05/07/2010(Fri)
それから
「外回り行って来ます」
「おう。今日は直行直帰でいいからな。」
「わかりました。」
俺は書類の沢山入った重い鞄を持って駐車場へ向かった。仕事をする気になれない。
運転席に座ると深い溜息をついた。
―弘夢・・お前、今どうしてるんだ。 あの時送ったメールは見たんだろうか。返事が来ないからそのまま消去でもしてしまったのか。
あのメールを送ってから既に1週間過ぎていた。あれから一度も弘夢から返信はない。不安と後悔に押しつぶされそうになっていたこの一週間、妻の明美とも殆ど仕事が忙しいだの疲れているだのと顔もろくに合わせていない。
あの時、お前を向かえに来ていた男は一体誰なんだ?付き合っているのだろうか?
そんな事を想像しただけでゾワゾワと怒りと嫉妬で狂いそうな程身の毛がよだった。それと同時に、最後にゆっくりと振り返り悲しそうな笑顔で左右に首をふる弘夢が脳裏に浮かぶ。
もう会わない、というサイン。あの迎えに来ていた男を選んだという事か?でもメールを見たらきっと弘夢は俺の所に戻ってきてくれるはずだ。
―とにかく弘夢がメールを見たか確認をしない事には始まらない。
エンジンをかけると、勢いよく車を発進させて取引先の新規獲得をしに向かった。
予定よりも早くに外回りが終わった淳平は都内にある弘夢の銀行付近まで来てみた。
(確かこの辺って言ってたよな・・)
高層ビルの立ち並ぶこの場所にも綺麗に緑が立ち並びビルとの相性も良く綺麗に見える。
近くに車を駐車すると、歩いてビルの近くまで行ってみる。コツコツと革靴のいい音が渇いたコンクリに響く。
(これだ。この銀行本社だ。)
大きく聳え立つそのビルは、自分から弘夢を囲っている檻にも見えた。誘うように開く自動ドアに身体を滑り込ませ、受付で聞いてみようとしていると横から2,3人のサラリーマンが出てきた。
「淳平!!」
その愛おしい声に振り向くと、手に届きそうで届かなかったその人が居た。急いで弘夢に駆け寄り、直ぐに抱きしめたかったが同僚らしき人が居たのでさすがにそれは出来なかった。
軽く会釈をして分かれた弘夢が信じられないという顔で小走りに向かってくる。
「淳平っ何でここに!?」
どうしよう。言いたい事があり過ぎて言葉が上手くまとまらない。だが、一点だけ気に掛かった事があった。
「弘夢、お前ここどうした?」
弘夢の唇の横にバンドエードからはみ出て少し痣が見えた。そっと触れるとビクッと反応して少し怯える様子が妙に気に掛かる。
「何でも無いんだ。ドジして転んだだけだ。」
「そう・・か。とにかくお前、今仕事終わりか?なら送って行くよ。どこかで何か食べていかないか?」
「え・・あ・・うん。わかった。」
淳平は心が落ち着かなかった。何から話そうか。何から聞こうか。触れたい。
沢山の欲求と順序が入り混じる。
車のドアを閉めて走らせると、途中で二人を遮るもののない空間である事が気分を高揚させ、僅かに緊張させた。
淳平は太ももに乗っている弘夢の手の上に自分の手を重ねた。少し冷たい弘夢の手が淳平の掌の中で身動ぎ出来ないでいる。
淳平が運転する車に乗るのは初めてだった。突如思いもしないタイミングで現れた愛おしい人の姿に無意識に呼びかけてしまっていた。もう、会えないかもと思って潰されそうになっていた矢先だった。思わず誘いに乗ってしまい今は二人きり。信じられない気持ちだった。
片手を自分の手に重ね、もう片手で器用に運転をこなすその姿にドキドキする。ハンドルはクルリと器用に右折する時の手つきに目が釘付けになっていた。
淳平の横顔。学生の頃とは違い、随分と凛々しくなっている。元々体躯のしっかりしている淳平は濃いグレーのスーツがとても映えていた。シルバーのストライプが入ったシルバーブルーのネクタイがセンス良く人に好感を持たせるように見える。
思わず手をクルリと返し、指を絡ませてしまった。それに淳平が驚くように視線を一瞬向けると、広い駐車場のある食事処へ入った。
「ここでいいか?」
「うん・・どこでもいい」
少し他の車と離れた木々の茂みで暗くなっている端に駐車した。エンジンをそのままにギアを引いてサイドブレーキをかける。二人とも知らずうちに心を馳せていた。焦るように一連の流れを矢継ぎ早に終わらせると、自然とお互いを見詰め合った。
淳平の手が弘夢の頬に触れる。そのまま顔を近づけると、お互いに一瞬数ミリの距離で唇を止め、間を置いた刹那、確かめるように唇を重ねた。
お互いの唇を重ねたのはこれが人生で2度目だ。絡められた指はどちらともなく解かれ、弘夢は淳平の首に手を掛けては引き寄せるように、淳平は弘夢の後頭部を押さえてはもっと深く、もっと強く唇を重ね、幾度も角度を変えては食むような啄ばみを繰り返した。
<<目次へ 次へ>>
新連載「それから」は、「すれ違った後で」の続編です。
「すれ違った後で」を1話からご覧になる方は、
こちらをどうぞ♪→すれ違った後で1話-弘夢(1) (別窓で開きます)
*「すれ違った後で」は全10話の短編です。
また、第二部「それから」の注意書きを目次からご覧下さい→目次へ (別窓で開きます)
(大分雰囲気が変わっているので・・)
続きが見たいと言って下さった方々、本当にありがとうございました!
本日から続きをUPしていきます。
が、ハードな内容になっていくので苦手な方、男性の方、ごめんなさいm(_;)m
シリアスなのでかなり手探りでのUPになっていくと思いますが、
頑張っていきます!ヨロシクお願いします♪
いつもポチありがとうございます!!
とても励みになってますO(≧∀≦)O
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「おう。今日は直行直帰でいいからな。」
「わかりました。」
俺は書類の沢山入った重い鞄を持って駐車場へ向かった。仕事をする気になれない。
運転席に座ると深い溜息をついた。
―弘夢・・お前、今どうしてるんだ。 あの時送ったメールは見たんだろうか。返事が来ないからそのまま消去でもしてしまったのか。
あのメールを送ってから既に1週間過ぎていた。あれから一度も弘夢から返信はない。不安と後悔に押しつぶされそうになっていたこの一週間、妻の明美とも殆ど仕事が忙しいだの疲れているだのと顔もろくに合わせていない。
あの時、お前を向かえに来ていた男は一体誰なんだ?付き合っているのだろうか?
そんな事を想像しただけでゾワゾワと怒りと嫉妬で狂いそうな程身の毛がよだった。それと同時に、最後にゆっくりと振り返り悲しそうな笑顔で左右に首をふる弘夢が脳裏に浮かぶ。
もう会わない、というサイン。あの迎えに来ていた男を選んだという事か?でもメールを見たらきっと弘夢は俺の所に戻ってきてくれるはずだ。
―とにかく弘夢がメールを見たか確認をしない事には始まらない。
エンジンをかけると、勢いよく車を発進させて取引先の新規獲得をしに向かった。
予定よりも早くに外回りが終わった淳平は都内にある弘夢の銀行付近まで来てみた。
(確かこの辺って言ってたよな・・)
高層ビルの立ち並ぶこの場所にも綺麗に緑が立ち並びビルとの相性も良く綺麗に見える。
近くに車を駐車すると、歩いてビルの近くまで行ってみる。コツコツと革靴のいい音が渇いたコンクリに響く。
(これだ。この銀行本社だ。)
大きく聳え立つそのビルは、自分から弘夢を囲っている檻にも見えた。誘うように開く自動ドアに身体を滑り込ませ、受付で聞いてみようとしていると横から2,3人のサラリーマンが出てきた。
「淳平!!」
その愛おしい声に振り向くと、手に届きそうで届かなかったその人が居た。急いで弘夢に駆け寄り、直ぐに抱きしめたかったが同僚らしき人が居たのでさすがにそれは出来なかった。
軽く会釈をして分かれた弘夢が信じられないという顔で小走りに向かってくる。
「淳平っ何でここに!?」
どうしよう。言いたい事があり過ぎて言葉が上手くまとまらない。だが、一点だけ気に掛かった事があった。
「弘夢、お前ここどうした?」
弘夢の唇の横にバンドエードからはみ出て少し痣が見えた。そっと触れるとビクッと反応して少し怯える様子が妙に気に掛かる。
「何でも無いんだ。ドジして転んだだけだ。」
「そう・・か。とにかくお前、今仕事終わりか?なら送って行くよ。どこかで何か食べていかないか?」
「え・・あ・・うん。わかった。」
淳平は心が落ち着かなかった。何から話そうか。何から聞こうか。触れたい。
沢山の欲求と順序が入り混じる。
車のドアを閉めて走らせると、途中で二人を遮るもののない空間である事が気分を高揚させ、僅かに緊張させた。
淳平は太ももに乗っている弘夢の手の上に自分の手を重ねた。少し冷たい弘夢の手が淳平の掌の中で身動ぎ出来ないでいる。
淳平が運転する車に乗るのは初めてだった。突如思いもしないタイミングで現れた愛おしい人の姿に無意識に呼びかけてしまっていた。もう、会えないかもと思って潰されそうになっていた矢先だった。思わず誘いに乗ってしまい今は二人きり。信じられない気持ちだった。
片手を自分の手に重ね、もう片手で器用に運転をこなすその姿にドキドキする。ハンドルはクルリと器用に右折する時の手つきに目が釘付けになっていた。
淳平の横顔。学生の頃とは違い、随分と凛々しくなっている。元々体躯のしっかりしている淳平は濃いグレーのスーツがとても映えていた。シルバーのストライプが入ったシルバーブルーのネクタイがセンス良く人に好感を持たせるように見える。
思わず手をクルリと返し、指を絡ませてしまった。それに淳平が驚くように視線を一瞬向けると、広い駐車場のある食事処へ入った。
「ここでいいか?」
「うん・・どこでもいい」
少し他の車と離れた木々の茂みで暗くなっている端に駐車した。エンジンをそのままにギアを引いてサイドブレーキをかける。二人とも知らずうちに心を馳せていた。焦るように一連の流れを矢継ぎ早に終わらせると、自然とお互いを見詰め合った。
淳平の手が弘夢の頬に触れる。そのまま顔を近づけると、お互いに一瞬数ミリの距離で唇を止め、間を置いた刹那、確かめるように唇を重ねた。
お互いの唇を重ねたのはこれが人生で2度目だ。絡められた指はどちらともなく解かれ、弘夢は淳平の首に手を掛けては引き寄せるように、淳平は弘夢の後頭部を押さえてはもっと深く、もっと強く唇を重ね、幾度も角度を変えては食むような啄ばみを繰り返した。
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新連載「それから」は、「すれ違った後で」の続編です。
「すれ違った後で」を1話からご覧になる方は、
こちらをどうぞ♪→すれ違った後で1話-弘夢(1) (別窓で開きます)
*「すれ違った後で」は全10話の短編です。
また、第二部「それから」の注意書きを目次からご覧下さい→目次へ (別窓で開きます)
(大分雰囲気が変わっているので・・)
続きが見たいと言って下さった方々、本当にありがとうございました!
本日から続きをUPしていきます。
が、ハードな内容になっていくので苦手な方、男性の方、ごめんなさいm(_;)m
シリアスなのでかなり手探りでのUPになっていくと思いますが、
頑張っていきます!ヨロシクお願いします♪
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コメント
わ~っ早速読んで頂いて大感激です~ッ(ノД`)・゜・
> 再会したのだね!!
> 弘夢っち、もう逢えない覚悟だったのに!!
そうなんです!!あそこで、あれで終わるのは有り得ない!!との嬉しい
ご意見により、速攻で会ってしまいました(^^;)
> ぎゃ~~
> しかもなぜ急展開!!
バンバンヾ(≧▽≦)ノギャハハ☆ それを言われて気付きました!!確かに何故急展開!!(大笑)
設定が一週間後って急ぎすぎましたかねぇ??でもあの状態で淳平が黙っていられないなぁと
思いまして♪
> 嬉しい~~(≧_≦)!!
そう言って頂けて嬉しいです!!嬉し過ぎて・・襲いますよ?(←またこのネタ)すみません。WLさまはどうも私のS心をくすぐるので(。-_-。)ポッ
> >お互いに一瞬数ミリの距離で唇を止め
> ↑
> これ惚れ・・・♪
壁|oノωノ) )))))))・・・イヤーン♪ 次回から殆どRが続きますwww
コメントありがとうございました
弘夢っち、もう逢えない覚悟だったのに!!
ぎゃ~~
しかもなぜ急展開!!
嬉しい~~(≧_≦)!!
>お互いに一瞬数ミリの距離で唇を止め
↑
これ惚れ・・・♪
> 続編なんですね!!よし、前編読ませていただこうと思います~^^
きゃ~ッ!!前編まで読んで頂けるなんてッ嬉しすぎです(ノД`)・゜・
ありがとうございます
> これだけ読んでもすごく面白かったです!!
なな、なんと後編を読まれてしまったと!ではネタバレしてしまったという事ですねw
でも面白いと言って頂けて嬉しいです^^
> いい萌え補給になりました♪今耳も幸せ状態なので^^
あはは!もしや萌えボイスを聞きながら??
> シリアス、いいですよね~。アゲハがあんなんな通り、私もシリアス大好き人間です!!
シリアス好きで良かったです!アゲハもキュンキュンきますもんね~
今なかなかアゲハを読めてなくて途中で止まっててすみません!また読みに行きます!
うちの江戸にも早く伊織ちんたち登場させたいので^^
> 楽しみにしています!!…自分のも今から書こう。
ありがとうございます!頑張って下さい♪私もストックと手直ししなくちゃ・・(汗)
コメントありがとうございました
これだけ読んでもすごく面白かったです!!
いい萌え補給になりました♪今耳も幸せ状態なので^^
シリアス、いいですよね~。アゲハがあんなんな通り、私もシリアス大好き人間です!!
楽しみにしています!!…自分のも今から書こう。
コメント