めは1日1日がやけに長く感じる。まだ1週間も経っていないというのに、弘夢はもう既に何カ月も働いているような感覚がした。
その間に許された射精はたった一度だけだった。既に弘夢のペニスは勃ち上がり、それを目立たせないように白いビキニで押さえつけるようにしていた。
だがその摩擦でさえ弘夢に甘い刺激を与えていた。
そんな中身体の状態も無視するようにお茶のセットを客人の元へ運び、通路を歩いていると急に手首を掴まれ、弘夢は驚いて振り向いた。
「淳・・平・・・」
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唯今、16~20日まで留守にしております。
お話は予約投稿してありますので通常通り0時にUPされると思います。
もしコメント頂けたら、お返事は帰宅後に書かせて頂きます!
★「それから」は「すれ違った後に(全10話)」の続編です。
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コメント
Σ ゚ロ゚≡( ノ)ノ エェェ!?
ありがとうございます!!!嬉しいです(ノД`)・゜・
きっと色々と粗が見つかると思いますが・・∑(; ̄□ ̄A アセアセ
あ、早速・・(笑)
リンクのお知らせありがとうございました!!修正致しましたー!
コメントどうもありがとうございました
> あ、なんか「仕掛け人 ○枝梅○」みたくなった(笑)針が武器の藤○○安がカブって見えました~。
バンバンヾ(≧▽≦)ノギャハハ☆
そうなんですよ!私も仕事人を思い出しながらクスリと笑ってしまいましたー(笑)
あはは!仕掛け人にもダブル時枝!役者だなぁ・・時枝っ(笑)
> そして、遭遇してしまいましたね~。
> 渡くん、気持ちが入ってしまっているから、逐一報告出来なくなっちゃいましたか?時枝さんに問い詰められそう~(汗)
はい・・遭遇してしまいました(>_<)
そうですね。かやさん、相変わらず鋭いです!
気持ちが入っている渡は、なるべく細かい私情の事は報告してない状態になってます。
ですからバレなければいいのですが・・(;´Д`A ```
コメントどうもありがとうございました
> それですよー、朝一度読んで。
> 時枝さんの針!! こわーい!って思ったのですが今、読むと救いを与えているのかなぁ。
アドさんまで読み返して下さってありがとうございます(ノД`)・゜・
時枝の深層心理、色々と読みとって下さってありがとうございます!!
> それにしても、接客中も首輪と特殊貞操帯着用なんですね((((((ノ゚⊿゚)ノヌオォォォ
はい♪
接客中もちゃんと付けてます!調教プレイは木戸が居ない間も続行中です^^
> 淳平さん来ちゃったー!!
来ました!!
コメントどうもありがとうございました
> いつの間にそんな凶器を隠し持って…仕事人!?(爆)
バンバンヾ(≧▽≦)ノギャハハ☆
私も実は・・必殺仕事人・・とか思ってしまった(笑)
> なんちゅー酷い事を…と最初思ったけど、何度か読み返すうちに、もしかして時枝さんは弘夢くんの労わる気持ちとか、木戸さんの指示や冷たい対応に少なからず弘夢くんへの同情があったりとか、自分に重ねてとか…。
> 何か色んなことを考えてしまった(>_<)
エスパー・・もごもご(自重)
さすが澪ちん。と一言。
読み返してくれたりまでして、色々と考えてくれて嬉しい(ノД`)・゜・
ありがとう!!
> 分かりそうで全然分からない時枝さんの心。
> うーん…読めないお方だ(´・д・`)
その顔が可愛いよ、澪ちんw
時枝・・何だか少し人間臭くなったかなぁ。
> って、時枝さんの心に想いを馳せていたら、じゅ、淳平くん!?
> オオオォォォ!!(ノ゚□゚)ノ・・・εミ(ο_ _)οドテッ…
あ!大丈夫かい?!
そして・・・
来ちゃいましたね・・
コメントどうもありがとうございました
あ、なんか「仕掛け人 ○枝梅○」みたくなった(笑)針が武器の藤○○安がカブって見えました~。
そして、遭遇してしまいましたね~。
渡くん、気持ちが入ってしまっているから、逐一報告出来なくなっちゃいましたか?時枝さんに問い詰められそう~(汗)
それですよー、朝一度読んで。
時枝さんの針!! こわーい!って思ったのですが今、読むと救いを与えているのかなぁ。
それにしても、接客中も首輪と特殊貞操帯着用なんですね((((((ノ゚⊿゚)ノヌオォォォ
淳平さん来ちゃったー!!
いつの間にそんな凶器を隠し持って…仕事人!?(爆)
なんちゅー酷い事を…と最初思ったけど、何度か読み返すうちに、もしかして時枝さんは弘夢くんの労わる気持ちとか、木戸さんの指示や冷たい対応に少なからず弘夢くんへの同情があったりとか、自分に重ねてとか…。
何か色んなことを考えてしまった(>_<)
分かりそうで全然分からない時枝さんの心。
うーん…読めないお方だ(´・д・`)
って、時枝さんの心に想いを馳せていたら、じゅ、淳平くん!?
オオオォォォ!!(ノ゚□゚)ノ・・・εミ(ο_ _)οドテッ…
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